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著作権判例セレクション

同一性保持権侵害性と氏名表示権の侵害性

平成260314日東京地方裁判所[平成25()26251]
1 争点1(権利侵害の明白性)について
(1) 本件ビデオ映像の著作物性について
(証拠)によれば,本件ビデオ映像は,原告の従業員であったAⅰがディレクターとして台本の構成,撮影の指示,映像の編集作業などの製作全般に関与して製作され,Aⅰの思想・感情が創作的に表現された映画の著作物であることが認められる。
また,(証拠)によれば,本件ビデオ映像は,原告の従業員であったAⅱがディレクターとして台本の構成,撮影の指示,映像の編集作業などの製作全般に関与して製作され,Aⅱの思想・感情が創作的に表現された映画の著作物であることが認められる。
(2) 本件ビデオ映像の著作者について
ア 本件ビデオ映像について
(証拠)及び弁論の全趣旨によれば,本件ビデオ映像は,原告の発意に基づき,原告の従業員であったAⅰが原告の職務上製作し,原告の名義の下に公表されたものと認められるから,本件ビデオ映像①の著作者は原告であると認めるのが相当である(なお,弁論の全趣旨によれば,原告は,平成12年3月31日,本件ビデオ映像①の著作権を創価学会に譲渡した。)。
イ 本件ビデオ映像について
(証拠)及び弁論の全趣旨によれば,本件ビデオ映像は,原告の発意に基づき,原告の従業員であったAⅱが原告の職務上製作し,原告の名義の下に公表されたものであり,原告の就業規則38条1項には「社員が職務上の行為として著作した著作物の著作権は,会社に帰属する。」旨の規定があったことが認められるから,本件ビデオ映像②の著作者は原告であると認めるのが相当である(なお,弁論の全趣旨によれば,原告は,平成15年3月31日,本件ビデオ映像②の著作権を創価学会に譲渡した。)。
(3) 本件動画から本件ビデオ映像の本質的特徴を感得できること
ア 本件動画と本件ビデオ映像とを対比すると,本件動画は,本件ビデオ映像に依拠して,その一部を抽出し,モザイク加工し,他の映像・音楽と合成するなどの改変を加えた動画であり,その対応関係は,別紙対応関係一覧表(以下「一覧表」という。)のとおりであると認められる。
著作権法20条に規定する同一性保持権を侵害する行為とは,他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為をいい,他人の著作物を素材として利用しても,その表現形式上の本質的な特徴を感得させないような態様においてこれを利用する行為は,原著作物の同一性保持権を侵害しないと解すべきである(最高裁平成10年7月17日判決)。また,原著作物の本質的な特徴を感得させないような態様における使用には,原著作者の氏名表示権(著作権法19条)も及ばないと解すべきである。
そこで,本件動画から,本件ビデオ映像の本質的特徴を感得できるか検討する。
イ 一覧表番号1番について
本件動画の5秒から8秒の箇所は,本件ビデオ映像の7分47秒付近の映像を加工したものである。
本件ビデオ映像①の7分47秒付近の映像は,創価学会の信仰を始めるきっかけとなった知人との電話でのやりとりについて,Aⅲが当時のやりとりを再現しながら語る様子をインタビュー撮影した場面であり,Aⅲは,固定電話の受話器を持ったような格好で,知人が創価学会に入会した事実を知り,受話器から耳が離れるくらいに非常に驚いた様子を語っている。
本件ビデオ映像①の上記部分は,Aⅲの表情や仕草,衣服,発言内容が的確に視聴者に伝わるように,上半身のアングル,撮影時の光量といった撮影方法に工夫を施して撮影されたもので,そのアングル等にはディレクターであったAⅰの思想又は感情が創作的に表現されている。
これに対し,本件動画の5秒から8秒の箇所は,本件ビデオ映像①の上記部分にモザイクを付し,他の映像や音楽と合成されているものの,Aⅲが受話器を持ったような格好,受話器を耳から離すような動作,アングル等を感得することができ,本件ビデオ映像①の上記部分の表現上の本質的な特徴を感得することができる。
ウ 一覧表番号2番,5番について
本件動画の9秒から16秒,38秒から44秒の箇所は,本件ビデオ映像①の11分52秒付近の映像を加工したものである。
本件ビデオ映像①の11分52秒付近は,Aⅲが,Aⅳとともに創価学会の会合で披露した漫才をAⅵ創価学会名誉会長に褒められたという状況を説明する様子をインタビュー撮影した場面であり,Aⅲは,両手を顔の位置から外側に広げる動作をし,信仰上の指導者であるAⅵから漫才を褒められて,頭がパーンと爆発するほど感動した様子を語っている。
本件ビデオ映像①の上記部分は,Aⅲの表情や仕草,衣服,発言内容が的確に視聴者に伝わるように,上半身のアングル,撮影時の光量といった撮影方法に工夫を施して撮影されたもので,そのアングル等にはディレクターであったAⅰの思想又は感情が創作的に表現されている。
これに対し,本件動画の9秒から16秒,38秒から44秒の箇所は,本件ビデオ映像①の上記部分にモザイクを付し,他の映像や音楽と合成されているものの,Aⅲが手を顔から外側に広げる動作,アングル等を感得することができ,本件ビデオ映像①の上記部分の表現上の本質的な特徴を感得することができる。
エ 一覧表番号3番,6番,7番,9番について
本件動画の17秒から30秒,48秒から54秒,59秒から1分02秒,1分20秒から1分27秒の箇所は,いずれも本件ビデオ映像②の9分14秒から9分45秒までの映像を加工したものである。
本件ビデオ映像②の9分14秒から9分45秒までの箇所は,インタビューとは別の機会に創価学会で行われた会合の様子を撮影した映像をインタビューにカットインした場面であり,カットインした映像は,創価学会の会合において,AⅳがAⅲと漫才を行っている模様を撮影した映像(以下「漫才カットイン映像」という。)である。
漫才カットイン映像は,Aⅳらが行う漫才の姿を前面からだけではなく,会合の参加者の表情が分かるようにAⅳらの後方から撮影したり,会員のアップを撮影するなどのカメラワーク上の工夫が施されており,思想又は感情が創作的に表現されている。
これに対し,本件動画の17秒から30秒,48秒から54秒,59秒から1分02秒,1分20秒から1分27秒の箇所は,本件ビデオ映像②の上記部分にモザイクを付し,他の映像や音楽と合成されているものの,Aⅳらの姿を前面や背後から撮影している様子,会合参加者をアップにした様子等を感得することができ,漫才カットイン映像の表現上の本質的な特徴を感得することができる。
しかし,本件ビデオ映像②の漫才カットイン映像部分について,カットインのタイミングやカットインすべき場面の選択にAⅱの表現上の創作性が現れているとしても,その表現上の創作性を本件動画から感得することはできない。
本件動画から感得できるのは,漫才カットイン映像のカメラワーク等,漫才カットイン映像の著作者の創作性であるが,その著作者が原告(Aⅱないし原告の他の従業員)であったのか否かは,本件証拠上明らかでない。
そうすると,本件動画と漫才カットイン映像部分は,原告が漫才カットイン映像に付加した表現上の創作性ある部分において共通するとはいえず,原告の表現の本質的特徴を感得できるとはいえない。
オ 一覧表番号4番について
本件動画の31秒から37秒の箇所は,本件ビデオ映像②の4分00秒から4分03秒の箇所を加工したものである。
本件ビデオ映像②の4分00秒から4分03秒の箇所は,Aⅳが,同じ劇団に所属するAⅲから初めて創価学会の機関紙を見せられた経緯をAⅲとの対談形式で振り返る場面である。本件ビデオ映像②の上記部分は,中心に映るAⅳとAⅲの姿が栄えるように光量,アングル等に工夫が施されており,ディレクターであったAⅱの思想又は感情が創作的に表現されている。
これに対し,本件動画の31秒から37秒の箇所は,本件ビデオ映像②の上記部分にモザイクを付し,他の映像や音楽と合成されているものの,Aⅳが首を動かす動作,アングル等を感得することができ,本件ビデオ映像②の上記部分の表現上の本質的な特徴を感得することができる。
カ 一覧表番号8番について
本件動画の1分03秒から1分19秒までの箇所は,本件ビデオ映像①の12分07秒付近の映像を加工したものである。
本件ビデオ映像①の12分07秒付近は,創価学会の会合でAⅵから漫才を褒められたAⅲが,そのことを信仰上の原点の一つとできた感動を語る場面であり,Aⅲは,両手を目の位置から下側に下ろす動作をし,Aⅵから褒められ涙を流して感動したことを語っている。本件ビデオ映像①の上記部分は,Aⅲの表情や仕草,衣服,発言内容が的確に視聴者に伝わるように,上半身のアングル,撮影時の光量といった撮影方法に工夫を施して撮影されたもので,そのアングル等にはディレクターであったAⅰの思想又は感情が創作的に表現されている。
これに対し,本件動画1分03秒から1分19秒までの箇所は,本件ビデオ映像①の上記部分にモザイクを付して他の映像や音楽と合成されているものの,Aⅲが両手を目の位置から下に下ろす動作等を感得することができ,本件ビデオ映像①の上記部分の表現上の本質的な特徴を感得することができる。
キ 一覧表番号10番について
本件動画の1分29秒から1分33秒までの箇所は,本件ビデオ映像①の10分56秒付近の映像を加工したものである。本件ビデオ映像①の上記部分は,インタビューとは別の機会に創価学会で行われた会合の様子を撮影した原映像をインタビューにカットインした場面であり,カットインした映像は,Aⅲが,創価学会の会合において,会合の最前列に座りながら,他の女性会員とともに合唱する模様を撮影した映像(以下「合唱カットイン映像 カットイン映像」という。)である。
合唱カットイン映像は,アングル等に工夫が施されており,思想又は感情が創作的に表現されている。
これに対し,本件動画の1分29秒から1分33秒までの箇所は,本件ビデオ映像①の上記部分にモザイクを付し,他の映像や音楽と合成されているものの,Aⅲが女性会員とともに合唱する様子,アングル等を感得することができ,合唱カットイン映像の上記部分の表現上の本質的な特徴を感得することができる。
しかし,本件ビデオ映像①の合唱カットイン映像部分について,カットインのタイミングやカットインすべき場面の選択にAⅰの表現上の創作性が現れているとしても,その表現上の創作性を本件動画から感得することはできない。
本件動画から感得できるのは,合唱カットイン映像のカメラワーク等,合唱カットイン映像の著作者の創作性であるが,その著作者が原告(Aⅰないし原告の他の従業員)であったのか否かは,本件証拠上明らかでない。
そうすると,本件動画と合唱カットイン映像部分は,原告が合唱カットイン映像に付加した表現上の創作性ある部分において共通するとはいえず,原告の表現の本質的特徴を感得できるとはいえない。
ク 小括
以上によれば,一覧表の1番,2番,4番,5番,8番に対応する本件動画の映像から,本件ビデオ映像の本質的特徴を感得できることが認められる。
ケ 本件動画が原告の氏名表示権を侵害すること
そうすると,原告は,本件ビデオ映像を複製ないし翻案した本件動画の公衆への提示に際し氏名表示権(著作権法19条)を有するところ,本件動画には原告の氏名が表示されていない。
したがって,本件動画の投稿は,原告の氏名表示権を侵害していることが明らかである。
(4) 本件動画の利用に正当化事由がないこと
本件発信者による,本件動画への本件ビデオ映像の利用は,「著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるとき」(著作権法19条3項)に当たらないことが明らかであり,他に著作権法上の正当化事由がないことも明らかである。
(5) 小括
以上によれば,本件動画は,原告の氏名表示権を侵害することが明らかであるから,原告の同一性保持権を侵害するか否かについて検討するまでもなく,法4条1項1号にいう「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」(権利侵害の明白性)の要件を充足する。