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  著作権判例セレクション
   ネットで販売する音楽雑貨等の商品写真の著作物性及び侵害性を認めた事例
  
  
  ▶令和元年9月18日東京地方裁判所[平成30(ワ)14843]
  1 争点1(本件各写真は著作物であるといえるか)について
  
  ⑴ 本件各写真は,本件各商品を販売するために撮影されたものであると認められるところ,以下のとおり,いずれも,商品の特性に応じて,被写体の配置,構図・カメラアングルの設定,被写体と光線との関係,陰影の付け方,背景等の写真の表現上の諸要素につき相応の工夫がされており,撮影者の思想又は感情が創作的に表現されているということができる。
  
  ア すなわち,本件写真1ないし4は,ト音記号,楽譜又は楽器の柄のネクタイを被写体とするものであり,ネクタイの下端部を手前にして波打つように配置され,背景はネクタイの下端部が配置された写真下部を白色,写真上部を暗い灰色又は黒色とし,陰影が明確に付されるなどして,ネクタイの柄や質感を視覚的に認識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているということができる。
  
  イ 本件写真5ないし10は,弦楽器の柄のコインケース等の商品を被写体とするものであり,本件写真5,7,9は,商品を中央に配置して全体を撮影したもの,本件写真6,8,10は,柄の部分を大きく撮影したものであって,商品の配置の仕方や陰影の付し方により,商品の質感や弦楽器の柄を視覚的に認識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているということができる。
  
   ウ 本件写真11ないし40は,楽器を演奏する動物等の置物を被写体とするものであり,本件写真11,14,17,20,23,26,29,32,35,38は,商品の前方を正面から撮影したもの,本件写真12,15,18,21,24,27,30,33,36,39は,商品の後方を斜め上から撮影したもの,本件写真13,16,19,22,25,28,31,34,37,40は,動物等の顔を斜め上から大きく撮影したものであって,背景は緑色,白色又はそれらのグラデーションとし,陰影を付すなどして,動物等の表情や演奏態様等を視覚的に認識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているということができる。
  
  エ 本件写真41ないし44は,鍵盤等の柄のフロアマットを被写体とするものであり,本件写真41及び43は,四角形状の商品の形態に沿って商品のみを大きく撮影したもの,本件写真42及び44は,その一部を大きく撮影したものであって,生地の質感や鍵盤等の柄を視覚的に認識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているということができる。
  
  オ 本件写真45ないし50は,写譜用のペンを被写体とするものであり,本件20 写真45,47,49は,商品を中央に配置して全体を撮影したもの,本件写真46,48,50は,ペンの先端部分を大きく撮影したものであって,商品に光を反射させ,背景を白色とし,陰影を付すなどして,商品の質感や細かい模様を視覚的に認識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているということができる。
  
   カ 本件写真51及び52は,写譜用のペンの替芯(5本)及びそのケースを被写体とするものであり,ケースから突出する替芯につき長さを変えた状態で大きく撮影したものであって,背景を白色とし,陰影を付すなどして,商品の形状を視覚的に認識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているということができる。
  
  キ 本件写真53ないし61は,トランペット等の楽器の柄の黒色クリアファイ5 ルを被写体とするものであり,本件写真53,55,57,59は,商品を中央に配置して全体を撮影し,柄の部分に光を反射させ,背景は黒色を基調とし,陰影を付すなどしたもの,本件写真54,56,58,60は,柄の部分を大きく撮影したものであって,トランペット等の楽器の柄を視覚的に認識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているということができる。また,本件写真61は,商品を中央に配置して柄のない方向から全体を撮影したものであり,背景を白色と黒色のグラデーションとし,陰影を付すなどして,商品の形状を視覚的に認識しやすいものとなっており,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているということができる。
  
  ク 以上のとおり,本件各写真には,商品の販売用の写真として相応の工夫がされており,撮影者の思想又は感情が創作的に表現されているということができる。
  
  ⑵ 被告は,本件各写真が著作物であることを争い,取り分け,本件写真42ないし44は商品を上から撮影しているだけであり,本件写真45,46,50ないし52は商品の販売用の写真として一般的なものであるから,これらに創作性が認められないことは明らかである旨主張するが,前記のとおり,本件各写真には,商品の販売用の写真として相応の工夫がされており,撮影者の思想又は感情が創作的に表現されているということができるのであって,被告の上記主張は採用することができない。
  
  ⑶ 以上によれば,本件各写真には創作性が認められ,前記前提事実とおり,これらは原告代表者によって原告の発意に基づき職務上作成されたものであるから,いずれも,原告の著作物であると認められる。
  
  2 争点2(著作権(複製権又は翻案権,公衆送信権)侵害及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)侵害の成否,又はそのおそれの有無)について
  
  ⑴ 著作権侵害の成否
  
  ア(ア) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告各写真を被告ウェブサイト上の本件各写真を販売するページにおいて,本件各商品の形態等を示して販売を促進するために掲載しており,掲載期間の終期は平成30年1月25日であったこと,被告写真1ないし4については,少なくとも,平成28年7月4日の時点で,被告ウェブサイトに掲載されていたことが認められる。
  
  これらに加えて,被告が被告ウェブサイトで本件各商品の販売を開始した時期につき別紙写真等一覧の「販売開始時期(被告)」欄のとおり主張していること,一般にウェブサイト上で商品を販売する際に商品の写真など形態を示すものを掲載しないとは考え難いことに照らせば,被告各写真の掲載期間の始期は,同欄のとおりであったと推認するのが相当である。
  
  (イ) そして,被告各写真は,別紙被告写真目録のとおりであり,いずれも,本件各写真と画素数が異なるとしても,前記のとおり,被告ウェブサイト上で販売対象である本件各商品の形態を示すものとして掲載されており,限定的な大きさで表示されるものとして作成されたと推認され,実際にそのように表示されていると認められることからすれば,本件各写真に修正等を加えた新たな創作的表現であるというのではなく,別紙商品等一覧の該当欄に対応する本件各写真と実質的に同一のものとして,本件各写真に依拠して有形的に再製されたものであると認めることができる。
  
  (ウ) したがって,被告は,被告各写真を被告ウェブサイトに掲載するに当たり,本件各写真を複製して原告の本件各写真についての複製権を侵害したと認められ,また,被告各写真を被告ウェブサイトに掲載して公衆送信したことにより,原告の本件各写真についての公衆送信権を侵害したと認められる。
  
  イ 原告は,被告各写真が被告ウェブサイトに掲載されていた期間について,平成28年7月26日から平成30年1月25日までであると主張するが,前記アの推認を覆すに足る証拠はない。
  
  ⑵ 著作者人格権侵害の成否
  
  ア 証拠によれば,被告ウェブサイトや被告各写真には,被告各写真の掲載期間中,原告の実名若しくは変名が表示されていなかったと認められるから,被告は,被告各写真を被告ウェブサイトに掲載して公衆送信するに際し,原告の氏名表示権を侵害したと認められる。
  
  イ 被告各写真が本件各写真と画素数が異なるとしても,前記のとおり,本件各写真がウェブサイト上で商品販売促進用に限定的な大きさで表示されるものとして作成されていること,被告各写真も前記にみたとおりに作成され,表示されていることからすれば,当該画素数の変更が原告の意に反するものであるとまでは認められず,その他これを認めるに足る証拠はないから,被告が原告の同一性保持権を侵害したとは認められない。
  
  ⑶ 侵害のおそれの有無
  
  ア 前記のとおり,被告は,本件各商品の販売促進のための写真として,同様に本件各商品をウェブサイト上で販売していた競業関係にある原告において販売促進のために用いていた本件各写真を利用しており,本件各写真の点数も61に上るのであって,このような著作権侵害行為の態様に加えて,本件各写真と被告各写真が実質的に同一のものであること,被告が現在も著作権侵害の事実を争っていることなどに照らせば,被告には,今後も,本件各写真の複製や被告各写真の公衆送信のみならず,被告各写真の複製や本件各写真の公衆送信による原告の著作権(複製権,公衆送信権)侵害のおそれがあると認められる。
  
  イ 原告は,本件各写真等の改変の差止めも求めているが,本件各写真等の改変によって原告のいかなる権利が侵害されるか明らかでなく,仮に,翻案権侵害又は同一性保持権侵害をいうものであるとしても,前記⑴及び⑵における検討に照らせば,上記の侵害のおそれがあるとまでは認められず,本件全証拠によっても,本件各写真等の改変による原告の本件各写真についての著作権又は著作者人格権侵害のおそれがあるとは認められない。
  
  3 争点3(データの廃棄に係る報告,紙媒体による侵害の有無に係る調査及び報告の必要性)について
  
  原告は,著作権法112条2項に定める著作権等の侵害の予防に必要な措置として,本件各写真等のデータの廃棄に加えて,その実態の報告,紙媒体による侵害の有無に係る調査及び報告を求めるが,本件各写真等のデータの廃棄を超えて,被告にそのような調査及び報告をさせることが本件各写真等の複製及び公衆送信に係る差止請求権の実現のために必要な範囲内のものであるとはいえないから,上記のような調査及び報告の必要性を認めることはできない。
  
  4 争点4(損害の発生の有無及びその額)について
  
  ⑴ 前記のとおり,被告は,原告の著作権(複製権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害しており,これらについて,少なくとも,過失があると認められるから,不法行為による損害賠償責任を負っているところ,原告は,本件各写真の使用料相当額に係る損害(著作権法114条3項)として,著作権侵害に係るものにつき合計46万3800円,著作者人格権侵害に係るものにつき合計4万6800円の損害が生じたと主張する。
  
  ⑵ そこで検討すると,前記のとおり,被告は,原告が本件各写真を原告ウェブサイトに掲載することによって販売していた本件各商品を,本件各写真と実質的に同一の被告各写真を被告ウェブサイトに掲載することによって販売していたものであり,このような被告各写真の使用態様に加えて,被告各写真の掲載期間は長いもので1年6か月にわたること,証拠及び弁論の全趣旨によれば,画像素材の販売業者である「ペイレスイメージズ」のウェブサイトでは,画像素材の単品での購入価格が432円から5400円までとされていると認められることなど,本件訴訟に現れた事情を考慮すると,本件各写真の複製及び公衆送信につき受けるべき金銭の額(著作権法114条3項)は,写真1枚当たり5000円と認めるのが相当である。もっとも,原告の氏名表示権が侵害されたことによって,別途の財産的損害が生じたと認めるに足りない。
  
  ⑶ア これに対し,原告は,アマナイメージズの価格表において,画像素材1点当たりの使用期間1年までの使用単価は3万8880円,使用期間3年までの使用単価は6万0480円,無断使用した場合には使用料金の200%を請求できるとされていることを主張するが,弁論の全趣旨によれば,アマナイメージズは,画像素材のレンタルや販売を業とする株式会社であると認められるのに対し,本件各写真はレンタルや販売を目的として撮影されたものではないから,原告が主張する価格表について本件各写真の複製及び公衆送信に係る著作権法114条3項所定の損害額の算定に当たって大きく考慮することは相当とはいえない。
  
  イ 他方で,被告は,①本件各写真の創作性の程度の低さなどに照らせば,販売用の広告写真1枚当たりの使用料相当額はせいぜい1000円程度である,②被告において学遊社に本件各写真と同じカットでプロカメラマンによる写真撮影の見積りを依頼したところ,ライティングを施すことを含む見積額が8万円であったから,本件各写真の使用料相当額に係る損害は高くても合計8万円である旨主張する。
  
  しかしながら,①については,前記のとおり,本件各写真は,商品の販売用の写真として相応の工夫がされているということができるから,創作性の程度が低いことを理由として著作権法114条3項所定の損害額を著しく低額にすべきであるということはできない。
  
  ②については,証拠及び弁論の全趣旨によれば,学遊社は,被告から提供を受けた本件各写真をサンプルとして参照し,本件各写真に対応する61カットの写真を半日でまとめて撮影した場合の撮影料を見積もったものと認められるところ,学遊社の見積りは,本件各写真をサンプルとして参照しているため,被写体の配置,カメラアングル・構図等を検討する必要はなく,また,半日でまとめて撮影しているため,複数日にわたって撮影されたと認められる本件各写真と比べて撮影費用が低額となっているとみる余地があることなどからすれば,見積額が8万円であるからといって,本件各写真の複製及び公衆送信に係る著作権法114条3項所定の損害額が同程度であるということはできない。
  
  ⑷ そうすると,本件各写真の複製及び公衆送信につき受けるべき金銭の額(著作権法114条3項)は,合計30万5000円(5000円×61枚)であると認められる。
  
  5 争点5(返還すべき果実又は不当利得の存否及びその額)について
  
  原告は,被告は,原告の著作物である本件各写真を悪意によって占有し,これを被告各写真として被告ウェブサイトで公開したことにより,本件各商品の受注利益を得たとして,主位的に民法190条1項に基づき,予備的に同法703条,704条に基づき,73万9497円等の支払を求めるが,物の占有に関する民法190条1項が無体財産権である著作権の侵害の場面に適用されるか否かについては措くとしても,本件各写真の占有又は利用によって被告が受注利益に相当する果実又は利得を得たと認めることはできない。
  
  6 争点6(謝罪広告の必要性)について
  
  原告は,被告の行為により原告の名誉感情が侵害されたなどとして,著作権法115条所定の名誉回復等の措置として,被告ウェブサイトに別紙4謝罪広告目録記載の文章を掲載する必要がある旨主張する。
  
  しかしながら,著作権法115条における著作者の名誉声望とは,著作者がその品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価,すなわち社会的名誉声望を指すものであって,人が自己自身の人格的価値について有20 する主観的な評価,すなわち名誉感情は含まれないものと解されるから(最高裁昭和61年5月30日第二小法廷判決参照),原告の請求が主観的な名誉感情の侵害を理由とするものであれば,もとより採用することはできず,また,本件全証拠によっても,原告の社会的名誉声望が侵害されたとは認められず,差止めや損害賠償等に加えて,著作権法115条所定の名誉回復等の措置を認める必要があるとも認められない。
  
  7 小括
  
  以上のとおり,被告は,原告の本件各写真についての著作権(複製権,公衆送信権)を侵害したものであり,今後も,本件各写真等の複製,公衆送信による著作権(複製権,公衆送信権)侵害のおそれがあると認められるから,原告の著作権法112条1項,同条2項に基づく請求は,被告に対し,本件各写真等の複製,公衆送信の差止め,本件各写真等のデータの廃棄を求める限度で理由がある。また,本件各写真の複製及び公衆送信に係る損害は合計30万5000円であるから,原告の民法709条に基づく請求は,被告に対し,30万5000円及びこれに対する不法行為後である平成30年2月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。