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  著作権判例セレクション
   鉄道写真のトリミングにつき、同一性保持権侵害を認定した事例
  
  
  ▶令和4年4月15日東京地方裁判所[令和3(ワ)23928]
  
  1 争点1(同一性保持権侵害の成否)について
  
  (1)
前記前提事実のとおり、原告が撮影した原告写真1及び2は「写真の著作物」(著作権法10条1項8号)に該当するから、原告は、原告写真1及び2に係る同一性保持権を有するところ、前記前提事実のとおり、被告は、原告写真1の上下左右を正方形になるようにトリミングして被告写真1を、原告写真2の上下左右を正方形になるようにトリミングして被告写真2を、それぞれ作成したものである。
  
  したがって、被告は、原告写真1及び2に係る原告の同一性保持権を侵害したと認めるのが相当である。
  
  (2)
これに対して、被告は、原告写真1及び2の中央位置はそのままにし、インスタグラムの仕様に合わせて正方形にトリミングしたものであり、原告写真1及び2の創作性及び特徴を害したものではないし、「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)に該当すると主張する。
  
  そこで検討するに、原告写真1及び2は、列車が川に架かる鉄橋を走行する様子を、列車をほぼ中心に据え、周囲に霧のかかった川及び連なる山々を配置し、列車と比較して周囲の川及び山を大きく写すような横長の構図で撮影されたものであり、これらの点について創作性を認めることができる。そして、被告写真1及び2は、上記のような原告写真1及び2の上下左右をトリミングして正方形にし、それらに写し出された左右の山を大きく切り取ったものである。そうすると、被告が被告写真1及び2を作成したことにより、原告写真1及び2について、その著作者である原告の意に反し、上記のとおり創作性の認められる表現部分に実質的な改変が加えられたことは明らかであって、これが原告写真1及び2の創作性及び特徴を害さないものということはできない。
  
   また、本件全証拠によっても、被告が被告のインスタグラム上のアカウントにおいて掲載するために原告写真1及び2をトリミングすることについて、正当な理由を基礎付ける事実は認められないから、被告による上記改変が「やむを得ないと認められる改変」に該当するとは認められない。
  したがって、被告の上記主張は採用することができない。
  
  (略)
  
  3 争点3(損害額)について
  
  (1)
前記1(2)のとおり、原告写真1及び2は、列車が川に架かる鉄橋を走行する様子を、列車をほぼ中心に据え、周囲に霧のかかった川及び連なる山々を配置し、列車と比較して周囲の川及び山を大きく写すような横長の構図で撮影されたものであり、被告写真1及び2は、原告写真1及び2の上下左右をトリミングして正方形にし、それらに写し出された左右の山を大きく切り取ったものである。
  
  上記によれば、被告が原告写真1及び2に加えた改変は、写真の縦横比、構図及び写し出された対象を変更するものであり、これにより原告写真1及び2と被告写真1及び2とでは異なる印象を与える結果となったものであるから、改変の程度は大きいといえる。他方で、列車が川に架かる鉄橋を走行する様子を写し出した原告写真1及び2の中心部分は、被告写真1及び2において改変は加えられていない。これらの事情に加えて、本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、原告が原告写真1及び2に係る同一性保持権を侵害されたことにより受けた精神的苦痛に対する慰謝料額は、各5万円(合計10万円)と認めるのが相当である。