Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

氏名表示権の侵害事例(鉄道写真のネット上での氏名非表示の例)

令和4415日東京地方裁判所[令和3()23928]
2 争点2(氏名表示権侵害の成否)について
(1) 前記前提事実のとおり、原告が撮影した原告写真1及び2は「写真の著作物」に該当するから、原告は、原告写真1及び2に係る氏名表示権を有するところ、被告は、前記前提事実のとおり、原告写真1及び2をそれぞれトリミングして被告写真1及び2を作成した上、前記前提事実のとおり、被告のツイッター上のアカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく被告写真1の掲載を含む本件投稿1をし、また、被告のインスタグラム上のアカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく被告写真1及び2の掲載を含む本件投稿2及び3をしたものである。
したがって、被告は、原告写真1及びに2に係る原告の氏名表示権を侵害したと認めるのが相当である。
(2) これに対して、被告は、原告写真1及び2には原告に著作権があることを示す原告のウォーターマークの表示はなく、被告がこれを削除したものではないし、被告写真1に記載された「B以下省略」は被告のアカウント名でも本名でもないから、これによって被告写真1の著作権者が被告であると理解されるとはいえないと主張する。
しかし、氏名表示権とは、「その著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利」(著作権法19条1項)をいうところ、前記前提事実のとおり、被告写真1及び2の掲載を含む本件投稿1ないし3において、原告の氏名は表示されていなかったものであり、原告写真1及び2に原告の氏名が記載されていなかったからといって、原告が、原告写真1及び2を公衆に提示するに際し、自身の氏名を著作者名として表示しない意思を有していたということはできず、本件全証拠によっても、そのような意思を有していたとは認められない。
したがって、被告が指摘する上記事情はいずれも前記(1)の認定判断を左右するものではなく、被告の上記主張は採用することができない。
3 争点3(損害額)について
()
(2) 前記前提事実のとおり、被告は、被告のツイッター及びインスタグラム上のアカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく、被告写真1及び2の掲載を含む本件投稿1ないし3をしたものであるが、その期間は、令和2年7月24日から同月27日までの4日間と、それほど長いものではない。他方で、被告は、前記前提事実のとおり、自身の名字の一部分である「B以下省略」を、上記アカウントのユーザー名及びアカウント名に用いていたところ、原告写真1に原告の氏名を表示しないというのにとどまらず、右下に、被告が著作者であることを示すように見える「B以下省略」と記載した被告写真1を作成し、これをツイッター等に掲載したものであり、権利侵害の態様は悪質といわざるを得ない。
以上に加え、本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、原告が本件投稿1ないし3により原告写真1及び2に係る氏名表示権を侵害されたことにより受けた精神的苦痛に対する慰謝料額は、被告写真1の掲載を含む本件投稿1につき2万円、被告写真1及び2の掲載を含む本件投稿2につき4万円、被告写真1及び2の掲載を含む本件投稿3につき4万円(合計10万円)と認めるのが相当である。
(3) これに対して、被告は、原告が主張する損害は、精神的損害を含め、写真の使用料相当額の支払によって回復されるのが通常である、原告は、本件投稿1ないし3の後、山の上から撮影した写真を掲載して「良き朝を迎えております」などと記載したツイートを投稿しており、金銭をもって慰謝すべき精神的苦痛が生じたとは認められない、原告は、慰謝料の算定根拠を明らかにしていないと主張する。
しかし、上記①については、被告の前記1(1)及び2(1)の各行為により、原告写真1及び2に係る原告の著作者人格権である同一性保持権及び氏名表示権が侵害され、原告はこれにより精神的苦痛を被ったものであり、原告に生じた精神的損害は、写真の使用料相当額の支払によって慰謝される性質のものではない。
また、上記②については、原告が被告の指摘するようなツイートを投稿していたとしても、これをもって、原告が被告の前記1(1)及び2(1)の各行為により精神的苦痛を被っていないとは認められない。
さらに、上記③について、慰謝料の額は、諸般の事情を考慮して、裁判所が裁量により定めるものであるから、原告は、その判断の基礎となる事情を主張立証すれば足りるというべきである。
したがって、被告の上記各主張はいずれも採用することができない。