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  著作権判例セレクション
   キャラクターの侵害性・特定性の問題(キャラクターのテレビ作品の画像との翻案性を認定した事例)
  
  ▶令和5年12月7日東京地方裁判所[令和5(ワ)70139]▶令和7年9月24日知的財産高等裁判所[令和6(ネ)10007]
  (事案の概要)
  
  1 亡笹沢左保ことBは、「紋次郎」という名の渡世人を主人公とする「木枯し紋次郎」シリーズの小説(「本件小説」)を執筆し、本件小説を原作とする漫画、テレビドラマ及び映画が制作された。亡Aは亡Bの妻であり、控訴人X1及び控訴人X2は亡Bと亡Aの間の子であり、控訴人X3及び控訴人X4は亡Aの養子である。亡Bが有した本件小説の著作権は、亡Bが平成14
年(2002年)10月21日に死亡した後は、遺産分割により亡Aが取得した。控訴人会社は、亡Aから、亡Bの著作物の独占的利用の許諾を受けた。
  
  本件の第1審は、亡A及び控訴人会社が、被控訴人が「被告図柄目録」記載の図柄を、「被控訴人商品」の外装(ラベル又は外袋)に付して製造販売し、同商品の画像をウェブサイトに掲載することは、亡Aが取得した本件小説、本件小説を原作とする漫画、テレビドラマ又は映画に係る著作権(複製権又は翻案権、公衆送信権及び譲渡権)、控訴人会社の独占的利用許諾を受けた地位を侵害するとともに、被控訴人が上記図柄を付して被控訴人商品を製造販売することは、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号又は2号の不正競争に当たると主張し、被控訴人に対し、著作権法112条1項、2項又は不競法3条1項、2項に基づき被控訴人商品の製造販売等の差止め及び廃棄を請求するとともに、亡A及び控訴人会社各自に対し、不法行為(著作権侵害)に基づく損害賠償請求又は不競法4条本文に基づく損害賠償請求として、所定の金員の支払を求めた事案である。
  
  原判決は亡A及び控訴人会社の請求をいずれも棄却したので、亡A及び控訴人会社が原判決を不服として控訴した。
  
  当審係属中の令和6年(2024年)8月8日に亡Aが死亡し、その相続人である控訴人X1、控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が亡Aの訴訟承継人となった(以下、「控訴人亡A訴訟承継人ら」)。亡Aが有していた著作権は、遺産分割により控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が取得した。当審において、金銭請求につき、控訴人亡A訴訟承継人らは請求を減縮し、控訴人会社は請求を拡張した。
  
  
  [原審(参考)]
  
  1 争点1(著作権侵害の有無)について
  
  ⑴ 著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載小説においては、当該登場人物が描かれた各回の文章表現それぞれが著作物に当たり、上記登場人物のいわゆるキャラクターといわれるものは、小説の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができない。そうすると、一話完結形式の連載小説に登場するキャラクターは、著作権法2条1項1号にいう著作物ということはできない(連載漫画についての最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決参照)。
  
  したがって、著作権者は、一話完結形式の連載小説に係る著作権侵害を主張する場合、その連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのかを具体的に特定する必要があるものと解するのが相当である。
  
  これを本件についてみると、原告らは、特定論において、著作権が侵害されたと主張する著作物につき、①通常より大きい三度笠を目深にかぶり、②通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、③口に長い竹の楊枝をくわえ、④長脇差を携えた渡世人という記述(以下「本件渡世人」という。別紙本件紋次郎表示目録参照)であると特定するにとどまり、本件渡世人を個別の写真や図柄等として特定するものではなく、その他に主張する予定もないと陳述している(第1回口頭弁論調書参照)。
  
  そうすると、原告らは、一話完結形式の連載小説に係る著作権侵害を主張する場合、その連載小説中のどの回の文章表現に係る著作権が侵害されたのかを具体的に特定するものではない。
  
  したがって、原告らの特定論に係る主張を前提とすれば、原告らは、本件書籍において著作権が侵害されたという著作物を具体的に特定しないものとして、その主張自体失当というほかなく、この理は、本件漫画作品、本件テレビ作品及び本件映画作品の一貫した中心人物として主張される本件渡世人についても、異なるところはない。
  
  仮に、原告らが、本件渡世人という記述に加え、本件書籍、本件漫画作品、本件テレビ作品及び本件映画作品の一貫した中心人物という趣旨をいうものとして特定しているとしても、上記中心人物は、本件書籍、本件漫画作品、本件テレビ作品及び本件映画作品の表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念をいうものであるから、原告らが特定するものは、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないことからすると、これを著作物であると認めることはできない。
  
  さらに念のため、本件渡世人に係る記述自体をみても、原告ら主張に係る本件渡世人は、①通常より大きい三度笠を目深にかぶり、②通常よりも長い引き回しの道中合羽で身を包み、③口に長い竹の楊枝をくわえ、④長脇差を携えた渡世人というものである。そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、渡世人が、三度笠を目深にかぶり、引き回しの道中合羽で身を包み、長脇差を携えていたというのは、江戸時代の渡世人の姿としてありふれた事実をいうものであり、口に長い竹の楊枝をくわえるという部分を更に加えたとしても、これがアイデアとして独自性を有するかどうかは格別、著作権法で保護されるべき創作的表現という観点からすれば、その記述自体は明らかにありふれたものである。仮に、本件渡世人に対しその後本件テレビ作品で加えられた表現をもって二次的著作物とする原告らの主張に立って、「通常より大きい」三度笠で、「通常よりも長い」道中合羽で身を包んでいるという記述を加えて更に検討したとしても、これらの記述も同じく極めてありふれたものであり、原告らの上記主張の当否を判断するまでもなく、本件渡世人に係る上記記述は、全体として、ありふれた事実をありふれた記述で江戸時代の渡世人をいうものにすぎず、これを創作的表現であると認めることはできない。
  
  仮に、原告らが、特定論における上記主張にかかわらず、例えば本件テレビ作品の映像の一部(本件紋次郎表示目録参照)に係る人物写真に著作権を有することを前提として、著作権侵害を主張するとしても、被告図柄(被告図柄目録参照)との同一性を検討し得る部分は、結局のところ、本件渡世人に係る上記記述部分にとどまるものとなるから、当該記述部分が、ありふれた事実をありふれた記述で江戸時代の渡世人をいうものにすぎず、創作的表現に該当しないことは、上記において説示したとおりである。そうすると、本件テレビ作品の映像の一部に係る人物写真と、被告図柄との同一性を検討し得る部分は、明らかに創作的表現がない部分にとどまることからすれば、被告図柄の製作が複製又は翻案に該当しないことは、自明である(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。のみならず、被告図柄で記述された渡世人の姿についてみると、三度笠の大きさは、概ね背丈ほどもある巨大なものであり、江戸時代の渡世人の姿とは異なるものである。また、口にくわえるものも顔の数倍程度もあるものであり、これを直ちに竹の楊枝であると認識し得るものとはいえない。そうすると、被告図柄の記述自体からは、本件渡世人のような江戸時代の渡世人を直接感得することはできないことからすると、上記において同一性を検討し得るとした部分についても、著作権法の観点から仔細に検討すれば、そもそも同一性を欠くものといえる。
  
  ⑵ これに対し、原告らは、被告図柄が本件渡世人における表現上の本質的な特徴を維持している旨主張するものの、本件書籍の具体的表現を離れて、紋次郎という登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできず、本件テレビ作品の映像の一部に係る人物写真をみても、被告図柄と同一性を検討し得る部分は、江戸時代の渡世人の姿というありふれた事実をありふれた記述でいうにとどまり、創作的表現ということはできず、同一性を検討し得る部分も、そもそも同一性を欠くといえることは、上記において説示したとおりである。
  
  したがって、原告らの主張の実質は、本件書籍、本件漫画作品、本件テレビ作品及び本件映画作品において一貫して登場する紋次郎というキャラクターを保護すべき旨主張するものに帰し、原告らの主張は、表現の自由、創作の自由を保障するという観点から創作的表現に限り一定期間の保護を認めるという著作権法の趣旨目的のほか、前掲各最高裁判決が説示するところを正解するものとはいえない。
  
  したがって、原告らの主張は、上記認定を左右するものとはいえず、いずれも採用することができない。
  
  
  [控訴審]
  
  第3 当裁判所の判断
  
  当裁判所は、控訴人らの請求は、主文第1項⑴ないし⑹の限度で理由があるから認容し、その余はいずれも理由がないから棄却すべきであるところ、これと異なる原判決を一部変更し、控訴人会社が当審において拡張した請求は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は、以下のとおりである。
  
  1 著作権侵害の有無(争点1)について
  
  ⑴ 認定事実
  
  前記の前提事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
  
  (略)
  
  ⑵ 権利の帰属
  
  ア 亡Bは、本件小説の著作者で、本件小説につき著作権を有しており、亡Bが平成14年(2002年)10月21日に死亡した後は、遺産分割により著作権を取得した亡Aが著作権を有しており、亡Aが令和6年(2015 24年)8月8日に死亡した後は、遺産分割により著作権を取得した控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が著作権(持分は控訴人X2が2分の1、控訴人X3及び控訴人X4が各4分の1)を有していた。
  
  イ 本件テレビ作品は、亡Bの本件小説を原作として制作されたものであり、本件小説を原著作物とする二次的著作物であるところ、原著作物の著作者である亡Bは、二次的著作物である本件テレビ作品の利用に関し、本件テレビ作品の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有し(著作権法28条)、本件テレビ作品については、亡Bの権利と、二次的著作物である本件テレビ作品の著作者の権利とが併存することとなった(最高裁平成13年10月25日第一小法廷判決)。そのため、亡Bは、二次的著作物である本件テレビ作品の原作の著作者として、二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利、すなわち、本件テレビ作品についての著作権(複製権又は翻案権、譲渡権、公衆送信権)を専有していたものであり(著作権法28条)、亡B死亡後は、亡Aが遺産分割によりこれを取得し、亡A死亡後は、控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が遺産分割によりこれを取得したものである。
  ⑶ 依拠
  
  前記⑴カのとおり、被控訴人は、被控訴人のウェブサイト中のウェブページに、「紋次郎いかの由来」として、昭和47年(1972年)当時テレビで流行っていた木枯し紋次郎がくわえていた長い楊枝(ようじ)を串に見立てたことによる旨記載しており、この事実によれば、「紋次郎いか」の名称が本件テレビ作品の主人公である紋次郎(木枯し紋次郎)に由来することが認められるとともに、被控訴人図柄が本件テレビ作品に依拠して作成されたものであると推認される。
  
  他方、被控訴人が本件小説、本件漫画及び本件映画に接したことを認めるに足りる証拠はないから、被控訴人が被控訴人図柄を作成するに当たり、本件小説に直接依拠したとは認められず、本件漫画及び本件映画に依拠したとも認められない。
  
  ⑷ 複製又は翻案の成否
  
  ア 前記⑶のとおり、被控訴人図柄は本件テレビ作品に依拠して作成されたものであると認められるから、被控訴人図柄が本件テレビ作品の画像の複製又は翻案であるかを検討することとなる。
  
  複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう(最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決)。また、翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
  
  イ(ア) 別紙4「本件テレビ作品紋次郎」の画像(以下「本件画像」という。)は、別紙3対比表の「控訴人らの著作物の具体的表現」の「3」の画像のうち、「『川留めの水は濁った』より」とある一枚目の画像を拡大したものである。本件画像は、本件テレビ作品の第1話「川留めの水は濁った」の一場面の画像であり、本件テレビ作品において描かれた紋次郎が登場している。紋次郎は本件テレビ作品の主人公であり、本件画像に示されたのと同じ装いをし、その特徴をすべて兼ね備えた紋次郎の画像が、すべての本件テレビ作品に表現されている。このように、本件画像は、本件テレビ作品の紋次郎の画像を具体的に示すものであるから、本件画像を被控訴人図柄と対比することにより、本件テレビ作品の紋次郎の画像と被控訴人図柄の対比が明らかにされるものと認められる。そして、本件テレビ作品が本件小説の二次的著作物であることからすれば、このような本件テレビ作品の紋次郎の画像は、本件小説の二次的著作物であると認められる。
  
  (イ) 本件画像に登場する紋次郎は、股引に脚絆を付け、三度笠をかぶり、道中合羽を身に着け、口に細長い楊枝をくわえ、長脇差を携えた男性であり、左向きで、顔は横顔が見えており、右足が地面につき、左足が上がっていて、歩いているか又は小走りをしている姿であると認められる。
  
  そして、かぶっている三度笠として、本件テレビ作品以外のテレビドラマや映画に登場する人物がかぶっている三度笠よりも大きなものが用いられていると認められる。次に、道中合羽は、縦縞の模様であり、紋次郎の膝のあたりまで長さがあって、これも、本件テレビ作品以外のテレビドラマや映画等に登場する人物が身に着けている道中合羽よりも長いものが用いられていると認められる。楊枝については、本件小説では約5寸、15センチメートル以上あると描かれているが(前記1⑴)、本件画像でも同程度の長さの楊枝が用いられていると認められる。
  
  このように、本件画像の紋次郎は、①通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも大きな三度笠をかぶり、②通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも長く、模様が縦縞模様である道中合羽を身に着け、③細長い楊枝をくわえ、④長脇差を携えているという特徴をすべて兼ね備える者として表現されている。
  
  ところで、本件テレビ作品の放映前には、上記①ないし④の表現上の特徴の全てを兼ね備える人物が登場するドラマ、映画等が存在していたとは認められない(なお、上記①ないし④の特徴の全てを兼ね備える人物が登場する小説が、本件小説が書かれる前に存在したとも認められない。)。そのため、上記①ないし④の表現上の特徴をすべて兼ね備えるという点は、本件画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる。
  
  (ウ) 他方、被控訴人図柄は、別紙2「被控訴人図柄目録」記載のとおりであり、人物の特徴を誇張して手で描かれた絵であり、俳優を実写した本件画像とは表現の方法が異なり、本件画像と比較して、手書きの絵であることによる新たな創作性が加えられているといえる。しかし、三度笠をかぶり、道中合羽を身に着け、口に細長い棒状のものをくわえ、長脇差を携えた男性を描いたものであることは、被控訴人図柄を見た一般人が容易に理解することができると認められる。
  
  そして、被控訴人図柄で描かれている人物は右向きで、顔は横顔が見えており、片方の足が地面につき、他方の足が上がっていて、歩いているか又は小走りをしている姿であると認められる。人物の顔は、口の周辺以外は三度笠で隠れており、三度笠は人物の顔に比べて非常に大きなものとして描かれている。道中合羽は太い縦縞の模様であり、人物の体の動きにより裾が空中に浮かび上がった状態で描かれているが、裾の部分を下におろした場合には地面に着くと思われるくらいの長さである。
  
  口にくわえている細長い棒状のものは、これが楊枝であるかどうかは被控訴人図柄を一見して明らかであるとまではいえないが、人物の横顔の幅よりもかなり長いものとして描かれている。
  
  (エ) そこで、被控訴人図柄から、本件画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる、前記①ないし④の表現上の特徴を感得し得るかについて検討する。
  
  被控訴人図柄の人物は、三度笠をかぶっており、その三度笠は大きなものである。被控訴人図柄の三度笠は、人物の顔の大きさと比べたとき、本件画像の紋次郎のかぶる三度笠よりも更に大きなものであるが、これは、三度笠が大きいものであるという前記①の特徴を被控訴人図柄において強調して表現したことによるものであって、前記①の特徴を感得することを妨げることはなく、むしろ容易にするものといえる。そのため、被控訴人図柄から本件画像の前記①の表現上の特徴(通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも大きな三度笠をかぶっていること)を直接感得することはできるものと認められる。
  
  被控訴人図柄の人物は、道中合羽を身に着けており、その道中合羽は縦縞模様で長いものである。被控訴人図柄の道中合羽は、人物の身長と比べたとき、本件画像の紋次郎が身に着けている道中合羽よりも更に長いものであるが、これは、道中合羽が長いという前記②の特徴を被控訴人図柄において強調して表現したことによるものであって、前記②の特徴を感得することを妨げることはなく、むしろ容易にするものといえる。
  
  また、本件画像の人物が身に着ける道中合羽は、縞が細いのに対し、被控訴人図柄の人物が身に着ける道中合羽は、それよりも縞が太く表されているが、これも、道中合羽が縦縞模様であるという前記②の特徴の一部を被控訴人図柄において強調して表現したことによるものであって、前記②の特徴を感得することを妨げることはなく、むしろ容易にするものといえる。そのため、被控訴人図柄から本件画像の前記②の表現上の特徴(通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも長く、模様が縦縞模様である道中合羽を身に着けていること)を直接感得することはできるものと認められる。
  
  本件画像の紋次郎は、細長い楊枝をくわえているのに対し、被控訴人図柄の人物は、細長い棒状のものをくわえているが、それが楊枝であることは、一見しては明らかでないともいえる。しかし、口にくわえている細長い棒状のものが楊枝であることは容易に推測されるから、それが楊枝であることが一見しては明らかでないとしても、その点は、前記③の特徴を感得することを妨げるものとはいえない。そのため、被控訴人図柄から本件画像の前記③の表現上の特徴(細長い楊枝をくわえていること)を直接感得することはできるものと認められる。
  
  被控訴人図柄の人物も、本件画像の紋次郎も、長脇差を携えているから、被控訴人図柄から本件画像の前記④の表現上の特徴(長脇差を携えていること)を直接感得することはできるものと認められる。
  以上によれば、被控訴人図柄から、本件画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる、前記①ないし④の表現上の特徴をすべて感得し得るものと認められる。そして、前記(ア)のとおり、本件画像は、本件テレビ作品の紋次郎の画像を具体的に示すものであり、本件画像を被控訴人図柄と対比することにより、本件テレビ作品の紋次郎の画像と被控訴人図柄の対比が明らかにされるから、被控訴人図柄から、本件テレビ作品の紋次郎の画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる、前記①ないし④の表現上の特徴をすべて感得し得るものと認められる。
  
  ウ 上記⑶及びア、イによれば、被控訴人図柄は、人物の特徴を誇張して手で描かれた絵であり、俳優を実写した本件画像とは表現の方法が異なり、本件画像と比較して、手書きの絵であることによる新たな創作性が加えられた別の著作物であるから、本件テレビ作品の紋次郎の画像の複製には当たらない。しかし、被控訴人図柄は、本件テレビ作品の紋次郎の画像に依拠し、その画像の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現に変更を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現したものであり、被控訴人図柄に接する者が本件テレビ作品の紋次郎の画像に係る表現上の本質的な特徴を直接感得することができるといえるから、被控訴人図柄は、本件テレビ作品の紋次郎の画像の翻案であると認められる。
  
  ⑸ 被控訴人の主張に対する判断
  
  ア 被控訴人は、前記〔被控訴人の主張〕のとおり、前記⑷イ(イ)の①、②及び④に係る特徴は、江戸時代の渡世人のごく一般的な表現であって、仮にこれらの要素が被控訴人図柄から感得できたとしても、著作権の対象となる創作的表現が共通しているとはいえず、同③の特徴についても、極めてありふれた渡世人の姿に長い棒状のものをくわえさせるという点は、アイデアにすぎず、この点が共通していたとしても著作権の対象となる創作的表現が共通しているとはいえないと主張する。
  
  しかし、三度笠をかぶり、道中合羽を身に着け、長脇差を携えた江戸時代の渡世人の姿が過去に存在したとしても、本件画像の紋次郎は、上記①について、通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも三度笠が大きい、上記②について、道中合羽が、通常のテレビドラマや映画等で用いられるものよりも長いという特徴も有しており、これらの特徴が江戸時代の渡世人のごく一般的な表現であるとか、極めてありふれた渡世人の姿であると認めるに足りる証拠はない。
  
  しかも、本件テレビ作品の紋次郎の画像は、上記①ないし④の表現上の特徴を全て兼ね備える人物として描かれており、この点において、それ以前の一般的な渡世人の姿との違いが認められるのであって、上記①、②及び④に係る特徴のみを取り出して、本件テレビ作品の紋次郎の画像に創作性がないと解することは相当でない。前記⑷イ(イ)のとおり、本件テレビ作品の放映前には、上記①ないし④の表現上の特徴を全て兼ね備える人物が登場するドラマ、映画等が存在していたとは認められない(なお、そのような特徴の全てを兼ね備える人物が登場する小説が、本件小説が書かれる前に存在したとも認められない。)ことから、上記①ないし④の表現上の特徴をすべて兼ね備えるという点は、本件画像に具体的に示されている本件テレビ作品の紋次郎の画像の創作的な表現をなす部分であり、表現上の本質な特徴をなすものと認められる。
  
  また、本件テレビ作品の紋次郎の画像は、俳優が衣装を身に着けて演じることによって、上記①ないし④の表現上の特徴を全て有する人物として具体的に描写されているのであって、上記③の特徴がアイデアにすぎないということはない。さらに、本件テレビ作品の紋次郎の画像は、上記①、②及び④の共通点に係る特徴を有する渡世人が、長い楊枝をくわえている姿として具体的に描かれており、その具体的に描写された姿が全体として創作性を有すると認められるのであるから、くわえている楊枝の長さが江戸時代の楊枝として通常の長さであるとしても、そのことをもって、本件画像に具体的に示されている本件テレビ作品の紋次郎の画像がありふれた表現であるとか、創作性を有しないということにはならない。
  
  イ 被控訴人は、前記〔被控訴人の主張〕のとおり、本件テレビ作品に描かれた紋次郎の画像と、被控訴人図柄の人物とでは、三度笠の大きさ、道中合羽の長さ及び長脇差の長さが異なると主張する。
  
  しかし、前記⑷イ(エ)のとおり、被控訴人図柄において、三度笠が本件画像の紋次郎がかぶっている三度笠より更に大きく、道中合羽が本件画像の紋次郎が身に着けている道中合羽より更に長い点は、本件画像の紋次郎の特徴を、被控訴人図柄において強調して表現したものといえ、本件画像の記⑷イ(イ)の①、②の特徴を直接感得することを妨げるものではない。被控訴人図柄と本件画像とで、長脇差の長さに違いがあるとしても、それは、長脇差を携えているという同④の特徴を共通にするものであって、これを直接感得することを妨げるものとは認められない。
  
  ウ 被控訴人は、前記〔被控訴人の主張〕のとおり、被控訴人図柄は本件テレビ作品に依拠していないと主張する。
  
  しかし、前記⑴カのとおり、被控訴人は、そのウェブサイトにおいて、「紋次郎いかの由来」として、「昭和47年(1972年)6月25日
するめ足に串を刺した醤油味の珍味が誕生しやした。名前の由来は、その頃テレビで流行っていた木枯らし紋次郎がくわえていた長い楊枝(ようじ)を串に見立てたことによるようでござんす。」との文章を一時期掲載していたと認められる。上記の記載は「紋次郎いか」の商品名の由来として記載されているが、これによれば、被控訴人が、「紋次郎いか」を販売する前20 に、本件テレビ作品が放映されているのを認識していたと認められ、この事実に加え、商品名に「紋次郎」の語を入れていることからすれば、被控訴人は、本件テレビ作品の紋次郎を基に、前記⑷イ(エ)のとおり本件テレビ作品の紋次郎の画像の本質的特徴を直接感得させる被控訴人図柄を製作したものと推認することができる。
  
  エ したがって、被控訴人の上記主張は、いずれも採用することができない。
  
  ⑹ 著作権侵害の有無
  
  ア 本件テレビ作品についての翻案権、公衆送信権は、亡Bの生前は、亡Bが有し、亡B死亡後は亡Aが有していたものであり、亡A死亡後は、控訴人X2、控訴人X3及び控訴人X4が有しているものである(前記⑵)。
  
  被控訴人は、容器のラベル又は外袋に被控訴人図柄を付した被控訴人商品を製造することにより、本件テレビ作品についての翻案権を侵害したものと認められる。また、被控訴人は、容器のラベル又は外袋に被控訴人図柄を付した被控訴人商品の写真を、被控訴人のウェブサイトに載せていたと認められ、これにより、本件テレビ作品についての公衆送信権を侵害したものと認められる。
  
  著作権法26条の2第1項の譲渡権は、著作物を原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利であるから、著作物を翻案したものの譲渡によって同項の譲渡権が侵害されたとは認められない。前記⑷ウのとおり、被控訴人図柄は、本件テレビ作品の紋次郎の画像の複製とは認められず、翻案に当たると認められるにとどまる。したがって、容器のラベル又は外袋に被控訴人図柄を付した被控訴人商品を譲渡し、引き渡しても、本件テレビ作品についての譲渡権の侵害は認められない。
  
  なお、控訴人会社は、亡Aから本件基本契約により亡Bの著作物の独占的利用を許諾されていたものであるから(亡A死亡により、本件基本契約上の亡Aの地位は、相続人に承継されたものと認められる。)、被控訴人による著作権侵害により、その独占的利用許諾を受けた地位が侵害されたものと認められる。
  
  イ そして、上記著作権侵害の内容や、侵害が長期にわたったことに加え、被控訴人は、本件テレビ作品の放映後ほどなくして被控訴人図柄の商標登録出願をして登録を受けており、知的財産権について理解があると考えられることなど、本件で認められる事情によれば、被控訴人には、著作権侵害につき、過失があったものと認められる。