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著作権判例セレクション

法114条3項の適用(賠償額の算定基準のとなる対象及び使用料率等)が争点となった事例

令和5127日東京地方裁判所[令和5()70139]令和7924日知的財産高等裁判所[令和6()10007]
6 損害額及び控訴人らがそれぞれ請求できる金額(争点6)について
⑴ 使用料を乗じる対象となる販売額
ア 小売店における販売額か被控訴人の販売額(卸売額)か
控訴人らは、被控訴人の著作権侵害による損害額を、著作権法114条3項に基づいて算出している。
そして、控訴人らは、同項にいう著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の算出方法について、対象期間において被控訴人図柄を付して販売された被控訴人商品の上代(小売店における販売金額)の総額に、相当な使用料率を乗じて算出すべきであると主張する。
しかし、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人商品については、「紋次郎いか」において過去に希望小売価格の設定がされたことがあるものの、現在では「紋次郎いか」を含めて希望小売価格の設定はないこと、被控訴人商品は珍味に属する菓子類であり、小売店における販売価格は各小売店が決めるものであって、小売店ごとにまちまちであり、商品ごとに統一的な価格で販売されているものではないことが認められ、被控訴人が小売店における販売価格を把握しているとは認められず、卸先から小売店への販売価格も不明であって、被控訴人の卸に対する販売額(卸売額)から小売店における販売額を推認することは困難である。他方、本件においては、被控訴人の卸に対する販売額(卸売額)の総額は、証拠によりその実額を認定することが可能である。
したがって、一般的に、小売店における販売額を明らかにし得る場合には、その金額に使用料率を乗じて相当な使用料を算出することもあるが、本件においては、上記のような事情があることから、被控訴人商品の製造による著作権侵害について、著作権法114条3項にいう著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、対象期間において被控訴人図柄を付して販売された被控訴人商品についての、被控訴人の卸に対する販売額(卸売額)の総額に、相当な使用料率を乗じて算出するのが相当である。
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⑵ 相当な使用料率
相当な使用料率について検討する。
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() 以上によれば、損害賠償請求の対象期間(平成15年(2003年)3月29日から令和4年(2022年)5月31日(「てっぽういか」については同年6月30日)まで)において、被控訴人図柄を被控訴人商品に付したことの売上げへの寄与は、かなり限定的なものであるといえ、著作権法114条3項による損害の算出に際して用いる相当な使用料率も、小さな割合にとどまると認められる。
イ 日本弁理士会知的財産価値評価推進センターが作成した「知的財産価値評価ガイド~場面別・目的別価値評価ガイド~」(甲64)には、地方自治体が採用した「マスコットキャラクター」の使用許諾を与える場合のライセンス料率についてはこれをいわゆる上代の3%としている地方自治体が多いように思われ、調査した範囲では、最高6%、最低2.5%であったこと、マスコットキャラクターとして有名な「ひこにゃん」でも3%とされていること、マスコットキャラクター自体の使用と、マスコットキャラクターを使用することによる付加価値が生じる商品とで使用料率が異5 なる場合もみられ、前者では6%、後者では3%とされている事例があることが記載されている。
また、甲64には、「ライセンスキャラクター名鑑2012」に基づいて、グループで整理したキャラクターの分野別のライセンス料率の平均値が示されているところ、テレビ関係が4.573%、映画系が5.286%などであり、平均で約5%の使用料率とみることができるとの記載もある。
ウ 前記⑴アのとおり、被控訴人商品の製造による著作権侵害については、いわゆる上代を基礎として著作権法114条3項の損害を算出することは困難であり、立証の内容も考慮すると、被控訴人が卸の業者に販売した販売額(卸売額)を基礎として算出するのが相当であって、その分、上代を基礎とする場合に比して相当な使用料率は高くなると考えられる。また、相当な実施料額の算定に当たっては、著作権者が自己の著作権の侵害があったことを前提として著作権を侵害した者との間で合意をするとしたならば、当該著作権者が得ることとなる対価を考慮すべきである(著作権法114条5項参照)。さらに、キャラクターの使用料率については前記イのような資料が存在する。
しかし、相当な使用料率は、著作物の性質、内容、使用態様等により異なるものと認められ、これまで述べた事情に加え、本件テレビ作品に関し、亡Bは原著作物の著作者であり、二次的著作物である本件テレビ作品について著作権を有する者が別に存在することも考慮すると、本件で著作権法25 114条3項の損害を算出するに際して用いる相当な使用料率は、これを1%とするのが相当と認められる。
控訴人らは、前記〔控訴人らの主張〕のとおり、被控訴人商品の卸売額を1.3倍した金額をその最終販売価格(小売価格)と推定した上で、相当な使用料率を7%として、著作権法114条3項に基づく損害を算出すべきである旨主張する。しかし、控訴人らの挙げる例については、被控訴人図柄に係る前記アのような事情があるとは認められず、本件とは事案が異なるから、控訴人らの主張は採用することができない。
そして、その他、控訴人ら及び被控訴人が主張する内容を考慮しても、相当な使用料率を1%とするのが相当であるとの結論は左右されない。