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  著作権判例セレクション
   ユーチューバーのパブリシティ権侵害を認定した事例
  
  ▶令和7年8月28日知的財産高等裁判所[令和6(ネ)10085]
  1 当裁判所は、控訴人に本件動画1についてパブリシティ権侵害が認められ
争点1)、被控訴人らによる黙示の許諾は認められず(争点2)、被控訴人らに生じた損害は、被控訴人会社について220万円、被控訴人Aについて22万円である(争点3)と判断する。その理由は、以下のとおりである。
   2 争点1(控訴人によるパブリシティ権侵害)について
  (1)
前記前提事実によれば、被控訴人Aは、YouTube でチャンネル登録者数が84万人を超えるいわゆるユーチューバーであるところ、その登録者数からすると、同人の肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有すると認めるのが相当である。そうすると、被控訴人Aは、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利であるパブリシティ権を有するものといえ、被控訴人会社は、被控訴人Aから本件動画1についてのパブリシティ権の譲渡を受けていると認められる。
  よって、被控訴人Aの肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的として当該肖像等を無断で使用する行 為は、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法になると解される。
  (2)
そして、控訴人は、本件動画1を、本件ホストクラブの店頭設置モニ
ターで放映しているところ、本件動画1の内容が、被控訴人Aらが本件ホストクラブでの体験を伝えるものであることからすると、控訴人は、本件ホストクラブの営業(顧客吸引)のために、専ら被控訴人Aの肖像等の有する顧客吸引力を利用すべく上記放映をしたと認めるのが相当である。
  
  (3)
これに対し、控訴人は、上記放映は、本件動画1の出演者の認知集客の向上のため、あるいは、来客者に対して本件ホストクラブの雰囲気を伝えるために行ったものであると主張する。しかし、控訴人は、単に、本件動画1が撮影された本件ホストクラブを運営する主体であるにすぎず、被控訴人Aとの間に何らかの個人的な関係も認められないから、あえて被控訴人Aの認知集客の向上を図る必要性は認められない。また、控訴人が主張する来客者に対する本件ホストクラブの雰囲気を伝えるとの点は、本件ホストクラブの営業促進の目的にほかならない。
仮に、控訴人が主張するように、放映を見たのが通行人であり、放映期間が短期間であったとしても、上記(2)の判断は何ら左右されるものではない。
よって、控訴人の主張は、採用することができない。
  
  (4)
そして、後記3で判断するとおり、本件動画1の利用につき被控訴人らの黙示の許諾があったとは認められないから、控訴人は、本件動画1について、被控訴人会社が有するパブリシティ権を侵害したと認めるのが相当である。
  
  3 争点2(黙示の許諾)について
  
  控訴人は、本件動画の利用について、被控訴人らが黙示の許諾をしていた旨主張する。
しかし、控訴人が主張する飲食代不請求の事実だけから、被控訴人らが控訴に対して本件動画の利用まで黙示に許諾していたとは推認できない。控訴人は、(証拠)を提出し、本件動画1に出演した「ありしゃん」が、本件動画とは別の動画について許諾していた事実も指摘するが、被控訴人Aとは別人による別の動画に対する許諾にすぎないから、やはり、本件動画について黙示の許諾があったとは推認できない。
よって、控訴人の主張は採用することができない。
  
  4 争点3(損害の発生及び額)について
  
  (1)
被控訴人会社に生じた損害について
  
  (証拠)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人会社は、自社作成の文書において、「Rちゃん・タイアップ費用」として、「YouTube 動画投稿一 10 本:300万円~400万円(税抜) ※要相談 Short100万円(税抜)」と定め、「二次利用費:要相談」とも定めていることが認められる。
そして、本件動画は、被控訴人Aが本件ホストクラブでの体験を他の出演者とともに語る内容となっているものであり、特に被控訴人の意向に沿って作成された企画内容になっているものではないから、控訴人が YouTube上のチャンネルに投稿された本件動画を使用したことは、その二次利用ともいえるものである。しかも、本件において、本件動画が本件ホストクラブの店頭モニターで放映された期間や回数の詳細は不明である。そうすると、上記の被控訴人会社における「Rちゃん・タイアップ費用」の定めにも鑑みると、被控訴人らが主張するように、本件動画1及び2についてそれぞれ300万円の損害が生じたと認めることはできない。
  この他に、本件に現れた諸般の事情を考慮し、本件動画1の無断使用によって被控訴人会社に生じた損害を100万円、本件動画2の無断使用に よって被控訴人会社に生じた損害を100万円と認めるのが相当である。
  (2) 被控訴人Aに生じた損害 
  前記前提事実に加え、(証拠)及び弁論の全趣旨に よれば、控訴人は、本件ホストクラブの店頭モニターで、本件動画2の映像
外の右側箇所に、縦書きで「【豪遊】Rちゃん」という文字を付し、左側箇所には、縦書きで2行にわたり「Bとホスト遊びしたらハマりそうでやばい wwwwww」という文を付して、本件動画2を放映していたことが認められる。そして、「豪遊」の文字が、一般に、金銭を惜しみなく使って派手に遊ぶことを意味するものであることを考慮すると、控訴人による上記の態様での本件動画2の使用は、本件動画2の題号(タイトル)を改変し、「Rちゃん」が「豪遊」していることを殊更に強調して、風俗店で派手に遊ぶような淫らな行為をする人物であることを知らしめるものであり、これは被控訴人Aの社会的信用を一定程度低下させ、また、その著作者人格権(同一性 11 保持権)を侵害するものであるといえる。 もっとも、本件においては、本件動画2の映像内容が改変されたものではなく、本件動画2の元の題号にも「【豪遊】」の文字は入っていた。また、本件動画2の映像自体によっても、被控訴人Aが本件ホストクラブで遊興していることが判明するのであり、映像自体の訴求力の強さからして、通行人等は、映像に大きな関心を寄せ、「【豪遊】」の文字にはさほど関心を寄せないであろうことも容易に推認される。
そして、控訴人による本件動画2の具体的な使用期間も本件では不明である。 以上のほかに、本件に現れた諸般の事情を考慮し、上記の態様での本件動画2の使用により被控訴人Aに生じた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額
を20万円と認める。
  
  (3)
弁護士費用本件訴訟追行の難易度など、本件に現れた諸般の事情を考慮し、控訴人
の不法行為と相当因果関係の認められる被控訴人らに生じた弁護士費用相当額の損害を、上記(1)及び(2)のそれぞれの金額の1割(被控訴人会社につ 20万円、被控訴人Aにつき2万円)と認める。
  
  (4)
小括 以上により、控訴人による本件動画の無断使用によって被控訴人らに生じた損害は、被控訴人会社につき220万円、被控訴人Aにつき22万円と認める。