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著作権判例セレクション

劇場用映画の脚本家契約・監督契約の中身が争点となった事例

平成7731日東京地方裁判所[平成4()5194]▶平成10713日東京高等裁判所[平成7()3529]
() 本件は、映画監督である原告が、自らその脚本(「本件脚本」)を著作し、監督した本件映画について、
1 本件映画をビデオカセットテープ(単に「ビデオ」)に複製し、販売している被告らに対し、右複製、販売が、本件脚本の著作物である原告の許諾なく行われ、本件脚本の著作権を侵害したとして、不法行為に基づく損害賠償金の支払いなどを、
2 本件映画をビデオに複製し、販売している被告らに対し、主位的に、右複製、販売が、原告の本件映画の監督としての著作権(この著作権は、原告と被告伊丹プロとの間の本件映画製作への参加契約に含まれる追加報酬支払合意部分の債務不履行を理由として、原告が右参加契約を解除したことにより取得したとするものである。)を侵害したとして、不法行為に基づく損害賠償金の支払いを、予備的に、被告伊丹プロに対し、右の債務不履行に基づく右同額の損害賠償金(追加報酬相当額)の支払いなどを、
3 本件映画の監督としての著作者人格権(同一性保持権)に基づいて、本件映画を改変してビデオに複製し、販売している被告らに対し、その複製、販売等の差止め及び廃棄などを、それぞれ求めた事案である。

一 争点1、2について
1 原告と被告伊丹プロとの間の契約締結に至る経緯、本件映画において原告がなした脚本作成及び監督業務の内容及び本件映画公開後の原告と被告伊丹プロの交渉の経過等について
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2 右(一)ないし(四)に認定の事実によれば、原告と本件映画の製作者である被告伊丹プロとの間に、脚本報酬、監督報酬及びプロフィットについての合意がされた昭和634月ころに、本件映画に関して、原告が作成した脚本の使用を許諾する(本件脚本家契約)とともに、原告が監督業務を行い、本件映画の製作に参加することを約する(本件監督契約)ことを内容とする本件契約が締結されたものと認められる。
そして、原告は、右参加の約束に基づき、本件映画の監督業務を行ったものであるから、本件映画の著作権は被告伊丹プロに帰属することになる。
また、前記(二)(1)で認定したとおり、原告が脚本を完成するまでの間には、AやEが、かなり具体的な意見を出したことが認められるが、それは、本件映画について、脚本の作成を担当する原告に対する助言としてなされたもので、原告がこの意見も参考にして自ら脚本の手直しを行い、これを執筆したものであるから、本件映画の脚本の著作者は原告であり、原告が脚本の著作権を有するものと認められる。
3 右のとおり、原告は、本件映画の監督業務と脚本の作成に当たっており、本件契約は、脚本家契約と監督契約の双方をその内容として締結されたものであるところ、被告らは、本件脚本家契約において、原告が脚本の著作権について、脚本を映画化すること及び本件映画を劇場等において上映することのほかに、本件映画の二次的利用も含めて使用許諾した旨主張する(争点1)。また、他方、原告は、本件監督契約において、原告の監督業務について、本件映画のビデオ化による利用に対して、原告に追加報酬を支払う旨の合意をした旨主張する(争点2)。
そこで、本件契約における脚本報酬、監督報酬及びプロフィットの約定が、本件映画のビデオ化等の二次的利用を含めたものとして合意されたか否かが問題となるところ、前記1に認定の事実経過のとおり、本件契約に関しては、このことを明記した契約書等の書面は何ら作成されていない。
この点に関して、原告は、映画業界において、①監督契約について、映画製作者は監督に対し、劇場用映画のビデオ化に伴いビデオの小売価格の1.75パーセントの追加報酬を支払うこと、脚本家契約について、脚本家は脚本の映画化とその配給、上映に限り使用を許諾するのであり、それ以外のビデオ化等の二次的利用については、別途申し込み、その承諾を得た上で、ビデオの場合には小売価格の1.75パーセントの使用料を支払うこと、がそれぞれ慣行となっている旨主張する。
そこで、まず、この原告主張の各慣行の有無について判断する。
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(6)以上の判示の諸点を総合して考慮すると、本件覚書等の内容が、その合意の当事者、その加入者とは関わりのない、映連会員以外の映画製作者や監督協会及び原著作者三団体加入者以外の者も含んだ映画製作業界全体の慣行や慣習となっているものとは認めることはできない。
4 次に、被告伊丹プロと原告との間の本件報酬の合意が、本件映画のビデオ化、テレビ放送等の二次的利用についての対価も含めて合意されたものか否かについて判断する。
(四)以上の本件契約締結に至る経緯によれば、被告伊丹プロと原告とは、被告伊丹プロが製作する本件映画を、被告伊丹プロが劇場上映のみならず、ビデオ化、テレビ放送等の二次的利用をするものと明確に位置づけして、この映画の脚本作成及び監督業務に対する対価として、前記のとおり原告の報酬を合意したもの認められ、二次的利用についてこれとは別個の合意を要すると当事者が認識していたような事情は何ら見受けられないものであり、前記プロフィットを含めた脚本報酬や監督報酬の合意はそのような趣旨のものとして十分首肯することができるものである。
したがって、原告は、本件契約において、本件映画の二次的利用も含めて本件報酬の合意をしており、脚本家として、これを許諾したものと解することができる。
なお、この点に関して、原告は、プロフィットの算定基準がビデオ化等の二次的利用に関する収入が除かれた劇場における配収に基づいていることは、本件契約がビデオ化等の二次的利用を除外していることを意味していると主張するが、被告伊丹プロ代表Aは、映画製作における製作費の回収について、「劇場からの収入は非常に不安定で予測不可能な部分があり、ビデオ権とかテレビ放送権という二次使用が回収可能な金額として非常に大きな意味をもっている。したがって、この二次使用の固定した収入はリスクヘッジにさせてもらい、出資に対する保証として出資者を得る必要があり、もしこれがなければ、資金を出す人は次第に少なくなって、ついには日本映画が衰退に導かれてしまうことを私は何よりも危惧している。そのかわり、いい映画を作って劇場収入による利益がでた場合には、映画製作に関わった皆で分配しようというが製作者の偽らざる心からの叫びであると考えている。自分は、実際にも、劇場配給利益がでた「お葬式」「マルサの女」等の映画では、全スタッフ、全キャストに分配しており、「お葬式」に出演した原告にも配分している。」との趣旨を述べており(被告伊丹プロ代表者A91項ないし93項)、この供述内容は、A自身の信念を述べたものとして、不自然と思われることはないものであり、このAの立場によると、被告伊丹プロがプロフィットの算定について二次的利用による利益を対象としなかったことは当然のこととして理解することができるものであり、原告の右の主張は理由がない。
さらに、原告は、株式会社ニュー・センチュリー・プロデューサーズと被告伊丹プロが製作した映画「お葬式」について、上映配給権者であるATGとフジテレビとの間の契約書において、監督の権利処理(追加報酬)の取決めがあり、したがって、A及びGは、本件契約締結当時、本件覚書等の存在を知っていた旨主張する。確かに、(証拠)の契約書4条1項aには、映画「お葬式」をテレビ放送するについては、ATGが監督等についての権利処理及びテレビ放送についての承諾のとりつけをする旨規定され、(証拠)の契約書8条(1)には、ATGが、監督に追加報酬を支払うことにより録画物の販売拡布に支障のないように措置する旨の規定がある。しかしながら、AやGないしは被告伊丹プロは、直接右契約の当事者となっていないのであるから、右規定があるからといって、右契約の内容について知っていたとみることはできないし、また、(証拠)によれば、Aが、映画「お葬式」について、ビデオ化による追加報酬を得たこともないというのであるから、原告の右の主張も理由がない。
5 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告が本件映画の脚本家として求める甲請求は理由がなく、原告の監督契約における追加報酬支払い合意の存在を理由とする乙請求も理由がない。

[控訴審同旨]
二 合意による追加報酬請求(請求原因1)について
当裁判所も、本件映画の製作に伴う控訴人と被控訴人伊丹プロとの間での本件報酬の合意は、二次的利用に伴う対価を含めて合意されたものであり、これとは別個に二次的利用についての対価の支払合意をしたものと認めることはできない。その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決…と同じであるから、これを引用する。