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著作権判例セレクション

法114条3項の適用例(ウェブサイトにイラストが無断掲載された事例)

▶平成3067日東京地方裁判所[平成29()39658]
()本件は,原告が,被告に対し,被告が運営するウェブサイト(「本件サイト」)に,原告が著作権を有するイラスト3点(「本件各イラスト」。)を掲載した行為が送信可能化権(著作権法23条1項)の侵害に当たると主張して,民法709条及び著作権法114条3項に基づき,損害賠償金等の支払を求めた事案である。

第3 当裁判所の判断
1 争点 (原告は,被告が本件各イラストを本件サイトに掲載することを許諾していたか)について
被告は,原告のツイッター上の言動によれば,原告は,被告が本件各イラスを掲載することを許諾していたと主張する。
原告は,平成26年8月3日,ツイッターにおいて,「私はどっちかというと作者名さえ消されなければ無断転載?どんどんやってくれたまえガハハ!というタイプなんですが この方針で無断転載イヤ派の方の画像も転載してるBOTとかを放置してると,海賊にエサを与えてることになってしまうんですよねえ。イヤな渡世です。」とのコメントを掲載した。当該コメントは,原告が,本来,無断転載について寛容な考え方であるものの,無断転載を放置すると無断転載者に不当な利益を与えることとなってしまうと述べるもので,無断転載を無条件に許容することは問題がある旨の意見を表明するといえるものである。当該コメントによって,原告が被告による本件各イラストを本件サイトに掲載することを許諾していたと認めることはできず,他に,原告が,被告による本件各イラストの掲載を許諾していた事実を認めるに足りる証拠はなく,被告の主張は採用することができない。
2 争点 (損害額)について
(1) 以上のとおり,被告は,原告が著作権を有する本件各イラストを本件サイト上に掲載することによって,本件各イラストに係る送信可能化権(著作権法23条1項)を侵害した。そして,本件各イラストの内容その他認定説示したところによれば,被告には,当該侵害行為につき故意又は少なくとも過失が認められる。
したがって,原告は,被告に対し,民法709条及び著作権法114条3項に基づき,本件各イラストの著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額の損害賠償金の支払を求めることができるというべきである。
(2) 著作権侵害(著作権法114条3項に基づく損害)について
ア 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,①原告は,平成29年6月頃,ウェブサイト上に掲載する漫画の制作依頼を受けたところ,この依頼において,掲載期間を1年間(2年目以降も掲載する場合には契約更新を行う。)とし,原稿料は,漫画本編は1頁当たり2万円,カラー扉絵は4万円との条件を示されたこと,②原告は,平成28年頃,書籍の表紙用のカラーイラスト(スーツを着て,ペンとメモ帳を持った女性のイラスト)及び当該書籍中の扉絵4点を制作したところ,原稿料は,表紙のイラストについて3万円,扉絵について3000円であったこと,③原告は,平成29年の年賀状用のカラーイラスト(餅と鳥を組み合わせたイラスト)を制作したところ,原稿料は2万4000円であったこと,以上の事実が認められる。
これらの事実に加え,本件各イラストの内容,本件サイトはインターネットメディア事業を行うことなどを目的とする被告が運営し,その閲覧数に応じて被告が収入を得るものであること,その他本件における諸事情を総合すると,本件各イラストの使用に対し受けるべき金額は1年当たり3万円とするのが相当である。
そして,弁論の全趣旨によれば,被告が本件サイト上に本件各イラストを掲載していた期間は,平成26年7月31日から平成29年6月8日までであると認められるから,原告が,本件各イラストの使用に対し受けるべき金銭の額は合計27万円(1年当たりの使用料3万円×3点×3年分)となる。
イ これに対し,原告は,原告が制作するイラストの使用料は1年当たり10万円を下らないと主張し,原告本人の陳述書中にも同旨の記載があるが,上記アの認定事実に照らし,原告の主張は採用することはできない。
() 他方,被告は,ツイッターのサービス利用規約上,ツイート自体を埋め込む方法によって他のウェブサイトに掲載することが認められている点を損害額の算定において考慮すべきであると主張するが,被告の主張を前提としても,本件における被告の掲載行為が適法となる余地はなく,上記に述べた本件サイトの性質等に照らしても,被告の上記主張は採用することができない。
() また,被告は,本件各イラストが掲載されていた本件サイトのPV数は公開後約2か月間に集中しており,その後はほとんど閲覧されていないから,掲載期間全部を損害額算定の根拠することは不当であると主張する。
しかしながら,本件において原告が受けるべき金員の額は,被告による本件各イラストの掲載行為の内容等を踏まえて算定すべきであるから,被告の上記主張は採用することができない。
() さらに,被告は,原告が本件訴訟提起前に被告に対し本件各イラストの著作権侵害による損害賠償金として9万円(1点3万円×3点)を請求していたこと,上記ア①について,漫画の原稿料にはストーリー制作作業に対する対価も含まれると考えられること,同②について,書籍の表紙となるイラストと本件各イラストでは完成度が異なることから,いずれも本件各イラストの使用料相当額の算定資料としては適切ではなく,むしろ,本件各イラストの性質上,同②の書籍の扉絵の原稿料(1点3000円)が算定資料になり得る事例であり,本件各イラストは3点(描かれた場面の数は合計14枚)であり,構図も3種類程度しかないこと等を踏まえると,本件各イラストの使用料は高くても1回2~3万円程度であると主張する。
しかしながら,本件訴訟提訴前に一定の金額を提示したとしてもその金額が直ちに本件各イラストの使用料相当額であるとはいえない。また,本件各イラストにおいては,複数の場面が多色カラーで描かれ,各場面に合わせた説明文も記載されており,これらの場面設定や説明文についても原告が創作していることを踏まえると,本件各イラストの使用料相当額が,漫画や書籍の表紙の原稿料と比べて低額になるとはいえず,被告の主張は採用することができない。
() 被告は,被告が本件各イラストの掲載によって得た利益は2500円程度に過ぎないとも主張するが,本件サイトの性質等を踏まえても,上記アで認定した本件各イラストの使用に対し受けるべき金銭の額が不相当であるとはいえない。
エ したがって,原告が,本件各イラストの使用に対し受けるべき金銭の額は27万円である。
(3) 弁護士費用相当額の損害額
本件における弁護士費用相当額の損害額は3万円とするのが相当である。