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著作権判例セレクション

アプリを使用するためのパソコン等の画面表示の編集著作物性を否定した事例

令和2319日東京地方裁判所[平成30()33203]
() 本件は,インターネットを利用した各種サービス等を提供する原告が,同様にインターネットを利用した各種サービス等を提供する被告に対し,被告が原告に無断で別紙記載のアプリケーション(「被告商品」)を製作し,インターネットを通じて顧客に提供した行為が,原告が開発した「Linect」(「原告商品」)について原告が有する著作権(複製権,送信可能化権,公衆送信権)を侵害すると主張して,被告商品の複製,送信可能化又は公衆送信の差止めなどを求めた事案である。
(前提事実)
〇 原告商品は,LINE@を利用した集客やマーケティングをより効果的に行うためのツールである。原告商品は,消費者にサービスや商品の魅力を伝えること及び消費者とのコミュニケーションを綿密にとることを可能にすることにより,消費者のロイヤルティーを高め,商品やサービスの購入に繋げることを促すことを目的とするものである。
〇 原告商品は,それを購入した者がパソコン等において操作して利用するものであり,パソコン等には原告商品を利用するための画面が表示される。原告商品のパソコン等における表示画面は,4段階の階層構造となっているとおえるものである。
原告商品の表示画面の構造をその画面に対応する表示の名称に従って表の形にすると別紙対比表のとおりである(以下,当該画面に対応する表示の名称をカテゴリーといい,上記対比表にしたがってそれぞれのカテゴリーについて,「親カテゴリー」,「大カテゴリー」,「中カテゴリー」及び「小カテゴリー」という。)。
被告商品もそれを購入した者がパソコン等において操作して利用するもので,そのパソコン等における表示画面は4段階の階層構造となっているといえるものである。

2 原告は,本件において,パソコン画面等で表示される原告商品の親カテゴリーから小カテゴリーに至る「各カテゴリー名」が「素材」であって,その「素材」の選択及び配列に創作性が認められるとして,原告商品が編集著作物(著作権法12条)であると主張する。
しかし,前記認定のとおり,原告商品は,パソコン等において各種の確認や作業等を行うことができるものであり,その確認,作業等を行ったりするためにパソコン等において,様々な内容が表示される複数の画面を表示することができるものである。ここで,原告が素材と主張する「カテゴリー名」は,パソコン等の画面において,原告商品において選択することができる機能に対応する画面を示すために,画面の上部に,ロゴ等表示部分の下のやや太い青みがかった線に,白抜き文字で表示されているものであったり(親カテゴリー名,中カテゴリー名),親カテゴリー名又は中カテゴリー名を選択した場合に,そのカテゴリー名の下に,もとの画面の前面に,表示されるものであったり(大カテゴリー名,小カテゴリー名),各画面において,ロゴ等表示部分及びカテゴリー名を表示するやや太い青みがかった線の下に,示されるものである(小カテゴリー名)。
このような原告商品とそこにおけるカテゴリー名の使用の態様に照らせば,これらの「カテゴリー名」は,原告商品の異なる画面において,他にも多くの記載がある画面の表示の一部として表示されるものであって,原告商品をもって,「カテゴリー名」を「素材」として構成される編集物であるとはいえない。
そうすると,原告商品が編集著作物であり,カテゴリー名自体が原告商品の素材であると主張する原告の主張は,その余を判断するまでもなく理由がない。
3 また,原告は原告商品を編集著作物であると主張し,「カテゴリー名」の選択と配列において創作性を有し,その「カテゴリー名」の選択と配列において被告商品と共通すると主張するところ,原告商品を利用した場合には,前記認定のとおり,パソコン等において,視覚的に認識することができる様々な画面が表示される。それらの各画面は,前記のように,原告が選択したカテゴリー名に対応するものといえ,また,それらはパソコン等の画面において,階層的に配列されているともいえる。他方,被告商品においても,「カテゴリー名」に対応する画面が表示されるといえる。
しかし,原告商品の各画面は,そのカテゴリー名に対応する機能を実現するために表示されるものである。そうすると,原告商品における各カテゴリー名と各画面の表示との関係は,何らかの素材をカテゴリー名やその階層構造に基づいて選択,配列したというものではなく,カテゴリー名に対応する機能を実現するための画面の表示があるといえるものである。そして,カテゴリー名は,結局,それに対応して原告商品が有する機能・利用者が利用しようとする機能を表すものである。そうすると,原告は原告商品はカテゴリー名の選択,配列において編集著作物としての創作性を有し,その点で原告商品と被告商品が共通していると主張するのであるが,それらの選択と配列が共通しているとの主張は,結局,ある商品において採用された機能やその機能の階層構造が共通していると主張しているのに等しい部分がある。ある商品においてどのような機能を採用するかやその機能をどのような階層構造とするか自体は,編集著作物として保護される対象となるものではない。
4(1) さらに,原告は,原告商品におけるカテゴリーの名称そのものについて選択の幅があること,その階層構造などから,カテゴリー名の選択,配列に創作性があると主張する。
前記のとおり,原告商品がカテゴリー名を素材とする編集著作物として保護されることはないが,以下に述べるとおり,原告商品のカテゴリーの名称やその階層構造は,ありふれたものであり,それら自体に著作権法上の創作性があるともいえない。
(略)
(3) LINE@を用いた集客,マーケティング支援ツールという原告商品においてどのような機能を実装するかはアイディアに過ぎず,それ自体は著作権法の保護の対象になるものではない。そして,「素材」たる各カテゴリーの名称の選択についてみると,上記のような原告商品の性質上,各カテゴリーに付す名称は,各カテゴリーが果たす機能を一般化・抽象化し,ユーザーにとって容易に理解可能なものとする必要があるため,その選択の幅は自ずと限定される。そのような視点で選択された原告商品の各カテゴリー名は,それ自体をみてもありふれたものであり,現に,原告商品の「メッセージ」,「統計情報」というカテゴリー名は他社商品でも用いられているほか,原告商品の「メッセージ」の下に設けられた小カテゴリーの各カテゴリー名や「統計情報」の下に設けられた小カテゴリーの各カテゴリー名と同一ないし類似したカテゴリー名が他社商品においても用いられている。また,原告商品において用いられている「基本」や「ホーム」といったカテゴリー名は,他社商品においては用いられてはいないものの,消費者とのコミュニケーションを図るという観点から頻繁に使われる機能を取りまとめたカテゴリーに付されたものであり,上記のような原告商品の性質を踏まえると,カテゴリー名の選択としてはありふれたものである。
したがって,原告商品における各カテゴリーの名称は,各カテゴリーが果たす機能を表現するものとしてはありふれたものといえる。
次に,各カテゴリー名の配列についてみても,原告商品においては,「基本」という最上位の階層に,消費者とのコミュニケーションを図る上で利用可能な機能を取りまとめ,その中でも消費者とのコミュニケーションを図る上で日常的に利用する機能を「基本」の下の階層の「ホーム」に取りまとめるなどされているほか,多種多様な機能を果たす「ホーム」より下のカテゴリーについては,小カテゴリーに至るまで階層を設けてカテゴリー分けがされるなど他社商品に比して複雑な階層構造が採用されており,各カテゴリー名の配列について一定程度の工夫はされていると認められる。
しかし,ユーザーによる操作や理解を容易にするという観点から,実装した機能の中から関連する機能を取りまとめて上位階層のカテゴリーを設定し,機能の重要性や機能同士の関連性に応じて順次下位の階層にカテゴリー分けをしていくというのは通常の手法であり,原告商品の各カテゴリー名の配列は,複数の選択肢の中から選択されたものではあるものの,ありふれたものというべきである。