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著作権判例セレクション

建築確認申請に係る設計図につき氏名表示権侵害を認定した事例

昭和520128日東京地方裁判所[昭和48()4501]
五 進んで、著作権侵害の成否について判断する。
前示(証拠)、原告代表者尋問の結果を総合すれば、原告設計図は、昭和457月から同年10月までの間に、原告の業務に従事する設計担当者が、その職務上、その感覚と技術を駆使して独自に製作したことが認められる。したがつて、原告設計図は、著作権により保護される著作物であり、原告は、その著作者であり、著作権者であるというべきである。
次に、請求原因5の事実のうち、被告小俣組が被告設計図を作成したこと、被告ABSが昭和451020日、改めて建築確認申請手続をしたことは当事者間に争いがなく、右事実と前示(証拠)、証人Aの証言、原告代表者尋問の結果を総合すれば、すでに判示したとおり、被告小俣組は、昭和4510月上旬頃、被告ABSから本件建物の設計を依頼されたので、同被告の設計担当者であるAらをして、同月中旬頃までに被告設計図を作成させたが、これより先同年8月以降、工事費見積り等のため、原告から、原告設計図を借り受け、これを参照したことがあること、ところで、原告設計図と被告設計図を対比すると、前者では地下室(暖冷房室)の設置を前提として煙突、パイプスペースの記載がなされているのに対し、後者では地下室の廃止にともなつて煙突、パイプスペースの記載も存しないこと(但し、被告設計図のうち電気設備図)のみには煙突らしきものの記載がある。)、建物西側の二、三、四階の階段脇の窓が、前者では外壁から切れ込んだ形で、これと直角に設けられているのに対し、後者では単に外壁と平行に設けられているに過ぎないこと、建物南側のベランダが、前者では二、五、六階に設けられているのに対し、後者では右のほか四階及び屋上にも設けられていること等の差異があるが、建物の基本的構造、間取り等に関しては両者は殆んど同一であり、全体的に見る限り、両者は極めて類似していることが認められ、右認定に反する証人Aの証言部分は、前記各証拠に対比して、たやすく信用できず、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、被告設計図は、原告設計図とは全く同一ではなく、一部の修正はあるが、著作物の同一性を変ずるものとは認められないから、被告小俣組は、被告設計図の作成に際し、原告設計図に依拠し、これを複製したものと認めるのが相当である。
次に、被告小俣組が右のように被告設計図を作成したうえ、昭和451020日、その従業員であるAを被告ABSの代理人として右設計図を添付して建築確認申請手続をし、その際右設計図の作成者欄に原告の氏名表示をせず、被告小俣組設計部Aの表示をしたことは前記二項に認定したとおりである。
そうすると、被告小俣組が原告に無断で原告設計図の複製物たる被告設計図に原告の氏名表示をすることなく、かえつて被告小俣組もしくはAがその著作者であるかの如き表示をしたことは、原告が原告設計図について有する著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものといわざるをえない。また、すでに判示したところによれば、被告ABSは、前述のとおり建築確認申請手続を被告小俣組に依頼したうえ、同被告による右侵害行為を容認し、又は少なくとも、右申請行為が適正に行なわれるよう監視、監督すべき義務を怠り、被告小俣組による右侵害行為を制止しえなかつたのであるから、被告小俣組と共同して、原告の右著作者人格権を侵害したものというべきである。さらに、すでに判示したところからすれば、被告らは、原告設計図について、原告が著作権を有することを知り、又は少なくとも取引上必要な注意を怠らなければ、これを知ることができたものであるから、原告の右著作者人格権の侵害について、故意又は過失があつたものと認定するのが相当である。
したがつて、被告らは、右侵害行為により、原告が受けた損害を賠償すべき義務を負うものというべきである。
そこで、原告が右著作者人格権の侵害により受けた損害について検討するのに、原本の存在及び成立に争いのない(証拠)、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる(証拠)、原告代表者尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、建築の設計監理等を目的とする資本金3,000万円の株式会社であつて、これまで主として教会、修道院、ミツシヨンスクール、病院等の設計を手がけており、特に、昭和39年度の聖オデイリアホーム乳児院は建築家の教科書ともいうべき「建築設計資料集成」に、また昭和42年度のサレジオ神学院記念聖堂は雑誌「芸術新潮(19684月号)」にそれぞれ紹介される等して、その設計は各方面において高い評価を受けていたことが認められ、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。右認定事実、前記侵害行為の態様、その他諸般の事情を合わせ考えると、前記侵害行為によつて原告が受けた名誉、信用上の損害に対する慰藉料としては金20万円が相当であると認める。