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著作権判例セレクション

【著作権侵害総論】「不作為による著作権侵害」は成立するか(プロバイダ責任制限法で争点となった事例)

▶令和3531日知的財産高等裁判所[令和2()10010]
本件写真1ないし3に係る画像データを削除しないことが不作為による著作権(自動公衆送信権)侵害に該当し,侵害情報の流通によって被控訴人の著作権が侵害されたことが明らかであるかについて
⑴ 被控訴人は,本件アカウント2,4,6及び7利用者は,それぞれツイート行為2,プロフィール画像設定行為2,プロフィール画像設定行為4,ツイート行為7により違法に本件写真1ないし3をアップロードしている以上,本件写真1ないし3を削除すべき条理上の義務を負っているにもかかわらず,これを削除しないという不作為によって被控訴人の自動公衆送信権を侵害しており,自動公衆送信状態を維持することは,違法アップロードと同価値であり,したがって,本件アカウント2,4,6及び7利用者は,最新ログイン時点における不作為による侵害情報の発信者と評価されるべきであることを理由として,本件アカウント2,4,6及び7について最新ログイン時IPアドレス等の情報の開示請求が認められるべきであると主張する。
⑵ 特定電気通信(プロバイダ責任制限法2条1号)による情報の流通には,これにより他人の権利の侵害が容易に行われ,その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し,匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという,他の情報流通手段とは異なる特徴がある。
一方,発信者情報は,発信者のプライバシー,表現の自由,通信の秘密にかかわる情報であり,正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく,また,これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となる。これらを踏まえ,プロバイダ責任制限法4条は,特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が,侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなど,情報の発信者のプライバシー,表現の自由,通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより,加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るものと解される(最高裁平成22年4月8日第一小法廷判決,最高裁平成22年4月13日第三小法廷判決参照)。
そして,プロバイダ責任制限法4条は「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は,次の各号のいずれにも該当するときに限り(中略)当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名,住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。)の開示を請求することができる。」(1項柱書),「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。」(1項1号)と規定し,発信者情報の開示を求めることができるのは,情報が流通したこと自体(「情報の流通」,「侵害情報の流通」)によって権利の侵害がされた場合であることを明記している。また,プロバイダ責任制限法2条4号は,「発信者」について,特定電気通信設備の記録媒体又は送信装置に情報を記録,入力した者であるとして,特定の記録,入力という積極的な行為を行った者に限定として特定している。そして,新発信者情報省令は,発信者情報を「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」(5号),「侵害情報に係る携帯電話端末又はPHS端末」(6号),「侵害情報に係るSIMカード識別番号」(7号)として,侵害情報に関係する情報のみを発信者情報として特定している。
上記の法の趣旨及び規定によれば,プロバイダ責任制限法は,特定の記録,入力という積極的な行為が行われた場合に,その行為により情報が流通し,その情報の流通自体によって権利が侵害された場合に,そのような情報の流通による権利侵害の特殊性等を考慮し,その記録,入力という作為をした者を「発信者」とし,その発信者の情報の開示を請求することができることを定めているといえる。
被控訴人は,上記⑴のとおり,対象のアカウントについて,最新ログイン時点よりも前に被控訴人の権利侵害が行われたことによって最新ログイン時点における不作為による権利侵害があり,当該最新ログインをしたアカウント利用者は,その侵害情報の発信者と評価されるべきであることを理由として,最新ログイン時IPアドレス等の情報の開示請求が認められるべきであると主張する。
しかし,被控訴人の上記主張は,ログインをした者が本件写真1ないし3を削除しないという単なる不作為を問題としており,特定の記録,入力という積極的な行為自体を問題とするものではなく,また,積極的な行為がない以上,その時点における積極的な行為に基づく情報の流通があるわけでもない。そうすると,被控訴人は,「情報の流通」によって自己の権利を侵害されたとはいえないし,このような不作為の行為者について,上記に述べたプロバイダ責任制限法が想定する「発信者」ということもできないから,被控訴人の主張は,既にこの点において失当である。また,本件において,最新ログイン時点におけるアカウント利用者を上記のとおりの「発信者」ということができる特段の事情を認めるに足りる証拠もなく,最新ログイン時点におけるアカウント利用者をプロバイダ責任制限法が想定する「発信者」ということはできない。
したがって,本件アカウント2,4,6及び7利用者がプロフィール画像等としてアップロードした本件写真1ないし3を削除しないことが不作為による公衆送信権侵害であることを前提として発信者情報の開示を求める被控訴人の請求は,これらアカウント利用者が不作為による公衆送信権侵害を行ったと評価されるか否かを判断するまでもなく,理由がない。