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著作権判例セレクション

私人の肖像権侵害を認定した事例

令和31216日東京地方裁判所[令和3()23107]
1 争点1-1(本件投稿1及び2により原告の肖像権が侵害されたことが明らかといえるか)について
(1) 人の肖像は,個人の人格の象徴であって,当該個人は,人格権に由来するものとして,その肖像をみだりに利用されない権利を有しているというべきである。
そして,当該個人の社会的地位,活動内容,肖像利用の目的,態様,必要性等を総合考慮して,当該個人の人格的利益の侵害の程度が社会通念上受忍の限度を超える場合には,当該個人の肖像の利用は,肖像権を侵害するものとして不法行為法上違法となると解される。
(2) これを本件についてみるに,証拠によれば,本件投稿記事1を含む本件各投稿記事が投稿された本件投稿サイトに立てられたスレッドには,冒頭に,「通称A。実際は思いっきり芋くさい面長顔のそのへんにいる凡顔おばさん。それをアプリで別人加工し盛れる自撮りが大好き。」などとの説明がされ,本件投稿サイトには,匿名の者により,原告を対象とする内容のコメントが多数投稿されており,「親ばかり着飾って子供が貧乏くさい格好している家族って居るよね」,「もうここまできたら,死ぬまで見え張らないと生きていけなくなるね(笑)一種の病気ですね(笑)…顔も容姿も加工(笑)」などの投稿がされており,本件投稿サイトは,原告の容姿や原告のSNS上の投稿記事の内容等に対して誹謗中傷,揶揄する内容の記事が多数含まれていることが認められる。そして,本件投稿記事1は,原告と原告の家族が写っている本件写真1と共に,「長女だけ貧乏かよ」とのコメントが付されており,かかるコメントは,原告に対し,原告や原告の夫だけが着飾り,子供の衣服には構わず,貧しげな恰好をさせる母親であることを指摘して,原告の生活や育児の仕方を誹謗中傷する趣旨のものと認められる。また,本件投稿記事2は,原告とその友人が写っている本件写真2と共に「顔の大きさ統一してあげてよ」とのコメントが付されているところ,原告の顔の大きさが原告の友人らに比べて大きいことを指摘し,かつ,原告が自身が写っている写真を加工することを好んでSNS等に掲載していることを指摘して,原告の容姿を嘲笑し,原告を誹謗中傷する目的で行われた表現であると認められる。そして,本件写真1は原告自身が,本件写真2は原告の友人が自身のインスタグラム等のSNS上に掲載していたものであることが認められるものの,これをもって,原告の容姿を嘲笑し,原告を誹謗中傷する態様での原告の肖像の利用についてまで原告が承諾していたということはできず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。原告の社会的地位や活動内容を考慮しても,本件投稿記事1及び2による原告の肖像の利用は,社会通念上受忍限度を超えてされたものというべきである。
(3) 被告GMOは,本件投稿記事1及び2とこれらの投稿の前にされた投稿との間の関連性が不明であって,かかる投稿を考慮して原告の肖像権侵害を判断すべきでない旨主張する。しかしながら,本件投稿記事1及び2は,原告の容姿等を嘲笑し,原告を誹謗中傷するために利用されている本件投稿サイトに投稿された多数5 の投稿に続く形で投稿されていることからすれば,本件投稿サイトに投稿されている原告を嘲笑,誹謗するその他のコメントと同質のものということができ,上記関連性は明らかであり,被告GMOの上記主張は理由がない。
(4) したがって,本件投稿1及び2により,原告の肖像権が侵害されたことは明らかであるというべきである。
2 争点1-2(本件投稿3により原告の肖像権が侵害されたことが明らかといえるか)について
(1) 前記1で認定したとおり,本件投稿サイトは,原告の容姿や原告のSNS上の投稿記事の内容等に対して誹謗中傷,揶揄する内容の投稿が多数含まれているところ,本件投稿記事3は,原告とその夫が写っている本件写真3とともに,「『うわ!今日めっちゃいい天気! 髪の毛セットして~うんうん俺今日もイケてる! A!化粧できたか?髪整えたか? ハイブランドのネックレスつけたか? よし!肩組んで写真撮るぞ!自然にな!いい夫婦感出せよ! カシャ! よし!A早く加工して加工! これでおけ?おけおけ?いける?背景歪んで無い?よし,投稿するぞ!』『天気のいい朝はテンションあがるね』ってやりとりしてるのかな」とのコメントが付されている。かかるコメントの内容及び本件投稿サイトの性質等に照らすと,本件投稿記事3は,原告が自身の写真を頻繁に加工してSNS上に掲載しているとの事実を指摘した上で,原告を誹謗,揶揄する内容の表現ということができる。そして,本件写真3は,原告の夫によってSNS上に掲載され公表されていたものであることが認められるものの,これをもって,かかる態様での原告の肖像の利用についてまで原告が承諾していたということはできず,原告の社会的地位や活動内容を考慮しても,本件投稿記事3による原告の肖像の利用は,社会通念上受忍限度を超えてされたものというべきである。
(2) 被告ビッグローブは,本件投稿記事3の内容は,様々な読み方やニュアンスが可能な表現であって,原告を嘲笑する内容と理解することは困難であると主張する。しかしながら,前記1で認定したとおり,本件投稿記事3は原告に対する誹謗中傷を目的とする本件投稿サイトに投稿された記事であって,その投稿内容をみても,原告が原告の容貌を画像編集により加工した上で,自身のSNS上に投稿しているとして原告を誹謗中傷するものであることは明らかであるといえ,被告ビッグローブの上記主張は理由がない。
(3) したがって,本件投稿3により,原告の肖像権が侵害されたことは明らかであるというべきである。
3 争点1-3(本件投稿4により原告の著作物に係る複製権及び公衆送信権が侵害されたことが明らかといえるか)について
(1) 本件投稿記事4に付された本件写真4は,原告写真と同一のものと認められる。そして,弁論の全趣旨によれば,原告写真は,原告が原告の知人に構図やアングル等を指示して撮影されたものと認められ,原告の思想や感情が創作的に表現されているものといえ,原告が著作者としてその著作権を有するものと認められる。そうすると,本件写真4を掲載した本件投稿記事4は,原告が著作権を有する原告写真に依拠してこれを複製し,本件投稿サイトに掲載して公衆送信したものと認められる。そして,原告が原告写真を本件投稿記事4に利用することを許諾したことをうかがわせる事情は,本件全証拠をみても見当たらないから,本件投稿4によって原告写真に係る原告の複製権及び公衆送信権が侵害されたと認められる。
(2) 被告ビッグローブは,本件投稿記事4に付されたコメント部分に,著作物性が認められ,読み手の便宜のために,原告写真が引用されているものであって,原告写真の利用は,適法な引用(著作権法32条1項)に当たり,原告の複製権及び公衆送信権侵害については,違法性が認められない可能性がある旨主張する。
しかしながら,本件投稿記事4には,「仕事の取引先がスポンサーなので,ってわざわざ書く必要ある?」とのコメントが付されており,かかるコメントは,原告のSNS上の投稿を批判する内容のものと認められる。そして,本件投稿記事4を含む本件投稿サイトに投稿された多数の投稿からすると,本件投稿サイトは,原告を誹謗中傷するために利用されていることが認められ,本件投稿記事4もかかる性質の本件投稿サイトに投稿されたものであることからすると,原告のSNS上の投稿を批判するとともに,原告を誹謗中傷する目的で投稿されたということができる。
そうすると,本件投稿記事4における原告写真の利用の目的における正当性は乏しいものといわざるを得ないところ,本件投稿記事4の体裁は,原告写真をそのまま複製した本件写真4がその半分以上のスペースを占めており,従たる利用とは到底いい難いことからすると,上記利用は,引用目的と権衡のとれた「正当な範囲内」(著作権法32条1項)の利用ということはできないこともまた明らかである。
(3) 以上からすると,本件投稿4が原告の著作物に係る複製権及び公衆送信権を侵害することは明らかであるということができる。