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著作権判例セレクション
【著作権侵害総論】「ポニー交通システム」(新たなバス路線の設計方法を表現した設計図で新事業の計画書)に関する侵害性が問題となった事例
▶平成19年3月27日知的財産高等裁判所[平成18(ネ)10058等]
(注) A事件に係る訴訟は,A事件被控訴人(一審被告)浜松市が,B事件被控訴人(一審被告)遠州鉄道株式会社に業務委託して運行を開始した浜松市循環まちバス路線「くるる」について,A事件控訴人(一審原告)が,「くるる」は,控訴人が発案した,新たなバス路線の設計方法を表現した設計図で新事業の計画書である「ポニー交通システム」に関する著作権を侵害するものであるとして,被控訴人浜松市に対し,損害賠償として,著作権利用料金等の支払いを求めた事案である。
B事件に係る訴訟は,B事件被控訴人遠鉄が浜松市から業務委託を受けて前記「くるる」を運行しているとして,B事件控訴人(一審原告)がB事件被控訴人(一審被告)遠鉄に対し,前記「ポニー交通システム」に関する著作権を侵害するとして,損害賠償として,著作権利用料金等の支払を求めた事案である。
当裁判所も,控訴人の本訴請求は,A事件及びB事件とも,いずれも理由がないと判断する。その理由は,当審における控訴人の各主張に対する判断として次に付加するほか,各原判決記載のとおりであるから,これを引用する。
1 A事件について
(1)争点(1)(控訴人主張の交通システムに著作物性(創作性)が認められるか否か)につき
控訴人は,ポニー交通システムは,市街地循環復路線群(A),放射状循環復路線群(B)及び環状型復路線群(C)で構成された新たなバス路線の設計方法を表現した設計図であり,控訴人が製作した新事業の計画書であって,著作権法の保護を受け得る著作物である,と主張する。
著作権法にいう「著作物」とは,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの(同法2条1項1号)をいう。したがって,同法が保護の対象とするのは,「創作的」な「表現」であって,その基礎にある思想,感情又はアイデアではない。
控訴人は,ポニー交通システムのうち,市街中心部を双方向(時計回り及び反時計回り)に循環する市街地循環復路線(A)は,過去に類例がなく,控訴人が新たに考案したものである旨主張する。しかし,そのような路線の設定方法自体は,思想ないしアイデアであって,著作権法が保護の対象とする著作物ではない。よって,市街中心部を双方向(時計回り及び反時計回り)に循環するという路線設定の方法自体は,それが創作的なものであるか否かを問わず,そもそも著作物に当たらないといわざるを得ない。
よって,控訴人の主張は採用することができない。
(2)争点(2)(著作物性が認められるとして,「くるる」が控訴人のポニー交通システムに依拠しているか否か)につき
控訴人は,「くるる」は,ポニー交通システムの市街地循環復路線に相当するものであるから,控訴人の著作物に依拠したものであると主張する。
しかし,上記(1)のとおり,ポニー交通システムの市街地循環線の路線設定の方法はアイデアにすぎず著作物ではないから,控訴人主張の共通性の有無にかかわらず,控訴人の主張は,その前提において失当であり,採用することができない。
なお,ポニー交通システムにおける運行ルート(A事件原判決別紙図面の緑色線)と「くるる」の運行ルート(同赤色線及び青色線)が一致している部分はそれほど多くはないことに照らすと,控訴人が被控訴人浜松市にポニー交通システムの事業計画書を事前に渡していたとしても,控訴人の主張する著作物に依拠して被控訴人浜松市が浜松市循環まちバスの運行ルートを設定したと認めることはできない。
(3)争点(3)(法定の利用行為が行われたか否か)について
上記(1)のとおり,ポニー路線システムの市街地循環復路線の路線設定の方法自体は著作権法にいう著作物ではない。これに対し,「くるる」の運行開始前に控訴人が作成した書面(一般乗合旅客自動車運送事業の免許申請書添付の「路線概要書」及び「運行路線図」,研究開発等事業計画に係る認定申請書の「運行ルートの開発」に係る部分)等に仮に創作性が認められれば,これらの書面が著作物に該当すると解する余地があるかもしれない。
しかし,被控訴人浜松市が「くるる」を被控訴人遠鉄に業務委託して運行する行為自体は,著作権法における「複製」ほか,同法が「著作権に含まれる権利」(同法21条~28条)として掲げるいずれの権利が内容とする行為にも該当しないから,上記の各書面の著作権を侵害する行為に当たる余地はない。
したがって,この点からしても,被控訴人浜松市に控訴人の著作権を侵害する行為があったということはできない。
2 B事件について
(1)B事件の争点(1)はA事件の争点(1)と,B事件の争点(2)はA事件の争点(2)(3)とそれぞれ同一であるから,これらに対する当裁判所の判断も,A事件と同一である。
なお,控訴人は,被控訴人遠鉄の「くるる」の運行系統図は,控訴人が提出した一般乗合旅客自動車運送事業の免許申請書添付の「運行路線図」を複製,模倣したものであると主張する。しかし,控訴人の「運行路線図」のうち,市街地循環線に相当する路線番号20を示す部分は,浜松駅を囲むほぼ単純な長方形の図形にすぎないから創作性を認めることはできず,当該部分はそもそも著作権法上の著作物に当たらない。したがって,上記主張にも理由がない。
(略)
3 結語
以上の次第で,A事件及びB事件に係る控訴人の本訴各請求はいずれも理由がない。よって,これと結論を同じくする各原判決はいずれも正当であって,控訴人の本件各控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。