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  著作権判例セレクション
   動画vs.静止画像(スクリーンショット)/適法引用を認めなかった事例
  
  
  ▶令和3年3月26日東京地方裁判所[令和2(ワ)15010]
  1 争点⑴(原告の著作権侵害の有無)について
  ⑴ 本件各動画の著作権者について
  本件各動画はその内容に照らして著作物といえる。そして,証拠及び弁論の全趣旨によれば,①原告は,平成31年2月7日,S社との間で映像制作業務委託契約を締結し,S社が原告の発注に基づいて映像を制作し,当該映像の著作権は原告からの制作代金の支払完了時にS社から原告に譲渡されることなどが合意されたこと,②S社は,その後,
「令和の虎#54」,「令和の虎#44」,「令和の虎#43」,「令和の虎#42」,「令和の虎#41」と題する5本の動画(本件各動画)を制作し,原告は,その制作代金を支払い,本件各動画の著作権の譲渡を受けたことを認めることができる。
  
  以上によれば,原告は,本件各動画の著作権者であると認められる。
  
   ⑵ 本件各記事による著作権侵害について
  
  証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件各動画は約45分前後の作品であり,本件各記事には,本件各動画の特定の場面のスクリーンショットである静止画を本件各動画の時系列に沿って約30枚から60枚程度張り付けられていることが認められる。これらの事実からすれば,本件各記事を投稿することは,原告が本件各動画について有する著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものといえる。
  
  ⑶ 違法性阻却事由等について
  
  ア 被告は,本件各記事が本件各動画の紹介であり,引用に当たると主張することから以下検討する。
  
  他人の著作物は,批評,研究等の目的で引用して利用することができるが,この場合において,その利用の方法や態様は,批評等の引用目的との関係で,正当な範囲内のものであり,かつ,引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要である(著作権法32条1項)。
  
  証拠によれば,本件各記事は,1記事当たり約30枚から60枚程度の本件各動画のスクリーンショットの静止画が当該動画の時系列に
沿ってそれぞれ貼り付けられ,静止画の間に,それらの静止画に対応等する本件各動画の内容を簡単に記載し,最後に,本件各動画の閲覧者のコメントの抜粋等や本件投稿者の「感想」がそれぞれ記載されたものである。
  
  本件各記事の最後に記載された本件投稿者の「感想」は,3つの記事について十数行であり,2つの記事について,感想を述べるなどした他人のツイッターの静止画を間にはさんで二十数行であり,いずれも本件各動画について概括的な感想といえるものである。
  
  これらに照らせば,本件各記事には,本件各動画の内容を紹介する面やそれを批評する面がないわけではない。しかしながら,本件各記事において,本件各動画のスクリーンショットの静止画は,1記事当たり相当な枚数であり,量的に本件記事において最も多くを占めるといえるのに対し,投稿者の感想は相当に短い。また,本件各記事の最後に記載された投稿者の感想の内容に照らしても,それらの静止画の枚数は,感想を述べるために必要な枚数を大きく超えるといえるものである。
  以上によれば,本件各記事における本件各動画のスクリーンショット静止画の掲載は,仮に引用ということができたとしても,引用の目的との関係で正当な範囲内のものとはいえない。したがって,本件各記事による本件各動画のスクリーンショットの掲載について,著作権法32条1項により適法となることはない。
  
  イ 被告は,本件各記事が本件各動画をいわゆる「埋め込み」方式により利用していない事実を確認することができないことから,本件各記事は,YouTubeの利用規約に基づく原告の利用許諾の範囲内で利用されているに過ぎない可能性があり,原告の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえないなどと主張する。
  
  しかしながら,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件各記事において表示される静止画は,当該静止画のファイルを利用して表示されているものであり,いわゆる「埋め込み」方式により本件各動画を利用したものではないと認められる。被告の前記主張はその前提を欠くものであり,採用できない。
  
  ウ 被告は,本件各動画が「マネーの虎」という番組の二次的著作物であることを前提に,原告が本件各記事の発信者情報開示請求を行うことが許されないなどと主張する。
  
  しかしながら,被告は,本件各動画の原著作物を具体的に明らかにしていない。本件各動画は,投資を求める者が投資家に対して事業等のプレゼンテーションを行い,投資家から質問等を受けて,最終的に投資をしてもらえるか否かが決まることを内容とするものであり,被告が指摘する「マネーの虎」という番組とアイデアにおいて類似する部分があることはうかがえるが,本件各動画の表現に「マネーの虎」の表現に依拠したものがあると認めることはできない。本件各動画が二次的著作物であることを前提とする被告の前記主張はその前提を欠き,採用できない。
  
  ⑷ 以上によれば,本件各記事は原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害しており,他に著作権法上の権利制限事由の存在など著作権侵害の成立を阻却する事由の存在を基礎付ける事実も認められない。
  
  したがって,本件各記事を投稿したことによって,原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかといえる。