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著作権判例セレクション
法18条3項の適用が問題となった事例
▶平成15年05月28日東京高等裁判所[平成14(行コ)265]
(二) また、上記(一)(1)のとおり、本件応募者のうち情報公開委員会の委員に選任された2名については、自己の論文が開示されることに反対する旨の意思表示をしていることから、同人らの論文を開示することは、上記(一)のほか、著作権法による公表権を害することにもなるものと解される。
(1) すなわち、本件小論文は、前記引用に係る原判決認定のとおり、各応募者が「市の情報公開に望むこと」の表題の下に、情報公開制度及びその運用等についての意見、理念等を800字以内にまとめたものであるから、思想等を創作的に表現したものとして、著作権法上の著作物に当たることは明らかである。
そして、本件小論文は未だ公表されていないものであるから、各応募者は、本件小論文について著作者人格権としての公表権を有するが、著作者が未公表の著作物を地方公共団体に提供した場合には、情報公開条例の規定により開示されることについて、同意したものとみなされることになる(著作権法第18条第3項第2号[注:現3号])。
しかしながら、その場合においても、開示の決定がなされるまでに著作者が別段の意思表示をしたときは、同意に関する上記規定の適用が排除されると定められている(同号)ところ、上記のとおり、2名については、自己の論文が開示されることに反対の意思表示をしているものである。
(2) そうすると、上記2名の論文を開示することは、作成者が識別されない形態を取ったとしても、作成者本人の同意がない以上、その公表権を害することになるから、本件条例により開示が認められるための「公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがない」(本件条例第10条第2項)との要件を欠くものといわざるを得ない。
(3) なお、被控訴人は、上記2名の論文の開示によりプライバシー保護の問題が生じないはずであるから、保護に値する公表権は存在しない旨主張するが、公表権とプライバシー保護とは必ずしも関連するものではなく、公表権は、著作者人格権として、プライバシー権とは別に保護されるべきものであるから、上記主張は失当である。