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著作権判例セレクション
小説(二次的著作物)の原著作物である脚本の著作者の氏名表示権侵害を認定した事例
▶平成12年04月25日東京地方裁判所[平成11(ワ)12918]
三 争点二(被告が本件小説に関する原告の氏名表示権を侵害したかどうか)について
1 右の事実によると、本件小説は本件脚本に基づいて執筆されたものであると認められるから、本件小説は、本件脚本を原著作物とする二次的著作物であると認められる。したがって、原告は、本件小説の公衆への提供に際して原著作者として氏名表示権を有する(著作権法19条後段)。
2 右のとおり、河出書房新社は、本件小説の単行本の初校正ゲラ刷りの段階では、奥付に著者である「D」と原著作者である「A(原案)」を二段に併記していたが、Fからの申入れにより、現実に出版された単行本の奥付には「著者D」とだけ表記して「A(原案)」の部分を削除し、原告の氏名は、奥付の前頁の映画の「スタッフ」の所に「脚本・監督
A」と表記されたのみであったと認められる。
右の現実に出版された単行本の奥付の記載では、原告の氏名は、映画のスタッフとして表記されたのみであって、本件小説の原著作者として表記されたとは認められない。これに対し、河出書房新社が作成した本件小説の単行本の初校正ゲラ刷りの段階では、原告の氏名が、本件小説の原著作者として表記されていたものと認められる。
そうすると、Fは、河出書房新社に対して申入れをして、本件小説の原著作者としての原告の氏名の表記を削除させたということができるから、この行為は、本件小説に関する原告の氏名表示権を侵害する行為であるということができる。
3 被告は、河出書房新社は原告の意見も聴いた上で、原告の氏名を奥付ではなく、その前頁の映画のスタッフとして表示することにしたのであり、原告はそのような表示にすることに同意していた旨主張する。しかし、証人Fの右の点に関する証言はきわめてあいまいであって、同証言から右の事実を認めることはできず、原告は、本人尋問において、右事実を明確に否定する供述をしているから、原告が右奥付及び前頁のように原告の氏名を表示することに同意していたとは到底認められない。したがって、被告の主張は採用できない。
4 右認定の事実によると、右のFの氏名表示権侵害行為は、被告の従業員が被告の事業の執行に付き行ったものと認められるから、被告は、右侵害行為によって原告が被った損害を賠償する責任があるというべきである。
四 争点三(原告の損害額)について
証拠によると、原告は、本件小説の単行本に原告の氏名が原著作者として表示されなかったことにより、精神的損害を被ったことが認められ、その損害の内容、被告の侵害行為の態様その他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると、原告の被った精神的損害に対する慰謝料の額は金50万円を相当と認める。