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著作権判例セレクション
マトリョーシカ人形をモチーフにしたイラストの著作物性を肯定した事例/著作財産権侵害による慰謝料請求を認めなかった事例
▶平成17年07月20日東京地方裁判所[平成17(ワ)313]
(原告の主張)
「本件作品A及びBは,ロシアの民族玩具であるマトリョーシカ人形をモチーフとしつつ,ジュン社のロペ・ピクニックというブランドを消費者,特に若い女性にピーアールするため,顔かたちや表情をかわいらしく見せるとともに,ロペ・ピクニックの商品を着せるなど,ビジュアル上の創意工夫が凝らされ,原告の個性があますところなく表現されており,著作物性を有する。」「本件作品A及びBは,原告がコンピューター・グラフィック技術を用い,マトリョーシカ人形をモチーフにして,マトリョーシカのクローゼットの中身をそろえるというコンセプトで,マトリョーシカの衣装に工夫を凝らし,広告品である衣服や小物にふさわしいデザインに仕上げたものであるところ,ジュン社によって同社製造の商品の広告に利用され,多数のデパートに展示されたほか,電車内のつり広告にも利用され,広く知られるものとなっていた。」
1 本件作品の著作物性について
証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件作品A及びBは,ロシアの民族玩具であるマトリョーシカ人形をモチーフとしたものではあるものの,原告の思想又は感情が創作的に表現されたものであり,著作物性を有することが認められる。
これに反する被告の主張は,本件作品A及びBがありふれたものであることを裏付けるに足りるマトリョーシカ人形の図柄等の証拠の提出がないから,採用することができない。
2 損害額
(1) 複製権侵害による相当対価額の賠償額
ア 前提事実のとおり,被告は,被告物件1及び2を合計355個製造し,うち40個が1個当たり4900円で小売されたが,その余の315個は発売直後に小売店から回収され,廃棄されたものである。
イ (証拠)により認められる原告と第三者とのデザイン委託契約の内容を参照すれば,現実に小売りされた40個については,原告主張の小売価格の10%をもって相当対価額の賠償額と認めるべきである。
ウ その余の315個については,小売りはされなかったものの,相当数は短期間とはいえ店頭に陳列され,買い物客の目に触れたものであるから,小売価格の2%程度である100円をもって相当対価額の賠償額と認めるべきである。
これに反する原告の主張及び被告の主張は,採用することができない。
エ よって,複製権侵害による相当対価額の賠償額は,次のとおり5万1100円となる。
4900円×0.1×40個=1万9600円
100円×315個=3万1500円
1万9600円+3万1500円=5万1100円
(2) 慰謝料
ア 複製権侵害による慰謝料
(ア) 著作財産権である複製権侵害を理由に慰謝料を請求するためには,侵害された財産権が当該被害者にとって特別の精神的価値を有し,そのため,単に侵害の排除又は財産的損害の賠償だけでは償い得ないような重大な精神的苦痛を被ったと認められる特別の事情がなければならないと解されるところ,そのような特別の事情の存在を認めることはできない。
(イ) すなわち,アーティストが自己の作品に愛着を持つことは,当然であり,そのことから,上記特別の事情があるものと認めることはできない。
業界関係者から,同一の作品を重ねて被告に許諾したものとの誤解を受けた点も,被告の侵害行為を排除することにより通常その誤解を晴らすことができるものと認められ,上記特別の事情があるものと認めることはできない。
(略)
イ 氏名表示権侵害による慰謝料
前提事実及び上記アに説示した事実によれば,氏名表示権侵害による慰謝料額を15万円と認めるのが相当である。
(3) 弁護士費用相当の損害額
本訴の難易,認容額,訴訟提起に至る経緯等によれば,本件の不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当損害額を1万円と認めるのが相当である。
(4) まとめ
以上によれば,被告は,原告に対し,著作権侵害に基づく損害金5万1100円,著作者人格権侵害に基づく慰謝料15万円及び弁護士費用相当損害額1万円,合計21万1100円を支払う義務がある。
3 謝罪広告の必要性
前提事実及び前記に説示した事実によれば,販売数量等が少ないため,消費者による被告物件1及び2の認識は限定的であることが認められる。
原告が剽窃したり,重複許諾をしたとの疑いを受けるおそれがある点についても,原告の取引関係者に対し,「図案無断使用のお詫び」と題する書面を提示するか,本判決を提示することによってその疑いを容易に解消することができると考えられる。
したがって,氏名表示権侵害の被害回復措置として謝罪広告又は事実確認の広告まで命ずるべき必要性は認められず,この点の原告の主張は理由がない。