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著作権判例セレクション

マンモスの3DCG画像の著作物性及び侵害性を認定した事例

平成240425日知的財産高等裁判所[平成23()10089]
() 本件各画像は,平成14年(2002年)にロシア連邦サハ共和国のユカギル地方において発見され,平成17年に愛知県で開催された「2005年日本国際博覧会」(愛知万博)において展示されたマンモス(学名「ケナガマンモス」の個体。本件マンモス)の頭部の標本についてのものである。 本件画像1は,本件マンモスの頭部について,CT装置(コンピュータ断層撮影装置)による撮影(CT撮影)によって得られた断層像のX線CTデータ(本件CTデータ)を基にして,本件画像2は,本件CTデータを3次元画像として再構築したボリュームレンダリング像(本件三次元再構築モデル)を基にして,それぞれ作成された,3DCG画像である。

2 争点1(本件各画像の著作物性,被控訴人の著作者性及び著作権の帰属)について
(1) 本件各画像の著作物性
ア 著作権法上の保護の対象となる著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)であり,ここでいう「創作的」に表現したものといえるためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,作者の個性が表現されたもので足りるというべきである。
イ 本件画像1について
本件画像1は,本件CTデータからコンピュータソフトウェアの機能により自動的に生成される本件三次元再構築モデルとは異なり,本件CTデータを素材としながらも,半透明にした本件マンモスの頭部の三次元画像の中に,本件マンモスの水平断面像を並べて配置する構成としている点において,美術的又は学術的観点からの作者の個性が表現されているものということができる。
加えて,本件画像1では,半透明の三次元画像の中に配置する本件マンモスの水平断面像とし,これらの水平断面像を並べる間隔について,本件マンモスの頭蓋骨内にある「エアセル」の構造が見える部分は,当該構造が見やすいように他の部分よりも広い間隔で配置している点,画像のアングルとして,本件マンモスの頭部を正面やや斜め右上の方向から見るアングルを選択している点において,作者の個性が表現されている。とりわけ,全体の色彩を深い青色としている点,色調の明暗について,頭蓋骨内にある「エアセル」の構造が見える部分は青色が濃く暗めの色調としているのに対し,キバの部分は白っぽく明るい色調としている点などにおいても,様々な表現の可能性があり得る中で,美術的又は学術的な観点に基づく特定の選択が行われて,その選択に従った表現が行われ,作者の個性が表現されているということができる。
ウ 本件画像2について
本件画像2は,本件三次元再構築モデルを特定の切断面において切断した画像それ自体とは異なり,2枚の同じ切断画像を素材とし,一方には体表面に当たる部分に茶色の彩色を施し,他方には赤,青,黄の原色によるグラデーションの彩色を施した上で,後者の頭部断面部分のみを切り抜いて前者と合成することによって一つの画像を構成している点において,美術的又は学術的観点からの作者の個性が表現されているものということができる。
加えて,本件画像2では,本件三次元再構築モデルを切断する面として,本件マンモスの頭部の中心ではなく,キバの基部と副鼻腔の双方が断面に現れるように,双方の部位をいずれも通る,中心からややずれた切断面を選択している点においても,作者の個性が表現されている。さらに,白いキバの部分に茶色の濃淡による陰影をつけることによって,キバの立体的形状を表現している点などにおいても,様々な表現の可能性があり得る中で,美術的又は学術的な観点に基づく特定の選択が行われて,その選択に従った表現が行われ,作者の個性が表現されているということができる。
エ 控訴人の主張について
控訴人は,本件各画像における上記の各点について,いずれもありふれた表現方法や画像を見やすくするための技術的調整等にすぎず,本件各画像に創作性を認める根拠とはならない旨主張する。
しかしながら,著作物としての創作性が認められるためには,必ずしも表現の独創性が求められるものではなく,作者の個性が表現されていれば足りるところ,その創作性の判断は,本件各画像における表現の要素を総合してされるべきであり,控訴人の上記主張は採用することができない。
オ 小括
以上の次第であるから,本件各画像は,いずれも,思想又は感情を創作的に表現したものであり,学術又は美術の範囲に属するものであって,著作権法上の著作物に当たるものということができる。
(2) 本件各画像の著作者及び著作権者
ア 前記認定のとおり,本件各画像は,本件マンモスの研究に関する被控訴人の記者会見の場における説明用の素材として作成されたものであり,作成すべき画像のイメージを記載した被控訴人作成の絵コンテに基づき,また,その後も,本件各画像の作成過程でプリントアウトされた作成途上の画像に修正すべき箇所やその内容を指示した被控訴人のメモによる具体的指示に基づき,被控訴人及び本件スタッフによって作成されたものである。本件スタッフは,いずれも被控訴人が所長を務める本件研究所に勤務し,被控訴人の指示を受ける立場にある者であることに照らすと,本件各画像の基本的な構成を決定し,その後の具体的な作成作業を主導的に行った者は被控訴人であって,本件スタッフは,被控訴人の指示の下で,作業を行った補助者であったものと認めるのが相当である。
したがって,被控訴人は,本件各画像を創作した者であって,その著作者であるものと認められる。
イ 控訴人の主張について
控訴人は,愛知万博のプロジェクトの一つとして行われた成果の一つといえる本件各画像について,本件研究所が本件各画像のデータファイルを管理していたことからも,被控訴人が個人として本件各画像の著作権を単独保有しているというのは不自然であり,東京慈恵会医科大学の職務著作と見るべきである旨主張する。
しかしながら,職務著作の要件は,①法人その他使用者(法人等)の発意に基づくこと,②法人等の業務に従事する者が職務上作成したものであること,③法人等が自己の著作の名義の下に公表するものであること,④作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがないことであるところ(著作権法15条),本件においては,前記認定の事実に照らし,少なくとも,上記①③の要件を欠いていることは明らかであり,控訴人の主張は,採用することができない。
なお,被控訴人は,本件各画像を雑誌「Newtonムック」にも掲載しているところ,その画像が被控訴人のものである旨の記載のある上記雑誌の送付を受けた東京慈恵会医科大学及び愛知万博の博覧会協会から,何らの異議も受けていない。また,借用書の宛名が「東京慈恵会医科大学高次元医用画像工学研究所所長 Y 殿」となっているとしても,被控訴人個人が著作権を有していることの妨げとはならない。
ウ 小括
以上のとおり,被控訴人は本件各画像の著作者であり,著作権者であることが認められる。
3 争点2(本件各画像の著作権侵害の成否)について
(1) 複製の有無
ア 控訴人各画像について
() 依拠性
前記のとおり,控訴人書籍中の控訴人各画像は,被控訴人が A に提供した本件各画像のデータファイルを基にして控訴人によって作成されたものである。
よって,控訴人各画像は,本件各画像に依拠して作成されたものである。
() 控訴人画像1について
控訴人画像1においては,カラー画像が白黒画像とされている点を除き,本件画像1が再製されている。
よって,本件画像1と控訴人画像1とは,前記のとおり本件画像1が有する創作性のある表現上の特徴的部分の色彩以外の部分において同一性を有するものであって,控訴人画像1から本件画像1の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものといえるから,控訴人画像1は,本件画像1を有形的に再製したものということができる。
() 控訴人画像2について
控訴人画像2においては,カラー画像が白黒画像とされている点を除き,本件画像2が再製されている。
よって,本件画像2と控訴人画像2とは,前記のとおり本件画像2が有する創作性のある表現上の特徴的部分の色彩以外の部分において同一性を有するものであって,控訴人画像2から本件画像2の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものといえるから,控訴人画像2は,本件画像2を有形的に再製したものということができる。
() 控訴人画像3について
控訴人画像3においては,「© IHDMI,Jikei Univ, Y 」の表示及び黒色の背景が削除されている点並びにカラー画像が白黒画像とされるとともに,明暗が反転されている点を除き,本件画像1が再製されている。
よって,本件画像1と控訴人画像3とは,前記のとおり本件画像1が有する創作性のある表現上の特徴的部分の色彩以外の部分において同一性を有するものであって,控訴人画像3から本件画像1の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものといえるから,控訴人画像3は,本件画像1を有形的に再製したものということができる。
イ 控訴人の主張について
控訴人は,本件各画像に見いだし得る創作的部分は,いずれもその色彩の点に限られるとの前提に立った上で,控訴人各画像はいずれも白黒画像であるから,本件各画像の色彩に係る創作的部分は再現されていないとして,控訴人各画像は本件各画像を複製したものとはいえない旨を主張する。
しかしながら,そもそも,本件各画像において創作性が認められる表現は,いずれもその色彩の点に限られるものではないから,控訴人の上記主張は,その前提において理由がない。
ウ 小括
以上によれば,控訴人画像1及び3は,いずれも本件画像1を,また,控訴人画像2は,本件画像2を,それぞれ複製したものということができる。
(2) 被控訴人の許諾の有無
ア 許諾の有無
前記認定の事実によれば,本件各画像の利用に関しては,控訴人のAと被控訴人の間の電子メールにより交渉されたものであるところ,被控訴人のAに対する電子メールには,「あくまで最終記事内容を当方が確認の上とさせていただきます。」「必ずゲラ刷りの段階で拝見させていただくことを,これら2点の写真原稿をお貸しする条件とします。」と記載され,被控訴人は,控訴人書籍中の本件各画像を複製して掲載する箇所の記述の最終的な内容を被控訴人自身が確認し,了承することをもって,利用を許諾する条件としていたものということができる。
しかるに,控訴人は,平成19年5月から同年8月までの折衝がその後途切れて約2年が経過した平成21年8月末ころになって,控訴人書籍を同年9月末に発行する予定であるとして,最終のゲラ刷り原稿を送付し,被控訴人がこれを点検する期限を同月2日ころまでと一方的に決め,かつ,その期限までに被控訴人から返事がなかったのに,その最終的な確認をとることもなく,同年10月に控訴人書籍を発行したものであって,被控訴人による最終記事内容の確認という条件が成就したことを認めるに足りない。
そうすると,被控訴人が本件各画像の利用を許諾したということはできない。
イ 控訴人の主張について
() 控訴人は,被控訴人は,利用許諾協議の当初から本件各画像の利用そのものは許諾していたものであり,遅くとも被控訴人が本件各画像のデータファイルを控訴人に提供し,併せてこれに関する借用書を提示した平成19年8月10日までに,被控訴人から,本件各画像を控訴人書籍に掲載することの許諾を受けていた旨主張する。
しかしながら,被控訴人が本件各画像のデータファイルを控訴人に提供し,併せてこれに関する借用書を提示した平成19年8月10日付けの電子メールには,被控訴人が「必ずゲラ刷りの段階で拝見させていただくことを,これら2点の写真原稿をお貸しする条件とします。」と記載していたものである。よって,同日までに利用そのものを無条件で許諾していたということはできないし,控訴人書籍中の本件各画像を複製して掲載する箇所の記述の最終的な内容を被控訴人自身が確認し,了承することをもって,利用を許諾する条件としていたものである。
控訴人は,被控訴人が控訴人書籍の原稿についての変更を要求すべき何らの権限を有していない者であるから,本件各画像の利用そのものの許諾を覆す理由にはなっていないと主張するが,控訴人書籍の原稿(ゲラ)を読んだ被控訴人が,その原稿の下で本件各画像を掲載するのが相応しくないと考えれば,本件各画像の掲載を許諾しないというだけのことであって,それにもかかわらず,控訴人が控訴人書籍に本件各画像の掲載を必要とするのであれば,控訴人書籍の原稿を変更するなどして被控訴人から本件各画像を掲載することの許諾を得なければならないし,控訴人書籍の原稿を変更することができないのであれば,その原稿の下で本件各画像を掲載することを断念しなければならないというだけのことであって,被控訴人に当該原稿についての変更を要求すべき権限があるか否かといった問題ではない。
平成19年6月26日付けの被控訴人の電子メールに「本件だけでなく,常にマスコミの方々への対応として,内容的に間違いのあるもの,適さないものに対しては研究所としてご協力できないという姿勢を保っているためです。」との記載があるが,それも,以上と同趣旨であって,内容的に適さないもの又は内容的に間違っているものであるか否かを被控訴人が確認した上で本件各画像の掲載を許諾するという趣旨にほかならず,被控訴人の確認を得なくても,内容的に適さないものでなければ又は内容的に間違っていないものであれば本件各画像を掲載し得るという趣旨までを読み取ることはできないというべきである。
() 控訴人は,被控訴人は,平成19年7月3日の時点で,最新の原稿を確認したことにより,許諾条件が満たされたと主張する。
しかしながら,平成19年7月3日の時点の最新の原稿を確認したとしても,その原稿は,控訴人書籍が発行される2年以上前の時点における草稿にすぎないものであり,現にその内容も,特に,控訴人各画像についての説明部分が存在しないなど,最終的な控訴人書籍における記述の内容とは異なる部分が随所に存在するものであって,これが最終的な内容を確認したことにならないことは明らかである。
() 控訴人は,被控訴人が,平成21年8月末ころには,ゲラ刷り原稿の送付を受け,特段の訂正なく承認したとも主張する。
しかしながら,被控訴人がゲラ刷り原稿の送付を受けたとしても,控訴人の側で一方的に極めて短い期限を定めたものである上,被控訴人は,その後,国際学会からの帰国後に連絡する旨の電子メールを送信したものであって,ゲラ刷り原稿の確認とその結果についての連絡がされていないことからも,これを承認したということはできない。
() 控訴人は,一般に,出版社等が,著作権者からその著作に係る写真等を書籍に複製して利用することの許諾を受ける場合,書籍の本文中への掲載の許諾があれば,特段の意思表示がない限り,表紙への掲載も,当然に許諾の範囲に含まれるものであり,本件においては,控訴人書籍の本文中への掲載のみならず,本件画像1の表紙カバーへの掲載についても許諾があると主張する。
しかしながら,書籍の本文中への掲載の許諾があれば,特段の意思表示がない限り,表紙への掲載も,当然に許諾の範囲に含まれるといった慣行が存在することを認めるに足りる証拠はない上,そもそも被控訴人が控訴人に対し本件各画像を複製して控訴人書籍の本文中に掲載することを許諾したこと自体が認められない以上,これを前提とする表紙カバーへの掲載の許諾があったとする控訴人の主張には,理由がない。
() 以上のとおり,被控訴人が控訴人に対し本件各画像を複製して控訴人書籍の本文中に掲載することを許諾したとの控訴人の主張は,これを認めることができない。
(3) 小括
以上によれば,控訴人各画像は,いずれも被控訴人の許諾なく,本件画像1又は本件画像2を複製したものと認められるから,控訴人が控訴人各画像を掲載した控訴人書籍を発行及び頒布する行為は,被控訴人が本件各画像について有する著作権(複製権,譲渡権)の侵害に当たるものと認められる。
4 争点3(本件各画像の著作者人格権侵害の成否)について
(1) 同一性保持権侵害の成否
ア 控訴人画像1及び2について
]() 前記3のとおり,控訴人画像1は,本件画像1について,カラー画像を白黒画像にする改変を加えて複製したもの,控訴人画像2は,本件画像2について,カラー画像を白黒画像にする改変を加えて複製したものである。
() 控訴人は,カラーで掲載することは,許諾の条件にはなっておらず,被控訴人の意に反する改変とはいえないと主張する。
しかしながら,本件各画像における色彩は,本件各画像の創作性を基礎づける重要な表現要素の一つであり,カラー画像である本件各画像を白黒画像に改変することは,著作者の許諾が認められない以上,著作者の意に反する改変(著作権法20条1項)に当たるものというべきである。
なお,控訴人から被控訴人に対し,本件各画像を複製して控訴人書籍の本文中に掲載するに当たっての具体的な掲載態様の説明が行われた事実はなく,当該画像が白黒画像によって掲載されることは,被控訴人が平成21年8月末ころにゲラ刷り原稿の送付を受けた時点で初めて被控訴人に明らかになったものであり,その後,被控訴人から控訴人に対し,これを了承する旨の意思が示された事実も認められない。
したがって,控訴人画像1及び2における本件各画像の改変は,本件各画像の著作者たる被控訴人の意に反する改変に当たるものと認められる。
イ 控訴人画像3について
控訴人画像3は,本件画像1につき,「© IHDMI,Jikei Univ, Y 」の表示及び黒色の背景を削除し,カラー画像を白黒画像にするとともに,明暗を反転させる改変を加えて複製したものである。
前記アに述べたとおり,本件画像1における色彩及び色調の明暗は,その創作性を基礎づける重要な表現要素の一つであるから,著作者の許諾なくカラー画像である本件画像1を白黒画像にするとともに,明暗を反転させる改変を行うことは,著作者の意に反する改変(著作権法20条1項)に当たるものである。
ウ 控訴人の主張について
控訴人は,図版や学術雑誌等とは異なる通常の単行本である控訴人書籍の編集上の必要性を根拠として,控訴人各画像における本件各画像の改変が,著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たる旨を主張する。
しかしながら,そもそも,控訴人各画像の控訴人書籍への掲載は,被控訴人の許諾なくその著作物たる本件各画像を複製するものであって,控訴人各画像を控訴人書籍に掲載すること自体が許されない行為であり,編集上の必要性なるものによって,本件各画像の改変が正当化されるべき理由はない。
エ 小括
以上によれば,控訴人各画像を掲載した控訴人書籍を発行する控訴人の行為は,被控訴人が本件各画像について有する同一性保持権の侵害に当たるものと認められる。
(2) 氏名表示権侵害の成否
ア 控訴人書籍の表紙カバーに掲載された控訴人画像3には,本件画像1の著作者である被控訴人の氏名は表示されていない。
イ 控訴人の主張について
() 控訴人は,控訴人書籍の表紙カバーの見開き下部に,「【カバー・本文マンモス写真提供】東京慈恵会医科大学・高次元医用画像工学研究所」と表示されていることをもって,著作者名の表示がある旨を主張する。
しかし,当該表示が本件画像1の著作者である被控訴人の氏名の表示といえないことは明らかである。
() 控訴人は,控訴人書籍の表紙カバー中の画像に被控訴人の氏名の表示がないからといって被控訴人の利益が害されるおそれはなく,公正な慣行にも合致しているから,控訴人の行為は著作権法19条3項に当たると主張する。
しかしながら,同項は,著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められること,公正な慣行に反しないことを要件として,著作者名の表示の省略を許容するものであるところ,本件においては,そのいずれについても,認めるに足りない。
ウ 小括
したがって,控訴人画像3を表紙カバーに掲載した控訴人書籍を発行する控訴人の行為は,被控訴人が本件画像1について有する氏名表示権(著作権法19条1項)の侵害に当たるものと認められる。
5 被控訴人の請求権
前記3及び4のとおり,控訴人は,控訴人各画像を掲載した控訴人書籍を発行及び頒布したことにより,被控訴人が本件各画像について有する著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(本件各画像についての同一性保持権,本件画像1についての氏名表示権)を侵害したものである。
よって,著作権法112条1項に基づき,控訴人画像を削除しない控訴人書籍の発行又は頒布の差止めを求める被控訴人の請求は,理由がある。また,同条2項に基づき,控訴人書籍からの控訴人画像の削除を求める被控訴人の請求も,理由がある。さらに,控訴人は,その侵害について,少なくとも過失があったものと認められるから,被控訴人に対し,民法709条に基づき,被控訴人が上記侵害行為により受けた損害を賠償する義務がある。
6 争点4(被控訴人の損害額)について
(1) 著作者人格権侵害による慰謝料
控訴人各画像における本件各画像の改変は,本件各画像の創作性を基礎づける重要な表現要素である色彩に関わるものであること,特に,控訴人画像3については,色彩のみならず,色調の明暗をも改変して,かつ,被控訴人の氏名を表示することなく,控訴人書籍の表紙カバーに掲載したこと,控訴人書籍発行後の対応についても,被控訴人の正当な権利に基づく抗議に対して,不適切な言辞を用いて原告を非難する書面を送付したこと,その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば,控訴人の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害行為により原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,30万円と認めるのが相当である。
(2) 弁護士費用
本件事案の性質・内容,本件訴訟に至る経過,本件審理の経過,本件訴訟において認容される請求の内容等諸般の事情に鑑みれば,控訴人の著作権侵害行為及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害は,20万円と認めるのが相当である。
(3) 小括
以上によれば,被控訴人は,控訴人に対し,著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償として合計50万円及びこれに対する不法行為の後である平成22年9月7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
7 結論
以上の次第であるから,原判決は相当であり,控訴人の本件控訴は棄却されるべきである。