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著作権判例セレクション
マンモスの3DCG画像の改変(カラー画像を白黒画像にすること等)につき、同一性保持権侵害を認定した事例
▶平成24年04月25日知的財産高等裁判所[平成23(ネ)10089]
4 争点3(本件各画像の著作者人格権侵害の成否)について
(1)
同一性保持権侵害の成否
ア 控訴人画像1及び2について
(ア) 前記3のとおり,控訴人画像1は,本件画像1について,カラー画像を白黒画像にする改変を加えて複製したもの,控訴人画像2は,本件画像2について,カラー画像を白黒画像にする改変を加えて複製したものである。
(イ) 控訴人は,カラーで掲載することは,許諾の条件にはなっておらず,被控訴人の意に反する改変とはいえないと主張する。
しかしながら,本件各画像における色彩は,本件各画像の創作性を基礎づける重要な表現要素の一つであり,カラー画像である本件各画像を白黒画像に改変することは,著作者の許諾が認められない以上,著作者の意に反する改変(著作権法20条1項)に当たるものというべきである。
なお,控訴人から被控訴人に対し,本件各画像を複製して控訴人書籍の本文中に掲載するに当たっての具体的な掲載態様の説明が行われた事実はなく,当該画像が白黒画像によって掲載されることは,被控訴人が平成21年8月末ころにゲラ刷り原稿の送付を受けた時点で初めて被控訴人に明らかになったものであり,その後,被控訴人から控訴人に対し,これを了承する旨の意思が示された事実も認められない。
したがって,控訴人画像1及び2における本件各画像の改変は,本件各画像の著作者たる被控訴人の意に反する改変に当たるものと認められる。
イ 控訴人画像3について
控訴人画像3は,本件画像1につき,「© IHDMI,Jikei Univ, Y 」の表示及び黒色の背景を削除し,カラー画像を白黒画像にするとともに,明暗を反転させる改変を加えて複製したものである。
前記アに述べたとおり,本件画像1における色彩及び色調の明暗は,その創作性を基礎づける重要な表現要素の一つであるから,著作者の許諾なくカラー画像である本件画像1を白黒画像にするとともに,明暗を反転させる改変を行うことは,著作者の意に反する改変(著作権法20条1項)に当たるものである。
ウ 控訴人の主張について
控訴人は,図版や学術雑誌等とは異なる通常の単行本である控訴人書籍の編集上の必要性を根拠として,控訴人各画像における本件各画像の改変が,著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たる旨を主張する。
しかしながら,そもそも,控訴人各画像の控訴人書籍への掲載は,被控訴人の許諾なくその著作物たる本件各画像を複製するものであって,控訴人各画像を控訴人書籍に掲載すること自体が許されない行為であり,編集上の必要性なるものによって,本件各画像の改変が正当化されるべき理由はない。
エ 小括
以上によれば,控訴人各画像を掲載した控訴人書籍を発行する控訴人の行為は,被控訴人が本件各画像について有する同一性保持権の侵害に当たるものと認められる。
(2)
氏名表示権侵害の成否
ア 控訴人書籍の表紙カバーに掲載された控訴人画像3には,本件画像1の著作者である被控訴人の氏名は表示されていない。
イ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,控訴人書籍の表紙カバーの見開き下部に,「【カバー・本文マンモス写真提供】東京慈恵会医科大学・高次元医用画像工学研究所」と表示されていることをもって,著作者名の表示がある旨を主張する。
しかし,当該表示が本件画像1の著作者である被控訴人の氏名の表示といえないことは明らかである。
(イ) 控訴人は,控訴人書籍の表紙カバー中の画像に被控訴人の氏名の表示がないからといって被控訴人の利益が害されるおそれはなく,公正な慣行にも合致しているから,控訴人の行為は著作権法19条3項に当たると主張する。
しかしながら,同項は,著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められること,公正な慣行に反しないことを要件として,著作者名の表示の省略を許容するものであるところ,本件においては,そのいずれについても,認めるに足りない。
ウ 小括
したがって,控訴人画像3を表紙カバーに掲載した控訴人書籍を発行する控訴人の行為は,被控訴人が本件画像1について有する氏名表示権(著作権法19条1項)の侵害に当たるものと認められる。
5 被控訴人の請求権
前記3及び4のとおり,控訴人は,控訴人各画像を掲載した控訴人書籍を発行及び頒布したことにより,被控訴人が本件各画像について有する著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(本件各画像についての同一性保持権,本件画像1についての氏名表示権)を侵害したものである。
よって,著作権法112条1項に基づき,控訴人画像を削除しない控訴人書籍の発行又は頒布の差止めを求める被控訴人の請求は,理由がある。また,同条2項に基づき,控訴人書籍からの控訴人画像の削除を求める被控訴人の請求も,理由がある。さらに,控訴人は,その侵害について,少なくとも過失があったものと認められるから,被控訴人に対し,民法709条に基づき,被控訴人が上記侵害行為により受けた損害を賠償する義務がある。