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著作権判例セレクション
書籍の「表紙及び背表紙部分」「はしがき部分」「奥付部分」の記載が問題となった事例
▶平成16年09月29日東京地方裁判所[平成16(ワ)4605]
(注) 原告書籍と被告書籍とは,目次及び本文は同一であるが,以下の部分において異なる。
① 表紙及び背表紙部分
表紙部分について,原告書籍には,その上部に,三段に分けて「さしのべる手・ふれあう心」,「だれでもできる在宅介護」,「-いざというときに-」と記載されているのに対し,被告書籍には,その上部に,三段に分けて「さしのべる手・ふれあう心」,「だれでもできる在宅介護」,「-いざというとき編-」と記載され,その下部に被告組合の名称が記載されている。背表紙部分について,原告書籍には,その上部に,「だれでもできる在宅介護」,「-いざというときに-」と記載されているのに対し,被告書籍には,その上部に,「だれでもできる在宅介護」,「-いざというとき編-」と記載され,その下部に被告組合の名称が記載されている。
② はしがき部分
はしがき部分について,原告書籍には,「発刊にあたり」と題する,作成名義人の記載がない文章(「原告書籍はしがき」)が掲載されているのに対し,被告書籍には,「発刊にあたり」と題する被告Y名義の文章(「被告書籍はしがき」)が掲載されており,両者の記載内容は異なっている。
③ 奥付部分
奥付部分について,原告書籍には,同書籍を東京都在宅介護研究会が発行し,原告が編集したことを示す記載があるのに対し,被告書籍にはそのような記載はなく,その他の部分を含めても被告書籍には著作者として原告の氏名は表示されていない。
4 争点(4)について
ア 発刊にあたりの変更,氏名を表示しなかった点について
前記認定のとおり,被告書籍のはしがき部分には,原告書籍にはない被告Yはしがきが掲載されており,かつ,被告書籍には著作者として原告の氏名が表示されていない。そして,証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告書籍,前訴被告書籍及び前訴目録7記載の書籍のはしがき部分に掲載されている「発刊にあたり」と題する文章の内容がほぼ同一であるのに対し,原告書籍はしがきはこれらと全く異なっていることが認められることからすれば,原告書籍はしがきを著作した者は,原告書籍を作成した原告であると推認することができる。
したがって,被告らが被告書籍のはしがき部分に被告Yはしがきを掲載した行為,及び,被告組合及び被告共立が被告書籍に原告の氏名を表示しなかった行為は,いずれも原告著作権について原告が有する著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害に当たるということができる。
イ 表紙部分の変更について
前記認定のとおり,表紙部分に記載されている原告書籍の題号と被告書籍の題号の一部が異なる。
もっとも,その差異は,原告書籍の題号のうち,「いざというときに」という文言の末尾の「に」が「編」となっているものであるにすぎない上,この差異があることによっても,両者の文言は,ともに,原告書籍又は被告書籍がいざというときのためのものであるという意味であると認めることができるから,原告書籍の題号を被告書籍の題号に改める行為が,著作権法20条1項の「改変」に当たるとすることはできない。
したがって,原告書籍の表紙部分の「-いざというときに-」という記載を「-いざというとき編-」に変更した被告組合及び被告共立の行為は,原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害に当たらない。
(略)
イ 著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)の侵害による損害額
被告らによる著作者人格権の侵害態様,被告書籍の作成部数等,一切の事情を総合考慮すると,被告らによる同一性保持権の侵害及び被告組合及び被告共立による氏名表示権の侵害により原告が受けた損害額は,それぞれ3万円が相当である。