Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

ビデオ映像を編集して作成されたDVDにつき,当該ビデオ映像の同一性保持権侵害を認定した事例

平成220421日東京地方裁判所[平成20()36380]
() 原告は,世界各地を取材し,平成14年ころから世界の鉄道動画をデジタルビデオテープ(「DVテープ」)に記録していた(テープ本数15本,撮影時間は約25時間。以下,当該鉄道動画を「本件映像」といい,本件映像が記録されたDVテープを「本件DVテープ」という。)。

() 同一性保持権
a 被告らは,原告が本件DVテープが編集されることを知りつつ,これに異議を述べなかった以上,当該編集につき,原告の許諾があったと主張する。
しかしながら,前記(1)のとおり,原告は,オスカ企画が本件映像を利用した放送番組の制作の企画を検討していることを認識していたにすぎず,当該企画自体が明確に確定していたわけではないことからすれば,原告が編集後の放送番組の内容を認識していたと認められないことはもちろん,どのような方針で編集がされるかも認識していなかったと認められることから,原告が,放送番組の企画が検討されていることを知りながら何らの異議を述べなかったとしても,補助参加人又はオスカ企画が本件映像を編集することにつき,原告が承諾していたと認めることはできない。
したがって,被告らの前記主張は,採用することができない。
b また,被告らは,本件DVテープが膨大な量であることからすれば,これを編集することは,著作物の利用の目的及び態様に照らしてやむを得ない改変に該当する(著作権法20条2項4号)と主張する。
しかしながら,本件映像は,元々,公表することや放送番組に利用することを予定して撮影されたものではなく,また,本件作品1及び2並びに本件DVDを作成するために,合計約25時間に及ぶ本件映像を取捨選択して,約46分間の映像に編集していることからすれば,このような編集行為が「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ない」改変に該当すると認められないことは,明らかであり,被告らの前記主張は,採用することができない。
したがって,本件映像を編集した本件DVDを作成することは,原告の本件映像についての同一性保持権を侵害すると認められる。そして,前記ア()のとおり,本件DVDは,被告が販売する商品として企画・制作され,本件DVDに被告の名義のみが表示されて販売されていることからすれば,被告においても,同一性保持権を侵害する行為を行ったものと認めることができる。
ウ このほか,被告は,本件DVDにつき,補助参加人が編集著作物として著作権を有すると主張する。
しかしながら,仮に,本件DVDが編集著作物として認められるとしても,そのことは,編集物の部分を構成する本件映像の著作者である原告の権利に影響を及ぼすものではないから(著作権法12条2項),被告の主張は,主張自体,失当である。
(3) よって,被告は,原告の,本件映像についての著作権(複製権)及び著作者人格権(公表権,氏名表示権及び同一性保持権)を侵害したものと認められる。
()
⑵ 精神的損害について
本件DVDは,撮影者として原告の氏名を表示せず,かつ,原告に無断で,本件映像に編集を加えた上で,発売されたものであって,本件映像の著作者である原告の著作者人格権(公表権,氏名表示権及び同一性保持権)を侵害するものである。
そして,前記(1)のとおり,原告は,ピーエスジーとの間で本件映像を利用したDVDの販売を検討していた矢先に,被告が運営する100円ショップ「ダイソー」で本件DVDが販売されたということからすれば,原告が受けた精神的苦痛は,相当なものであると認められる。他方で,被告は,原告からの通告後,いったんは本件DVDの販売を継続する姿勢を示したものの,前記のとおり,平成20年2月4日付けで本件DVDの販売中止を指示しており,補助参加人においても,原告からの通告後,本件DVテープを原告に交付していること,原告においても,本件映像を撮影するためのDVテープや機材を無償で供与を受け,かつ,自らも映像制作会社であるオスカ企画及び補助参加人の意向を何ら考慮することなく,ピーエスジーとの交渉を進めていたこと等も考慮すれば,前記の原告の著作者人格権を侵害したことに対する慰謝料としては,100万円が相当である。