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著作権判例セレクション

市議会広報誌用原稿の編集行為が問題となった事例

平成28520日大阪高等裁判所[平成28()25]
(注) 原審における本件は,岩出市議会議員である控訴人が,被控訴人に対し,岩出市議会は,控訴人が市議会広報誌「いわで議会だより」用に提出した原稿を,控訴人に無断で編集して上記広報誌に掲載し,控訴人の著作権を侵害したと主張して,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として,所定の金員の支払を求める事案である。原審は,控訴人の請求を棄却したところ,同人が,控訴を申し立てた。

1 当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。
その理由は,当審における控訴人の補充主張に対する判断を後記2に付加するほかは,原判決…に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 改変に対する控訴人の同意の有無について
控訴人は,本件原稿の提出に当たり,控訴人の了解なしに編集が加えられることに同意していない旨主張する。
そこで検討するに,前記1で引用した原判決…のとおり,広報委員会の控訴人に対する本件通知文においては,文字数等を具体的に指定した上で,「文字数の超過や写真・タイトル等のスペースが確保されていない場合は,委員会で校正をします。(句読点,段落等の構成も含む。)ので,あらかじめご了承ください。」との記載がある。申し合わせ事項の内容が控訴人に対して拘束力を有するかの点はさておいても,控訴人は,上記の記載のある本件通知文を受け取り,それに対して,何らの留保も付することなく広報委員会に原稿を提出したのであるから,本件通知文において指定された文字数等の範囲に収めるのに必要で,かつ,原稿の記載の趣旨を変更しない範囲においては,広報委員会が提出原稿の校正を行うことにあらかじめ同意したと認めるのが相当である。そうでないとすれば,文字数等の指定を知りながらこれを超過した原稿を提出した控訴人が校正に同意しないときに,文字数等が超過したまま掲載しなければならないことになり,文字数等の指定が無意味となって不合理である。
控訴人は,議会だよりには「質問者本人が質問及び答弁の要点をまとめ,提出のあったものを各議員の責任のもとに掲載しました」,「内容等については,質問者にお問い合わせください」との記載があるから,控訴人が提出した原稿に基づく記事については,控訴人が市民からの問い合わせに対する説明責任を負っていると指摘する。しかし,原稿の記載の趣旨を変更しない範囲であれば,記事の内容についての市民に対する説明責任が原稿の提出者である議員にあることとの関係でも不都合は生じないといえるから,上記認定は左右されない。控訴人が指摘するその余の点も上記認定を左右するものではない。
(2) 本件各編集について
控訴人は,本件各編集は,本件原稿を違法に改変するものである旨主張する。
しかし,本件各編集は,前記1で引用した原判決…において説示したとおり,いずれも控訴人の同意の範囲内の編集であると認めるのが相当である。
本件編集①において,タイトル部分(大見出し)に,控訴人が記載していなかった「特例給付金の支給に関して」を付加した点については,本文1段目の小見出しには特例給付金の支給についての記載があることからすれば,原稿の記載の趣旨を変更したものであるとはいえない。
本件編集②で削除された,消費税率アップが施行される「4月からの」は周知の事実であり,本件編集⑩で削除された部分のうち,幹部会議の会議録は「市のHP等では公開していない」ことは容易に分かる事実であり,本件編集⑫で削除された,幹部会での「決定内容については,参加者から系統的に部下に周知を行っています」との点は組織として当然のことであり,これらを削除しても原稿の記載の趣旨を変更したものとはいえない。
本件編集③,⑧及び⑭は要約として相当なものであるということができ,これらの削除によって原稿の記載の趣旨は変わらない。本件編集⑤及び⑪は,前記1で引用した…に説示したとおり,いずれも誤記の訂正であると認められる。本件編集⑥及び⑦によって削除された部分並びに本件編集⑩によって削除された,幹部会議は「毎月2回程度開催しており」との部分は,いずれも,削除してもその前後の記載によって原稿の記載の趣旨は変わらないといえるものである。本件編集⑨及び⑬で削除された部分は質問の前置き部分にすぎないから,削除しても原稿の記載の趣旨は変わらない。
したがって,本件各編集は本件原稿を違法に改変するものである旨の控訴人の主張は採用できない。
3 結論
以上の次第で,当裁判所の上記判断と同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。