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著作権判例セレクション
法113条11項の適用例/著作権侵害に係る慰謝料
▶令和元年10月30日東京地方裁判所[令和1(ワ)15601]
(注 )本件は,原告が,別紙記載の写真(「本件写真」)は原告の著作物であり,被告において本件写真を複製し,ウェブサイトにアップロードして公衆送信したことにより,原告の著作権(複製権,公衆送信権)を侵害するとともに,原告の名誉又は声望を害する方法により著作物を利用する行為として原告の著作者人格権を侵害すると主張して,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,また,著作者人格権侵害につき所定の賠償金等の支払を求めた事案である。
なお、本件写真は,アダルトサイトである被告サイト上で,卑わいな画像等とともに利用されていたのであり,このような利用行為は,原告の著作者としての名誉及び声望を害する方法により著作物を利用するものである。
1 被告は,適式の呼出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しないから,請求原因事実を争うことを明らかにしないものと認め,これを自白したものとみなす。
2 そうすると,前記のとおり,原告は本件写真を製作しており,本件写真の著作者であると認められるところ,前記のとおり,被告は,本件写真を複製し,被告サイトにアップロードして公衆送信したことにより,原告の本件写真についての著作権(複製権,公衆送信権)を侵害したと認められる。また,被告の当該行為は,被告サイトにおける本件写真の使用態様に照らし,原告の名誉又は声望を害する方法により著作物を利用する行為であると認められ,原告の著作者人格権を侵害したとみなされる。
そして,前記のとおり,本件写真は,遅くとも平成30年3月17日までに複製され,被告サイトにアップロードされて公衆送信され,その後令和元年5月11日頃まで継続して公衆送信されていたと認められるから,不法行為の対象期間は,著作権侵害に係るもの及び著作者人格侵害に係るもののいずれについても,平成30年3月17日から令和元年5月11日までであると解するのが相当である。
3 以上を前提に,原告が被った損害額について検討する。
⑴ 逸失利益(著作権法114条3項)
前記の事実に加えて,証拠によれば,本件写真は,1年以上にわたり,被告サイトのトップページに大きく掲載されていたこと,本件写真がアップロードされた平成30年3月当時,原告が写真の使用許諾をする場合の使用料は,使用期間を問わず,1点当たり1万円(当初使用料)であり,原告は1点当たり税込み1万0800円を受領していたこと,当初使用料は,同年5月に1点当たり2万円に改訂され,同改訂後,原告は1点当たり税込み2万1600円を受領していたことなどに照らせば,原告が本件写真についての著作権の行使につき受けるべき金銭の額は,3万2400円と認めるのが相当である。
この点につき,原告は,当初使用料1万円を5倍し,消費税額を加えた5万4000円の損害が生じた旨主張するが,本件全証拠によっても,原告が本件写真についての著作権の行使につき受けるべき金銭の額が,上記の金額であると認めるに足りないというべきである。
⑵ 慰謝料
ア 著作者人格権侵害に係る慰謝料
前記のとおりの被告による著作者人格権侵害行為の態様,取り分け,被告サイトは,風俗店に関する掲示板に係る情報のまとめサイトであり,前記⑴のとおり,本件写真は,1年以上にわたり,そのトップページに大きく掲載されていたこと,本件写真の右下に「(省略)」と原告の氏名と整合する表示がされていたことなどに照らすと,原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は,30万円と認めるのが相当である。
イ 著作権侵害に係る慰謝料
原告は,著作権侵害に係る慰謝料をも請求するが,著作権侵害行為によって生じた損害は財産損害に対する損害賠償によって回復されるのが通常であり,前記のとおりの被告による著作権侵害行為の態様を踏まえても,著作権侵害によって金銭をもって慰謝すべき精神的損害が生じたと認めることはできない。
⑶ 内容証明郵便費用
原告は,内容証明郵便費用を損害として主張するが,本件全証拠によっても,当該費用が原告の権利を実現するために当然必要とされるものであったと認めることはできず,被告の行為と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。
⑷ 弁護士費用
本件事案の内容,審理の経過,認容額等に照らせば,被告の行為と相当因果関係のある弁護士費用は,3万円(著作権侵害に係る部分として3000円,著作者人格権侵害に係る部分として2万7000円)と認めるのが相当である。
⑸ 小括
以上によれば,原告に生じた損害は,合計36万2400円となる。
原告は,本件写真が被告サイトにアップロードされた平成30年3月17日からの遅延損害金の支払を求めるが,公衆送信が継続的な行為であることからすると,不法行為期間の終期である令和元年5月11日からの遅延損害金の支払を求める限度で理由があるというべきである。