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著作権判例セレクション

名誉権及び名誉感情の侵害を認定した事例(なりすましアカウントによるもの)

令和489日東京地方裁判所[令和4()9640]
1 証拠及び弁論の全趣旨によれば、前記請求原因事実がいずれも 認められる。
2 著作権侵害について
本件投稿 1 により投稿された被告画像は、原告が著作権を有する原告画像と同一のものと認められる。そうすると、被告は、本件投稿 1 により、原告画像を複製及び公衆送信したものといえる。
また、上記事実を含む本件各投稿の投稿内容から、被告は、原告アカウントの存在を認識していたことがうかがわれることから、当然に、原告アカウントのプロフィール画像とされている原告画像の存在を認識していたものと見られる。そうすると、被告は、原告画像の複製及び公衆送信について故意があると認められる。
したがって、被告は、原告画像に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を故意に侵害したものと認められる。
3 名誉権及び名誉感情の侵害について
(1) 同定可能性について
本件投稿 26 がされた被告アカウントには、本件投稿 1 により、原告アカウントのプロフィール画像(原告画像)と同一の被告画像がプロフィール画像として用いられていること、被告アカウントのアカウント名「D」は、原告アカウントのアカウント名「C」と対比すると、「救急医」という同じ肩書を使用しつつ、その余の文言については僅かな一部のみを変更し、殊更に原告アカウントのアカウント名に似せるように作成されたものと見られること、本件投稿 26 の内容、とりわけ本件投稿2 及び 6 が明確に原告アカウントを意識したものといえることに鑑みると、本件投稿 26 は、これらを読む者をして、原告アカウントないし原告自身を想起させるものといえる。
(2) 本件投稿 26 による名誉権及び名誉感情の侵害について
ア 本件投稿 2
本件投稿 2 は、原告アカウントの投稿に対する訴外アカウントによる「この 1 年間で『高みの見物』を極めた男」との引用ツイートに対し、「この人のキモさを表現することは不可能です」と返信したものである。このような本件投稿 2 は、原告を揶揄する文脈で投稿された上記引用ツイートに重ねて更に原告を揶揄する趣旨のものと理解される。
したがって、本件投稿 2 は、社会通念上許される限度を超えて原告を故意に侮辱し、その名誉感情を侵害するものといってよい。
イ 本件投稿 3
本件投稿 3 の投稿内容のうち、「こちらのアイコン」とする部分は、本件投稿 3において表示される被告アカウントのプロフィール画像である被告画像を指すものと理解される。もっとも、被告画像は原告画像を複製したものであるから、結局は、これは原告の肖像を意味するものといえる。本件投稿 3 では、これに続いて「尻穴と尿道を同時に攻め、恍惚の表情を浮かべているわたくしを示しています」とした上で、さらに、「その様な性癖ご趣味があると主張されている方が他にいらっしゃられるとは到底思えませんが、、」と続いている。このように全体として見ると、本件投稿 3 は、あたかも原告が稀な性癖ないし性的嗜好の持ち主であるかのごとく述べるものと理解される。
このような本件投稿 3 は、社会通念上許される限度を超えて原告を故意に侮辱し、その名誉感情を侵害するものといってよい。
ウ 本件投稿 4
() 本件投稿 4 の投稿内容のうち、「全国の痴事を震撼させるイケメン尻穴 tweet」とする部分は、被告アカウントのプロフィール画像とされている原告の肖像を指して「イケメン」と呼んだ上で、「全国の痴事を震撼させる」「尻穴 tweet」として、全国の都道府県知事と共に原告についても卑猥な言辞を用いて揶揄する趣旨のものと理解される。
したがって、本件投稿 4 は、社会通念上許される限度を超えて原告を故意に侮辱し、その名誉感情を侵害するものといってよい。
() 本件投稿 4 の投稿内容のうち、「感染対策は恐らく大勢に影響を与えないでしょう。何故、インフルエンザは特段の追加的対策なくして収束したのか説明できますか⁉️貴女が何をしようが、しまいが関係ありません🤣」とする部分は、医師であり公衆衛生の専門家でもある原告を装い、科学的根拠の乏しい新型コロナウイルスに関する医療情報を裏付けなしに、やや挑発的な言辞と共に流布するものと理解される。本件投稿 4 を注意深く観察すれば、投稿内容それ自体や被告アカウントのアカウント名等から、本件投稿 4 が原告に対する嫌悪感等をもって設けられたいわゆるなりすましアカウントによるものであることは容易に理解し得るとは思われるが、そのプロフィール画像(被告画像)が原告の肖像であることや原告・被告各アカウントのアカウント名の類似性に鑑みると、本件投稿 4 をもって原告の投稿と誤認する者はなお存在し得ると思われる。
そうすると、本件投稿 4 の「感染対策は」以下の部分は、これを読む者に、原告がそのような科学的根拠の乏しい医療情報を裏付けなく流布する医師であるとの印象を与え、原告の社会的評価を低下させるものであり、原告の名誉権を故意に侵害するものと認められる。
エ 本件投稿 5
本件投稿 5 は、被告アカウントのプロフィール画像とされている原告の肖像と合わせて考えると、原告につき、「池麺アイコン救急医」と呼んだ上で、「バカ女うけする」と評するものと理解される。「バカ女うけする」という評価は原告を嘲るものといえる上、見た目の秀でた男性を意味する「イケメン」という文言を「池麺」という漢字の当て字に置き換えることには、原告を茶化して揶揄する趣旨が込めら25 れているものと理解される。このため、本件投稿 5 は、全体として見ると、原告を甚だしく嘲弄する趣旨のものといえる。
したがって、本件投稿 5 は、社会通念上許される限度を超えて原告を故意に侮辱し、その名誉感情を侵害するものといってよい。
オ 本件投稿 6 は、訴外アカウントによる「この@(以下省略)というアカウントは、C´先生@(以下省略)のなりすましでは?」とのツイートに対する引用リツイートであるが、被告アカウントのプロフィール画像が原告の肖像であることと相まって、原告を指して、「当方は尻穴まで丁寧に洗い、恍惚の表情を浮かべているに過ぎません」と卑猥で品性に欠ける表現をしたものである。
したがって、本件投稿 6 は、社会通念上許される限度を超えて原告を故意に侮辱し、その名誉感情を侵害するものといってよい。

(3) 小括
以上によれば、本件投稿 26 は、いずれも原告の名誉権及び名誉感情を故意に侵害するものであり、原告に対する不法行為となる。
4 損害について
(1) 原告は、原告画像に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことにより甚大な精神的苦痛を受け、これに対する慰謝料は 100 万円を下らないと主張する。
しかし、原告主張に係る著作権侵害による精神的苦痛とは、被告が原告に対する嫌悪感を背景として原告を茶化し、侮辱することを目的としてあえて原告画像を使用したことによるものというのであり、結局、名誉権及び名誉感情の侵害による精神的苦痛に帰するものと理解される。
そうである以上、原告の著作権侵害それ自体による精神的苦痛を生じたと認めることはできず、これに基づく慰謝料請求権を認めることはできない。この点に関する原告の主張は採用できない。
(2) 前記認定に係る本件投稿 26 の内容並びにこれによる原告の名誉権及び名誉感情侵害の態様ないし程度に加え、これらの投稿が 1 か月足らずの期間に執拗に繰り返されていたことにも鑑みると、原告に対する名誉権及び名誉感情の侵害による精神的苦痛を慰謝するに相当な金額は、100 万円とするのが相当である。これに反する原告の主張は採用できない。
(3) 原告は、本件訴訟の提起を原告訴訟代理人に委任するにとどまらず、これに先立ち、本件各投稿の投稿者が被告であることを特定するために、ツイッター社に対する発信者情報開示仮処分命令申立て及び NTT ドコモに対する発信者情報開示請求訴訟を提起せざるを得ず、これらの手続も原告訴訟代理人弁護士を含む弁護士に委任して遂行したものである。これらの手続についても、手続を適切に遂行するために専門的知識を有する弁護士に委任することはやむを得ないといえることから、それに要した費用については、社会通念上相当な範囲において、被告による本件各投稿と相当因果関係のある損害として認めるのが相当である。
そこで、上記仮処分命令申立て及び発信者情報開示請求訴訟の提起を含む本件に表れた一切の事情を考慮すると、本件各投稿と相当因果関係のある弁護士費用は、30 万円と認められる。これに反する原告の主張は採用できない。