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著作権判例セレクション

肖像写真の改変複製行為につき、適法引用を否定した事例

平成27427日東京地方裁判所[平成26()26974]
2 争点(1)(権利侵害の明白性)について
(1) 争点(1)ア(本件写真の職務著作該当性)について
上記で認定した事実に加え,本件写真の被写体が原告の名誉会長であるA名誉会長であることを考慮すれば,本件写真がBにより個人的に撮影されたものであるとか,本件写真の撮影がBの発案で行われたものであるとは認め難い。そして,聖教新聞社は原告の一事業部門であるから,Bは,原告の業務に従事する原告の職員であり,その業務として本件写真を撮影したものといえ,本件写真は,聖教新聞社を発行者とする原告の機関誌に掲載され,原告の名義の下に公表されたものと認められる。そうすると,本件写真は,原告の発意により,原告の業務に従事する職員であったBが職務上撮影し,原告の名義の下に公表されたものと認めるのが相当であり,本件写真の著作者は,著作権法15条1項に基づき,原告であるといえる。
(2) 争点(1)イ(本件各記事の投稿による原告の公衆送信権侵害)について
本件各写真は,以下のとおり,いずれも本件写真の複製物であるから,本件各記事を本件掲示板に投稿した行為は,原告の公衆送信権を侵害するものと認められる。
ア 本件写真1及び2
本件写真1及び2(以 下,これらを 併せて「本件 写真1等」 という。)は同一の写真である。そして,証拠によれば,本件写真1等は,本件写真のうち,A名誉会長の肩から上の部分だけを切り出し,A名誉会長の額に大きさの異なる三つの目のような模様を縦に描き加えたものであると認めることができる。本件写真1等を見るに,上記のような違いはあるものの,本件写真におけるA名誉会長の表情をはっきりと確認することができることからすれば,本件写真1等からは,本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得できるものと認めるのが相当である。一方で,上記の本件写真1等における本件写真からの改変部分に,新たな創作性が付加されていると認めることはできない。したがって,本件写真1等は本件写真の複製物である。
イ 本件写真3ないし9
本件写真3ないし9(以下,これらを併せて「本件写真3等」という。)は同一の写真である(本件写真5とそれ以外の写真は縦横比が異なるが,写真としての同一性を失うまでのものとはいえない。)。そして,証拠によれば,本件写真3等は,本件写真のうち,被写体であるA名誉会長の肩から上の部分を切り出し,A名誉会長の額に大きさの異なる二つの目のような模様を縦に描き加えたものであると認めることができる。本件写真3等を見るに,上記のような違いはあるものの,本件写真におけるA名誉会長の表情をはっきりと確認することができることからすれば,本件写真3等からは,本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得できるものと認めるのが相当である。一方で,上記の本件写真3等における本件写真からの改変部分に,新たな創作性が付加されていると認めることはできない。したがって,本件写真3等は本件写真の複製物である。
ウ 本件写真10ないし14
本件写真10ないし14(以下,これらを併せて「本件写真10等」という。)は同一の写真である(本件写真10,12及び14と本件写真11及び13は縦横比が異なるが,写真としての同一性を失うまでのものとはいえない。)。そして,証拠によれば,本件写真10等は,本件写真のうち,被写体であるA名誉会長の肩から上の部分を切り出し,A名誉会長の額に目のような模様を描き加えたものであると認めることができる。本件写真10等を見るに,上記のような違いはあるものの,本件写真におけるA名誉会長の表情をはっきりと確認することができることからすれば,本件写真10等からは,本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得できるものと認めるのが相当である。一方で,上記の本件写真10等における本件写真からの改変部分に,新たな創作性が付加されていると認めることはできない。したがって,本件写真10等は本件写真の複製物である。
エ 本件写真15ないし18,20,24,26,29本件写真15ないし18,20,24,26,29(以下,これらを併せて「本件写真15等」という。)は同一の写真である。そして,証拠によれば,本件写真15等は,本件写真と同一の写真であると認められるから,本件写真の複製物である。
オ 本件写真19,22,23,27本件写真19,22,23,27(以下,これらを併せて「本件写真19等」という。)は同一の写真である。そして,証拠によれば,本件写真19等は,本件写真のうち,被写体であるA名誉会長の首から上の部分を切り出し,A名誉会長の眼鏡の部分を茶色く塗り,頬の皺に沿って赤色の線を引いたものであると認められる。本件写真19等を見るに,上記のような違いはあるものの,未だ,本件写真におけるA名誉会長の表情を確認することができるものというべきであるから,本件写真19等からは,本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得できるものと認めるのが相当である。一方で,上記の本件写真19等における本件写真からの改変部分に,新たな創作性が付加されていると認めることはできない。したがって,本件写真19等は本件写真の複製物である。
カ 本件写真21,25,28
本件写真21,25,28(以下,これらを併せて「本件写真21等」という。)は同一の写真である。そして,証拠によれば,本件写真21等は,本件写真のうち,被写体であるA名誉会長の顔の部分のみを大きく切り出したものであることが認められる。本件写真21等を見るに,上記のような違いはあるものの,本件写真におけるA名誉会長の表情をはっきりと確認することができることからすれば,本件写真21等からは,本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得できるものと認めるのが相当である。一方で,上記の本件写真21等における本件写真からの改変部分に,新たな創作性が付加されていると認めることはできない。したがって,本件写真21等は本件写真の複製物である。
(3) 争点(1)ウ(権利制限事由がないこと)について
原告は,本件において,著作権法が規定する権利制限事由はないと主張するのに対し,被告は,本件各記事中の一部の記述(本件記事1ないし7,11,13,29に記載の記述)が,原告ないしA名誉会長に対する意見,批評に当たり,本件各写真はその対象であるA名誉会長を明示するために必要な資料として掲載されたものであるとして,本件各記事における本件各写真の掲載行為が著作権法32条1項の引用に該当する余地があると主張する。
しかし,上記2で認定したとおり,本件写真1ないし7,11,13に掲載された写真には,本件写真の被写体であるA名誉会長の額に,一つないし三つの目のような模様が描き加えられていることからすれば,このような写真の掲載が,被写体であるA名誉会長に対する意見,批評のために,正当な範囲内で行われたものであると認めることはできない。また,上記2で認定したとおり,本件写真29は本件写真と同一であるものの,本件記事29の「創価学会は永遠に不滅です。2014年も素晴らしく大活躍することは魔違いないでしょう」との記述が,原告やA名誉会長に対する意見,批評に当たるとか,この記述のために本件写真29を掲載することが必要であったと認めることはできない。そして,本件各写真のうち上述したもの以外の写真については,被告において,その掲載が引用に当たることについて,具体的な主張をしておらず,これらの写真の掲載が引用に当たると認めることはできない。
したがって,本件各写真の掲載が著作権法32条1項の引用に当たる余地があるという被告の主張は,採用することができない。
(4) 以上によれば,本件各記事の投稿により原告の権利が侵害されたことは明白である。