Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
【編集著作権・データベース著作権の侵害性】「タウンページデータベース」及び「タウンページ」の侵害性が問題となった事例
▶平成12年3月17日東京地方裁判所[平成8(ワ)9325]
(注) 本件は、原告が、自ら作成したデータベース(「タウンページデータベース」)及び職業別電話帳(「タウンページ」)には、それぞれデータベースの著作権及び編集著作権が認められるところ、被告によるデータベース(「業種別データ」)の作成及び頒布が、原告の右各著作権を侵害するものであると主張して、被告に対し、業種別データの作成及び頒布の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めた事案である。
二 争点1(一)について
1(一) 前記で認定した事実、証拠及び弁論の全趣旨によると、タウンページデータベースには、約1800の職業分類が存するところ、このうち、業種別データにおいても同一の職業範囲を包摂する職業分類として用いられている100の職業分類(ただし、タウンページデータベース上で「装てい」とされている職業分類は、書籍の装丁を行う業種を意味するものであるが、業種別データにおいては「装蹄業」とした上で、タウンページデータベースと同じ電話番号情報が分類されている。)が設定された理由は、別紙「タウンページデータベースにおける各職業分類が設けられた理由」記載のとおりであることが認められる。
(二) 証拠によると、タウンページデータベースの職業分類は、日本標準産業分類の分類項目とは大きく異なっており、タウンページデータベースの特定の職業分類が、日本標準産業分類の分類項目中の一つの細分類と同一の職業範囲を包括することはほとんどないものと認められる。また、その他、タウンページデータベースの職業分類体系と同様の職業分類体系が存するとは認められない。
(三) 前記のとおり、タウンページデータベースの職業分類は、右(一)記載の100の職業分類を含む職業分類を小分類として、複数の小分類を包摂する中分類、さらに複数の中分類を包摂する大分類の三層構造となっている(別紙タウンページデータベース職業分類一覧表参照。)。
(四) 前記の事実と右(一)ないし(三)の事実を総合すると、タウンページデータベースの職業分類体系は、検索の利便性の観点から、個々の職業を分類し、これらを階層的に積み重ねることによって、全職業を網羅するように構成されたものであり、原告独自の工夫が施されたものであって、これに類するものが存するとは認められないから、そのような職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類したタウンページデータベースは、全体として、体系的な構成によって創作性を有するデータベースの著作物であるということができる。
2 前記のとおり、原告の担当者は、タウンページデータベースの職業分類に個々の電話番号情報を当てはめるために、掲載者から取扱商品や事業内容についての情報を聴取していることが認められ、証拠によると、右聴取には、一定の技術や経験が必要であると認められるが、右のあてはめの過程は掲載するかどうかを選択するものではないこと、タウンページデータベースの職業分類は、前記のとおり1800にわたって細かく分かれているから、いずれの職業分類に入れるかの選択の幅は小さいものと考えられ、右の技術や経験も主として個々の掲載者の事業の内容をいかに正確に把握するかという事実認定に関するものであると考えられることからすると、右のあてはめの過程に情報の選択又は体系的な構成について創作性が存するとは認められない。
また、前記のとおり、原告は、利用者による検索の利便性の観点から、掲載名等について、前記…のような配慮をしているものと認められるが、これらのものは、電話番号情報に関する職業別のデータベースとして利用者に提供する以上、当然にすべき配慮であると考えられるから、特に創作的なものとは認められない。したがって、右のような配慮をもって、情報の選択又は体系的な構成について創作性が存するとは認められない。
3 さらに、原告は、タウンページデータベースについて、随時見直しを行っていること及びキーワードの設定やデータの表記に関する工夫を、データベースの著作物としての創作性の根拠として主張するが、随時見直しを行っていることは、具体的な内容にかかわらずそのことのみでタウンページデータベースが情報の選択又は体系的な構成により創作性を有するということができないことは明らかであり、また、右のキーワードの設定やデータの表記に関する工夫については、これを具体的に示す証拠は存在しないから、このような工夫によって、タウンページデータベースが情報の選択又は体系的な構成により創作性を有するとも認められない。
4 以上のとおり、タウンページデータベースは、職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類した点において、データベースの著作物と認められるというべきである。
三 争点1(二)について
1(一) 前記認定のとおり、業種別データは、タウンページデータベースから職業分類及び電話番号情報を取り込んで作成されたもので、その職業分類は、タウンページデータベースの職業分類及びそこに掲載されている電話番号情報を、職業分類名も含めてそのまま職業分類及び電話番号情報とするもの、タウンページデータベースの職業分類及びそこに掲載されている電話番号情報はそのままであるが、職業分類名の表現のみを変えたもの、タウンページデータベースの複数の職業分類をまとめて一つの職業分類とし、右の複数の職業分類に掲載されている電話番号情報を掲載して、複数の職業分類を包摂する職業分類名を付したものの三種類であって、それ以外に独自の職業分類が用いられているということはない。
(二) 業種別データのうち、タウンページデータベースの職業分類及びそこに掲載されている電話番号情報を、職業分類名も含めてそのまま職業分類及び電話番号情報とする部分並びにタウンページデータベースの職業分類及びそこに掲載されている電話番号情報はそのままであるが、職業分類名の表現のみを変えた部分は、いずれも、タウンページデータベースの創作性を有する体系的な構成がそのまま再現されているということができる。タウンページデータベースの複数の職業分類をまとめて一つの職業分類とし、右の複数の職業分類に掲載されている電話番号情報を掲載して、複数の職業分類を包摂する職業分類名を付した部分は、タウンページデータベースの創作性を有する体系的な構成をもとにしており、複数の職業分類をまとめた点を除いては、独自に分類したというようなものではないから、この部分についても、タウンページデータベースの創作性を有する体系的な構成が再現されているということができる。
(三) また、右(一)認定の事実からすると、業種別データは、タウンページデータベースに依拠して作成されたものであると認められる。
(四) したがって、業種別データは、タウンページデータベースに依拠して作成されたものであり、その創作性を有する体系的な構成が再現されているということができる。
2 前記のとおり、被告は、業種別データを作成し、その中から特定の地域、業種など、顧客の要望する単位でデータを抽出して頒布しているのであるから、このような業種別データの作成及び頒布は、タウンページデータベースの著作権を侵害するものであるということができる。
四 争点2(一)について
1 証拠及び弁論の全趣旨によると、タウンページとタウンページデータベースの職業分類及び電話番号情報は、改訂時期のずれによるもの以外は、それぞれ同じ内容であると認められる。
2 右1の事実に前記二で述べたところを総合すると、タウンページの職業分類は、検索の利便性の観点から、個々の職業を分類し、これらを階層的に積み重ねることによって、全職業を網羅するように編集されたものであり、原告独自の工夫が施されたものであって、これに類するものが存するとは認められないから、そのような職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類したタウンページは、素材の配列によって創作性を有する編集著作物であるということができる。
3 前記のとおり、原告の担当者は、タウンページの職業分類に個々の電話番号情報を当てはめるために、掲載者から取扱商品や事業内容についての情報を聴取していることが認められるが、前記二2で述べたのと同様の理由により、右のあてはめの過程に素材の選択又は配列について創作性が存するとは認められない。
また、前記のとおり、原告は、利用者による検索の利便性の観点から、掲載名等について、前記…のような配慮をしているものと認められるが、これらのものは、職業別電話帳として利用者に提供する以上、当然にすべき配慮であると考えられるから、特に創作的なものとは認められない。したがって、右のような配慮をもって、素材の選択又は配列について創作性が存するとは認められない。
4 さらに、原告は、タウンページについて、随時見直しを行っていること、タウンページ中の広告の配列、検索のための符号及び略号の使用並びに検索に適したタウンページの地域区分の設定について創作性があると主張するが、随時見直しを行っていることは、具体的な内容にかかわらずそのことのみでタウンページが素材の選択又は配列により創作性を有するということができないことは明らかであり、また、右の広告の配列、符号及び略号の使用並びに地域区分の設定については、これらの創作性に関する具体的な主張はないから、これらによって、タウンページが素材の選択又は配列について創作性を有するとも認められない。
5 以上のとおり、タウンページは、職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類した点において、編集著作物として認められるというべきである。
6 前記のとおり、タウンページは、各都道府県ごと又はさらに細分化された特定の地域ごとの電話番号情報を職業分類別に掲載した電話帳であって、全国版のものは存在しないから、タウンページの編集著作権は、右地域ごとのタウンページを単位として認められるということができる。
そして、前記のとおり、タウンページの職業分類は、地域によって異なる。
五 争点2(二)について
1 前記のとおり、タウンページの編集著作権は、各地域ごとのタウンページを単位として認められるものであるところ、前記のとおり、業種別データは、全国の電話番号情報を網羅したデータベースであり、その職業分類中には地域的特性を考慮した職業分類及び日本全国の電話番号情報が全て包含されている。
2 しかし、前記認定のとおり、業種別データは、タウンページデータベースから職業分類及び電話番号情報を取り込んで作成されたものであって、証拠及び弁論の全趣旨によると、業種別データの氏名等の具体的な表記には、タウンページと合致しないものが多数存在するものと認められるから、業種別データが、タウンページに依拠して作成されたとは認められない。
(なお、タウンページデータベースが、タウンページの第二次著作物であれば、業種別データが、タウンページデータベースに依拠して作成されたことからタウンページにも依拠して作成されたという余地があるが、タウンページデータベースが、タウンページの第二次著作物である旨の主張立証はない。)
3 したがって、業種別データの作成及び頒布が、タウンページの編集著作権を侵害しているということはできない。