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著作権判例セレクション

ゲーム内楽曲のオーケストラヴァージョン作成(譜面の作成)につき翻案権侵害を認定した事例/侵害主体論(法人格否認の法理を用いた事例)

令和498日東京地方裁判所[令和3()3201]▶令和5420日知的財産高等裁判所[令和4()10115]

1 争点 1(本件編曲行為、本件録音・複製行為、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為の主体)について
(2) 検討
ア 前提事実及び前記(1)認定の各事実によれば、被告Aは、遅くとも平成305月頃、ゲーム音楽のオーケストラ演奏、製作、販売等を企画し、これを事業として行うことを目的とする V社の設立に関与し、また、同社名義での【本件クラウドファンディングについて積極的に情報発信をして】企画実現に必要な資金の調達を図ると共に、同社の音楽監督として本件楽曲を演奏する実演家の選定に関与するなど、VGM 社の設立や本件楽曲制作の初期作業において重要な役割を担っていたということができる。
また、被告Aは、同年7月頃から、VGM 社の日本国内全権代理と称して、原告に対し、原告楽曲の使用許諾申請を行い、【本件クラウドファンディングの締切り間際の同年9月10日に原告書面1によりこれが拒否されると、特段担当者の交代等が告げられることなくVGM社の「ライセンス&CS 担当」の「B」名義で同月14日付けのVGM社書面2が被控訴人に対して送付され、その後、本件クラウドファンディングが成功して翌月には予定された録音の開始を控えた月10日に、被控訴人からVGM社の日本事務所の日本国内全権代理の控訴人Y及び「ライセンス&CS 担当」の「B」に宛てて原告書面2が送付されると、同月19日付けの「B」名義のVGM社書面3をもって、同年11月には本件楽曲の制作等に関する事業を「イスラエル法人」に移譲したことなどが被控訴人に伝えられた。その後、平成31年1月10日に至ってイスラエルで CLASSICAL社が設立され、また、VGM社のウェブサイトで告知されていた予定のとおりに同月及び同年3月に本件楽曲の録音等が控訴人Yを音楽監督として実施された後、同月27日付けで、控訴人Yは、CLASSICAL社の「代理連絡先」である「担当」として】、原告に使用許諾を申請しつつ、これに応じなければ、イスラエル著作権法に従い、使用料の支払により原告の許諾に代えさせてもらう旨を伝え、同申請も拒絶されると、【控訴人Yが代表社員を務める控訴人会社は】、CLASSICAL社のために、使用料に相当すると主張する金額を供託したというのである。このような一連の経過を全体として見ると、被告Aは、原告楽曲の使用許諾の取得又はこれに代わる制度を利用するため、当初はVGM社の名義で、後に CLASSICAL社の名義により、VGM社及びCLASSICAL社の【担当者等といった立場で、又はこれを称して】一貫して対応に当たってきたということができる。
さらに、このような対応と並行して、被告Aは、同年1月、被告会社とCLASSICAL社との間の「Recording Contract」と題する契約書を作成すると共に、原告楽曲を素材として本件楽曲の譜面の作成作業を自ら行った上、本件楽曲を演奏するピアニストの選定やピアノ演奏の録音作業を行い、同年3月にはオーケストラ演奏の指揮、録音、ミックス作業等を行った。【その上で、同年5月、CLASSICAL社、VGM社及び IL Distribution社の間で、VGM社が資金を調達し、CLASSICAL社が製作した本件CD等をCLASSICAL社がIL Distribution社に販売し、IL Distribution 社において本件クラウドファンディングの寄附者への本件CDの送付等を行うことが合意され、さらに、同年6月、本件音楽配信サイトにおいて、それら3社の名称が適宜表示されて本件楽曲の販売等がされるとともに、CLASSICAL社から担当者を記載しないで一方的に使用料の支払等を申し出る旨の書面が被控訴人に送付されたところである。このような本件楽曲の制作から本件CD等の販売に至るまでの一連の過程やそこにおける控訴人Yの役割に加え、そこに現れた4社(VGM社、CLASSICAL社、控訴人会社及び IL Distribution社)のうち少なくとも3社(VGM社、CLASSICAL社及び控訴人会社)につき、控訴人Yが、代表者、日本国内全権代理、代理連絡先などとして実質的に関与していた一方で、控訴人Y以外には、「B」という者(なお、その実在を裏付ける他の証拠はない。)を除き、上記一連の過程に上記4社の関係者として関与した自然人の存在を証拠上認めるに足りないこと】を踏まえると、被告Aは、本件編曲行為や本件録音・複製行為に係る中心的な作業を自ら行っていたということができる。
イ 以上の事情を総合的に考慮すると、被告Aは、【控訴人会社の代表者として】、VGM社社、CLASSICAL 社及び IL Distribution 社と【相互に意を通じて協力し合い、又は被控訴人の許諾の意思の有無にかかわらず原告楽曲を利用するという目的を達成するために、少なくとも VGM社及びCLASSICAL社の法人格を濫用して、IL Distribution 社と相互に意を通じて協力し合い】、本件楽曲の制作から販売に係る企画に中心的な立場において関与したものと見るのが相当である。このような観点からは、本件編曲行為については被告Aが自ら行ったものであること、本件録音・複製行為及び本件譲渡・配信行為については、被告Aが【控訴人会社との共同に加え、VGM社、CLASSICAL社及び IL Distribution 社と共同して、又は VGM 社及びCLASSICAL社の法人格を濫用した上で IL Distribution社と共同して行ったものであり、それらの行為を控訴人Y及び控訴人会社の行為に含めて評価するのが相当であること】がそれぞれ認められる。そうすると、本件輸入行為についても、被告Aが少なくとも被告会社及びVGM社等と共同して行ったものと認められる。
ウ これに対し、被告らは、本件編曲行為、本件録音・複製行為、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為を行っておらず、これらを行ったのは VGM社やCLASSICAL社であり、また、被告らが、各法人と一体となって一連の行為をしたこともない旨を主張する。
しかし、被告Aが、原告楽曲を素材として本件楽曲の譜面を作成する作業を自ら直接行ったこと、本件楽曲のオーケストラ演奏等の指揮、録音、ミックス作業等を行ったことは、当事者間に争いがない。これらの行為は、本件楽曲及び本件CD制作に不可欠な中心的な行為である。これに加え、前記認定のCLASSICAL 社の設立時期及び設立前後の経緯のほか、証拠上その代表者すら不明であり、その実態が不詳であることなど、CLASSICAL社がイスラエル著作権法に基づき原告楽曲を利用可能とするために設立された名目的な法人であることをうかがわせる事情が存在することに照らすと、本件CDにおけるCLASSICAL 社に関する表示や被告会社との間の「Recording Contract」の存在等、CLASSICAL社が本件楽曲の制作主体であることを示す形式が取られていることを考慮しても、本件編曲行為及び本件録音・複製行為は、【控訴人ら自身の行為に含めて評価するのが相当である】。
また、被告Aは、VGM社や CLASSICAL社の担当者と称し、本件楽曲の譲渡及び配信を行うために必要な措置である原告に対する原告楽曲の使用許諾申請を繰り返し行い、かつ、原告が使用許諾に応じないことを受けて、使用料に相当すると主張する金額を被告会社名義で第三者供託した。これらの行為は、本件楽曲の譲渡及び【配信が著作権を侵害するものとして差し止められること等を避けようとする行為】であり、譲渡等の主体でなければ通常行わないものといえることから、少なくとも、被告らとVGM社及び CLASSICAL社との密接な関係をうかがわせる。これに加え、VGM社の設立経緯、被告Aの氏名を連想させる代表者「B」なる表示、本件仮処分命令申立事件における被告Aの関与のほか、CLASSICAL社のみならず VGM 社の実態も不詳であることに照らすと、Amazonや本件音楽配信サイトにおいて販売者が VGM社と表示されていること等、VGM 社が本件楽曲の販売主体であることを示す形式が取られていることなどを考慮しても、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為は、【控訴人ら自身の行為に含めて評価するのが】相当である。
その他被告らが縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告らの主張は採用できない。
2 争点 2(本件編曲行為による原告の原告楽曲に係る著作権(翻案権)侵害の成否)について
(1) 前記のとおり、本件楽曲は、被告Aにより、原告楽曲を素材としてその譜面が作成されたものであるから、原告楽曲に依拠して作成されたものと認められる。
また、本件楽曲が原告楽曲の表現上の本質的特徴と同一性を有するものであることは、当事者間に争いがない。
さらに、ゲーム内で利用されている原告楽曲と基本的にオーケストラによる演奏を想定した本件楽曲との性質ないし内容等の相違に照らすと、被告Aは、本件楽曲の譜面の制作に際し、原告楽曲を、その表現上の本質的特徴との同一性を維持しつつもオーケストラ演奏に適した旋律に変更し、オーケストラを構成する楽器の選択やアレンジ手法、演奏人数等に創意工夫を凝らすことで、原告楽曲に新たな創作性を付加したものとするのが相当である。
以上によれば、本件楽曲は原告楽曲を翻案したものであり、本件編曲行為は、原告の原告楽曲に係る著作権(翻案権)を侵害するものと認められる。
(2) これに対し、被告らは、本件楽曲の譜面の作成は「検討の過程における利用」(法 30 条の 3)であることや、その作成作業が CLASSICAL社の用意した日本国外のサーバー上で行われたこと、イスラエル著作権法32条により本件編曲行為は著作権者の許諾を必要としないことなどから、本件編曲行為は原告の翻案権を侵害しない旨を主張する。
しかし、前記認定に係る原告に対する原告楽曲の使用許諾申請の経過に加え、これと本件楽曲のピアノ演奏及びオーケストラ演奏の録音作業が同時進行で行われたこと、その際に録音されたピアノ演奏及びオーケストラ演奏が本件楽曲の演奏として本件CDに収められて譲渡ないし配信されたこと、本件編曲行為は、原告楽曲の再製(複製)にとどまらず、これに新たな創作性を付加したものといえることを踏まえると、本件楽曲の譜面作成が「検討の過程における利用」として行われたものとは考え難い。
また、そもそも譜面の作成作業が日本国外のサーバー上で行われたことを認めるに足りる的確な証拠はない。その点を措くとしても、少なくとも、被告Aは、譜面の作成作業を日本国内で行なったのであるから、本件編曲行為は日本国内で行われたものと見るのが相当である。そうである以上、イスラエル著作権法の規定のいかんにかかわりなく、本件編曲行為は原告の翻案権を侵害するものといえる。
その他被告らが縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告らの主張は採用できない。
3 争点 3(本件録音・複製行為による原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(複製権)侵害の成否)について
(1) 本件録音・複製行為のうち、本件楽曲のピアノ演奏及びその録音が浜松市内で行われたことは、当事者間に争いがない。このピアノ演奏の録音は、原告楽曲の翻案である本件楽曲の表現上の本質的特徴と同一性を有する楽曲を有形的に再製する行為といえることから、本件楽曲を複製したものと認められる。
したがって、本件録音・複製行為のうち、本件楽曲のピアノ演奏及びその録音は、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(複製権。法 28 条、21 条)を侵害するものと認められる。
(2) 被告らは、本件録音・複製行為についても、「検討の過程における利用」(法 30 条の 3)として許される旨等を主張する。
しかし、本件楽曲のピアノ演奏の録音が「検討の過程における利用」として行われたものと見られないことは、本件楽曲の譜面の作成の場合と同様である。
また、本件楽曲のピアノ演奏及びその録音は浜松市内で行われたものである以上、複製行為は日本国内で行われたといえるのであって、仮にその後に関連する作業がイスラエル国内で行われたとしても(ただし、これをうかがわせる証拠はない。)、結論を左右するものではない。
その他被告らが縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告らの主張は採用できない。
4 争点 4(本件譲渡・配信行為による原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))侵害の成否)について
(1) 前記 23 のとおり、本件楽曲は原告楽曲の翻案であり、本件CDは本件楽曲の複製物である。したがって、本件譲渡・配信行為は、本件楽曲をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供するとともに、公衆送信(送信可能化を含む。)したものであり、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)。法 28 条、26 条の 2 1 項、23 1 項)を侵害するものと認められる。
(2) これに対し、被告らは、本件CDの譲渡権、送信可能化権は、レコード製作者である CLASSICAL社が専有している旨や、VGM社のTwitterアカウントおよびYouTubeチャンネルによる本件楽曲の配信は米国著作権法のフェアユースに当たり適法である旨を主張する。
しかし、仮に CLASSICAL社がレコード製作者としての権利を有するとしても、このことは、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))の有無又は権利侵害の成否を左右する事情とはいえない。また、本件譲渡・配信行為が原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)。法 28 条、26 条の 2 1 項、23 1 項)を侵害することは前記のとおりであるところ、法は 30 条以下に著作権が制限される場合や要件を具体的に定めており、フェアユースの法理に相当する一般条項の定めはない。実定法の根拠のないまま同法理を我が国において直接適用することはできない。そうである以上、米国著作権法のフェアユースに当たるか否は原告の権利侵害の成否を左右する事情とはいえない。
その他被告らが縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告らの主張は採用できない。
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6 小括(差止請求、廃棄請求及び損害賠償請求について)
前記 15 のとおり、被告らは、VGM社及びCLASSICAL社と共同して【、又は控訴人YにおいてVGM 社及びCLASSICAL社の法人格を濫用して控訴人会社とともに】、本件編曲行為により、原告の原告楽曲に係る著作権(翻案権)を侵害し、②本件録音・複製行為により、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(複製権)を侵害し、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為により、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))を侵害すると共に、原告の著作権を侵害した(法 113 1 1 号のみなし侵害)ことが認められる。
したがって、被告らは、原告の「著作権…を侵害する者又は侵害するおそれがある者」(法 112 1 項)に当たることから、原告は、被告らに対し、本件楽曲の複製、送信可能化及び公衆送信の差止請求権並びに本件CDの複製、輸入及び譲渡の差止請求権を有する。また、本件楽曲の音源を収録した媒体及び本件 CDは、「侵害の行為によつて作成された物」(同条 2 項)に当たることから、原告は、被告らに対し、その廃棄請求権を有する。
加えて、被告らは、共同して著作権侵害行為を行い、かつ、前記認定に係る著作権侵害行為に至る経緯に鑑みれば、著作権侵害について少なくとも過失があるものと認められる。したがって、被告らは、原告に対し、連帯して、原告に生じた損害を賠償すべき責任を負うものと認められる(民法 709条、719 1 項前段)。