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著作権判例セレクション

クラウドファンディングにより集めた資金を法1142項の「利益」を算定する基礎に含めるのが相当であると認定した事例

令和498日東京地方裁判所[令和3()3201]▶令和5420日知的財産高等裁判所[令和4()10115]
7 争点 6(原告の損害額)について
(1) 被告らの利益額に基づき推定される損害額(法 114 2 項)
ア 被告らの売上等の額
後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、VGM社名義で実施された本件クラウドファンディングにより同社が受領した基金の額は合計32226.55 ドル(356 万円【(1万円未満切捨て)】)であること、VGM 社名義で販売された本件CDの売上額は26400 円であること、VGM社名義で販売された本件楽曲の日本国内のダウンロード配信ないしストリーミング配信の売上額は合計1907.22ドル(200601 円【(1円未満切捨て)】)であることがそれぞれ認められる。
したがって、本件楽曲及び本件CDの販売による売上額は合計 378 7001 円となる。これに反する原告の主張は、その裏付けとなる的確な証拠を欠くことから採用できない。
なお、本件クラウドファンディングにより VGM社が受領した基金は、本件楽曲の制作等の資金に充てられることを【専らの目的として調達されたものとみられ(なお、控訴人Yは、令和2年6月20日の YouTube配信でも、VGM社の活動一般に関し、CDの売上げに係る利益で制作費を回収することは困難であるため、専ら制作費に充てるためにクラウドファンディングを利用している旨を述べていた、本件クラウドファンディングの説明においては、本件CDの作成に係るプロジェクトが実現するための目標金額が 1万5000ドル(約165万円)であり、同時に2万7500ドル(約303万円)と4万ドル(約440万円)という目標も設定し、より多くの寄附が得られた場合には収録時間を増やすことで対応する旨等が示されていたところ、前記6万円は上記目標の範囲内にあったもので、また】、対価として本件CD の配布等が予定され、実行されたものであるから、これを【法114条2項の「利益」を算定する基礎】に含めるのが相当である。これに反する被告らの主張は採用できない。
イ 本件楽曲制作等に要した経費額
後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件楽曲のオーケストラ演奏及びその録音に当たり、平成31 320日、ブダペスト交響楽団に対し、3015264円が被告会社名義で支払われたこと、被告Aのハンガリーへの出張費用として、飛行機代132134 円、駐車場代16200円及び海外旅行保険の保険料 7000円の合計155334 円が被告Aにより支払われたことがそれぞれ認められる。
したがって、本件楽曲の制作等の経費としては、合計3170598円を要したこととなる。
これに対し、被告らは、VGM社名義で送金された前払金合計32000ドルについても経費として算入すべき旨等を主張する。しかし、当該32000 ドルはいずれも「deposit」としてブダペスト音楽スコアリングスタジオ等に送金されたものであるところ、「deposit」には、「敷金」、「保証金」、「頭金」、「内金」といった意味がある。送金先とのやり取りに関する証拠がないこともあって、当該32000ドルの送金の趣旨がそのいずれであるかは必ずしも判然としない。そもそも、本件楽曲の制作等との関連性も必ずしも明確でない【(この点、控訴人らは、上記3万2000ドルの送金がいずれも本件CDの製作に係る支出であると主張するが、当該送金にはそもそも「DESCRIPTION」欄に「Suikoden」と記載されているものと「Suikoden 2」と記載されているものが混在しているところであって、本件CDの表題に照らしても、本件CDの製作との関連は不明であるといわざるを得ない。)】。そうである以上、これを経費として控除することは認められない。また、被告Aのハンガリーへの出張費用とされるもののうち、経費として認定し得る上記以外のものについては、空港等における飲食代金と見られるものや使途の判然としないものであり、これについても経費として控除することは認められない。第三者供託された供託金220931円についても、その債権者とされる原告が受領していない以上、これを経費として控除することは認められない。その他被告ら、VGM社ないしCLASSICAL社による経費として認めるべき支出は見当たらない。
ウ 被告らの利益額
以上によれば、本件楽曲等の販売による利益は、616403円(=378 7001-3170598 円)であると認められる。したがって、法 114 2 項によれば、原告の損害は 616403円と推定される。
(2) 使用料相当の損害額(法 114 3 項)
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件シミュレーションは、営利目的で第三者に頒布するために JASRACの管理する曲を複製する場合の概算使用料を算定するものであるところ、「定価明示」を「なし」、「JASRAC管理曲数」を「23」曲、「録音物製造数」を「3000」枚・個とした場合の概算使用料(税込)は、614790円となることが認められる。
また、前記認定の事実に加え、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、本件楽曲及び本件 CD(収録曲数は 23 曲である。)につき、合計3000 枚を営利目的で第三者に頒布する目的で複製したものと認められる。
JASRACの著作権管理団体としての実情等に鑑みると、原告が原告楽曲の著作権(又は本件楽曲の原著作者としての権利)の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(法 114 3 項)の算定に当たっては、本件シミュレーションの結果を参酌するのが相当である。もっとも、原告楽曲はJASRAC が管理する楽曲ではないこと、被告らは、原告が原告楽曲の使用許諾を拒絶していることを認識しながら、無許諾で本件楽曲を制作し、本件CD等を譲渡・配信したものであることから、本件は本件シミュレーションの本来的適用場面とは異なるのであって、その結果に基づかなければならない必然性はなく、著作権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、著作物の使用に対し受けるべき額は、むしろ、通常の場合に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
そうすると、原告が原告楽曲の著作権(又は本件楽曲の原著作者としての権利)の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額としては、150万円と認めるのが相当である。
イ 原告の主張について
原告は、本件シミュレーションにおいて「録音製造数」を3500枚として算定した上で、原告が受けるべき金銭の額は最低でも 【その算定額の】5倍を下らない旨を主張する。
しかし、原告がその主張の根拠とする CLASSICAL 社文書 1 は、本件楽曲と楽曲数が異なることなどからうかがわれるように、いまだ楽曲数も複製枚数も確定していない段階で示されたものに過ぎない。他方、証拠上は、複製数は 3000枚とされている。そうである以上、3000 枚を超える枚数を基礎として使用料相当額を算定することは適当でない。また、原告楽曲が JASRAC の管理する楽曲でないことなどを考慮しても、本件シミュレーションの結果を大幅に超えるその 5倍という使用料をもって相当とすべき合理的な根拠はない。
したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
ウ 被告らの主張について
被告らは、本件CDの販売価格が 17NIS585 円)であることを前提に、本件シミュレーション等の結果に基づき原告が受けるべき金銭の額は 230509 円となる旨を主張する。
本件 CD には【製作者】として CLASSICAL社が表示されると共に、メーカー希望小売価格が「17NIS」であることを示す記載がある。しかし、本件CDは、CLASSICAL社から IL Distribution 社に第一次的な頒布がされ、IL Distribution社から再販売されるという形式により販売されるものであるものの、CLASSICAL社及び IL Distribution 社の実態がいずれも不明であることなどに鑑みると、上記価格をもって算定の基礎とすることには疑義がある。実際、イスラエルでの販売実績(ないし代金額 17NIS での販売実績)を裏付ける証拠はない。他方、本件 CD は、Amazonのウェブサイトでは3300円で販売され、売上を上げていた。また、被告Aの YouTubeチャンネルにアップロードされた動画においては、VGM社又は被告Aに直接購入を申し出た者に対しては、Amazoでの販売価格より廉価で販売し得ることが告知されている。
以上の事情を踏まえると、原告が受けるべき金銭の額の算定にあたっては、定価を17NIS とするのは相当ではなく、「定価明示なし」とすることが相当である。
したがって、この点に関する被告らの主張は採用できない。
(3) 小括(損害賠償請求について)
以上より、本件における原告の損害額については、法 114 2 項に基づき推定される額及び同条3項に基づき算定される額のうち、より高額である同条3項に基づく使用料相当額150万円をもって原告の損害とするのが相当である。
また、本件事案の性質・内容、本件訴訟に至る経緯、本件審理の経過等諸般の事情に鑑みれば、被告らの著作権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、15万円とするのが相当である。