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著作権判例セレクション

デザイン会社の実績紹介等のための写真の利用につき、その許諾の有無が争われた事例/適法引用を認めなかった事例

▶令和5518日東京地方裁判所[令和3()20472]
1 争点1(承諾の成否)について
(1) 被告らは、本件各写真の高額な許諾料に鑑みれば、原告が被告会社に対し本件各写真の利用を許諾する契約(以下「本件契約」という。)には、実績紹介等のための利用を許諾する旨の合意(以下「本件合意」という。)が含まれていたと主張する。
そこで検討するに、原告が被告会社との間で本件契約を締結するに当たり、契約書を作成しなかったことは、当事者間に争いがない。そして、原告は、本件合意があったことを否定しているところ、本件契約に関して、原告と被告会社間のやり取りなど本件合意がうかがわれるような書面等は存在せず、被告らの主張を前提としても、上記合意がされた経緯、時期、場所その他の事情は、具体的には明らかにされていない。のみならず、証拠及び弁論の全趣旨によれば、別の会社に対して本件写真1の利用を許諾した際は、これに関する契約書が作成されているところ、当該契約書における本件写真1の許諾料は、本件契約における許諾料と同等のものであるのに、実績紹介等のための利用を許諾する旨の合意は存在しなかったことが認められる。
これらの事情の下においては、本件合意があったことを裏付けるに的確な証拠はなく、本件契約と同種の別件契約の内容に照らしても、本件合意があったものと認めるのは相当ではない。したがって、被告らの主張は、採用することができない。
(2) これに対し、被告らは、写真家等のクリエイターにとっても、実績紹介として写真等が使用されることにはメリットがあることなどから、広告デザイン業界においては、このような実績紹介として写真等を使用する場合には、クリエイターに利用許諾を求めない慣行が存在する旨主張する。
そこで検討するに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、本件各写真のデジタルデータに「透かし」を入れ又は写真家の名前を浮き彫りにするなどの無断複製防止措置をせずに、本件ウェブページに上記デジタルデータを掲載したものと認められるところ、同デジタルデータは、グーグルの検索サイトの画像欄その他のインターネット上に、原告の名前が付されずに広く複製等されるに至ったことが認められる。そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、実績紹介での利用につき、デザインも含めての掲載であれば格別、画像を抜き出して利用することは許容されず、また、ウェブページにおいて、PDFを閲覧できたりダウンロードできたりする場合はライセンス料金が発生する旨注意喚起するフォトエージェンシーが存在することが認められる。
これらの事情を踏まえると、少なくとも、被告会社が無断複製防止措置なく本件各写真のデジタルデータを掲載するような態様についてまで、クリエイターに利用許諾を求めない慣行が存在するものと認めることはできない。
したがって、被告らの主張は、採用することができない。
2 争点2(引用の成否)について
⑴ 著作権法32条1項は、公表された著作物は、公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することができる旨規定するところ、公正な慣行に合致し、かつ、引用の目的上正当な範囲内であるかどうかは、社会通念に照らし、他人の著作物を利用する目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の程度などを総合考慮して判断されるべきである。
⑵ これを本件についてみると、証拠 及び弁論の全趣旨によれば、本件各写真は、被告会社に対し、合計460万円で利用許諾されたものであり、商業的価値が高いものであるところ、本件各写真は、本件契約の許諾期間経過後に、本件ウェブページに掲載されたこと、本件ウェブページの右側には、画面の横幅半分以上を占める長方形の枠があり、その上部には横一列で本件各写真を含む写真が小さく表示されているところ、当該各写真のいずれか一つにカーソルを合わせると、その写真が上記長方形の枠内に拡大表示されること、当該長方形の枠の左側には、本件プロジェクトに係る新作たばこ「さくら」のデザインに込めたイメージのほか、煙草が喫われる情景を昭和初期の文士の世界に託して描いたという冊子のコンセプトが一文付されるなどの解説文が掲載されているところ、画面右側の拡大された写真の方が、画面左側の解説文よりも大きく表示されること、当該解説文は、いずれの写真が拡大表示されても同じ内容のものが掲載されており、画面右側の拡大された写真の下には、「P:A」として原告の名前が表示されていること(以上別紙本件ウェブページ目録1ないし4参照)、他方、被告会社は、本件各写真のデジタルデータに「透かし」を入れ又は写真家の名前を浮き彫りにするなどの無断複製防止措置をせずに、本件ウェブページに上記デジタルデータを掲載したところ、本件各写真のデジタルデータは、グーグルの検索サイトの画像欄その他のインターネット上に、原告の名前が付されずに相当広く複製等されるに至ったこと、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、本件各写真にカーソルを合わせた場合には、本件各写真は、左側の解説文よりも、画面右側に大きく拡大表示されており、解説文において本件各写真と関連性のある内容は、煙草が喫われる情景を昭和初期の文士の世界に託して描いたという冊子のコンセプトが一文付されるにすぎず、少なくとも商業的価値の高い本件各写真との関係上は、上記一文は本件各写真の添え物にとどまるものといえる。そして、上記認定事実によれば、本件各写真のデジタルデータには、無断複製防止措置がされず、同デジタルデータは、インターネット上に原告の名前が付されずに相当広く複製等されるに至ったことが認められる。
これらの事情の下においては、本件ウェブページには、商業的価値が高い本件各写真がそれ自体独立して鑑賞の対象となる態様で大きく掲載されており、本件各写真のデジタルデータは、無断複製防止措置がされずインターネット上に相当広く複製等されていることからすると、本件各写真の著作権者である原告に及ぼす影響も重大であることが認められる。
したがって、本件ウェブページにおける本件各写真の利用は、上記認定に係る本件各写真の性質、掲載態様、著作権者である原告に及ぼす影響の程度などを総合考慮すれば、公正な慣行に合致せず、かつ、引用の目的上正当な範囲内であるものと認めることはできない。
⑶ これに対し、被告らは、本件ウェブページ画面における解説文と本件各写真の性質及び関係性、本件各写真等の制限的表示態様、更には本件ウェブページ自体のホームページ全体における位置関係等を考慮すると、本件各写真は解説文を補う従たるものにすぎない旨主張する。
しかしながら、上記認定に係る解説文の大きさ及び内容と、本件各写真の性質及び掲載態様を比較すれば、本件各写真は、それ自体独立して鑑賞の対象となる態様で掲載されていることは、上記において説示したとおりである。
そうすると、上記認定に係る独立鑑賞の対象となる本件各写真の掲載態様及び著作権者である原告に及ぼす影響等を踏まえると、実績紹介の目的で掲載したとする被告らの主張を十分考慮しても、上記判断を左右するに至らない。
したがって、被告らの主張は、採用することができない。
⑷ 以上によれば、被告会社が本件ウェブページに本件各写真を掲載した行為は、著作権法32条1項の規定する引用に該当するものとは認められない。
3 争点3(消滅時効の成否)について
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4 争点4(取締役の責任の有無)について
前記前提事実及び前記認定事実によれば、被告会社は、デザインの企画・制作等を目的とする株式会社であり、日本たばこ産業株式会社から受託された「さくら」の小冊子を作成するために、原告から、本件各写真の利用許諾を受けたのであるから、その代表取締役である被告Bは、その職務上、原告に対し、前記認定に係る態様で本件各写真を本件ウェブページに掲載することができるかどうかを確認すべき注意義務があったものといえる。
しかるに、被告Bは、原告に容易に確認できるにもかかわらずこれを怠り、本件各写真のデジタルデータに複製防止措置を何ら執ることなく、漫然と約7年間も本件ウェブページに継続して違法に掲載し、その結果、本件各写真のデジタルデータがインターネット上に原告名が付されることなく相当広く複製等されたことが認められる。
これらの事情を踏まえると、被告Bに少なくとも重過失があったことは明らかであり、著作権の重要性を看過するものとして、その責任は重大である。
これに対し、被告Bは、本件各写真を本件ウェブページに掲載した平成19年当時、知的財産権を保護する体制の構築を主たる職務としていなかったし、当時から現在に至るまで、知的財産権の侵害を防止するための社内体制を講じてきたことなどからすれば、被告Bの職務遂行に悪意又は重過失はないと主張する。
しかしながら、被告Bが、本件ウェブページ掲載当時に知的財産権保護体制の構築を主たる職務としていなかったとしても、デザイン制作等を目的とする株式会社において、デザイン制作等に当たり著作権、肖像権その他の知的財産権を侵害しないようにする措置を十分に執ることは、取締役の基本的な任務であるといえるから、被告Bの主張を十分に踏まえても、被告Bの責任は免れない。また、原告に何ら確認することなく、本件各写真のデジタルデータが複製防止措置を何ら執られることなく本件ウェブページに7年以上も漫然と掲載されていた事情等を踏まえると、被告Bの主張立証等を十分に斟酌しても、知的財産権の侵害を防止するための社内体制が不十分であったとの誹りを、免れることはできない。
したがって、被告Bの主張は、採用することができない。
5 争点5(損害額)について
⑴ 証拠及び弁論の全趣旨によれば、ウェブページにおいて広告として写真等を使用する場合、当該使用料は、使用期間が長期になるに従って1年当たりの料金が逓減し、使用期間が5年ないし10年の場合における1年当たりの使用料は、使用期間が1年の場合の3割程度の金額となるものと認められる。そして、写真を商業目的で使用する場合と、実績紹介として非商業目的で使用する場合とでは、使用目的、使用態様その他取引の実情に照らし、その使用料は大幅に異なるものと認めるが相当であり、その他の本件に現れた事情も斟酌すると、本件契約の使用料の1割をもって、本件ウェブページの掲載につき支払うべき金銭の額に相当する額というべきである。
そうすると、弁論の全趣旨によれば本件契約に係る460万円の使用料は本件プロジェクト期間の1クール(3か月)に対するものと認めるのが相当であるから、本件各写真の本件ウェブページの掲載につき原告が受けるべき金額は、1年当たりの商業目的の使用料1840万円(460万円×4)に、掲載期間7.5年(平成19年3月から平成26年8月まで)を乗じ、更に長期逓減率である3割を乗じた上で、実績紹介としての非商業的目的であることを考慮してその1割を乗じた金額とするのが相当である。
したがって、損害額は、次の計算式のとおり、414万円になるものと認められる。
 (計算式)1840万円×7.5年×30%×10%=414万円
⑵ これに対し、被告らは、本件各写真が本件ウェブページに掲載されることは、原告のメリットにこそなれ、原告が取引機会を失うことは到底考えられないから、原告には何ら経済的な損害は生じていないと主張する。
しかしながら、本件ウェブページに掲載された本件各写真のデジタルデータは、無断複製防止措置がされずインターネット上に相当広く複製等されていることは、前記において認定したとおりである。そうすると、被告らの主張は、上記認定に係る原告に及ぼす影響を看過するものであり、上記判断を左右するに至らない。したがって、被告らの主張は、採用することができない。