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著作権判例セレクション
プログラム(株価チャート分析のためのプログラム)の創作性を認めた事例
▶平成23年01月28日東京地方裁判所[平成20(ワ)11762]
(1)
原告プログラムの著作物性について
ア プログラムとは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり,これが著作物として保護されるためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)であること,すなわち,創作性を有することが必要とされる。
前記の「争いのない事実等」と証拠及び弁論の全趣旨によれば,①原告プログラムは,Microsoft社の「Visual Studio.net」という開発ツールを使用し,「C#」というプログラミング言語によって書かれたソースコードからなるものであること,②これらのソースコードは,別紙のソースファイルに格納されており,すべてをA4サイズに印字すると,約1000頁余りの分量に及ぶこと,③原告プログラムのうち,MainForm.csの原告ソースコードは,原告プログラム全体の約4割のサイズを占め,原告ソフトで表示されるメイン画面における処理全般を行うプログラムであるところ,その中には,別紙のとおりの298の関数(321の関数中,「対照なし」のものを除いた分)が含まれていること,④原告プログラムは,パソコンを機能させて,その画面上に,その時々の株価データ等に基づいて,増田足と呼ばれる株価チャートを作成,表示するほか,増田影足,6色帯,6色分布図及び増田レシオと呼ばれるグラフ等を作成,表示するなどの多様な機能を実現する株価チャート分析のためのプログラムであることが認められる。
イ そこで,原告プログラムにおける創作性の有無について検討するに,一般に,ある表現物について,著作物としての創作性が認められるためには,当該表現に作成者の何らかの個性が表れていることを要し,かつそれで足りるものと解されるところ,この点は,プログラム著作物の場合であっても特段異なるものではないというべきであるから,プログラムの具体的記述が,誰が作成してもほぼ同一になるもの,簡単な内容をごく短い表記法によって記述したもの又はごくありふれたものである場合には,作成者の個性が発揮されていないものとして創作性が否定されるべきであるが,これらの場合には当たらず,作成者の何らかの個性が発揮されているものといえる場合には,創作性が認められるべきである。
しかるところ,原告プログラムは,上記アのとおり,株価チャート分析のための多様な機能を実現するものであり,膨大な量のソースコードからなり,そこに含まれる関数も多数にのぼるものであって,原告プログラムを全体としてみれば,そこに含まれる指令の組合せには多様な可能性があり得るはずであるから,特段の事情がない限りは,原告プログラムにおける具体的記述をもって,誰が作成しても同一になるものであるとか,あるいは,ごくありふれたものであるなどとして,作成者の個性が発揮されていないものと断ずることは困難ということができる。
ウ これに対し,被告らは,原告プログラムにおいては,画面上の構成要素を貼り付け,ボタン等を配置するために必要なプログラムなど,開発ツールであるMicrosoft社の「Visual Studio.net」によって自動生成された部分が相当の分量に及んでおり,これらの部分には創作性がないとした上で,原告プログラムのうちのMainForm.csの原告ソースコードに含まれる各関数を分析すると,別紙において☆,○又は□の印を記載したものについては,自動生成コードが相当割合を占めることから,創作性が認められない旨を主張する。
しかしながら,MainForm.csの原告ソースコードについては,そこに含まれる各関数における自動生成コードの占める割合が被告ら主張のとおりであることを前提にしたとしても,少なくとも別紙において△の印が記載された合計10の関数については,被告ら自身が汎用的でないコードからなるものであることを認めており,創作性が認められることに実質的な争いはないものといえる。
また,別紙において□の印が記載された合計164の関数についても,被告らは,自動生成コードの割合が1割程度にすぎないこと,すなわち,9割程度が自動生成コードではないことを認めているのであり,これらの関数については,少なくとも自動生成コードが相当割合を占めることを理由として創作性を否定することはできないというべきである。この点,被告らは,これらの関数について,汎用的プログラムの組合せであることを理由として創作性が否定されるかのごとく主張するが,汎用的プログラムの組合せであったとしても,それらの選択と組合せが一義的に定まるものでない以上,このような選択と組合せにはプログラム作成者の個性が発揮されるのが通常というべきであるから,被告らの上記主張は採用できない。
してみると,被告らの上記主張を前提としても,MainForm.csの原告ソースコードについては,そこに含まれる298の関数のうちの約6割(174/298)において,自動生成コードが1割以下にとどまっており,それ以外のコードは,その選択と組合せにおいてプログラム作成者の個性が発揮されていることが推認できるというべきであるから,プログラム著作物としての創作性を優に肯定することができる。
エ さらに,後記(2)イで認定するとおり,原告プログラムは,主として被告A1がその開発及びプログラミング作業を行ったものであるから,原告プログラムの内容等を最も知悉する者は被告A1にほかならないところ,それにもかかわらず,被告らは,原告プログラムの一部であるMainForm.csの原告ソースコードについて,別紙に記載した印に基づいて前記記載の程度の概括的な主張をしてその創作性を争うにとどまっており,それ以外の原告プログラムの創作性については,具体的理由に基づいてこれを争う旨の主張は行っていない。
しかも,被告A1は,その本人尋問において,自らが行った原告プログラムにおけるソースコードの記述方法について,様々な創意工夫がされていることを自認する供述もしている。
前記イ及びウで述べたことに加え,上記のような被告らの訴訟対応や被告A1の本人尋問における供述をも総合すれば,原告プログラムが,全体として創作性の認められるプログラム著作物であることは,優にこれを認めることができる。