Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
プログラム(株価チャート分析のためのプログラム)の侵害性を認定した事例/差止の射程範囲/損害額の算定例
▶平成23年01月28日東京地方裁判所[平成20(ワ)11762]
(注) 本件は,「NEW増田足」という名称の株価チャートを作成,分析するためのソフトウェア(「原告ソフト」)を顧客に提供する事業を行っている原告が,「被告ソフト」を制作し,これを複製した上で,自己のホームページ上において顧客への公衆送信を行っている被告会社及びその唯一の取締役である被告A1に対し,被告ソフトに係るプログラム(「被告プログラム」)及びこれにより表示される画面(「被告ソフト表示画面」)は,それぞれ原告ソフトに係るプログラム(「原告プログラム」)及びこれにより表示される画面(「原告ソフト表示画面」)の著作物を複製又は翻案したものであるから,被告ソフトを制作し,これを複製,販売,公衆送信する被告らの行為は,原告の原告プログラム及び原告ソフト表示画面についての著作権(複製権又は翻案権,譲渡権,公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害する旨主張し,著作権法112条1項に基づき,被告プログラムの複製,翻案,公衆送信,その複製物の譲渡の各差止めなどを求めた事案である。
1 争点1(原告プログラムについての著作権及び著作者人格権侵害の有無)について
(1)
原告プログラムの著作物性について
(略)
(2)
原告プログラムの著作者(職務著作の成否)について
(略)
(3)
複製又は翻案の成否について
ア 原告プログラムと被告プログラムの対比について
(ア) 原告プログラムと被告プログラムのうち,MainForm.csの原告ソースコードとMainForm.csの被告ソースコードとの間に,原告が別紙に基づいて主張する程度の類似性があることは,当事者間に争いがない。
すなわち,これを前提とすれば,MainForm.csの原告ソースコードとMainForm.csの被告ソースコードとは,開発ツールによって自動生成されたことが明らかな部分(MainForm.csの被告ソースコードでいえば,乙4の1頁1行目から188頁29行目までの部分)を除いた約300に及ぶ関数(被告ソースコードでは321,原告ソースコードでは298)のうち,103の関数(別紙の「類似度合」欄に◎の印が付されたもの)においては全く同一の記述内容であり,148の関数(別紙の「類似度合」欄に○又は□の印が付されたもの)においては関数等の名称に相違が見られるものの,当該関数内に記述された処理手順は同一であり,47の関数(別紙の「類似度合」欄に◇の印が付されたもの)においてはソースコードの記述に一部相違が見られるものの,処理手順等に大きな相違はないのであって,他方,両者で全く異なる表現といえる部分が,23の関数(別紙の「類似度合」欄に×の印が付されたもの)において見られるが,その量的な割合は,約300の関数に係るソースコードのうちの約5パーセントにとどまるものということができる。
(イ) さらに,上記(ア)以外の原告プログラムのソースコードと被告プログラムのソースコードとの間についても,原告が別紙に基づいて主張する程度の類似性があること,すなわち,関数等の名称に相違が見られるものの,当該関数内に記述された処理手順は同一であることは,当事者間に争いがない。
(ウ) 以上によれば,原告プログラムと被告プログラムとは,そのソースコードの記述内容の大部分を共通にするものであり,両者の間には,プログラムとしての表現において,実質的な同一性ないし類似性が認められるものといえる。
イ 依拠性について
(ア) 被告らは,「被告プログラムは,被告A1が,原告プログラムを開発した経験を参考にして開発したものであり,同一人が開発していることから両プログラムに類似する点があることは事実であるものの,被告プログラムが原告プログラムに依拠して作成されたものであるとはいえない」として,被告A1による被告プログラムの作成が,原告プログラムのソースコードのデータを基にして,これに改変を加えたものではなく,被告A1の経験に基づいて新たに作成されたものである旨を主張し,被告A1の供述中にも,これに沿う趣旨の供述部分がある。
(イ) しかしながら,被告A1の供述によれば,被告A1は,平成18年9月末に原告を退社した後も,原告プログラムのソースコードのデータを保有していたことが認められるところ,このように原告プログラムのソースコードのデータを現に保有しており,しかも,原告プログラムが自己の著作物であるとの認識を有している被告A1が,原告プログラムと類似する被告プログラムを作成するのであれば,原告プログラムのソースコードのデータをそのまま使用してこれに改変を加えていくという簡略な方法をとるのが通常であって,ことさら一からプログラムを作成する方法をとるのは,不自然なことというほかない。
また,被告会社が被告ソフトを会員となった顧客に提供して使用させる業務を開始したのは,平成19年1月ころからであり,被告A1が原告を退社してから数か月しか経っていない時期であること及び被告プログラムが格納された各ソースファイルの更新日時をみると,被告A1が原告を退社して間もない平成18年10月から12月にかけてのものが多数含まれることからすれば,被告A1は,原告を退社してから数か月程度の間に被告プログラムを完成させたものと考えられるが,このような短期間のうちに膨大な量に及ぶ被告プログラムを原告プログラムのソースコードのデータをコピーして用いることなく完成させることは,通常では考え難いことである。
しかも,上記アで述べたとおり,原告プログラムと被告プログラムとは,その記述内容の大部分が共通していることが認められるところ,いかに作成者が同一人であるとはいえ,原告プログラムのソースコードのデータをコピーすることなく,ここまで共通するプログラムを作成することは,考え難いことといえる。
更に言えば,MainForm.csの原告ソースコードとMainForm.csの被告ソースコードをつぶさに対比すると,原告が前記において指摘するとおり,MainForm.csの被告ソースコードには,明らかにMainForm.csの原告ソースコードをコピーして改変したことをうかがわせる痕跡が認められる。
(ウ) 以上を総合すれば,被告A1の上記供述は,措信し難いものというべきであり,被告A1が,原告プログラムのソースコードのデータを基として,これに改変を加えることによって被告プログラムを作成したことは,優にこれを認めることができる。
ウ 以上によれば,被告A1は,原告プログラムに依拠して被告プログラムを作成したものであり,かつ,プログラムとしての表現において,原告プログラムと被告プログラムとは実質的に同一ないし類似するといえるものであるから,被告プログラムは,原告プログラムを複製又は翻案したものであると認められる。
(4)
まとめ
ア 以上の検討結果を総合すると,原告は,原告プログラムの著作者であり,これについての著作権及び著作者人格権を有するところ,被告会社の業務として,被告ソフトを制作し,これを複製して,被告会社のホームページ上において公衆送信する被告A1の行為は,原告が原告プログラムについて有する著作権(複製権又は翻案権,公衆送信権)を侵害するものといえる。そして,被告A1が,被告会社の唯一の株主であるとともに,唯一の取締役であり,同社の業務は専ら同人が単独で行っていることからすれば,被告A1が行った上記著作権侵害行為は,被告会社の代表者としての行為(すなわち,被告会社の行為)であるとともに,被告A1個人としての行為でもあると評価することができる(以下においては,被告A1が被告会社の業務として行った行為であって,被告会社の行為であるとともに,被告A1個人の行為でもあると評価されるものを,「被告らの行為」として記述する場合がある。)。
次に,被告らは,被告ソフトの制作に当たって,原告プログラムの一部に改変を加えており,また,原告プログラムの複製物又は翻案物である被告ソフトを公衆送信するに当たって,原告プログラムの著作者である原告の名称を表示していないところ,被告らのこれらの行為は,原告が原告プログラムについて有する著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害するものといえる。
イ 原告の差止請求等の可否
以上を前提に,原告の被告らに対する各差止請求及び廃棄請求の可否について検討する。
(ア) 被告プログラムの複製の差止請求
被告らは,被告プログラムについて,記憶媒体に収納するなどの複製行為を行っているところ,原告プログラムの複製物又は翻案物である被告プログラムを複製する行為は,原告の原告プログラムに係る複製権(著作権法21条)又は翻案権(同法27条)を侵害するものといえる。
したがって,原告は,被告らに対し,著作権法112条1項に基づき,被告プログラムの複製(被告プログラムを記憶媒体に収納することを含む。)の差止めを求めることができる。
(イ) 被告プログラムの複製物の譲渡の差止め
被告らが被告プログラムを何らかの記憶媒体に収納して,これを現に保有していることは明らかであるから,被告らは,今後,被告プログラムの複製物を公衆に譲渡するおそれがあるものと認められる。
被告らが被告プログラムの複製物を譲渡する行為は,原告の原告プログラムに係る譲渡権(著作権法26条の2)を侵害する。
したがって,原告は,著作権法112条1項に基づき,被告プログラムの複製物の譲渡の差止めを求めることができる。
(ウ) 被告プログラムの公衆送信の差止め
被告らは,被告プログラムの公衆送信行為を行っているところ,原告プログラムの複製物又は翻案物である被告プログラムを公衆送信する行為は,原告の原告プログラムに係る公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害するものといえる。
したがって,原告は,被告らに対し,著作権法112条1項に基づき,被告プログラムの公衆送信の差止めを求めることができる。
(エ) 被告プログラムの翻案の差止め
原告は,被告らに対し,原告プログラムに係る翻案権に基づき,被告プログラムの翻案の差止めを求めている。
そこで,被告らが,被告プログラムの翻案行為を現に行い,又は,これを行うおそれがあると認められるか否かにつき検討するに,まず,被告らが,被告プログラムを改変する行為を現に行っているとの事実を認めるに足りる証拠はない。
また,被告プログラムを翻案する行為には,広範かつ多様な態様があり得るものと考えられる。ところが,原告の上記請求は,差止めの対象となる行為を具体的に特定することなく,上記のとおり広範かつ多様な態様を含み得る「翻案」に当たる行為のすべてを差止めの対象とするものであるところ,このように無限定な内容の行為について,被告らがこれを行うおそれがあるものとして差止めの必要性を認めることはできないというべきである。
したがって,被告らに対し,原告プログラムに係る翻案権に基づいて被告プログラムの翻案の差止めを求める原告の請求は理由がない。
(オ) 被告プログラムを収納した記憶媒体の廃棄
被告らが被告プログラムを何らかの記憶媒体に収納して,これを現に保有していることは明らかであるところ,被告プログラムが原告プログラムの複製物又は翻案物と認められることからすると,被告プログラムを収納する記憶媒体は,原告の原告プログラムに係る複製権又は翻案権の侵害行為によって作成された物といえる。
したがって,原告は,被告らに対し,著作権法112条2項に基づいて,被告プログラムを収納した記憶媒体の廃棄を求めることができる。
(カ) 以上によれば,原告の被告らに対する各差止請求及び廃棄請求は,上記(ア)ないし(ウ)及び(オ)の請求については理由があるが,上記(エ)の被告プログラムの翻案の差止めを求める請求については理由がない。
なお,本件において,原告は,原告ソフト表示画面に係る著作権及び著作者人格権の侵害についても主張するが,原告の被告らに対する各差止請求及び廃棄請求の内容は,いずれも被告ソフト表示画面についてのものではなく,被告プログラムについてのものであるから,原告ソフト表示画面に係る著作権及び著作者人格権の侵害についての原告の主張は,上記差止請求及び廃棄請求の請求原因として述べるものではないものと理解される。
2 争点3(原告の損害額)について
(1)
前記で述べたとおり,被告A1は,被告会社の業務として,被告ソフトを制作し,これを複製して,被告会社のホームページ上において公衆送信したことにより,原告の原告プログラムに係る著作権(複製権又は翻案権,公衆送信権)を侵害したものであり,また,上記侵害について被告A1に故意又は過失があったことは明らかであるところ,前記で述べたとおり,被告A1が行った上記著作権侵害行為は,被告会社の代表者としての行為であるとともに,被告A1個人としての行為でもあると評価することができるから,被告らによる共同不法行為に該当するものと解される。
したがって,被告らは,民法709条及び719条により,原告に対し,連帯して,原告が上記侵害行為によって受けた損害を賠償する義務がある。
(2)
そこで,被告らの著作権侵害行為によって原告が受けた損害の額について検討するに,原告は,著作権法114条1項ないし3項の規定に基づいて算定される額をもって原告の損害額とすべき旨を主張するので,以下,これらの規定に基づいて認定することができる原告の損害額について判断する。
ア 著作権法114条1項による損害額について
原告は,平成19年1月19日から平成22年10月18日までの期間において,①被告らによる被告ソフトの公衆送信が受信されることにより作成された著作物の本数が320本であること,②被告らの侵害行為がなければ原告において顧客に提供することができた原告ソフトの単位数量当たりの利益額が,原告ソフトの月額使用料1万3000円の6か月分である7万8000円に約20パーセントの利益率を乗じた1万5000円であることを前提として,著作権法114条1項によって算定される原告の損害額は480万円である旨を主張する。
しかしながら,原告は,上記算定の基礎となる原告ソフトの単位数量当たりの利益額について,原告の会員となって原告ソフトの提供を受けるために必要な月額の利用料金が1万3000円であることを示す原告のホームページの記載を証拠として提出するものの,原告ソフトを提供する業務に係る原告の利益率を示す証拠を何ら提出しておらず,これを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告の著作権法114条1項に基づく損害額についての主張は,その基礎となる原告ソフトの単位数量当たりの利益額についての立証がないから,これを認めることはできない。
イ 著作権法114条2項による損害額について
被告会社が,平成19年1月から平成20年3月までの間に,被告ソフトをそのホームページ上において会員に公衆送信して使用させるなどの業務によって得た会費収入の合計が697万2000円であることは,当事者間に争いがない。
また,被告会社において,上記業務のために平成19年1月から平成20年3月までの間に要した経費については,被告らの主張によると,①宣伝費211万2850円,②固定経費合計376万0500円(データ使用料月額10万5000円,回線使用料月額3万5700円,電気代月額3万円,自宅兼事務所の賃料のうちの事務所相当分月額8万円)及び③サーバー機材費100万円の合計687万3350円とされるところ,このうち,上記①及び②の各経費に係る主張については,いずれも上記業務の内容に照らし経費として特に不合理な費目とはいえず,また,それらの金額についても,その支出等を裏付ける証拠が存在することからすれば,これを認めることができるというべきであり,その認定を覆すに足りる証拠もない。
そうすると,上記③の経費が認められるか否かにかかわらず,被告会社が,平成19年1月から平成20年3月までの間に,被告ソフトをそホームページ上において会員に公衆送信して使用させるなどの業務によって得た利益の額は,会費収入の合計額697万2000円から,上記①及び②の各経費の合計額587万3350円を控除した109万8650円を上回らないものといえる。
そうすると,著作権法114条2項によって推定することができる原告の損害額は,後記ウで述べるとおり,同法114条3項の使用料相当額として認められる金額を上回らないことが明らかであるから,原告の著作権法114条2項に基づく損害額の主張は,採用の限りではない。
ウ 著作権法114条3項による損害額
(ア) 被告会社が,平成19年1月から平成20年3月までの間に,被告ソフトをそのホームページ上において会員に公衆送信して使用させるなどの業務によって得た会費収入の合計が697万2000円であることは,当事者間に争いがない。
原告は,上記のとおり,被告会社の平成19年1月から平成20年3月までの15か月間における会費収入が697万2000円であることから,697万円2000円を15で除した46万4800円を1か月当たりの会費収入と捉え,これに,平成19年1月から平成22年8月までの月数である44か月を乗じた2045万1200円をもって,同期間における被告会社の会費収入と推計される旨を主張する。
しかるところ,原告が主張する上記推計方法は,被告会社の平成20年4月以降の会費収入に関する証拠が被告らから提出されない現状の下においては,やむを得ない推計の方法であって,一応の合理性が認められるものということができる。しかも,証拠によれば,平成22年8月23日時点における被告会社の会員数は,6か月会員が47名,1年会員が43名,それ以上の長期会員が17名の合計107名であること,6か月会員の会費は3万円(月額換算で5000円),1年会員の会費は5万円(月額換算で4167円)であることが認められるところ,これを前提とすれば,被告会社における平成22年8月当時の1か月当たりの会費収入は,上記推計に用いられた1か月当たりの会費収入46万4800円を上回ることとなる(仮に,長期会員17名の月額換算の会費を3500円とすれば,上記107名の会員から得られる1か月当たりの会費収入は47万3681円となる。)から,この点からも上記推計方法の合理性が裏付けられる。
したがって,被告会社が,平成19年1月から平成22年8月までの間に,被告ソフトをそのホームページ上において会員に公衆送信して使用させるなどの業務によって得た会費収入の合計は,原告が主張するように,2045万1200円と認められる。
(イ) そこで,上記会費収入を前提として,原告が原告プログラムについての著作権の行使につき受けるべき金銭の額(使用料相当額)を算定するに,①社団法人発明協会発行の「実施料率【第5版】」に記載されたソフトウェアを含む「電子計算機・その他の電子応用装置」の技術分野における外国技術導入契約において定められた実施料率に関する統計データによれば,平成4年度から平成10年度までのイニシャル・ペイメント条件がない契約における実施料率の平均は33.2パーセントとされ,特にソフトウェアにおいて高率契約の割合が高いとされていること,②原告プログラムは,原告において,多大な時間と労力をかけて開発されたものであり,かつ,原告の業務の中核となる重要な知的財産であって,競業他社にその使用を許諾することは,通常考え難いものであること,③他方,証拠によれば,被告会社においては,その会員に対し,被告ソフトを公衆送信して使用させることのみならず,被告会社が野村総研から購入した株価や銘柄に関するデータに種々の処理を施したものを提供するサービスや会員に対して電子メールで種々のアドバイスを送信するメールサービスも行っていることから,会員から得られる会費の中には,これらのサービスに対する対価に相当する部分も含まれており,本来,上記会費収入の全額が実施料率算定の基礎となるものではないことといった事情のほか,原告ソフト及び被告ソフトの内容,被告らによる侵害行為の態様及びそれに至る経緯,原告と被告らとの関係など本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば,被告らによる平成19年1月から平成22年8月までの著作権侵害について,原告が受けるべき使用料相当額は,上記(ア)の会費収入合計額2045万1200円の約10パーセントに当たる200万円と認めるのが相当である(なお,被告らによる著作権侵害について,原告が受けるべき使用料相当額は,原告の原告ソフトの表示画面に係る著作権侵害の主張が認められる場合でも,上記金額を超えるものとはいえない。)。
(3)
弁護士費用
被告らの前記(1)の著作権侵害と相当因果関係のある弁護士費用相当額は,前記(2)ウで認定した200万円の10パーセントに当たる20万円と認められる。
(4)
以上によれば,原告は,被告らに対し,被告らの著作権侵害行為によって受けた損害の賠償として,前記(2)ウ及び(3)の合計額である220万円及びこれに対する被告らに訴状が送達された日の翌日であることが記録上明らかな平成20年5月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。
3 争点4(謝罪広告請求の可否)について
原告は,被告らによる著作権侵害によって原告の営業上の信用が毀損された旨及び著作者人格権侵害によって原告の名誉,声望が毀損された旨を主張し,これらの回復のためには,被告らによる謝罪広告が必要であるとして,被告らに対し,著作権法115条又は民法723条に基づく謝罪広告の請求をする。
しかしながら,まず,原告が,被告らによる被告ソフトの制作及びその公衆送信等によって原告の営業上の信用が毀損されたことを示す具体的な事実として主張するのは,原告の顧客から,原告ソフトと同じものが廉価にて販売されているなどの苦情や問い合わせが寄せられるようになったとの事実であるところ,この点については,原告の従業員であるA3が,「どちらが本物なのかという問い合わせが本当に多くありました」などと抽象的に述べるのみであり,どのような内容の苦情等が,どの程度の期間にわたって,どの程度の頻度であったのかなどの具体的な状況が明らかではなく,結局のところ,原告に現実にどの程度の信用毀損の被害が生じたのかについては,証拠上これを明確に認定することはできない。
また,原告は,被告らの著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)の侵害によって原告の名誉,声望が毀損された旨も主張するが,いかなる内容の名誉,声望が,どのように,どの程度侵害されたのかについては,明確な主張も立証もない。
以上を前提とすれば,本件においては,原告が主張する営業上の信用あるいは名誉,声望を回復するために,金銭賠償だけでは足りず,被告らによる謝罪広告までもが必要であることについて,十分な主張,立証があるとはいえず,謝罪広告を命ずべき必要性を認めることはできない。
したがって,被告らに対し,著作権法115条又は民法723条に基づいて謝罪広告を求める原告の請求は理由がない。