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著作権判例セレクション
【著作権侵害総論】スポーツゲームのアイディアの侵害性が争点となった事例
▶平成13年12月18日東京地方裁判所[平成13(ワ)14586]▶平成14年4月16日東京高等裁判所[平成14(ネ)605]
2 争点(1)について
著作権法は,著作物について,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)であることを定めているから,表現を離れた単なるアイディアは著作物とはいえず,著作権法上の保護の対象とはならない。
しかるところ,原告アイディアは,「スーパードリームボール」というスポーツについてのアイディアであって表現ではないから,原告アイディアを著作物ということはできない。
原告は斬新なアイディアは著作物というべきであると主張するが,アイディアがいかに独創的であったとしても,アイディアにすぎない以上,著作物たり得ないことに変わりはないから,原告の主張は採用できない。
3 争点(2)について
(1) 本件映画が原告手紙又は原告小説を翻案したものといえるかどうかについて以下判断する。
ア 原告手紙の前半には,スーパードリームボールのルールが記載されており,競技を行うコートは透明のバンクを有していること,ローラースケートをはき,プロテクターをつけた選手が,ハンドボール型のゴールにボールをシュートすること,ボールはピンボールのように跳ね,バウンドすると異常なスピードになり,回転を与えると大きく変化すること,選手はノーバウンドでパスを受けたらバウンドパスを,バウンドパスを受けたらノーバウンドでパスを9秒以内にしなければならないこと,ゴール前10メートルはキーパーゾーンであり,原則としてゴールキーパー以外の選手は入れないこと,コートのバンクを用いてジャンプし,二回転宙返り等回転しながらシュートすること,コートの壁には7つの穴からなるワープゾーンがあり,そこにボールが入ると床下の管を通り不特定の穴から出てくること等が記載されている。
原告手紙の後半には,2チームが対戦する騎馬戦のようなゲームのルールが記載されており,本城王が崩れればゲームが終わること,チームの構成は,兜をかぶった本城王1人,支城王2人,発泡スチロールの棒を持ったサムライ,槍隊,武器を持たない鉄砲,足軽からなること,旗を取ると戦力が増えること,各部隊は本城王又は支城王の指令で戦うこと等が記載されている。
原告小説は,「黙示スポーツ女」の選手でU大キャプテンである木森が,隣に引っ越してきた真理屋という女性と親しくなるが,木森はケイリン激突レースというギャンブルに熱中し,御扉という真理屋の昔の恋人に対する誤解もあって,真理屋とうまくいかなくなる。そして,U大とZ大の決勝の日,木森を試合に出そうとしないU大の監督がZ大に買収されていた事実が露見し,木森がリーダーシップに目覚め,チームメイトを引っ張り,捨て身の攻撃でZ大を追い上げるが,1点差で惜敗する。その頃,真理屋は,木森を諦めて引っ越そうとしていたが,その日の真夜中までと決めて待っているところへ木森がチームメイトと共に真理屋を訪ねるというストーリーであり,その中で,スーパードリームボール,将棋スポーツ,黙示スポーツ女,ケイリン激突レース,ドッチバスケットボール等のスポーツが説明されている。スーパードリームボールの説明は,原告手紙の前半の説明と同じである。将棋スポーツ(上級編)の説明としては,ボールは,足で触れてもよいが,ドリブルをしてはならず,ボールを持って2歩以上歩いたり,2秒以上持っていてはいけないこと,サッカー型ゴールにボールを体ごとタッチする又はシュートすることによって得点すること,ゴールが動くこと,ゴールキーパーがいて,各選手に指示を出すこと等が記載されている。将棋スポーツ(初心者編)の説明としては,ラグビーボールを使用すること,ボールを蹴ることはできないが,手でどの方向にもパスすることができ,タックルされるとボールを2秒以内に離さなければならないこと,サッカー型ゴールにシュートすることによって得点すること,ゴールが動くこと,ゴールキーパーがいて,各選手に指示を出すこと等が記載されている。黙示スポーツ女の説明としては,基本的には将棋スポーツ(初心者編)と同じであるが,14名の選手のうち4名の選手がエンジン付きローラースケートをはいていると記載されている。ケイリン激突レースは,高いブロックの壁がつながったコースで行われる競輪で,2つの違う場所から同時にスタートするので,十字路などで激突すると説明されている。ドッチバスケットボールは,ドッチボールとバスケットボールを合わせた球技であると説明されている。
イ (証拠)並びに弁論の全趣旨によると,本件映画は,平成10年に,米国法人であるNEW STAR MEDIA,INC.が制作した邦題「デス・ゲーム2025」という映画(原題「FUTURE SPORT」)であること,その内容は,近未来SFに,恋愛物語及び友情物語の要素を織り交ぜたものであること,ストーリーは,2025年の近未来を舞台として,「フューチャースポーツ」と呼ばれる近未来スポーツのスター選手である主人公ラムジーが,同人を敵視するHLO(ハワイ解放機構)と対立する中で,HLOは米国ハワイ州の独立を掲げて過激なテロ行為に走り,戦争が勃発しようとしていたが,ラムジーはこれをフューチャースポーツの試合によって解決することを提案し,チームメイトや友人の助けで,HLOの妨害を乗り越えて試合に勝利し,平和的解決を実現する過程で真実の愛や友情に目覚めるというものであること,フューチャースポーツは,5人の選手からなるチーム同士がシュート(1点)及びスラムダンク(3点)によって獲得したスコアを競うホッケーにラフファイトを加えたようなスポーツであり,選手はバンクを有するコート内で,飛遊する未来型スケートボード又はローラースケートに乗り,プロテクターを着け,棒を持ち,中央の装置から打ち出されるボールをパスでつなぐなどして(ボールは5秒以内にパスしないと電流が流れてスパークする。),ボール大の穴があいた円形のゴールに,バンクを利用したジャンプをするなどしてボールを投げ入れてシュートするスポーツとして描かれていることが認められる。
ウ 上記認定の事実によると,原告手紙及び原告小説と本件映画には,共にボールを用いたスポーツが表現されている部分があり,そのスポーツについては,バンクを有するコートで行うこと,選手がローラースケートをはいてプロテクターを着けていること,一定時間内にパスしなければならないこと,バンクを利用したジャンプをするなどしてシュートすることといった共通点があることが認められるが,その限度では,ゲームの内容又はアイデアが共通しているにすぎない。原告手紙及び原告小説と本件映画は,上記以外の主題,ストーリー展開,登場人物の性格付け,作品の性格のすべてにおいて相違し,ボールを用いたスポーツの表現についても,ボール保有の具体的ルール,ボール自体の性状,パスの細かなルール,ゴールの形状・大きさ・移動の有無,キーパーゾーンの有無,ワープゾーンの有無等において相違していることが認められる。
以上によると,原告手紙及び原告小説と本件映画は表現として異なっているから,本件映画の表現から,原告手紙及び原告小説の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件映画が原告手紙又は原告小説を翻案したものということはできない。
(2) 本件映画は映画の著作物であり,原告手紙及び原告小説は言語の著作物であるから,被告の行為が原告の複製権を侵害することはない。
被告は,本件映画を録画したビデオテープを販売しているものの,それを公に上映しているわけではなく,また,上記認定によると,本件映画を録画したビデオテープの再生は,原告手紙又は原告小説の上映とは認められないし,原告手紙又は原告小説の二次著作物の上映とも認められないから,被告の行為が原告の上映権を侵害することはない。
(3) よって,被告が原告手紙及び原告小説の著作権を侵害しているとする原告の主張はすべて理由がない。
[控訴審同旨]
第2 事案の概要
本件は、控訴人が、被控訴人の平成10年ころから販売している「デス・ゲーム2025」と題する映画(「本件映画」)を録画したビデオテープ(「本件ビデオテープ」)において、「スーパードリームボール」と称する控訴人が平成8年9月4日ころに創出したスポーツゲームのアイデア(「原告アイデア」)、原告アイデアを記載した日本テレビ株式会社宛て同日付け内容証明郵便(「原告手紙」)及び「黙示スポーツ女」と題する控訴人の創作した小説(「原告小説」)が使われており、本件映画は原告アイデア、原告手紙及び原告小説を複製又は翻案したものであると主張し、被控訴人が上記ビデオテープを販売することは控訴人の著作権(複製権、本案権、上映権)を侵害する行為であるとして、金1000円の支払いを求めた事案である。
(略)
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり補足するほか、原判決の事実及び理由のとおりであるから、これを引用する。
(1) 控訴人は、原告アイデアは独創的なものであるから、著作物として著作権で保護されるべきであると主張するが、著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)と定義することによって同法による保護の対象を限定しているから、「表現したもの」という域に至らないアイデアそれ自体は著作権で保護されるものではない。これは、アメリカ法においても同様である。この点に関し、表現を離れた単なるアイデアは著作物とはいえず、著作権法上の保護の対象とはならないとした原判決の判断に誤りはない。
(2) そして、原判決は、原告アイデアを記載した原告手紙及び原告小説に基づいて、原告手紙及び原告小説に表現された創作物と本件映画とを対比検討したうえ、両者は、共にボールを用いたスポーツが表現されている部分があり、そのスポーツについては、ゲームの内容又はアイデアにおいて一部共通する点が認められるものの、それ以外の主題、ストーリー展開、登場人物の性格付け、作品の性格のすべてにおい相違し、ボールを用いたスポーツの表現についても多くの点において異なっているから、著作権(翻案権)侵害は認められないと判断したものである。控訴人の著作権侵害の主張は、ゲームのアイデアにおける共通性ないし類似性を主張しているもので、表現における類似性を主張するものではないと認められるのであり、原告手紙及び原告小説について、著作権侵害の成立を否定した原判決の判断理由及び結論は、著作権法の規定及び本件全証拠に照らし、正当としてこれを是認することができる。
(3) また、複製権及び上映権の侵害に関する控訴人の主張についても、原判決の説示と同一の理由により、これを認めることはできない。
2 以上のとおり、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当である。よって、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。