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著作権判例セレクション
写真の包括的利用許諾を認定した事例
▶平成25年7月19日東京地方裁判所[平成23(ワ)785]▶平成25年12月25日知的財産高等裁判所[平成25(ネ)10076]
[控訴審]
(3)
本件写真に係る著作権の譲渡の有無(争点1-3)及び包括的利用許諾の合意の有無(争点1-4)について
ア 上記引用に係る原判決認定の事実,証拠及び後記括弧内記載の各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(略)
ウ 以上によれば,第1審原告は,平成16年頃から平成22年7月中旬頃までの間は,補助参加人との間で,補助参加人の依頼により撮影した写真に関する権利は全て補助参加人に譲渡するとの,いわゆる買取りの合意の下に,補助参加人から依頼されて多数の写真を撮影してその収入を得ていたものと認められ,このような包括的な合意があったことは,第1審原告が,撮影した写真フィルムについても,補助参加人に渡したままその利用を委ねていたことや,その後,多数回にわたり,その写真が二次利用され,別の書籍等が出版されることになっても,第1審原告が,事前の承諾を求めることもなく,二次利用の利用料の支払もなく,かつ当該書籍が出版されていることを知っていたものと推認される立場にありながらも,上記期間内は何らの苦情を述べてきていないとの事実とも符合するものである。
もっとも,この包括的合意の趣旨が,写真の著作権の補助参加人への譲渡であるか,それとも将来の補助参加人ないし他社による書籍出版その他における二次利用も含めた包括的許諾であり,その対価については,当初の撮影時の支払によるものとするとの合意であるかについては,これが口頭による合意であり,書面による明確な合意ではないこと,及び,そのためか,補助参加人においても過去において前記のようなやや不明瞭な対応をしたこともあったことなどの事情を総合的に考慮すれば,上記包括的合意の趣旨は,著作権の譲渡ではなく,上記のような包括的許諾の趣旨であったものと認めるのが相当である。そうすると,上記期間内に撮影された本件写真の著作権についても,上記包括的合意に基づき,第1審原告から補助参加人に対し,その二次利用も含め,包括的許諾がなされたものと認められる。
(4)
よって,第1審原告の本件写真の著作権に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
2 本件写真についての著作者人格権の侵害の有無
(1)
公表権の侵害の有無(争点2-1)について
本件写真は,未公表の著作物であった。そして,前記1(3)認定のとおり,補助参加人は,第1審原告から本件写真の利用について包括的許諾を受けているのであるから,第1審原告は,補助参加人(ないしは補助参加人から本件写真の著作権の利用の許諾を受けた者)において本件写真が利用ないし二次利用され公衆に提供されることについて包括的に同意したものと認められる(著作権法18条2項1号参照)。
そうすると,第1審原告の公表権侵害の主張は理由がない
(略)
(3)
同一性保持権の侵害の有無(争点2-3)について
本件写真と本件掲載写真とを比較すると,本件掲載写真には,前記前提事実記載の態様の改変が加えられていることが認められる。
しかし,前記 1(3)認定のとおり,補助参加人は,第1審原告から本件写真の利用ないし二次利用について包括的許諾を受けているものである上に,第1審原告は,Cから,写真の権利について「買取り」との説明を受け,Bから,写真に関する権利は全て補助参加人のものになり,二次利用をしようがどのように使おうが補助参加人の自由である旨の説明を受けている。しかも,補助参加人の書籍における第1審原告撮影の写真の用いられ方は,文章の内容を補足して写真で説明したり,文章を理解しやすくするために用いられたりするものも多く,「HONDA CB750Four FILE.」に用いられた写真のように,比較的鑑賞用と考え得るものであっても,その被写体についての解説も併せて予定されていると解されるものである。しかも,「HONDA CB750Four FILE.」においては,本件写真と同時に撮影された写真から本件エンジン部分(背景部分の一部を含む。)だけが切り出されて掲載されているほか,掲載された同写真の下部には被写体のエンジンについて説明する文章が記載されている。また,第1審原告撮影の写真を用いて補助参加人が出版した書籍において,第1審原告撮影の写真上に説明のための矢印が挿入されているものも存在する。
以上によれば,少なくとも,第1審原告は,第1審原告の名誉・声望を害しない限りにおいて,写真を切り出したり,あるいは,写真上に説明のための文章等を追加する等,出版される書籍における写真の利用目的に応じて必要な限度での写真の改変については同意をしていたものと認めるのが相当である。
そして,本件写真の改変の態様は上記認定のとおりであって,いずれも本件書籍における写真の利用目的に応じた必要な限度のものにすぎず,しかも,その改変態様に照らしても,改変が第1審原告の名誉・声望を害するものとも認められない。
そうすると,第1審原告の同一性保持権侵害の主張は理由がない。
(4)
著作者人格権不行使の合意の有無(争点2-4)について
補助参加人は,著作権の「買取り」とは,補助参加人従業員の管理下で撮影された写真を補助参加人がどのように利用しようと異議を申し立てないとの意であるから,著作者人格権を行使しないとの趣旨も当然に含まれる旨主張する。
しかし,前記1(3)認定のとおり,Cは,第1審原告に対し,撮影した写真について「買取り」である旨説明してはいるものの,著作者人格権の説明はしていないとも供述している上に,前記(2)認定の事実も併せ考えると,Cの上記説明をもって,第1審原告と補助参加人との間で,著作者人格権(氏名表示権)不行使の合意があったとまでは認めるには足りず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
よって,補助参加人の上記主張を採用することはできず,第1審原告は,第1審被告に対し,著作者人格権(氏名表示権)を行使することができる。
(略)
4 損害額(争点4)について
以上のとおり,第1審原告の損害賠償請求は,氏名表示権侵害に基づく請求についてのみ理由があるところ,その慰謝料としては,本件書籍における本件写真の掲載態様や本件書籍の発行部数等,第1審被告の氏名表示権侵害の態様に鑑みると,10万円と認めるのが相当である。
また,第1審被告が負担すべき弁護士費用相当額としては,本件における紛争の内容,経過等に鑑みると,1万円と認めるのが相当である。