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著作権判例セレクション

トレーラーの設計図の流用につき、その(一般)不法行為性を否定した事例

平成28929日大阪地方裁判所[平成25()10425]
8 争点4(不法行為(被告ビルドの設計図の流用)の成否),争点11(不法行為(被告KAZの設計図の流用)の成否)について
(1) 被告らは,原告が被告らから持ち出された設計図を使用してトレーラーを製造販売したとして,原告が,新たな設計図を創造するという困難を一切負わず,それに必要な労力や費用を負担することもなく,被告らの財産的効果にただ乗りして利益を上げたことが不法行為を構成すると主張する。
被告ら自身,被告らの設計図は電子データとして保管されており,そのデータが持ち出されて使用されたと主張していることからすると,被告らの上記主張が,有体物たる設計図についての被告らの所有権に基づく排他的支配権能が侵されたという趣旨でないことは明らかである。したがって,被告らの上記主張は,無体情報としての設計図の記載を原告が無断で取得・使用したことが不法行為を構成するとの趣旨であると解される。
ところで,無体情報としての設計図の利用に関しては,現行法上,それに化体された技術上又は営業上の情報を保護する観点から不正競争防止法が営業秘密として保護し,また,その記載の創作性を保護する観点から著作権法が図形の著作物としての保護を与える場合があることにより,一定の要件の下に排他的な使用権ないし使用利益を認めているが,その反面として,その使用権等の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権等の及ぶ範囲,限界を明確にしている。
上記各法律の趣旨,目的に鑑みると,設計図に記載された無体情報の利用行為が,上記各法律の保護対象とならない場合には,当該設計図上の無体情報を独占的に利用する利益は法的保護の対象とならず,その利用行為は,上記各法律が規律の対象とする無体情報の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(以上の点につき直接に判示するものではないが,最高裁判所平成23年12月8日判決参照)。
本件での被告らの上記主張は,設計図について営業秘密の不正取得・使用等をいうものではなく,また,著作物としての保護をいうものでもない。したがって,被告らの上記主張の趣旨が,原告が被告らの設計図を無断で取得・使用等すれば,成果へのただ乗りの観点から直ちに不法行為が成立するというのであれば,設計図上の無体情報を独占的に利用する利益を被告らが有するというに等しいから,そのような利益は,たとえ被告らの設計図が多大な努力と費用の下に作成されたものであったとしても,上記の知的財産権関係の各法律が規律の対象とする無体情報の利用による利益とは異なる法的に保護された利益とはいえない。
もっとも,被告らの上記主張は,原告の無断取得・使用等行為によって,被告らが設計図を使用して営業活動を行う利益を侵害されたとの趣旨であると解する余地があり,その趣旨であれば,営業秘密の保護や著作物の保護とは異なる法的に保護された利益を主張するものと解される。ただし,我が国では憲法上営業の自由が保障され,各人が自由競争原理の下で営業活動を行うことが保障されていることからすると,他人の営業上の行為によって自己の営業活動を行う利益が侵害されたことをもって不法行為法上違法と評価されるためには,その行為が公序良俗違反とみられる程度までに自由競争の範囲を逸脱する場合であることを要すると解するのが相当である。
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(4) 以上のとおり,原告が,被告らの設計図を利用して,被告らの営業活動を妨げたと認めることはできず,設計図自体も,P9が職務上被告ら代表者から交付され,手元にあった図面のCADデータを原告に送付した可能性が否定できないのであって,これらに加え,原告が作成した設計図と被告らが作成した設計図には原告が主張するような相違があり,原告が被告らの設計図をそのまま流用してトレーラーを製造したわけではないこと(別紙図面対応表掲記の各書証)も考慮すると,原告が被告らの設計図を使用して原告作成図面を作成したのだとしても,それが自由競争の範囲を超えた公序良俗に反する行為とは認められないから,不法行為を構成するとはいえない。