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著作権判例セレクション

イラストのトレース疑惑の投稿につき名誉棄損の有無等が争点となった事例

▶令和31223日東京地方裁判所[令和2()24492]▶令和41019日知的財産高等裁判所[令和4()10019]
() 本件は、氏名不詳者(本件投稿者1及び2)により、ツイッター上に、別紙記載の記事(原判決別紙記載の画像を含む。)が投稿されたことにより、原判決別紙記載の各イラストに係る被控訴人の著作権及び著作者人格権並びに被控訴人の名誉権及び営業権が侵害されたことが明らかであると主張して、被控訴人が、ツイッターを運営する控訴人に対し、プロバイダ責任法4条1項に基づき、発信者情報目録記載の情報の開示を請求した事案である。

[控訴審]
1 争点1-1(本件ツイート1-1の投稿による権利侵害の明白性)について
(1) 「権利侵害の明白性」について
発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密にかかわる情報であって正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから、プロバイダ責任制限法4条1項1号が、発信者情報の開示請求について厳格な要件を定めていること(最高裁平成22年4月13日第三小法廷判決参照)に照らすと、同号が規定する「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」に該当するといえるためには、当該侵害情報の流通によって請求者の権利が侵害されたことに加え、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことまで主張立証されなければならないと解される。
(2) 本件ツイート1-1について
証拠によると、本件ツイート1-1は、本件投稿者1により、令和2年4月3日午後10時30分に投稿されたもので、「これどうだろう ww」「ゆるーくトレス? 普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」という文言に、①乙1の2イラスト(本件投稿画像1-1-1)、②乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像2枚(本件投稿画像1-1-2、1-1-3)、③本件被控訴人イラスト1を含む複数の被控訴人作成のイラストを並べた画像(本件投稿画像1-1-4)が併せて投稿されたものであり、原判決別紙タイムライン表示目録記載1のとおりにタイムライン上に表示されることがあるもので、タイムライン上では本件投稿画像1-1-1~1-1-4はいずれもその一部のみが表示されているものと認められる(タイムライン上の表示が固定されたものではないことは、後記(5)ウのとおりである。以下同じ。)。
(3) 名誉棄損について
ア ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり(最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決参照)、このことは、ツイッター上の投稿記事の名誉毀損該当性の判断においても同様である。
また、名誉棄損には、事実の摘示によるもののみならず、意見ないし論評によるものも含まれるところ、ある表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり(最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決頁参照)、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や議論などは、意見ないし論評の表明に属するものというべきである(最高裁平成16年7月15日第一小法廷判決参照)。そして、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであることは、上記の区別に当たっても妥当する(前掲最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)。
() 本件ツイート1-1についてみると、前記(2)のとおり、乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像2枚とともに、「これどうだろう ww」「ゆるーくトレス? 普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」との文言が投稿されている。そして、証拠によると、本件ツイート1-1と同日又は翌日に本件アカウント1において投稿されたツイートにおいて、「目が開いていないのはトレス元に似ちゃうからなのか」「検証に使用した絵はAさんの絵」などと記載されていること、これらの記載のある各ツイートは、本件ツイート1-1を元ツイートとするスレッドとして表示されていることが認められることを踏まえ、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、本件ツイート1-1は、目を閉じた女性の横顔のイラストである本件被控訴人イラスト1が、A氏の作成した目を開いた女性の横顔のイラストである乙1の2イラストを、正確にではないにせよトレースして作成されたものであるとの事項を主張する内容であると認められる。上記文言に「?」という疑問を意味するマークや「なるかな」といった疑問を意味する語尾が用いられていることは、上記判断を左右しない。
なお、ここでいう「トレース」(本件投稿者1は「トレス」と表現している。)は、本件投稿者1が、トレース元とされる乙1の2イラストと、トレースして作成されたとする本件被控訴人イラスト1を重ね合わせて表示することでトレースの有無を検証しようとしていることに照らすと、イラスト作成用のアプリケーションを利用するなどして、元となるイラストや写真を表示し、その輪郭をなぞるなどの直接的に写し取る方法によりイラストを作成することを指すと認めるのが相当であり、本件ツイート1-2においても同じである。
() 控訴人は、本件ツイート1-1の投稿による名誉棄損の成否を判断するに当たって、本件ツイート1-1よりも後に投稿されたツイートの内容を考慮すべきではないと主張するが、証拠によると、ツイートを投稿するに当たり、複数のツイートの下書きを作成した上で「すべてツイート」することで「スレッド」が作成でき、スレッドを作成した後は、「ツイートを追加」することにより、作成済の「スレッド」にツイートを追加できること、「スレッド」として投稿されたツイートはひとまとまりと分かるように線で連結されてタイムライン上に表示され、4個以上のツイートで構成される場合には省略表示されるが、「このスレッドを表示」との文字をクリックすると、スレッド全体が表示されるものであることが認められるところ、本件投稿者1が自らの意思で「スレッド」として複数のツイートを本件ツイート1-1と同時に又は本件ツイート1-1に「ツイートを追加」する方式により投稿していること、本件ツイート1-1の一般の読者であるツイッターのユーザーは、上記ツイッターの「スレッド」の仕組みを認識し、同一スレッド内のツイートは相互に関係があるものとして、本件ツイート1-1を含むスレッド内のツイートを読んでいるものと推認されることに照らすと、本件ツイート1-1の投稿による名誉棄損の成否を判断するために当該ツイートの内容を解釈するに当たっては、少なくとも、本件ツイート1-1と同時又は近い時間に、同一スレッド内において投稿されたツイートについては、その内容を併せて考慮するのが相当であるから、上記控訴人の主張は採用できない。
() そして、本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストを、トレースして作成されたものであるとの事項は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項に当たるから、本件ツイート1-1は、本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストをトレースして作成されたものであるとの被控訴人に関する特定の事項を主張する事実の摘示に該当する。
ウ 次に、トレース行為は「複製」に該当するものではあるが、それ自体が直ちに著作権法違反を意味するものではなく、イラストの作成過程において他者の作品のトレース行為がされたことを指摘することが、必ずしもトレースをした者の社会的評価を低下させるとまでいうことはできないものの、本件においては、被控訴人が、自身の作成したイラストを販売するプロのイラストレーターとして活動していたことを踏まえると、本件ツイート1-1の内容は、イラストレーターである被控訴人が、他人のイラストをトレースして作成したものを自らの作品として公表するという著作権法上問題となり得る行為をしていたことを意味し、作品の購入者をして、そのようなイラストレーターから作品を購入することを躊躇させるに足る事実であるから、本件投稿者1が本件ツイート1-1を投稿して上記事実を摘示することにより、被控訴人のイラストレーターとしての社会的評価が低下したものと認められる。
() 事実の摘示による名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的によるものであった場合には、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記証明がされなくとも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、上記行為には故意又は過失がないから、不法行為は成立しない(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決、最高裁昭和58年10月20日第一小法廷判決参照)。
() そこで本件についてみると、本件ツイート1-1は、被控訴人が、他人の著作物をトレースして作成したイラストを自己の作品として公表していることを指摘するものであって、著作権法上の問題がある可能性をうかがわせる内容であり、この指摘は、被控訴人がプロのイラストレーターであることに照らすと、被控訴人作成のイラストを購入しようとする需要者にとって重要な情報であるから、本件ツイート1-1を投稿する行為は、公共の利害に関する事実に係るもので、その目的が専ら公益を図ることにあるということができる。
() 次に、摘示した事実の真実性について検討するに、本件ツイート1-1が摘示する事実の重要な部分は、「本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストを、トレースして作成されたものである」というものであるが、本件被控訴人イラスト1のベースになったと被控訴人が主張する甲29・1 頁のイラストと乙1の2イラストを比較すると、その構図が類似しており、横顔の輪郭部分は額から頚部に至るまでほぼ一致し、首の角度や耳の位置もほぼ一致していることが認められる。そうすると、その関係は、本件被控訴人イラスト1と乙1の2イラストとにおいても同様と認められるところ、これらの全てが偶然一致したものとは考え難い。
これに対し、被控訴人は、本件被控訴人イラスト1がトレースにより作成されたものではないことを裏付ける証拠として、被控訴人が女性の横顔のイラストを作成する様子を撮影したとする令和3年7月19日撮影の動画(再現動画)を提出したが、証拠によると、再現動画において作成された女性の横顔のイラストは、本件被控訴人イラスト1とは別の機会に作成されたものであるにしても、乙1の2イラストと比べて首の角度及び耳の位置が大きくずれており、輪郭についても顎部分が重ならないものであるところ、前記のとおり乙1の2イラストと本件被控訴人イラスト1とが首の角度や耳の位置もほぼ一致していることに照らすと、再現動画において作成された女性の横顔のイラストは、本件被控訴人イラスト1とも、首の角度及び耳の位置が大きく異なり、輪郭の顎部分が重ならないものであると認められる。そうすると、再現動画において、被控訴人が、本件被控訴人イラスト1の作成過程を再現しようとしたものと推察されるにもかかわらず、上記のとおりの差異が生じたということになり、再現動画を考慮しても、被控訴人が作成した本件被控訴人イラスト1の女性の横顔の輪郭部分や首の角度及び耳の位置が、偶然、乙1の2イラストと一致することは困難であると認めるのが相当である。
また、乙1の2イラストは、平成29年9月1日に公開されたものであるから、被控訴人が、女性の横顔のイラスト作成のきっかけとなった依頼を受けた平成30年2月頃の時点で公開されており、被控訴人は、本件被控訴人イラスト1を作成するに当たり、乙1の2イラストを参照することが可能であった。
以上を総合すると、「本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストを、トレースして作成されたものである」という事実は真実である蓋然性が高い。
() そして、前記(1)のとおり、発信者情報開示請求の要件である「権利侵害の明白性」が認められるためには、当該侵害情報の流通によって請求者の権利が侵害されたことに加え、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことまで主張立証される必要があるところ、本件ツイート1-1の投稿による名誉棄損については、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことの立証が足りないというほかない。
そうすると、本件ツイート1-1の投稿による名誉棄損について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(4) 著作権(複製権、自動公衆送信権)侵害について
()
(5) 著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について
()
(6) 営業権侵害について
前記(3)(5)のとおり、本件ツイート1-1の投稿による名誉権侵害、著作権侵害及び著作者人格権侵害が明白であるとはいえず、本件投稿者1が本件ツイート1-1を投稿したことが違法であるということはできないから、本件ツイート1-1の投稿による営業権侵害についても、「権利侵害の明白性」は認められない。
(7) したがって、本件ツイート1-1の投稿による「権利侵害の明白性」は認められない。
2 争点1-2(本件ツイート1-2の投稿による権利侵害の明白性)について
(1) 本件ツイート1-2について
証拠によると、本件ツイート1-2は、本件投稿者1により、令和2年4月5日午前1時31分に投稿されたもので、「この鏡餅も画像検索ですぐ出てきた。」「トレス常習犯ですわ。」「Y′さん」との文言に、①本件被控訴人イラスト2を含む被控訴人のツイートの画像(本件投稿画像1-2-1)、②乙2の3写真を含む画像(本件投稿画像1-2-2)、③本件被控訴人イラスト2と乙2の3写真を重ね合わせた画像2枚(本件投稿画像1-2-3、本件投稿画像1-2-4)が併せて投稿されたものであり、
原判決別紙タイムライン表示目録記載2のとおりにタイムライン上に表示されることがあるもので、タイムライン上では本件投稿画像1-2-1~1-2-4はいずれもその一部のみが表示されているものと認められる。なお、本件投稿画像1-2-2は、楽天市場において「磁器の鏡餅(変わり鏡餅)」を販売するページの画像であり、商品である「磁器の鏡餅」の写真部分を含む。
(2) 名誉棄損について
ア 本件ツイート1-2においては、前記(1)のとおり、本件被控訴人イラスト2と乙2の3写真を重ね合わせた画像2枚とともに、「トレス常習犯ですわ。」「Y′さん」との文言が投稿されている。なお、「常習犯」には、刑法上の犯罪を意味するほかに、「同じ悪事を何度も繰り返すこと。また、その人」との意味があるが(広辞苑第七版)、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、本件ツイート1-2では、「常習犯」が後者の意味で用いられているものと理解がされ、上記文言は「Y′」というペンネームを用いて活動する被控訴人が、「トレース行為によりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを何度も繰り返していた」ことを意味するものと認められる。しかるところ、被控訴人が、プロのイラストレーターとして活動していたことを踏まえると、本件ツイート1-2は、イラストレーターである被控訴人が、他人のイラスト等をトレースして作成したものを自らの作品として公表するという著作権法上問題となり得る行為を繰り返していたことを意味し、作品の購入者をして、そのようなイラストレーターから作品を購入することを躊躇させるに足る事実であるから、本件投稿者1が本件ツイート1-2を投稿して上記事実を摘示することにより、被控訴人のイラストレーターとしての社会的評価が低下したものと認められる。そして、「トレース行為によりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを何度も繰り返していた」という事実は、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項に当たるから、被控訴人に関する特定の事項を主張する事実の摘示に該当する。
イ 次に、本件ツイート1-2の投稿について違法性阻却事由があるか検討する。
() 前記(1)のとおり、本件ツイート1-2においては、本件被控訴人イラスト2を乙2の3写真と重ね合わせた画像と「トレス常習犯ですわ」「Y′さん」との文言が投稿されており、これらを併せて考慮すると、本件ツイート1-2は、「Y′」こと被控訴人が、「トレース行為によりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを何度も繰り返していた」という事実を主張するとともに、同ツイートに添付した本件被控訴人イラスト2は、乙2の3写真をトレースして作成したものであって、上記事実を裏付けるものであると主張するものと解されるから、その重要部分は、①本件被控訴人イラスト2が乙2の3写真をトレースして作成されたものであること及び②被控訴人がトレース行為によりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを繰り返していたことである。
() これを前提として検討するに、本件被控訴人イラスト2と乙2の3写真は、鏡餅、鏡餅の上部に載せられた蜜柑、蜜柑の葉についての形状、色調及び輪郭が一致し、さらに、両者の鏡餅の大きさを合わせた場合、鏡餅が載せられた板についても、その位置、奥行きの長さ、厚さ及び同板が茶系色であることも一致しており、これらが全て偶然に一致するとは考え難く、本件被控訴人イラスト2は、乙2の3写真をトレースして作成されたものと認めるのが相当である。
この点、被控訴人は、本件被控訴人イラスト2は、乙2の3写真とは異なる鏡餅のイラスト等を参考にして作成したものであり、他人の写真等をトレースして作成したものではないと主張する。しかしながら、証拠によると、令和2年7月3日に「鏡餅」を検索サイトであるGoogleにおいて画像検索したところ、最初に乙2の3写真が表示されたこと、検索結果として表示された30枚以上の画像にみられる鏡餅のうち、鏡餅の上に載せられた蜜柑の葉の枚数と形状が本件被控訴人イラスト2と同じものは、乙2の3写真のものの外になく、また、蜜柑と鏡餅の大きさの比率及び鏡餅とその下に敷かれた板との大きさの比率が、本件被控訴人イラスト2と同じものは乙2の3写真のものの他にないことが認められる。また、被控訴人は、本件被控訴人イラスト2のラフ画を提出し、本件被控訴人イラスト2作成当時に書いていたとおりにイラストを作成した様子を撮影したものとして動画を提出したが、これらは、いずれも本件ツイート1-2よりも後に作成されたものである上、上記ラフ画及び上記動画で作成されたイラストでは、大小二つの線対称の楕円形を上下に重ね、その上にほぼ円形を載せる方法により作画していることが認められるところ、本件被控訴人イラスト2における鏡餅は、上記で用いられた線対称の楕円形からなるものではなく、本件被控訴人イラスト2における蜜柑はほぼ円形といえるものではない。加えて、上記ラフ画における鏡餅の下部に描かれたラインの位置、蜜柑の葉の形状は、本件被控訴人イラスト2における鏡餅の下に置かれた板のラインや蜜柑の葉の形状とは異なっており、上記動画において作成されたイラストにおける蜜柑の葉の枚数及び形状は、本件被控訴人イラスト2における蜜柑の葉とは異なっているから、上記ラフ画又は上記動画で作成されたイラストを元に作画を続けたとしても、本件被控訴人イラスト2と同一のイラストが完成すると推認することはできない。そうすると、上記被控訴人の主張は採用できない。
() そして、証拠によると、被控訴人は、少なくとも複数回、他人の写真又はイラストをトレースしてイラストを作成し、これに自らを表すサインを付すなどして自ら作成したイラストであるものとして、ツイッターやブログで公表していたことが認められる。また、前記1(3)のとおり、「本件被控訴人イラスト1が、乙1の2イラストを、トレースして作成されたものである」という事実は真実である蓋然性が高い。
() 以上を総合すると、被控訴人が、他人の写真やイラストをトレースすることによりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを繰り返していたことが認められるから、被控訴人が、トレース行為によりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを何度も繰り返していたとの事実は真実である可能性が高い。
() そして、本件ツイート1-2を投稿する行為は、被控訴人がプロのイラストレーターであること及び本件ツイート1-2が、本件ツイート1-1と同一のスレッドに投稿されたものであることに照らすと、本件ツイート1-1を投稿する行為と同様に、公共の利害に関する事実に係るもので、その目的が専ら公益を図ることにあるということができる。
() 以上によれば、本件ツイート1-2の投稿による名誉棄損については、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことの立証が足りないというほかない。
そうすると、本件ツイート1-2の投稿による名誉棄損について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(3) 著作権(複製権、自動公衆送信権)侵害について
()
(4) 著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について
()
(5) 営業権侵害について
前記(2)(4)のとおり、本件ツイート1-2の投稿による名誉権侵害、著作権侵害及び著作者人格権侵害が明白であるとはいえず、本件投稿者1が本件ツイート1-2を投稿したことが違法であるということはできないから、本件ツイート1-2の投稿による営業権侵害について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(6) したがって、本件ツイート1-2の投稿による「権利侵害の明白性」は認められない。
3 争点1-3(本件ツイート2-1の投稿による権利侵害の明白性)について
(1) 証拠によると、本件ツイート2-1は、本件投稿者2により、令和2年4月7日午後7時21分に投稿されたもので、「Y′様がトレースを否定するツイートをされたようです」「それを信じているファンの皆様」「一度こちらのイラストを見て下さい」「これもまた、Y′様が描いたイラストです」「横顔のイラストと比較し、画力の差に違和感を感じませんか?」との文言に、①本件被控訴人イラスト3(本件投稿画像2-1-1)及び②本件被控訴人イラスト4(本件投稿画像2-1-2)を併せて投稿されたものであり、原判決別紙タイムライン表示目録記載3のとおりにタイムライン上に表示されることがあるものと認められる。
(2) 著作権(複製権、自動公衆送信権)侵害について
()
(3) 営業権侵害について
前記(2)のとおり、本件ツイート2-1の投稿による著作権侵害が明白であるとはいえず、本件投稿者2が本件ツイート2-1を投稿したことが違法であるということはできないから、本件ツイート2-1の投稿による営業権侵害について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(4) したがって、本件ツイート2-1の投稿による「権利侵害の明白性」は認められない。
4 争点1-4(本件ツイート2-2の投稿による権利侵害の明白性)について
(1) 証拠(甲4の1~3、38の1・2、乙4の1~3)によると、本件ツイート2-2は、本件投稿者2により、本件ツイート2-1と同一スレッドにおいて同ツイートに続いて令和2年4月7日午後7時26分に投稿されたもので、「特に横顔同士で比較してみてください」「左の絵には鼻と唇の間に不自然な山があり「横顔がどうなっているか」という基本的なデッサンを理解していない方が描いたようにしか見えません」「Y′様は他のイラストでも手が描けない方です」「それでもトレースしていない、という主張を信じられるでしょうか」との文言に、①本件被控訴人イラスト3に、口の部分を囲う赤色枠を付記したもの(本件投稿画像2-2-1)及び②女性の横顔のイラストが6枚並べられた本件被控訴人イラスト5(本件投稿画像2-2-2)が併せて投稿されたものであり、原判決別紙タイムライン表示目録記載4のとおりにタイムライン上に表示されることがあるもので、タイムライン上では本件投稿画像2-2-2はその一部のみが表示されているものと認められる。
(2) 著作権(複製権、自動公衆送信権)侵害について
()
(3) 著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)について
()
4) 営業権侵害について
前記(2)及び(3)のとおり、本件ツイート2-2の投稿による著作権侵害及び著作者人格権侵害が明白であるとはいえず、本件投稿者2が本件ツイート2-2を投稿したことが違法であるということはできないから、本件ツイート2-2の投稿による営業権侵害について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(5) したがって、本件ツイート2-2の投稿による「権利侵害の明白性」は認められない。
第4 結論
よって、被控訴人の請求は理由がないから全部棄却すべきところ、これを一部認容した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人の敗訴部分を取り消した上、当該取消しに係る被控訴人の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。