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著作権判例セレクション

ご当地検定におけるポスター利用等許諾の有無が問題となった事例

▶令和7328日東京地方裁判[令和5()70582]▶令和7108日知的財産高等裁判所[令和7()10036]
1 争点1(本件訴訟において、原告が被告Bらに対して同被告らの行為により本件各デザインに係る原告の著作権及び原告各商標権が侵害されていると主張することが、前訴判決の既判力に抵触し許されないといえるか)について
前提事実、証拠並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件訴訟の提起より前に、被告Bⅰらに対して前訴を提起しているところ、前訴及び本件訴訟の原告の被告Bⅰらに対する請求において主張されている実体法上の権利の内容及び被告Bらによる侵害行為の内容はいずれも同一であることが認められるから、前訴及び本件訴訟の訴訟物は同一であるといえる。
そして、前提事実のとおり、前訴判決は、原告の請求を棄却した判断を相当と認め原告の控訴を棄却し、原告の控訴審における追加請求を棄却したものであって、令和6年4月5日に確定しているところ、弁論の全趣旨によれば、本件訴訟において、原告が被告Bらに対する請求に関して行っている主張は、いずれも前訴の控訴審の口頭弁論終結時(令和6年2月7日)以前の事由に基づくものであり、同時点より後の事由に基づく主張は存在しないことが認められる。
そうすると、本件訴訟において、原告が、被告Bⅰらに対して、被告Bⅰらの行為によって本件各デザインに係る原告の著作権及び原告各商標権が侵害されていると主張することは、前訴判決の既判力に抵触し許されない。
したがって、原告の被告Bⅰらに対する請求はいずれも理由がないものというべきである。
2 争点2(著作権侵害の成否)について
(1) 争点2-1(本件各デザインの著作物性)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各デザインは、関ケ原検定の内容や魅力を伝えるために、イラスト、文字及び色彩等を選択し、その配置等を調整して制作されたものであることが認められる。
そうすると、本件各デザインは、いずれも、制作者の個性が表れたものであるから「思想又は感情を創作的に表現したもの」と認められ、かつ、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と認められるから、「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当する。
(2) 争点2-2(本件各デザインに係る著作権の帰属)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各デザインの創作的表現については、いずれも原告のみによって創出されたものであると認められる。
したがって、本件各デザインの著作者は原告であり、その著作権は原告に帰属するものと認められる。
(3) 争点2-3(著作権侵害行為の有無)について
ア 本件ポスター等について
前提事実のとおり、被告関ケ原町は、関ケ原検定の実施のために、本件ポスター等に基づき被告ポスター等を制作していた。そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件合格カードと被告関ケ原町が制作した合格カードは同一の内容であること、その余の制作物については、本件ポスターでは、左上に「2021スタート」と、左下に「岐阜県関ケ原町公式HP」と記載されているのに対し、被告関ケ原町が制作したポスターでは、左上に「2021.4月本番」と、左下に「関ケ原検定実行委員会」と記載され、かつ、同委員会の住所、電話番号及びURLが記載されている点、被告関ケ原町が制作した実施要領では、その下部に問合せ先及び関ケ原検定の申込用紙に係る記載があるのに対し、本件実施要領にはその記載がない点等が相違しているものの、それ以外の部分は同一であることが認められる。
上記の相違点に係る変更等は、その態様からすると、主に形式的な内容調整のために行われたものといえ、新たに思想又は感情を創作的に表現するものであるとは認められない。
したがって、被告関ケ原町が被告ポスター等を制作する行為(本件制作行為)は、本件ポスター等に依拠して、これと同一のものを作成する行為であるか、又は具体的表現に修正、増減、変更等を加えても、新たに思想又は感情を創作的に表現することなく、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるものを作成する行為というべきである。
以上によれば、本件制作行為は、本件ポスター等に係る原告の著作権(複製権)を侵害するものと認められる。
なお、原告は、被告関ケ原町が被告ポスター等をインターネット上で公表しており、これによって原告の有する公の伝達権(著作権法23条1項又は2項)が侵害されていると主張する。しかしながら、本件全証拠によっても、被告関ケ原町が被告ポスター等をインターネット上で公表しているという事実を認めることはできないから、原告の上記の主張はその前提を欠くものであって採用できない。
イ 本件ジャンパー画について
前提事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告関ケ原町は、原告から本件ジャンパー画を利用した本件ジャンパーを購入した上で、本件ジャンパーを使用していたことが認められるが、本件全証拠によっても、被告関ケ原町が本件ジャンパー画の複製又は翻案等の著作権侵害に相当する行為をしたという事実を認めることはできない。
そうすると、被告関ケ原町が本件ジャンパー画に係る原告の著作権を侵害したとは認められない。
(4) 争点2-4(故意又は過失の有無)について
前記(2)で説示したとおり、本件各デザインの創作的表現については、いずれも原告のみによって創出されたものであるところ、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告関ケ原町は、本件各デザインの制作経緯を認 識していたにもかかわらず、前記(3)アの著作権侵害行為に至ったものと認められる。
そうだとすれば、被告関ケ原町には、上記著作権侵害行為について、少なくとも過失があるというべきである。
(5) 争点2-5(利用許諾の有無)について
被告らは、本件制作行為に原告の許諾が存在すると主張する根拠として、本件ポスター等が関ケ原検定の実施に際して制作されたものであるから、被告関ケ原町においてそれを自由に利用できることが前提となっていたことを指摘する。
しかしながら、関ケ原検定において本件ポスター等を自由に利用できることが前提になっていたという事実が認められるとしても、その事実をもって、原告が本件制作行為を許諾していたことが直ちに根拠付けられるものではない。
そして、前提事実のとおり、原告が、令和3年6月17日、被告Bⅰ及び被告Cⅰに対し、関ケ原検定の実施に際して原告の著作権及び商標権を侵害した事実が存在する旨を記載した「知的財産侵害警告」と題する文書を送付しており、本件制作行為に対する抗議を行っていることを踏まえると、本件全証拠によっても、被告らの主張する利用許諾の事実を認めることはできないというべきである。
3 争点3(商標権侵害の成否)について
(1) 原告商標1について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告ポスター等においては原告商標1が使用されていないものと認められ、本件全証拠によっても、被告関ケ原町が原告商標1を使用していた事実を認めることはできない。
(2) 原告商標2ないし4について
前提事実のとおり、原告商標2ないし4に係る商標権の登録日は、最も早いものでも令和3年9月27日であるところ、証拠及び弁論の全趣旨によれば、関ケ原検定は、同年7月16日以降、実施されておらず、被告関ケ原町は、上記の商標権の登録日以降、これらの商標を使用した役務を行っていないことが認められる。
(3) 小括
したがって、被告関ケ原町による商標権侵害行為があったと認めることはできないから、商標権侵害に係る原告の主張は理由がない。
4 争点4(損害の発生及び額)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、令和2年11月1日付けで、被告関ケ原町に対し、本件ジャンパー10着、本件手形ノート200冊及び本件ステッカー1200コマ並びにこれに係るデザイン料として14万0470円(送料及び消費税込み)を請求していること、原告は、令和3年3月24日にも上記に係る費用の請求をしており、その際は、グッズ代金(本件ジャンパー、本件手形ノート及び本件ステッカーの購入代金に相当するもの)15万6090円に加えて企画・デザイン費として49万7640円を請求し、被告関ケ原町は、原告に対し、上記グッズ代金に相当する15万6090円を、垂井日之出印刷所を通して支払っていることが認められ、上記の支払をもって、本件ジャンパーの代金は既に支払われていたということができる。
そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件ポスター等は、本件ジャンパー画と併せて作成されたものであって、本件ポスター及び本件賞状には、本件ジャンパー画と共通する「みっちゃん」及び「やっくん」という人物のイラストが存在し、同イラスト以外の部分については、関ケ原検定の名称やその客観的内容に関する表現が多いことが認められ、これらの部分に係る著作権が高い価値を有しているとは認められない。
また、証拠及び弁論の全趣旨によれば、関ケ原検定は、令和3年4月から同年7月頃まで実施されていたが、その受験者数は合計45人、受験者から受領した受験料の合計は17万1000円であったことが認められる。
以上の事情に加え、前提事実及び弁論の全趣旨によれば、関ケ原検定が令和3年7月16日以降に実施されていないのは、本件各デザインに係る著作権侵害等の問題が発生したことが原因であったことと認められ、被告関ケ原町による著作権侵害行為がなければ、関ケ原検定は、同月以降も継続できた可能性があること、著作権侵害があった場合に事後的に定められるべき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」は、通常の使用料に比べて高額となること、原告のこれまでの使用料率に関する立証の程度など本件に現れた諸事情を総合考慮すると、前記2(3)アの著作権侵害行為に係る著作権(複製権)の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は、20万円と認めるのが相当である。
25 5 争点5(差止め等の必要性)について
(1) 差止め及び廃棄の請求について
本件各デザインの複製及びそれを利用した物品の頒布の差止め並びに同物品の廃棄に係る請求については、前記2(3)アで説示したとおり、被告関ケ原町は、本件ポスター等を利用して被告ポスター等を制作しており、そうだとすれば、本件においては、別紙著作物目録記載2ないし5のデザインの複製及びそれを利用した物品の頒布の差止め並びに同物品の廃棄の必要性が認められる。
他方、前記2(3)イで説示したとおり、被告関ケ原が本件ジャンパー画に係る著作権侵害行為をしたとはいえないから、別紙著作物目録記載1のデザイン(本件ジャンパー画)に係る差止め及び廃棄の必要性は認められない。
(2) 名誉回復等の措置に係る請求について
著作権法115条に基づく名誉回復等の措置に係る請求については、原告が同措置の前提となる著作者人格権侵害に関する具体的な主張をしていないこと、本件全証拠によっても、原告が著作者であることを確保し、又は訂正その他著作者の名誉若しくは声望を回復するための措置を実施する必要性があるとは認められないことからすれば、原告の請求は理由がないというべきである。
[控訴審同旨]