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著作権判例セレクション
ゲームソフトの登場人物の図柄を性行為を行う姿に改変した行為につき同一性保持権侵害を認定した事例
▶平成11年08月30日東京地方裁判所[平成10(ワ)15575]
(注) 本件は、コンピュータ用ゲームソフトについて著作権を有している原告が、被告に対し、その主要登場人物の図柄を用いてアニメーションビデオを制作した被告の行為が、著作権(複製権、翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとして、当該ビデオの製造、販売及び頒布の禁止、当該ビデオの廃棄、損害賠償並びに謝罪広告を請求した事案である。
なお、被告は、原告に無断で、本件ゲームソフトの主要登場人物である藤崎詩織の図柄(「本件藤崎の図柄」)を用いたアニメーションビデオ(題名「どぎまぎイマジネーション」、以下「本件ビデオ」)を制作し、一般客向けに店頭販売した。
一 争点1(著作権及び著作者人格権侵害の成否)について
1 著作権侵害について
前記事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
本件ゲームソフトは、ゲームプレイヤーが架空の高校「きらめき高校」の男子生徒の立場で操作して、高校三年間の学園生活等において体験をし、一定の条件を満たした場合に、男子生徒が、登場人物である藤崎詩織ほかの女生徒から、高校卒業の日に、伝説の樹の下で愛の告白を受けるという恋愛シミュレーションゲームである。本件ゲームソフトにおいては、女子高校生である藤崎詩織が主要な登場人物として設定されている。本件藤崎の図柄は、僅かに尖った顎及び大きな黒い瞳(瞳の下方部分に赤色のアクセントを施している。)を持ち、前髪が短く、後髪が背中にかかるほど長く、赤い髪を黄色いヘアバンドで留め、衿と胸当てに白い線が入り、黄色のリボンを結び、水色の制服を着た女子高校生として、共通して描かれている。本件藤崎の図柄には、その顔、髪型の描き方において、独自の個性を発揮した共通の特徴が認められ、創作性を肯定することができる。
他方、本件ビデオには、女子高校生が登場し、そのパッケージには、右女子高校生の図柄が大きく描かれている。右図柄は、僅かに尖った顎及び大きな黒い瞳(瞳の下方部分に赤色のアクセントを施している。)を持ち、前髪が短く、後髪が背中にかかるほど長く、赤い髪を黄色いヘアバンドで留め、衿と胸当てに白い線が入り、黄色いリボンを結び、水色の制服を着た女子高校生として描かれている。
本件ビデオに登場する女子高校生の図柄は、本件藤崎の図柄を対比すると、その容貌、髪型、制服等において、その特徴は共通しているので、本件藤崎の図柄と実質的に同一のものであり、本件藤崎の図柄を複製ないし翻案したものと認められる。
したがって、被告が本件ビデオを制作した行為は、本件ゲームソフトにおける本件藤崎の図柄に係る原告の著作権を侵害する。
2 同一性保持権侵害について
前記の事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲームソフトは、前記のとおり、架空の高校「きらめき高校」における恋愛シミュレーションゲームであるが、登場人物である藤崎詩織は、優等生的で、清純な、さわやかな印象を与える性格付けがされている。本件ゲームソフトにおいては、ゲームプレイヤーの操作する男子生徒は、学園生活や日常生活を通して、登場人物である藤崎詩織などと恋愛関係を形成する設定がされているが、藤崎詩織が性的行為を行うような場面は存在しない。
他方、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件ビデオは、本件ゲームソフトにおいて、男子生徒が藤崎詩織から愛の告白を受けた最終場面の続編として設定され、清純な女子高校生と性格付けられていた登場人物の藤崎詩織が、伝説の樹の下で、男子生徒との性行為を繰り返し行うという、露骨な性描写を内容とする、10分程度の成人向けのアニメーションビデオとして制作されている。
確かに、本件ビデオにおいては、藤崎詩織の名前が用いられていないが、①本件ビデオのパッケージにおける女子高校生の図柄と、本件ゲームソフトのパッケージにおける藤崎詩織の図柄とを対比すると、前記認定した共通の類似点がある他、さらに、後髪を向かって左側になびかせている点、首をやや左側に傾けている点、頭頂部に極く短い髪を描いている点、髪の毛に白色のハイライトを付けている点など細部に至るまで酷似していること、②本件ビデオのパッケージにおける「どぎまぎイマジネーション」というタイトルの選択、各文字のデザイン及び色彩、青い波形の背景デザインなど、本件ゲームソフトのパッケージにおける各部分と類似していること、③本件ビデオにおいて、「本当の気持ち、告白します。」と表記され、本件ゲームソフトとの関連性を連想させる説明がされていること等の事実から、本件ビデオの購入者は、右ビデオにおける女子高校生を藤崎詩織であると認識するものと解するのが相当である。
以上によると、被告は、本件ビデオにおいて、本件藤崎の図柄を、性行為を行う姿に改変しているというべきであり、原告の有する、本件藤崎の図柄に係る同一性保持権を侵害している。
なお、被告は、同人文化の一環としての創作活動であり、著作権法違反は成立しないと主張するが、採用の限りでない。
3 よって、別紙物件目録記載のビデオカセットの製造等の差止め及び同ビデオカセットの廃棄を求める原告の請求の趣旨一及び二項は理由がある。
二 争点2(損害額)について
1 著作権侵害による損害
証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件ビデオを販売用に500本制作し、一本当たり1400円の卸価格で小売店に販売したので、販売総額は70万円となること、被告は、動画、原画、彩色の各担当者、声優及び監督へ人件費として20万円、複製費用として17万5000円(一本当たり350円)、包装等の諸雑費として5万円の合計42万5000円を支出したことが認められ、したがって被告が本件ビデオを販売することにより得た利益額は27万5000円になる。被告は、本件ビデオを制作するために、パソコンを増設したり、アニメーション制作用のソフトを購入する必要があった旨主張するが、右費用は、本件ビデオ制作のためだけの費用と解することはできないので、控除するのは相当でない。
以上のとおり、原告に生じた損害額は、被告が本件ビデオ販売により得た利益額27万5000円と同額と推定できる。
2 同一性保持権侵害による損害
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲームソフトは平成10年3月に120万本の販売実績を上げ、ヒット商品として好評を博したこと、原告は、平成7年に、本件ゲームソフトにより、日本ソフトウェア大賞のエンターテイメントソフト部門優秀賞やその他の賞を多数獲得したこと、登場人物である藤崎詩織に対する人気も高まり、平成7年ころのコンピュータゲーム誌上におけるゲームキャラクター人気投票で、藤崎詩織が一位に選ばれたこと、二次的著作物として、藤崎詩織を仮想アイドル歌手としたCDが発売されたり、登場人物のイラスト集やその他の関連商品が販売されたり、実写映画が上映されたり、小説が刊行されたりしたことが認められ、右経緯に照らすと、本件ゲームソフトにおいては、登場人物である藤崎詩織の優等生的で、清純な、さわやかな印象を与える性格付けが、本件ゲームソフト及び関連商品の売上げ及び人気の向上に大きく寄与していると解するのが相当である。
ところで、被告の同一性保持権侵害行為の態様は、前記のとおり、清純な女子高校生と性格付けられていた登場人物の藤崎詩織と分かる女子高校生が男子生徒との性行為を繰り返し行うという、露骨な性描写を内容とする、成人向けのアニメーションビデオに改変、制作したというものであり、被告の行為は、原告が本件ゲームソフトを著作し、その登場人物である藤崎詩織の性格付けに対する創作意図ないし目的を著しくゆがめる、極めて悪質な行為であるということができる。
そうすると、本件ゲームソフトの内容及び被告の行為の態様が前記認定のとおりであること、被告の行為によって受けた原告の信用毀損は少なくないと解されること等一切の事情を総合考慮すると、被告の改変行為により生じた原告の無形損害を金銭に評価した額は、200万円と解するのが相当である。
3 以上によれば、原告に生じた損害は、合計227万5000円となる。