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著作権判例セレクション

【著作権侵害総論】カエルを擬人化した図柄(キャラクター)の侵害性が問題となった事例

▶平成130123日東京高等裁判所[平成12()4735]
当裁判所も、控訴人らの本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。
1 複製権又は翻案権の侵害について
(1) 複製権又は翻案権の侵害の要件
著作権法は、21条で「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。」と規定し、27条で「著作者は、その著作物を…若しくは変形し、…その他翻案する権利を専有する。」と規定しているから、著作者に与えられている、「複製する権利」(複製権)や変形などの方法で「翻案する権利」(翻案権)の根拠となり得るのは、著作権法が「著作物」としているものということになる。そして、著作権法が、その2条1項1号において、「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定していることからすれば、著作権法にいう「著作物」と評価されるためには、「表現したもの」であること、言い換えれば、著作者の思想又は感情が外部に認識できる形で現実に具体的な形で表現されたものであることを要するものというべきである。そして、そうである以上、著作権法による「著作物」に対する保護が、思想又は感情自体に及ぶことはあり得ないのはもちろん、思想又は感情を創作的に表現するに当たって採用された手法や着想も、それ自体としては保護の対象とはなり得ないものというべきである。
これを前提にした場合、ある者(本件では被控訴人)のある作品(本件では被控訴人図柄)が他の者(著作者、本件では控訴人)の複製権又は翻案権を侵害しているといい得るためには、その作品(本件では被控訴人図柄)が他の者(著作者、本件では控訴人)の思想又は感情を創作的に現実に具体的に表現したものと同一のもの、あるいは、これと類似性のあるものであることが必要であるということができる。より具体的に言い換えれば、その作品(本件では被控訴人図柄)を著作者(本件では控訴人)が現実に具体的に表現したもの(本件では本件著作物)と比較した場合、後者(本件では本件著作物)中の、著作者(本件では控訴人)の思想又は感情が外部に認識できる形で現実に具体的な形で表現されたものとして、独自の創作性の認められる部分について、表現が共通しており、その結果として、前者(本件では被控訴人図柄)から後者(本件では本件著作物)を直接感得することができることが必要であるというべきである。
(2) 本件著作物
ア 本件著作物は、カエルを擬人化した図柄である。本件著作物において、その「表現したもの」における、基本的な表現に注目すると、①顔の輪郭が横長の楕円形であること、②目玉が丸く顔の輪郭から飛び出していること、③胴体が短く、これに短い手足をつけていること、を挙げることができる。
カエルを擬人化するという手法が、少なくとも我が国において広く知られた事柄であることは、鳥獣戯画などを持ち出すまでもなく、当裁判所に顕著である。そして、カエルを擬人化する場合に、作品が、顔、目玉、胴体、手足によって構成されることになるのは自明である。
擬人化されたカエルの顔の輪郭を横長の楕円形という形状にすること、その胴体を短くし、これに短い手足をつけることは、擬人化する際のものとして通常予想される範囲内のありふれた表現というべきであり、目玉が丸く顔の輪郭から飛び出していることについては、我が国においてカエルの最も特徴的な部分とされていることの一つに関するものであって、これまた普通に行われる範囲内の表現であるというべきである。
そうすると、本件著作物における上記の基本的な表現自体には、著作者の思想又は感情が創作的に表れているとはいえないことになる。
そこで、次に、上記基本的な表現を基礎とする細部の表現について検討する。
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サ 以上、認定したところによれば、本件著作物のいずれについても、前記基本的表現自体には「著作物」の要件としての創作性を認めることができないという以外にない。しかし、それを現実化するに当たっての細部の表現においては、擬人化したカエルの図柄に、形状、配置、配色によるバリエーション(変形、変種)を与えることによって、表現全体として作者独自の思想又は感情が表現されているということができ、ここに創作性を認めることができる。
(3) 本件著作物と被控訴人図柄との対比
ア 上記認定のとおり、本件著作物は、上記認定の形状、図柄を構成する各要素の配置、色彩等による細部の表現により表現全体として独自の創作性を認めることができるものであるから、被控訴人図柄が本件著作物を複製又は翻案したものであるといい得るか否かは、上記細部の表現について、両者の表現が共通していて、その結果、被控訴人図柄から本件著作物を直接感得できる状態にあるか否かにより定まることになる。
以下、これについて考察する。
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オ 上記のとおり、独自の創作性を認めることができる本件著作物の形状、図柄を構成する各要素の配置、色彩等による具体的な表現全体に関して、本件著作物(1)(2)(3)①ないし⑥、(4)①及び②と、被控訴人図柄①、④及び⑤を、それぞれ個別的に対比してみると、輪郭の線の太さ、目玉の配置、瞳の有無、顔と胴体のバランス、手足の形状、全体の配色等において、表現を異にしていることが明らかであり、このような状況の下で、被控訴人図柄を見た者が、これらから本件著作物を想起することができると認めることはできないから、被控訴人図柄を、そこから本件著作物を直接感得することができるものとすることはできないというべきである。
(4) 控訴人は、基本となるキャラクターが共通していれば、このキャラクターに特徴を持たせて差別化を図り、それにより個性を出すことが行われたとしても、同じキャラクターであると認識することができる限り、複製権又は翻案権の侵害に当たるという趣旨の主張をする。
しかし、著作権法によって保護されるのは、「表現したもの」、すなわち、現実になされた具体的表現を通じて示された限りにおいての創作性であり、その意味では、著作権法によって保護されるのは、現実になされた具体的な表現のみであるというべきである。ただし、現実になされた具体的な表現に創作性が認められる場合に、次に問題となるのは当該著作物の保護の範囲であり、具体的な保護の範囲を検討するに当たって、本来それ自体としては著作権法上の保護の対象とならない思想又は感情自体、あるいは、表現手法ないしアイデアの創作性、その延長上で、キャラクターの創作性が影響を及ぼすことがあることは否定できないところである。そして、キャラクターとして把握されるもの及びその創作性のいかんによっては、当該キャラクターを創作し、それを現実に具体的な図柄として表現した者は、その図柄を著作物とする保護の範囲として、当該キャラクターを現実化した図柄すべてを主張することが許されることもあり得るであろう。
しかしながら、前述したとおり、カエルを擬人化するという手法が広く知られた事柄であることは明らかであり、カエルを擬人化する場合に、顔、目玉、胴体、手足によって構成されることになることも自明である。そして、本件著作物の基本的な表現に着目してみる限り、前述のとおり、それは、通常予想されるありふれた表現といい得る範囲に属するものであるから、これ自体を保護に値するキャラクターの構成要素とすることはできず、細部の表現によって構成されるところから抽象化されるものを本件著作物のキャラクターと把握する場合には、被控訴人図柄を同一のキャラクターの具体化とみることができないものであることは、前述したところから明らかである。
そうすると、本件著作物の具体的表現を捨象した抽象的概念と考えられるキャラクターをいかなる内容のものとして把握するとしても、それを考慮することにより、前記(3)の判断が左右されることはあり得ないことになる。
(5) 以上によれば、被控訴人図柄が本件著作物の複製権又は翻案権を侵害したものということはできないことは、その余の点について判断するまでもなく明らかである。