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著作権判例セレクション
著作権譲渡の意思の有無が争点となった事例
▶令和元年12月23日大阪地方裁判所[平成30(ワ)6004]▶令和2年8月28日大阪高等裁判所[令和2(ネ)171]
本件著作権の帰属について
(1)
前記のとおり,原告は,P2の法定相続人であり,P2の有していた本件著作権をその法定相続分に応じて相続したこととなる。そうすると,原告は,本件著作権につき6分の1の割合で共有持分を有することになる。
(2)
被告の主張について
ア これに対し,被告[(注)被控訴人である日本心理テスト研究所株式会社のこと]は,P2は,本件公正証書遺言ないし本件自筆証書遺言により,本件著作権につき,【その全部を被控訴人に遺贈し,】又はP3及び被告に対し各2分の1を遺贈したことから,原告は本件著作権を有しない旨を主張する。
イ 前記認定のとおり,本件公正証書遺言において,P2は,「その所有するYG性格検査の出版による印税」,「YG性格検査に関連する著作物(手引き,テープ等)に関する財産権」及びYG性格検査「以外の心理テストに関する著作権」を明確に区別して取り扱っている。また,これに加え,その8条では「著作物(手引き,テープ等)に関する財産権は日本心理テスト研究所株式会社の所有に属する」とし,9条では「前条以外の心理テストに関する著作権は,日本心理テスト研究所株式会社に属している」とするところ,各表現自体及び相互の差異に着目すると,8条では有体物である「YG性格検査に関連する著作物(手引き,テープ等)」の所有権の帰属を確認しているのに対し,9条では知的財産権である「前条以外の心理テストに関する著作権」の帰属を確認しているものと理解するのが最も合理的である。9条をこのように理解すると,「前条」「の心理テスト」であるYG性格検査に関する著作権は被告に現に帰属していないとするP2の認識がうかがわれる。
その上で,本件公正証書遺言においては,本件著作権を含むYG性格検査方法に関する著作権(著作財産権)それ自体の帰属ないし相続に関する明示的な言及はない。
さらに,本件自筆証書遺言において,P2は,「YG性格検査の出版による印税」の相続について本件公正証書遺言の内容を改めるとともに,当該検査に関する著作者人格権と関連付けて,原告により当該検査が改良されることへの希望を表現している。他方,本件自筆証書遺言においても,本件著作権を含むYG性格検査方法に関する著作権(著作財産権)それ自体の帰属ないし相続に関する明示的な言及はない。
さらに,P2の生前におけるYG性格検査に係る事業の状況を見ると,本件出版販売契約の締結に表れているように,昭和41年用紙を含むYG性格検査方法に係る著作物については,P2に著作権が帰属していることを前提にしつつ,被告がその発行等に当たっていたことが認められる。また,被告の事業遂行に当たっては,著作権者からの利用許諾その他の法律関係に基づき,上記著作物の使用権限が認められれば十分であって,著作権それ自体を被告が得ることが不可欠とまではいえない。
これらの事情に鑑みると,本件公正証書遺言7条及びこれを改定した本件自筆証書遺言7条は,金銭債権であるYG性格検査の出版による印税債権の相続に関して定めたもの,本件公正証書遺言8条は,有体物である「YG性格検査に関連する著作物」の所有権の帰属を確認したものであり,いずれも,本件著作権を含むYG性格検査方法に関する著作権について定めたものではないと理解される。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
[控訴審]
当審における被控訴人の主張に対する判断
証拠によれば,被控訴人が発行した本件回答方法説明用紙のうち平成5年以降のものには,「発行所
日本心理テスト研究所(株)」の下に「ⓒ日本心理テスト研究所(株)〔不許複製〕」と付記されていることが認められ,平成13年9月に死亡するまで,P2がこれに対して異議を述べたことは窺われないから,P2はこの付記を容認していたと認められる。しかし,P2は被控訴人に対し昭和41年用紙の利用を許諾しており,しかも,当時の被控訴人代表者であった控訴人とは親子であり,その関係も良好であったと窺われる。このような関係性の下では,昭和41年用紙の著作権者であるP2が上記のような付記を容認することは,たとえその著作権(本件著作権)を被控訴人に譲渡する意思がなかったとしても,不自然とはいえない。上記の付記を容認していたという事実があったからといって,P2が将来,本件著作権を被控訴人に承継させる意思を有していたと推認することはできない。
本公正証書遺言及び本件自筆証書遺言の解釈は,前記のとおり補正した上で引用した原判決において説示されているとおりである。P2は,本件著作権とその他の著作権との区別,著作権と著作物あるいは印税債権との区別を理解した上で,本公正証書遺言及び本件自筆証書遺言をしたと考えるのが合理的である。そして,本件著作権をめぐっては,昭和41年用紙についてP2と被控訴人の間で本件利用許諾契約が成立していることから,P2の死後はこれに基づいて法律関係が規律されることになると考えて,あえて本件公正証書遺言及び本件自筆証書遺言に本件著作権についての定めを置かなかったと解することができる。
したがって,本件著作権は,本件公正証書遺言又は本件自筆証書遺言によってその帰属が定められたと認めることはできず,その相続人である控訴人及び本件各相続人が共同相続したと認められる。