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著作権判例セレクション

テレビゲーム機のプログラムの複製を認定した事例

昭和590126日大阪地方裁判所[昭和57()4419]
() 以下、原告の「請求原因」(抜粋)
(著作権に基づく請求)
1 原告はテレビ型ゲームマシン「STRATEGY X」を製造販売しているが、右ゲームマシンの受像機に映し出される影像及びその内容(以下あわせて「本件ゲームの内容」という)は、味方の戦車が、プレイヤーの走行指示、砲撃指示に従つて、敵陣内を進み、敵方の攻撃を避けながら、その砲台、地雷等を砲撃により破壊し、途中燃料補給を受けながら敵陣を突き進み、最後に敵本拠地を破壊することを目的とし、進入度合に応じてプレイヤーの得点表示がなされるというものである。また、原告は右ゲームマシンの販売にあたり、別紙目録(四)記載の印刷物(操作説明書)を購入者に交付している。右説明書はテレビブラウン管の横に貼付し、プレイヤーに操作方法を案内するものである。
2 ところでテレビゲームマシンは、(1)PRINTED CIRCUIT BOARD(印刷回路基板、以下「PC基板」という)、(2)影像音声表示装置、(3)操作盤の三部門より構成され、右(1)PC基板はROM、CPU、IC、コンデンサ、抵抗等が装置されており、右(2)表示装置は右(1)PC基板の組込内容をブラウン管画面上に影像として作出し同時に音声出力をさせるものであり、右(3)操作盤はプレイヤーが自己の意思に基づき画像を操作するものであり、ゲームの内容に応じたものを必要とする。以上(1)ないし(3)が組合わされて一個のテレビゲームマシンが構成されている。
そして、本件ゲームの内容は記号語(アツセンブリ言語)を用いて表示されたソフトウエア・プログラム(以下「本件プログラム」という)によつて表現されており、右(1)PC基板上のROM(記憶装置)には本件ゲームの内容がコンピユーターに理解し得る機械語に変換された上で収納されている(以下、「右機械語に変換されたプログラムを「本件オブジエクト・プログラム」という)。)

一 請求原因1の事実のうち本件ゲームの内容が原告主張のとおりであること及び請求原因2の事実(テレビゲームマシンの構造、本件プログラムとROMの説明)は当事者間に争いがない。
 成立に争いのない(証拠)、証人Aの証言により真正に成立したと認められる(証拠)、証人Bの証言により真正に成立したと認められる(証拠)、証人A、同Bの各証言によれば、原告が「STRATEGY X」のテレビゲームマシンを製造販売し、その購入者に別紙目録(四)記載の印刷物を交付している事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
二1 前記(証拠)証、証人Aの証言及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
(一) 本件プログラムは、本件ゲームの内容の原告商品の受像機面上に映し出すことを目的とするものであり、右ゲームの内容は味方の戦車が、敵方の攻撃を避けながら、順次砲台、地雷等の敵方攻撃手段防禦手段を味方戦車の砲撃により破壊し、途中味方戦車が燃料補給を受けつつ、敵陣を突き進み、敵本拠地破壊を最終目的としており、影像とその変化はこれまでのテレビゲームマシンには見られなかつたものであり独創性を有する(被告は当時被告主張のテレビゲームが存在した旨主張するが右事実につき何ら立証しない)。
(二) 本件プログラムは、まず戦車が砲台を回して敵をつぶしてゆく、画面が上から下へ流れる、火薬庫やジープを配置するなどのアイデアを取捨選択して原案を作成し、右原案を基板の能力と突き合わせて企画案を作成し、フローチヤートに基づいてコンピユーターに対する各種の情報及び命令並びにその組合わせをアツセンブリ言語を用いて作成するといつた一連の手続を経て作成されたものであり、右のためには電子工学、数学等の知識を前提とする論理的思考を必要とし、右情報、命令及びその組合わせはプログラム作成者によつて個性的な相違を生ずる。
2 右の事実によれば、本件プログラムは、本件ゲームの内容を受像機面上に映し出すことを目的とするもので、右目的達成のためにゲームの内容を決定しこの決定された内容に従つてコンピユーターに仕事をさせるための各種の情報及び命令並びにその組合わせをアツセンブリ言語を用いて表現したものであるということができ、したがつて、本件プログラムにはその情報及び命令の組合わせ方にプログラムの作成者の学術的思想が表現され、かつ、その組合わせ方及びその表現はプログラムの作成者によつて個性的な相違があるので、本件プログラムは思想を創作的に表現したものであつて、学術の範囲に属するものであり著作物にあたると認められる。
三 証人Aの証言及び弁論の全趣旨によれば、請求原因4の事実(原告が著作権を有すること)が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
四 請求原因5の事実(被告が本件PC基板を製造販売し、本件印刷物を交付していること)は当事者間に争いがない。
五1 被告の本件PC基板のゲームの内容が原告のそれと同一であること及び本件印刷物が原告主張の点を除き原告のそれと同一であることは当事者間に争いがない。
2 右事実及び前記(証拠)、成立に争いのない(証拠)、前記(証拠)、証人A、同Bの各証言によれば次の事実が認められる。
(一) 原告及び被告の各オブジエクト・プログラムを対比するとその相違部分は別紙目録(六)記載のプログラム比較表記載のとおりであり、具体的には「STRATEGY X」が「STRONG X」に(同表②参照)、「(C)KONAMI 1981」が「1982」(同表①参照)と変更されているのみであり、本件ゲームの内容に関する部分は全く同一であること、印刷物も被告のそれは、「STRATEGY X」が「STRONG X」に変更され、「KONAMI(R)」の表示がなく、「あそびかた」の文字が加入され、色彩が多少変つているほかは全く同じである。
(二) 被告代表者は本件PC基板等の製造販売等の差止を求める仮処分の審尋の際原告のコピーと知つて本件PC基板を販売した旨述べている。
(三) ROMからロムライターを用いてオブジエクト・プログラムを取り出し、ゲーム名、製造会社名を加除訂正しその余のゲーム内容に関する部分はそのままにして他のROMに収納することは容易であり機械的にできる。
右各事実及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は原告のROMに収納されているオブジエクト・プログラムをロムライター等を用いて取り出し、その一部を改変して被告の本件PC基板のROMに収納した事実が推認され、右認定を左右するに足りる証拠はない。
3 そこで被告の右行為が本件プログラムを複製したものであるか否かにつき判断する。
証人Aの証言によれば、本件オブジエクト・プログラムは本件プログラムに用いられているアツセンブリ言語を開発用コンピユーターを用いて機械語に変換し、ROMに収納したものであり、右変換は機械的に行われることが認められ、そうすると本件オブジエクト・プログラムは本件プログラムの複製物にあたるということができる。そして、前記認定の、被告が本件オブジエクト・プログラムを原告のROMから取り出し、その一部を改変して本件PC基板のROMに収納する行為は、結局本件プログラムの複製物を有形的に再製するものとして本件プログラムの複製に該当するというべきである。