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著作権判例セレクション
特高警察関係資料につきその編集著作物性を認めた事例
▶平成21年02月27日東京地方裁判所[平成18(ワ)26458等]
(1)
事実認定
被告「特高警察関係資料集成」の内容は,次のようなものであると認められる。
ア 編集態様
① 米軍没収資料及び返還文書,旧陸海軍文書等を中心に,一般に公開されている関係資料を調査し,府県警察等を含めて特高警察に関係する資料を広く所収しようとしている。
② これまでほとんど知られていなかった資料群,例えば米騒動関係,1920年代の社会運動資料,3・15事件関係などを数多く含ませようとしている。
③ 資料を「共産主義運動」「無産政党運動「労働運動」「農民運動」「水平運動」「在日朝鮮人運動」「国家主義運動」「外事警察関係」「出版警察関係」等の12の分野に分けて,それぞれの分野の中ではおおむね編年順に配列し,特高警察体制の全体像を提示しようとしている。
④ 既刊の「社会運動の状況」のような整理された資料群と異なり,抑圧,取締りの第一線の現場に近い資料群を数多く含ませ,その実態をなるべくリアルに伝えようとしている。
⑤ 外事警察や出版警察,在日朝鮮人運動の抑圧,取締関係などにおいては,従来公刊されてきた復刻版,諸資料の欠落を補完し,それぞれの全貌の理解を可能にしようとしている。
イ 構成
(略)
(2)
判断
ア 上記認定の事実によれば,被告「特高警察関係資料集成」は,特定の官署部局が作成した文書などその範囲が一義的に定まる資料を単に時系列に従って並べて復刻したというものではなく,様々な官署部局が作成した文書を,なるべくこれまで知られていなかったり公刊されていなかった文書,なるべく個々の運動,事件に関する直接的な記述があるものという一定の視点から選択し,これを運動分野又は文書の種類別に配列したものであるから
全体として,素材たる原資料の,「選択」及び「配列」に編者の個性の発露がみられる。したがって,被告「特高警察関係資料集成」は,編集著作物というべきである。
これに反する原告高麗書林の主張は,採用することができない。
イ 韓国「特高警察関係資料集成」は,被告「特高警察関係資料集成」全体ではなく,その一部である10巻から24巻のみを複製したものであるが,その分量及び複写対象巻からみて,それらの部分のみの複製であっても,被告「特高警察関係資料集成」の編集著作物としての創作性を再現しているものと認められる。
(略)
(2)
被告「百五人事件資料集」
ア 同書籍は,第1巻を「寺内朝鮮総督謀殺未遂被告事件」とし,当該事件の起訴状,第2審判決,上告論旨,上告審判決を所収し,第2巻を「不逞事件ニ依ツテ観タル朝鮮人」とし,上記刑事事件等に関する国友尚謙に係る同名の論文を所収し,第3巻を「朝鮮陰謀事件」とし,セウルプレッス社発行,朝鮮総督官房総務局印刷所印刷に係る上記刑事事件等に関する同名の書籍を所収し,第4巻を「朝鮮総督暗殺陰謀事件」とし,ジャパンクロニクル記者である有馬義隆編纂,福音館発行に係る上記刑事事件等に関する同名の書籍を所収するものである。
イ したがって,被告「百五人事件資料集」は,戦前の刑事事件の裁判記録とこれに関することの明らかな3つの文献を復刻しただけの書籍であり,その素材の選択又は配列はありふれたものであって,創作性を認め難いから,編集著作物とはいえない。
(略)
(3)
被告「高等外事月報」
ア 同書籍は,昭和14年7月から昭和15年9月にかけて朝鮮総督府警務局保安課が刊行した月刊の刊行物である「高等外事月報」をその発行日付順に所収するものである。
イ したがって,被告「高等外事月報」は,月刊誌の各号を時系列に従って復刻しただけであるから,その素材の選択又は配列のいずれにも創作性を認め難く,編集著作物とはいえない。
(略)
(4)
被告「思想彙報」
ア 同書籍は,昭和4年10月から昭和8年9月にかけて憲兵司令部が刊行した月刊の刊行物である「思想彙報」をその発行日順に所収するものである。
イ したがって,被告「思想彙報」は,月刊誌の各号を時系列に従って復刻しただけであるから,その素材の選択又は配列のいずれにも創作性を認め難く,編集著作物とはいえない。
(略)
(5)
被告「朝鮮軍概要史」
ア 同書籍は,「朝鮮軍概要史」(著者不明)という1つの文書と,付録として,朝鮮軍残務整理部作成に係る「朝鮮における戦争準備」及び第一復員局作成に係る「本土作戦記録
第5巻 第十七方面軍」の2つの文書を所収するものである。
イ 「朝鮮軍概要史」に,「朝鮮における戦争準備」及び「本土作戦記録」,
第5巻「第十七方面軍」を組み合わせた点に創作性があるかが問題となるが,極端に資料が少い ことからすると,それらの組合せに素材の選択又は配列の創作性を認め難いから,編集著作物とはいえない。
(略)
(6)
被告「朝鮮思想運動概況」
ア 同書籍は,昭和11年8月から昭和15年8月にかけて朝鮮軍参謀部が陸軍次官あてに半年ごとに送付した機密報告書である「朝鮮思想運動概観」又は「朝鮮思想運動概況」を,その作成日順に所収するものである。イ
したがって,被告「朝鮮思想運動概況」は,半年ごとの報告書を時系列に従って復刻しただけであるから,その素材の選択又は配列のいずれにも創作性を認め難く,編集著作物とはいえない。