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著作権判例セレクション

LINEスタンプ等に用いられたキャラクター画像の侵害性が否定された事例

令和21014日東京地方裁判所[令和1()26106]
() 本件は,原告が,被告に対し,被告が制作したを用いた「LINE」のスタンプやグッズを販売する行為が,原告の制作した漫画に係る原告の著作権(複製権・翻案権,公衆送信権及び譲渡権)並びに著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害するなどと主張して,著作権法112条1項に基づき,別紙「うるせぇトリ」欄記載の画像を使用した上記スタンプ等の商品の作成,販売の差止めなどを求めた事案である。

1 争点1(被告作品が原告作品の複製又は翻案に当たるか)について
(1) 複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号参照),既存の著作物に依拠し,これと同一のものを作成し,又は,具体的表現に修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表現することなく,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうと解される。
また,翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する 者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるか
ら(同法2条1項1号参照),既存の著作物に依拠して作成又は創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらないというべきである。
そこで,これらを踏まえて,被告作品が原告作品の複製ないし翻案に当たるか否かについて,以下検討する。
(2) 原告作品全体の創作性及び被告作品全体との対比について
ア 証拠によれば,原告の原著作物(別紙2)に描かれた原告キャラクターは,頭部は髪がなく半楕円形であり,目は小さい黒点で顔の外側に広く離して配され,上下に分かれたくちばし部分はいずれも厚くオレンジ色であり,上下のくちばしから構成される口は横に大きく広がり,体は黄色く,顔部分と下半身部分との明確な区別はなく寸胴であり,手足は先細の棒状であるとの特徴を有しており,原告作品においては,原告キャラクターのこれらの特徴の全部又は一部が表現されているものと認められる。
イ 証拠及び別紙6「対比キャラクター」を含む弁論の全趣旨によれば,原告作品に描かれた原告キャラクターの上記特徴のうち,キャラクターの髪を描かず,頭部を半楕円形で描く点は同別紙の「エリザベス」及び「タキシードサム」と,目を小さい黒点のみで描く点は同別紙の「タキシードサム」,「アフロ犬」,「ハローキティ」,「にゃんにゃんにゃんこ」及び「ライトン」と,口唇部分を全体的に厚く,口を横に大きく描く点は同別紙の「おばけのQ太郎」と,顔部分と下半身部分とを明確に区別をせずに寸胴に描き,手足は手首・足首を描かずに先細の棒状に描く点は同別紙の「おばけのQ太郎」及び「エリザベス」(ただし,いずれも手の部分)と共通し,いずれも,擬人化したキャラクターの漫画・イラスト等においては,ありふれた表現であると認められる。
ウ そうすると,原告作品は,上記の特徴を組み合わせて表現した点にその創作性があるものと認められるものの,原告作品に描かれているような単純化されたキャラクターが,人が日常的にする表情をし,又はポーズをとる様子を描く場合,その表現の幅が限定されることからすると,原告作品が著作物として保護される範囲も,このような原告作品の内容・性質等に照らし,狭い範囲にとどまるものというべきである。
(3) 被告作品が原告作品の複製又は翻案に当たるか否かについて
上記(2)を踏まえ,被告作品が原告作品の複製又は翻案に当たるか否かについて,作品ごとに以下検討する。
ア 被告作品1について
() 被告作品1-1について
原告作品1-1と被告作品1-1との対比
原告作品1-1と被告作品1-1とを対比すると,両作品は,ほぼ正面を向いて立つキャラクターにつき,目を黒点のみで描いている点,くちばしと肌の色を明確に区別できるように描いている点,顔部分と下半身部分とを明確に区別せずに描いている点,胴体部分に比して手足を短く描いている点のほか,黒色パーマ様の髪が描かれている点において共通するが,黒色パーマ様の髪型を描くこと自体はアイデアにすぎない上,その余の共通点は,いずれも擬人化されたキャラクターにおいてはありふれた表現であると認められる。
他方,両作品については,原告作品1-1では,キャラクターの体色が黄色で,両目が小さめの黒点のみで顔の外側付近に広く離して描かれ,上下のくちばしはオレンジ色で,たらこのように厚く描かれているのに対し,被告作品1-1では,キャラクターの体色は白色で,両目がより顔の中心に近い位置に,多少大きめの黒点で描かれ,上下のくちばしは黄色で原告キャラクターに比べると厚みが薄く,横幅も狭く描かれているなどの相違点がある(以下,これを「作品に共通する相違点」という。)。
加えて,原告作品1-1では,キャラクターが,いわゆるおばさんパーマ状の髪型(毛量は体の約5分の1程度で,への字型の形状をし,眉毛も見えている。)をして,口を開け,左手を上下に大きく振りながら,表情豊かに相手に話しかけているかのような様子が表現されているのに対し,被告作品1-1では,いわゆるアフロヘアー風のこんもりとした髪がキャラクターの体全体の半分程度を占めるなど,その髪型が強調され,キャラクターの表情や手足の描写にはさしたる特徴がないなどの相違点があり,その具体的な表現は大きく異なっている。
以上のとおり,両作品は,アイデア又はありふれた表現において共通するにすぎず,具体的な表現においても上記のとおりの相違点があることにも照らすと,被告作品1-1から原告作品1-1の本質的特徴を感得することはできないというべきである。
したがって,被告作品1-1は,原告作品1-1の複製にも翻案にも当たらない。
(以下略)
(4) 以上のとおり,被告作品が原告作品の複製又は翻案に当たるとは認められないから,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求はすべて理由がない。