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著作権判例セレクション

【名誉権】名誉棄損を認定した事例(「劇団○○による舞台美術剽窃事件に関する記者会見」が問題となった事例)

平成120919日東京高等裁判所[平成11()2937]
二 名誉毀損について
1 証拠によれば、次の事実が認められる。
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2 右認定のとおり、控訴人らは、記者会見の席を設けて、G作品は控訴人Aの作品を盗作したものであり、被控訴人らに責任があるなどの事実を告知し、これが、朝日新聞、産経新聞、讀賣新聞、東京新聞、統一日報によって、全国に広く報道されるところとなった。また、その結果、被控訴人G及び同Sが控訴人Aの作品を「盗作」をしたのではないかとの疑いの目、好奇の目にさらされることになったことは容易に推測し得るところであり、被控訴人らの名誉、声望が著しく毀損されたことは明らかというべきである。
本件第一著作物とG作品とは、一見しても、いわゆるデッドコピーでないことは明白であり、直ちに著作権法上の「複製」や「翻案」に該当することにはならないのであるから、著作権法上の「複製」や「翻案」に該当するかどうか慎重に検討する必要があるのであり、控訴人らが、敢えて、被控訴人らが著作権を侵害していると公に発表しようというのであれば、十分な裏付けを基に慎重のうえにも慎重になすべきことであったというべきである。
ところが、控訴人らは、本件第一著作物を含む控訴人A制作の「復活を待つ群れ」と題する一群の造形美術作品と本件舞台装置との比較で、基本的な構図、色彩等が共通しているところにのみ着目して、短絡的に、G作品が本件第一著作物を複製・翻案したものに当たると即断し、右共通性が真に著作権法にいう「複製」や「翻案」に当たるかどうかについての検討を一切せず、被控訴人Gから、作者同士で話し合おうとの提案がされていたにもかかわらず、これを拒否し、一方的に、被控訴人らを糾弾すべく記者会見を催したのであるから、これが、不法行為の要件としての違法性のある行為を故意によって行った場合に該当することは明らかである。
右のとおり、控訴人らの行為は、不法行為を構成するものであるから、控訴人らは、右行為によって被控訴人S及び同Gに生じた損害を賠償する義務がある。
3 控訴人らは、被控訴人Sや被控訴人Hらが責任逃れに終始し何らの誠意ある対応をなさなかったため、控訴人らは、このままでは被控訴人らの責任がうやむやになってしまうことを憂慮し、このような事態について学術的問題を提起することによって、Aの芸術家としての名誉を擁護するとともに被控訴人らに対し文化活動に携わるものとしての自覚を喚起すべく、新聞人に広報し記者会見を開くとともに、一方、法的手続について弁護士に依頼し裁判所の判断を仰ぐべく本訴提起に至ったのであり、控訴人らのこれらの行為は、何ら責められるべきものではない旨主張する。
しかしながら、被控訴人Sや被控訴人Hらが責任逃れに終始し何らの誠意ある対応をなさなかったとはいえないことは、前記認定のとおりであり、また、控訴人らが、記者会見の前に、「BeSeTo演劇祭において、作品の剽窃が発覚いたしました」、「この演劇を見たA本人が気づき、終演後、演劇祭事務局と同劇団に抗議と釈明要求を申し入れました。しかし、同祭事務局と劇団はいまだ、誠意ある回答をしていません。」、「法的手続きは既に準備しております」等と記載された文書をファックスで送信すること、記者会見において、控訴人らが、G作品は控訴人Aの作品を盗作したものであるとし、被控訴人S、同Gらに責任があるとし、謝罪広告や損害賠償を求める意図があるなどと発表することが、学術的問題の提起でないことは、それ自体で明らかである。
控訴人らの主張は、失当である。
4 また、控訴人らは、本件のような作家の著作権侵害の事案においては、「当該作品を制作した者などから事実を確認するなどして、真実著作権を侵害する行為があったか否かを十分に調査」することは事実上不可能であるとし、著作権を侵害して作品を作成した作家が、自分がその作品を作成することの必然的な経緯を創作し、オリジナルな作品であることを主張したからといって、「真実著作権を侵害する行為」がなかったことにならないことは当然であるとし、G作品が本件第一著作物とよく似ていることは、原判決も認めているとおりであるから、このような事実がある以上、「当該作品を制作した者などから事実を確認するなどして、真実著作権を侵害する行為があったか否かを十分に調査」する義務は緩やかに解されるべきである旨主張する。
しかしながら、控訴人らの主張によれば、結局、自己の作品と似ている作品については、相手方が何と弁解しようが、著作権を侵害するものとしてよく、この点について十分に調査、検討すべき義務はないということになる。当裁判所は、このような結果となる見解を採用することができない。
5 さらに、控訴人らは、記者会見において、問題となっている作品について、双方の作品の写真を記者に提供して、記者らの検証を可能ならしめたうえで会見を行ったものであり、記者らは、これらの写真により、剽窃の疑いを確認して記事とすることが可能であり、事実、確認のうえ記事としているのだから、本件記者会見と記事の内容との間には、参加記者の判断が介在しており、直接的な因果関係はない旨主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、朝日新聞、産経新聞、讀賣新聞、東京新聞、統一日報は、控訴人らが記者会見で発表したことを事実として報道したわけではなく、控訴人らが、記者会見の席で発表した事実を、被控訴人G又は被控訴人Sの若干の反論ないし言い分も合わせて報道しただけである。そして、このような報道によっても、全国に広く報道されることによって、被控訴人G及び同Sが控訴人Aの作品を「盗作」をしたのではないかとの疑いの目、好奇の目にさらされることになったため、被控訴人らの名誉、声望が著しく毀損されたのであるから、因果関係の有無を論ずる控訴人らの主張は、失当であることが明らかである。
三 附帯控訴について
1 損害額
被控訴人S及び同Gが、G作品及びこれを組み込んだ本件舞台装置が、控訴人Aの作品を「盗作」をしたのではないかとの疑いの目、好奇の目にさらされることになり、名誉、声望を著しく毀損されたことは、前記認定のとおりである。
証拠及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人Sの代表者であるEは、世界的にも高い評価を受けている演出家であり、同被控訴人の主宰する劇団Sは、昭和41年に創設されて以来、我が国のみならず海外でも数多く公演を行ってきた我が国でも屈指の現代劇団であること、被控訴人Gは、昭和57年以来、数多くの絵画作品を手がけて毎年のように個展を開き、平成2年からは、「マクベス」、「イワーノフ」などの演劇の衣装や舞台美術をも担当し、美術家として活動してきていたことが認められる。このような被控訴人S、同Gの社会的地位に、前記認定のとおりの控訴人らの不法行為の態様、結果の重大さ、後述のとおり謝罪広告の請求が認容されること、表現手法やアイデアが共通していたため著作権法上の複製・翻案に当たると誤解しやすい状況があったこと、その他諸般の事情を総合して、被控訴人らが、控訴人らの不法行為により被った精神的損害の金銭的評価は、Gについて100万円、Sについて100万円とするのが相当であると認める。
2 弁護士費用
本件事案の内容、請求額、認容された額、訴訟遂行の難易さなど一切の事情を総合して、右不法行為と相当因果関係のある弁護士費用に係る損害は、G及びSそれぞれにつき、40万円とするのが相当であると認める。
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3 謝罪広告
民法は、他人の名誉を毀損した者に対して、裁判所が被害者の請求により損害賠償に代え又は損害賠償とともに名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができると規定している(723条)。本件の場合、被控訴人Sは、我が国でも屈指の劇団であり、被控訴人Gも、美術家としての活動を続けてきていたものである。ところが、控訴人らは、前示のとおり、被控訴人らの名誉、声望を毀損することによって故意に被控訴人らの人格権を侵害したのである。また、本件紛争は、前記のとおり、多数の全国紙に取り上げられ、被控訴人らは、舞台装置に、本件第一著作物を複製・翻案したG作品を使用したとの疑いをもたれたままの状態になっている。これらの点を考慮して、被控訴人らが本件第一著作物を盗作したものではないとの事実を確保し、その名誉を回復するための適当な措置として、控訴人らが、被控訴人S及び同Gのために、別紙謝罪広告目録一記載の謝罪広告を、見出し及び記名宛名は各14ポイント活字をもって、本文その他の部分は8ポイント活字をもって、朝日新聞社発行の朝日新聞、産業経済新聞社発行の産経新聞、及び讀賣新聞社発行の讀賣新聞の各全国版朝刊社会面、中日新聞社発行の東京新聞の朝刊社会面、並びに統一日報社発行の統一日報にそれぞれ一回掲載することを認めるのが相当であると認める。