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著作権判例セレクション

【その他の支分権】口述権侵害を認めなかった事例

▶平成251213日東京地方裁判所[平成24()24933]
() 本件は,宗教法人である原告が,別紙記載の祈願経文(「本件経文」)の著作権(複製権,口述権)に基づき,①被告Bにつき本件経文①ないし③の口述の差止め及び同経文の複製物の廃棄を,②被告Aにつき本件経文④ないし⑥の複製及び上記複製によって作成された物の頒布の差止め並びに同経文の複製物の廃棄を各求め,さらに, 被告らが,共謀して,原告の法具及び袈裟を使用し,本件経文を読誦して祈願模倣行為を執り行うとともに,上記祈願模倣行為が原告の許可の下でなされたものである旨の発言を行ったこと等は,原告の名誉・信用を毀損するものであり,かつ,本件経文に係る原告の著作権(口述権)及び上記法具等に係る原告の所有権を侵害するものであって,被告らの共同不法行為(民法719条前段)を構成すると主張し,上記不法行為に基づく損害金等の支払などを求めた事案である。
本件反訴は,被告らが,本訴事件は,原告が,被告らに対する報復のために提起したものであり,本来であればおよそ法律問題となり得ない事実につき,成立し得ない法律構成で不当な主張をするものであるから,被告らに対する不法行為を構成すると主張し,上記不法行為に基づく損害金等の支払を求めた事案である。

2 争点(2)ア(本件経文の著作物性)
(1) 証拠によれば,本件経文は,原告代表役員が天上界により降ろされた聖なる祈りの言葉として創作したものであり,原告における宗教的儀式の中で読誦して用いられるものであるとされるところ,甲19号証(本件経文を読み上げた音声を収録した録音テープ)によれば,本件経文の具体的内容は,次のとおりであるとされる。
ア 本件経文①は,地球人を誘拐する宇宙人の悪行を封印し,主に帰依する者の守護を祈願する旨の内容のものであり,「地球人をさらい」で始まり,その途中に「地球に守護神,エル・カンターレあり。その魂の兄弟,リエント・アール・クラウドこそ,」との部分や,「われらエル・カンターレの弟子一同,地球を愛と慈悲の光の星とすべく,日々努力せる者なり。」との部分を含み,「ご指導,まことにありがとうございました。」で終わるものである。
イ 本件経文②は,主を信ずる者につき罪が許され救われる旨を述べ,主を信ずることを呼びかけ誓うことを内容とするものであり,「幸いなるかな」で始まり,その途中に「ただひたすらに主を信じなさい。ただひたすらに主の救いを信じ,主の全能なることを祝福しなさい。」との部分や,「主エル・カンターレと共にある者に,ヒーリング・パワーが臨みますように。」との部分を含み,「魂の底より,お誓い申し上げます。」で終わるものである。
ウ 本件経文③は,人々に害をもたらす悪霊を退治し,封印する旨を内容とするものであり,「目に見えぬ世界より」で始まり,その途中に「善なる魂を持ちし人々を,惑いと苦しみの闇に落とさんとする悪霊よ。」との部分や,「われ,神仏にかわりて,汝らを退治する。」との部分を含み,「まことにありがとうございました。」で終わるものである。
エ 本件経文④は,「経営」の概念や,これに必要となる資質等について述べ,そのような資質が与えられるよう祈願することなどを内容とするものであり,「主,エル・カンターレよ。」で始まり,その途中に「主よ,吾に不退転の決意を授けたまえ。吾に勤勉なる精神と不屈の闘志を与えたまえ。」との部分や,「事業の成否は,与えられた天分と,経営者一己の精進にかかっております。」との部分を含み,「ありがとうございました。」で終わるものである。
オ 本件経文⑤は,経営に当たっての心構えや決意等を,主に対し呼びかける形で述べることを内容とするものであり,「主よ」で始まり,その途中に「私どもは,現在に対しても,未来に対しても,自信と希望に満ちあふれています。」との部分や,「サービスの一つ一つに,善なる魂を込めて,今日も千客万来」との部分を含み,「まことにありがとうございました。」で終わるものである。
カ 本件経文⑥は,事業を成功させるために必要となる資質や行動等について述べ,事業繁栄を目指すことを呼びかけることなどを内容とするものであり,「大宇宙は」で始まり,その途中に「人,物,金,情報,空間,時間のすべての経営資源を活かし切って」との部分や,「仕事の厳しさと包み込む愛を忘れずに,今日も夢を語り,一日分手堅く強く前進せよ。」との部分を含み,「成功も無限である。」で終わるものである。
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(3) 以上によれば,本件経文の内容は前記(1)アないしカのとおりであると認められるところ,本件経文の上記内容に照らし,本件経文には,原告代表役員の個性が表現されているものといえるのであって,その思想又は感情を言語によって創作的に表現したものであると認められる。
したがって,本件経文は,言語の著作物(著作権法10条1項1号)として著作物性を有する。
(4) 原告は,原告代表役員から本件経文の著作権の譲渡を受けたものと認められるから,原告は,本件経文に係る著作権(口述権,複製権)を有する。
3 争点(2)イ(被告Bに対する本件経文①ないし③の口述差止請求及び本件経文①ないし③の複製物の廃棄請求の可否)
(1) 証拠によれば,上記争点に関し,次の事実が認められる。
ア 前記前提事実のとおり,Eは,平成22年2月,一般社団法人カウンセラー検定協会(平成23年12月に「一般社団法人心検」に名称変更)を設立し,一般に受講生を募って心理学等を内容とする講座を開講するなどしていた。
イ Eは,平成22年頃から平成23年12月頃までにかけて,心検の上記講座等受講者のうち,原告信者である者から受けた質問や相談が心理学の範ちゅうを超えると感じた際などに,心検の「課外授業」として被告Bのカウンセリングを受けるよう勧め,上記勧めを受けた者が被告Bの自宅を訪れることがあった。また,Eは,心検の受講者以外の者にも,被告Bを紹介したことがあった。
ウ 被告Bは,上記のとおり自宅を訪れた者に対し,1時間から2時間程度話を聞くなどした上で,初回の訪問については3万円,二回目以降の訪問については1万円の金員を受領していた。なお,被告Bは,上記金員のうち,初回分の20%(6000円)をEに紹介料として支払っていた。
エ 被告Bは,上記のとおり同被告の自宅を訪れた者の相談を聞く中で,被告Cの同席の下,本件経文①ないし③を読み上げることがあった。
オ 被告Bは,上記エのほかにも,本件経文①ないし③を一人で又は被告Cとともに読み上げることがあった。
(2) 以上の事実を前提に,被告Bによる本件経文①ないし③の著作権(口述権)侵害の成否について検討する。
ア 著作者は,その言語の著作物を公に口述する権利を専有するところ(著作権法24条),「公に」とは,その著作物を,公衆に直接見せ又は聞かせることを目的とすることをいい(同法22条),「公衆」には,不特定の者のほか,特定かつ多数の者が含まれる(同法2条5項)。そして,当該著作物の利用が公衆に対するものであるか否かは,事前の人的結合関係の強弱に加え,著作物の種類・性質や利用態様等も考慮し,社会通念に従って判断するのが相当である。
イ そこで本件についてみると,被告Bが,「心検」の受講者等のうち,Eの勧めを受けて被告Bのもとを訪れた者の一部に対し,本件経文①ないし③を読み上げたことがあり(以下,本件経文①ないし③の読上げを「祈願」ということがある。),また,本件経文①ないし③を一人で又は被告Cとともに読み上げたことがあることは前記(1)エ及びオでみたとおりであるところ,上記行為は,いずれも,言語の著作物である本件経文①ないし③を口頭で伝達するものとして,「口述」(著作権法2条1項18号)に該当する。
ウ しかし,上記イの口述のうち,後者(被告Bのみ又は被告Cと2人による読上げ)については,自宅内において,被告Bのみで又はその妻である被告Cと二人で行われたものであるから,上記口述が,公衆に直接聞かせることを目的として行われたものとは認められない。
したがって,上記読上げが「公に」なされたものと認められない以上,上記読上げが,本件経文①ないし③に係る原告の口述権を侵害するものとは認められない。
エ 次に,上記イの口述のうち,前者(被告Bが,同被告のもとを訪れた者に対し,本件経文①ないし③を読み上げたこと)が,本件経文①ないし③を「公に」口述したものとして,口述権侵害を構成するか否かについて検討する。
() 被告Bは,上記(1)エのとおり祈願を行った人数について,Eから紹介を受けた5名のみであると述べている。他方,Eは,被告Bのもとを訪れて相談を受けるよう勧め,相談者からEが相談料金を受け取り,そこから紹介料を差し引いて被告Bに渡した人数につき,「心検」受講者について5名であり,それ以外に相談者が被告Bに直接相談料を支払った者が1名であるかのようにも受け取れる証言をしている。しかし,いずれにせよ,祈願を受けた人数は5,6名にとどまる。
原告は,この点について,被告Bが,多数の者を対象として本件経文の読み上げを行ったと主張し,原告信者らの陳述書を提出する。しかし,上記陳述書の作成者のうち,自らが被告Bの祈願を受けたとする者は降霊会等への参加者を含めて4名である。
以上によれば,被告Bが祈願を行った人数は5,6名にとどまるとみるべきであって,被告Bが多数人に対して祈願を行い,本件経文①ないし③を読み上げたものと認めることはできない。
() この点に関し,原告は,上記読上げの時点における同席者が特定の少数人であったとしても,任意の条件の下に人数が増減する可能性があれば,不特定の者を対象にするものとして「公に」を充足するし,「公に」の要件が,排他的権利が及ぶ著作物の利用範囲を適切に画することにあるところから,当該行為が有償でなされたものであることは,私的領域の範囲を超えるものとして,「公に」の充足性についての重要な判断基準となると主張する。
しかし,上記陳述書において,被告Bの祈願を受けたとされる者は,いずれもEから心検の「課外授業」等として被告Bの紹介を受けた者か,被告Bの子の友人等,被告Bと個人的な関係のある者として記載されているのであって,被告Bが,このような範囲を超えた者に対し,本件経文の読み上げを行ったことを認めるに足りるものではない。そうすると,祈願の対象となった範囲の者は限定されているのであって,原告が主張するように任意の条件の下に人数が増減するような範囲の者ではないというべきである。
したがって,この点についての原告の主張を採用することはできない。
さらに,前記(1)ウのとおり,被告Bは,同被告のもとを訪れた者から金員を受け取っていたことが認められるが,Eによれば,上記金員は,相談料名目で支払われたものであり,祈願を行うか否かによってその金額が上下するものではないとされる上,被告Bは,上記のとおり,実際に1時間から2時間程度,相談者の話を聞くなどしていたというのであるから,上記金員は,来訪者の話を聞き,相談に乗ることなどの対価として支払われたものとみるべきであり,これを祈願の対価と評価することはできないものというべきである。
そして,原告信者らの陳述書をみても,上記の相談料名目の金員とは別に,祈願の対価として金銭を支払った旨の陳述をするものはみられず,かえって,祈願の対価を支払ったことはない旨記載したものがみられるのであるから,被告Bが,上記金員とは別に,祈願を受けた者からその対価を受領していたものとは認められない。なお,Gの陳述書中には,被告Bが「30万円の,精舎でしかやれない経営系の祈願を5万円でやってあげると言うと,喜んでどんどん受ける人たちがいる」旨の被告Bの発言を聞いた旨の部分があるが,被告Bが対価を受領して本件経文①ないし③の祈願を行っていたことを具体的に裏付けるに足りるものではない。
したがって,対価の受領を理由として「不特定」であるとする原告の主張も採用することはできない。
() 原告は,本件経文①ないし③の読み上げは,定期的かつ継続的に行われたものであるから,不特定の者に対してされたものであるとも主張する。
被告Bは,本件経文①ないし③の読み上げを行った回数に関し,本件経文①につき10回程度,本件経文②につき1回,本件経文③につき5回程度にとどまるものと供述しているところ,上記供述は,被告Cの供述と概ね一致するものである。そして,前記原告が提出する陳述書によっても,被告Bの供述する上記回数が不自然なものとは認められない。したがって,本件経文①ないし③の読み上げ回数は被告Bの供述のとおりであると認められる。
以上の事実に基づいて検討するに,被告Bが,上記カウンセリングを行うに際し,必ず本件経文の読み上げを行っていたものとは認められず,被告Bが必要であると感じた際に本件経文を読み上げたものと認められるにとどまることや,その延べ回数が,上記のとおり,本件経文のうち,多いものでも10回程度にとどまるものであることを考慮すれば,上記読み上げが,定期的かつ継続的になされたものと評価することはできない。
したがって,この点についての原告の主張も採用することができない。
このほかに,被告Bが「不特定」の者に対して本件経文①ないし③を読み上げたことを認めるに足りる証拠はない。
() したがって,被告Bが,同被告のもとを訪れた者に対し,本件経文①ないし③を読み上げたことが,本件経文①ないし③を「公に」口述したものに当たるとは認められず,口述権侵害に当たるものとはいえない。
(3) 以上によれば,被告Bにつき,本件経文①ないし③の口述権侵害は成立しないから,被告Bに対する本件経文①ないし③の口述の差止請求及び専ら口述権侵害行為に供された器具としての本件経文①ないし③の複製物の廃棄請求はいずれも認められない。
4 争点(2)ウ(被告Aに対する本件経文④ないし⑥の複製・頒布の差止請求及び本件経文④ないし⑥の複製物の廃棄請求の可否)
(1) 証拠によれば,①被告Aは,原告の職員であった当時,原告から交付された祈願経文のファイルを,原告退職後も返却することなく保有していたこと,②Eも,知人である原告の職員に依頼するなどして相当数の祈願経文を入手し,保有していたこと,③被告Aが,平成19年1月から2月頃,その勤務していた会社の代表者に対し,上記ファイル中から本件経文④のコピー1枚を作成し,交付したことがあること,④被告Aは,心検の事務所において,朝の祈りとして,Eとともに本件経文④ないし⑥を読み上げたことがあり,上記読上げのために,本件経文④ないし⑥のコピーを用意し,上記事務所に置いていたことが認められる。
(2)ア 上記(1)③及び④のとおり,被告Aは,本件経文④ないし⑥を複製したことがあるものと認められる。なお,上記(1)④のコピーについては,被告AとEのいずれが行ったものであるかは明確ではないが,被告AがEとともに上記読み上げを行っていることに照らし,両者は上記複製を共同して行ったものと認めることができる。
イ 他方,本件各証拠に照らしても,被告Aが,上記(1)③のほかに,本件経文④ないし⑥を他人に交付した事実を認めることはできない。したがって,被告Aが,本件経文④ないし⑥の複製物を頒布(著作権法2条1項19号)すなわち公衆に譲渡したものとは認められないから,被告Aの行為が,著作権法113条1項2号に該当するものとは認められない。また,前記でみたとおり,被告Aは,原告を除名になった後,原告への信仰心を喪失し,原告の祈願経文を全て廃棄したものと認められるのであるから,上記(1)の①,③,④の行為があったからといって,被告Aが,今後,本件経文④ないし⑥を複製するおそれがあるものとは認められないし,被告Aが廃棄の対象となる本件経文④ないし⑥の複製物を所持しているものとも認められない。
(3) したがって,被告Aに対する本件経文④ないし⑥の複製及び頒布の差止め並びに本件経文④ないし⑥の複製物の廃棄はいずれも認められない。
5 争点(3)(被告らによる共同不法行為の成否)
(1) 証拠によれば,被告Bは,平成20年末又は平成21年頃,Eから本件法具等を渡され,前記前提事実のとおり,Eに対し平成24年2月頃に本件法具を,同年4月頃に本件袈裟を受け渡すまでの間,自宅において祭壇に飾るなどして本件法具等を保管していたものであり,また,本件法具等は,Eが,原告において広報局長を務めていた頃に,原告に無断で持ち出したものであったことが認められる。
(2)ア 原告は,被告Bが上記のとおり保管していた本件法具等を用いて祈願を行ったものであると主張し,上記行為は,宗教法人としての原告の本質を冒涜する行為であり,原告の行う祈願の効果やその尊さに対する信頼を破壊し,原告に対する信頼を揺るがすものであると主張する。
しかし,原告の宗教法人としての本質がどのような点にあるか,原告における祈願行為の位置付け,上記祈願行為を誰がどのような場で行うことが,原告の教義上適切であるのかなどという点は,専ら宗教活動の領域に属する事柄であって,法的判断になじむものとはいい難いものであるから,被告Bが本件法具等を用いて祈願を行ったものであるとしても,これにより,原告に法的保護を受け得る宗教法人としての利益が観念され,これが侵害されたものとは認められない。
イ また,原告は,被告Bが「本物」の法具である本件法具等を使用して原告の祈願を行った上,上記祈願を行うことにつき原告から許可を受けている旨の発言や,祈願料の割引を行う旨の発言を行ったことは,原告の社会的評価を低下させるものであり,その名誉又は信用を毀損するものに当たると主張する。
しかし,争点(2)イに関する当裁判所の判断でみたとおり,被告Bが,本件経文の読み上げに当たり,対価を得ていたものと認められないことに照らせば,被告Bが,祈願料の割引を行う旨の発言を行ったこと自体,認められるものではない。
また,仮に被告Bが祈願を行うことにつき原告から許可を受けている旨の発言をした事実が認められるとしても,争点(2)イに関する当裁判所の判断で認定した事実に照らせば,被告Bの上記発言の相手方は特定少数の者に限られるというべきであるから,原告の社会的評価を低下させるものに当たるとも解し難く,その信用を毀損するものとも認め難い。
ウ 被告Bによる本件経文①ないし③の読上げが,原告の口述権を侵害するものと認められないことは争点(2)イに関する当裁判所の判断のとおりである。
エ 小括
したがって,原告の主張する不法行為のうち,宗教法人としての本質の侵害,名誉・信用毀損,口述権侵害を理由とする部分については,その余の点について検討するまでもなく理由がない。
() 上記(1)のとおり,被告Bは,平成20年末又は平成21年頃から平成25年2月ないし4月頃までの間,自宅において本件法具等を保管していたものであるところ,本件法具等は,Eが原告から無断で持ち出したものであったと認められるから,被告Bが本件法具等を占有する権原を有していたものとは認められない。また,被告Bは,上記(1)のとおり,本件法具等を祭壇に飾るなどして保管していたものであり,本件法具等を,自己のために占有していたものと認められる。
() 被告Cは,被告Bが上記のとおりEから本件法具等を渡された際にその場に同席し,最終的には,本件法具等を預かり保管することを了承したものと認められるから,被告Cは,本件法具等を被告Bと共同して占有していたものと認められる。
() 他方,被告Aは,Eが原告から持ち出した法具を被告Bに渡したことや,被告B及び被告Cがその自宅において本件法具等を保管していることを知っていたものと認められるものの,被告Aが,被告Bらとともに上記保管を行い,又はこれを幇助したことをうかがわせるような事実は認められないから,本件法具等を,被告Bらと共同して占有していたものとは認められない。
() したがって,被告B及び被告Cについてのみ,共同して本件法具等を占有し,これにより,原告の本件法具等に係る所有権を侵害したものと認められるところ,被告B及び被告Cは,Eから本件法具等を受け取るに際し,懸念を表明したというのであって,Eが本件法具等を権原なく持ち出したことを認識し又は認識し得たものと認められるから,上記所有権侵害につき故意又は過失があったものと認められる。
() 以上によれば,本件法具等の占有につき,被告B及び被告Cに所有権侵害の共同不法行為が成立する。
6 争点(4)(損害額)
(1) 本件法具等の所有権侵害の共同不法行為による損害について
ア 原告は,本件法具等を使用して行われるべき祈願の回数を,月20件を下回らないものと主張した上で,被告B及び被告Cが本件法具等を占有していた期間である平成20年末又は平成21年初め頃から平成25年2月ないし4月頃までの約4年間において,本件法具等を用いた祈願により原告に奉納されるべき布施の目安金額は,2880万円であり,そのうち,本件法具等の寄与度に相当する金額である288万円を,本件法具等の上記占有による損害であると主張する。
イ しかし,原告は,本件法具と同様の法具又は袈裟を複数個製作し,精舎又は支部等において保管していたものであり,原告の精舎又は支部において,予備の法具等を保管している場合もあるというものである上,原告が被告ら及びEに平成24年7月26日付けで送付した文書の内容に照らせば,本件法具等が持ち出されたことは,上記文書を発出した頃に原告に判明したものにとどまり,かつ,原告において,法具等が持ち出された場所を特定することもできなかったことがうかがわれるから,本件法具等が持ち出され,被告B及び被告Cによって占有されたことにより,原告において祈願を行うことができず,又は行うことのできる祈願の件数が減少したなどの事実を認めることはできない。
したがって,原告が本件法具等を用いて行うべき祈願により得るべき金員を,本件法具等の占有による損害と認めることはできない。
ウ 他方,原告は,本件法具等をその費用において製作したものであり,上記費用は15万円を下回らないものと認められる。また,原告は,その使用期間(耐用期間)を10年間と主張しているところ,本件法具等の材質やその用途等に照らし,原告の主張する上記使用期間(耐用期間)は合理的なものと認められる。
そうすると,原告は,上記のとおり費用を投じて製作した本件法具等を,10年間にわたり使用することができたはずであるにもかかわらず,被告B及び被告Cによる本件法具等の占有により,約4年間にわたり,本件法具等を使用することができなかったものであるから,製作費用のうち,上記のとおり使用することのできなかった期間に相当する額の損害を被ったものと認められる。
上記損害は,下記計算式のとおり,6万円と算出される。
15万円×4年間/10年間=6万円
エ 本件訴訟の内容,認容額その他諸般の事情を考慮すれば,弁護士費用としては1万円が相当であると認められる。
(2) 以上によれば,本件法具等の所有権侵害による原告の損害は7万円と認められ,被告B及び被告Cは,連帯して上記損害を賠償すべき義務を負う。
()
7 争点(5)(反訴請求の成否)
(1) 訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られると解するのが相当である(最三小判昭和63年1月26日参照)。
(2) これを本件についてみると,本件訴訟の提起時における本訴請求内容は前記前提事実でみたとおりであるところ,被告B及び被告CがEから渡されて本件法具等を占有していたことや,被告Bが本件経文①ないし③を読誦したことがあること,被告Aが本件経文④ないし⑥を複製し,他人に譲渡したことがあることが認められることは,これまでの当裁判所の判断でみたとおりである。これに加えて,本訴請求について一部認容する部分があることも考慮すれば,原告が本訴請求の原因として主張する事実が事実的,法律的根拠を欠くものとはいえず,本件訴訟の提起が裁判制度の趣旨に反し著しく相当性を欠くものと評価することはできない。
(3) したがって,その余の点について検討するまでもなく,被告らの原告に対する反訴請求はいずれも理由がない。