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著作権判例セレクション

コンテンツ契約紛争事例】専属契約

▶令和5120日東京地方裁判所[令和1()30204]▶令和5913日知的財産高等裁判所[令和5()10025]
() 本件は、実演家グループのメンバーとして活動している原告らが、原告らとの間で当該グループに係る専属契約を締結していた被告に対し、被告が同社の管理・運営するウェブサイトにおいて当該グループ名並びに原告らの肖像及び芸名等を掲載しているとして、肖像権等及びパブリシティ権の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求、原告らと被告との間の黙示の肖像等利用契約に基づく報酬支払請求等を求めた事案である。

2 争点1(肖像権等侵害の成否)について
(1) 人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき、最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決、肖像につき、最高裁昭和44年12月24日大法廷判決及び最高裁平成17年11月10日第一小法廷判決、両者につき、最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決各参照)。そして,肖像等が有する精神的価値を保護の対象とする肖像権及び氏名権は,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。
(2) 原告らは、①被告が利用した原告らの写真は、おおむね原告ら各人が識別されるように撮影されたものであること、②本件専属契約が終了している以上、原告らが撮影を許諾した目的は失われていること、③本件専属契約終了により被告が原告らの肖像を利用する権原は消滅していること、④本件専属契約終了の背景に原告らと被告との間の信頼関係喪失があったこと、⑤原告らが被告に対して本件専属契約終了後の原告らの肖像等の使用を許諾していないこと、⑥被告による原告らの肖像等の利用が、それらの有する顧客吸引力により専ら被告の利益を実現するためであること、⑦原告らが被告のマネジメントを離れて本件グループとしてアーティスト活動を継続していること、⑧契約終了後に当該契約に基づいて一方当事者に帰属する権利の行使を許容する社会通念ないし慣習はないことといった事情を根拠に、被告による原告らの肖像等の利用が原告らの受忍限度を超えるものであると主張する。
しかし、原告らは、実演家グループである本件グループのメンバーとして、被告のマネジメントの下でアーティスト活動をしていたところ、本件各サイトに掲載されていた原告らの肖像等に係る写真及び画像は、本件専属契約期間中に、被告により、原告らの承諾を得て撮影及び作成され、本件グループのメンバーや活動内容等を紹介する目的で掲載されていたものであるし、原告らの肖像等が転写されたグッズについても、同様に原告らの承諾を得て製造及び販売されてきたものである。また、本件専属契約終了後の被告による原告らの肖像等の利用態様及び目的も、本件専属契約の終了前後で変容していたとの事情はうかがわれない。さらに、本件専属契約終了後においても、少なくともファンクラブが存続する限りは、その会費を支払った会員に対し、本件グループのメンバーや活動内容等を紹介する記事を閲覧させるため、本件ファンクラブサイトのみならず、当該サイトに導く機能を有する本件被告サイトにも原告らの肖像等を掲載する必要があったといえる。加えて、被告が、本件グッズ販売サイトにおいて、原告らの肖像写真及び当該グッズを撮影した写真を掲載するとともに、当該グッズを販売していたことについても、被告が本件専属契約終了後に新たに本件グループに係るグッズを製造したと認めるに足りる証拠がないことからすると、原告らの肖像等の掲載は、在庫を捌くための必要最低限度のものにとどまるといえる。
以上の事情を総合考慮すると、原告らの主張する上記事情が存在するとしても、被告が本件各サイトにおいて原告らの肖像等を掲載した行為は、社会生活上受忍すべき限度を超えてその精神的価値を侵害するとはいえず、不法行為法上違法と評価すべきものとはいえいない。
(3) よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの肖像権等侵害を理由とする請求は理由がない。
3 争点2-1(パブリシティ権の侵害の有無)について
(1) 肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、肖像権及び氏名権と同様に、肖像等に係る人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると、肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である(最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決参照)。
(2) これを本件についてみると、本件被告サイトは、本件グループのメンバーや活動内容等を紹介することにとどまらず、その閲覧者を本件グッズ販売サイトや本件ファンクラブサイトに誘導して、グッズの購入及びファンクラブへの入会を促す役割も果たすものであるから、本件被告サイトにおける原告らの肖像等の利用は、商品販売等の広告として使用するものというべきである。
また、被告が、本件グッズ販売サイトにおいて、原告らの肖像等が転写されたグッズを販売する行為は、原告らの肖像等を商品等の差別化を図る目的で利用しているといえる。
さらに、本件ファンクラブサイトに原告らの肖像等に係る写真及び画像等を掲載することは、会費を支払ったファンクラブ会員に対する本件グループのメンバー及び活動内容等を紹介することを目的としてされるものであるから、原告らの肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用するものというべきである。
したがって、原告らの肖像等を、原告らの承諾なく、本件利用行為により利用することは、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするものといえるから、原告らのパブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となる。
4 争点2-2(原告らの肖像等の使用許諾の有無)について
(1) 被告は、本件グッズ販売サイトにおいて販売しているグッズは、本件専属契約期間中に、原告らの許諾を受けて製造されたものの在庫品であるところ、当該許諾には、その後の本件専属契約の終了如何にかかわらず、許諾を受けて製造したグッズの全てを販売することについての許諾も含まれていると主張する。
しかし、被告が、原告らの芸名、写真、肖像等その他の人格的権利を自由に無償で利用開発することができるのは、本件専属契約期間中とされていたものであり、原告らと被告の間において、本件専属契約の終了如何にかかわらず、原告らの許諾を受けて製造した商品の全てを販売することについても許諾がされていたと認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告の上記主張を採用することはできない。
(2) 次に、被告は、原告らとの間で、本件専属契約終了後も、ファンクラブを円滑に閉鎖するために必要な期間については、被告が原告らの肖像等を使用することを明示又は黙示に合意し、これにより原告らの肖像等の使用につき許諾を得ていたと主張する。
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したがって、被告が、令和元年12月1日以降、本件グッズ販売サイトにおいて、原告らの肖像写真及び原告らの肖像等が転写されたグッズを撮影した写真を掲載するとともに、当該グッズを販売していた行為は、原告らのパブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法と評価すべきであるが、その余の本件利用行為については、原告らの黙示の許諾の範囲内といえるから、違法性を欠き、パブリシティ権侵害を理由とする不法行為は成立しないというべきである。
5 争点3(故意又は過失の有無)について
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6 争点4(損害の有無及びその額)について
(1) 被告の前記3ないし5のパブリシティ権侵害行為によって原告らが被った損害の額は、著作権法114条3項の類推適用により、原告らが被告に対し、原告らの肖像等の使用を許諾したとすれば、得られたであろう使用料相当額というべきである。そして、当該使用料相当額は、原告らと被告との間の従前の契約内容、同種の他の使用許諾契約の内容、原告らの名声の程度、原告らの肖像等の利用態様及び期間、被告が得た経済的利益の額とそれに対する利用された肖像等の貢献の程度などを総合考慮して算定するのが相当である。
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(4)ア 原告らは、パブリシティ権者として、著作権法114条2項を類推適用し、被告が得た利益相当額を損害として請求できると主張する。
前記3(1)のとおり、パブリシティ権は、肖像等の有する顧客吸引力を排他的に利用する権利であるから、パブリシティ権者は,肖像等が付された商品等を市場において独占的に販売することができる。このパブリシティ権者の市場における上記商品等に対する地位は,著作権者の市場における著作物に対する地位と共通するといえる。そうすると、被告による原告らのパブリシティ権を侵害する行為がなかったならば、原告らが利益を得られたであろうという事情が存在する場合には、原告らの損害額を算定するに当たり、著作権法114条2項を類推適用することができると解される。
本件において、被告が原告らのパブリシティ権を侵害して得た利益は、原告らの肖像等を転写したグッズの販売によってもたらされたものであるところ、原告らが他に原告らの肖像等を利用したグッズを市場において販売していたと認めるに足りる証拠はなく、本件全証拠によっても、被告による上記グッズの販売がなかったならば、原告らが利益を得られたであろうという事情を認めることはできない。
したがって、被告による原告らのパブリシティ権を侵害する行為がなかったならば、原告らが利益を得られたであろうという事情が存在すると認めることはできないから、原告らの損害額の算定に当たり、著作権法114条2項を類推適用する基礎を欠くといわざるを得ない。
イ また、原告らは、第三者に対して原告らの肖像等の使用を許諾する際の使用料を定めており、当該使用料の水準を損害額算定の際に考慮すべきであると主張するが、実際にこの定めに基づいて許諾がされた例があると認めるに足りる証拠はないから、そのような事情を考慮することはできない。
ウ さらに、原告らは、被告は、本件専属契約終了後、原告らに対して、何らマネジメント業務をしていないから、被告がマネジメント業務の対価として65パーセントを得る正当な理由はなく、被告がグッズ販売に関して受領した額が原告らに対する報酬額に当たると主張する。
しかし、【著作権法114条3項を類推適用してパブリシティ権侵害による損害額を算定するに当たり、最終的にパブリシティ権の侵害者に対する損害賠償請求における損害額を算定する場面であることを加味した金額を算定する前段階として、】原告らと被告との間の従前の契約内容を斟酌するのは、両者の自由意思に基づいて合意された使用料が、原告らと被告のそれぞれの利益状況、原告らのパブリシティ権が有する経済的価値などを反映した合理的な水準となっている可能性が高いと解されることによるものであるから、本件専属契約終了後に被告が本件グループに係るマネジメント業務を行っているか否かによって左右されるものとはいえない。
エ 原告らは、本件専属契約所定のアドバンスが最低報酬額であると主張するが、本件全証拠によっても、当該アドバンスがそのような性格のものであると認めることはできない。仮に原告らの主張を前提としても、上記アドバンスは、ライブ及びテレビ出演なども含めた様々な活動により得られるであろう収入を前提として定められたものと考えられるから(第1条)、最も収入を得られると思われるライブ及びテレビ出演がなく、収入全体に占める割合が小さい本件グッズ販売サイトにおける利用行為のみがされている場合であっても、必ずアドバンスとして定められた額を最低報酬額として斟酌しなければならないものということはできない。
【オ 控訴人らは、パブリシティ権は、人格権由来の権利であり、肖像等が自己の心情と異なる商業用ウェブサイト等に使用された場合には、社会的評価の低下はなくとも、法的保護に値する人格的利益を侵害したという意味で、精神的苦痛は存在するのであるから、その侵害に対しては、精神的損害を認めるべきである旨を主張する。
しかしながら、パブリシティ権は、人格権に由来する権利の一内容であっても、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、特段の事情のない限り、精神的損害を認めることは困難であり、本件においては、特段の事情は認められず、また、前記6(1)のとおり、肖像権等の侵害による精神的損害として慰謝料が認められるから、パブリシティ権侵害を理由とする精神的損害は認められない。】
【カ】 したがって、原告らの前記各主張はいずれも採用することができない。

[控訴審]
2 争点1(肖像権等侵害の成否)について
(1) 人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される(氏名につき最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決、肖像につき最高裁昭和44年12月24日大法廷判決及び最高裁平成17年11月10日第一小法廷判決、両者につき最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決各参照)。そして、ある者の肖像等を利用することが、不法行為法上違法となるかどうかは、肖像等の被利用者の社会的地位、被利用者の活動内容、利用の目的、利用の態様、利用の必要性等を総合考慮して、肖像等の被利用者の上記権利の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。
(2) 控訴人らの肖像等の利用行為について
ア 訂正して引用する原判決のとおり、①本件専属契約は令和元年7月13日をもって終了したこと、②控訴人らと被控訴人の間においては、本件専属契約期間中、被控訴人が控訴人らの芸名、写真、肖像、その他の人格的権利を自由に無償で利用開発することができるとされていたが(本件専属契約書5条)、本件専属契約書には、これらの権利についての本件専属契約終了後の取扱いに関する規定は何ら置かれていなかったことが認められ、これらによると、本件専属契約終了後、被控訴人は、控訴人らの芸名、肖像等の人格的権利について、被控訴人が使用する権原を有しないこととなったといえる。
なお、被控訴人は、控訴人らの肖像権等につき、本件専属契約終了後も本件専属契約に基づいて利用したにすぎないからそもそも侵害等の問題とはならないとも主張するが、控訴人らの肖像権等は控訴人らの人格的権利に基づく一身専属的な権利であるから、これらの使用に関する約定がされた本件専属契約が終了し、かつ、本件専属契約には契約終了後の同使用の取扱いに関する約定がないのであるから、控訴人らから被控訴人に対して別に同使用についての許諾がない場合には、本件専属契約終了後において、被控訴人による控訴人らの肖像等の使用は無権原者による使用となる。
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ウ 以上によると、控訴人らは、本件グループのファンクラブの関係者やファンの混乱を招いたり、迷惑をかけたりすることを防ぐため、被控訴人に対し、同ファンクラブの閉鎖時期を、課金システム上の理由から同ファンクラブの会員サービスの課金を停止して同会員サービスの提供を終了することができる時期まで延期することについて黙示の許諾をしたと認められ、また、同ファンクラブが存続する限りは、会費を支払った会員に対し、本件グループのメンバーや活動内容等を紹介する記事を閲覧させるために、本件ファンクラブサイト及び本件ファンクラブサイトにリンクする本件被告サイトにも控訴人らの肖像等を掲載する必要があったといえることからすると、控訴人らは、本件ファンクラブサイトの閉鎖が可能となる時期まで、本件被告サイト及び本件ファンクラブサイトに控訴人らの肖像等が掲載されることについても黙示の許諾をしていたと認められる。
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(3) 小括
したがって、本件専属契約終了後から令和元年11月30日までの間、被控訴人が本件被告サイト及び本件ファンクラブサイトにおいて控訴人らの肖像等を掲載した行為は、不法行為法上違法と評価すべきものとはいえない。他方、本件専属契約終了後から令和3年12月31日までの間、被控訴人が本件グッズ販売サイトにおいて控訴人らの肖像等を掲載し、控訴人らの肖像等が転写されたグッズを販売した行為は、不法行為上違法と評価すべきものといえる。