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著作権判例セレクション

【差止請求】「侵害停止予防の必要処置」(1122)該当性

▶平成1527日名古屋地方裁判所[平成14()2148]▶平成1634日名古屋高等裁判所[平成15()233]
() 本件は,音楽著作物の管理等を業とする原告が,社交ダンス教授所(社交ダンス教室)を経営する被告らに対し,被告らによる著作物の無許諾使用行為を理由として,著作権法112条に基づき,原告らが管理する音楽著作物の使用差止め(同条1項)と録音物再生装置等の撤去(同条2項)など求めた事案である。

8 争点(7)(撤去請求の可否)について
法112条2項は,著作権者が著作権侵害者に対し,同条1項に規定する差止請求権を実効あらしめるために必要な具体的措置として,「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」の廃棄等を請求することができると定めているところ,原告は,本件物件は「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」に当たると主張するのに対し,被告らはこれを否定する。
そこで検討するに,本件物件は,CD等の録音物の一般的再生装置であって,管理著作物以外の音楽著作物の再生にも供し得るものである。他方で,本件各施設に本件物件を残しておくと,被告らによって管理著作物の演奏が再開される可能性があることは否定できない。このような観点からすると,上記の「専ら」の要件を満たすか否かについては,著作物の種類・内容,侵害行為の方法・態様,侵害行為の数及び程度,供用物件の性質,取り得る具体的措置の内容等を総合考慮して判断するのが相当である。
これを本件についてみるに,本件報告書によれば,本件各施設におけるダンス教授所で演奏された音楽著作物中に占める管理著作物の割合は,平均して80パーセントを超えていることが認められるが,他方で,いわゆるダンス教授所において使用される音楽,いわゆるダンス音楽は極めて選択の幅が広く,必ずしも管理著作物を用いなくともダンス指導は可能と考えられるから,被告らに管理著作物の使用の差止めを命ずることによって,それ以降の侵害が停止されることが期待できるというべきであり,実際にも,本訴提起後に被告らが行った本件各施設における音楽著作物の使用実態の報告書によれば,使用された楽曲の中には管理著作物以外のものも相当数使用されている事実が認められること(なお,被告らの上記報告書は,調査主体や調査方法が必ずしも明らかでなく,また使用楽曲数が本件報告書とかい離しているなど,管理著作物を使用することについて自重していることがうかがわれるが,そうであっても,否,そうであればこそ,上記の判断の裏付けとなるというべきである。)に照らせば,法が侵害行為の差止めに加えて侵害専供用物件の廃棄等請求を認めた【趣旨や一審原告が控訴審において提出した書証】を考慮しても,なお,本件物件が「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」に当たると認めることは相当でない。
この点につき,原告は,本件物件を本件各施設から撤去するだけであれば,被告らに加重な負担を強いるものではないから,被告らはこれを甘受すべきである旨主張するが,上記撤去請求は,現時点で存在する本件物件の撤去にとどまらず,将来置かれ得る本件物件に対してもその効力を有するといわざるを得ないから,これを認容するためには,被告らが本件物件を使用することによって将来にわたり管理著作物を侵害する蓋然性が高いことの立証が必要というべきところ,これが尽くされたといえないことは前記判断のとおりであるから,原告の上記主張は採用できない。
したがって,原告の法112条に基づく本件物件の撤去請求は理由がない。
[控訴審同旨]