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著作権判例セレクション

【言語著作物】転職情報の著作物性が争点となった事例

平成151022日東京地方裁判所[平成15()3188]
() 本件は,原告が,被告がインターネット上に開設するウエブサイトに掲載した転職情報は,原告が創作し,そのウエブサイトに掲載した転職情報を無断で複製ないし翻案したものであり,原告の著作権(複製権,翻案権,送信可能化権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張して,掲載行為の差止め及び損害賠償等を求めた事案である。

1 争点1(原告転職情報の著作物性)について
(1) 著作権法による保護の対象となる著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(法2条1項1号)。
「思想又は感情を表現した」とは,単なる事実をそのまま記述したようなものはこれに当たらないが,事実を基礎とした場合であっても,筆者の事実に対する何らかの評価,意見等を表現しているものであれば足りるというべきである。また,「創作的に表現したもの」というためには,筆者の何らかの個性が発揮されていれば足りるのであって,厳密な意味で,独創性が発揮されたものであることまでは必要ない。他方,言語からなる作品において,ごく短いものであったり,表現形式に制約があるため,他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,筆者の個性が現れていないものとして,創作的な表現であると解することはできない。
(2) 上記の観点から,原告転職情報の著作物性について判断する。
証拠によれば,以下の事実が認められる。すなわち,原告が掲載した転職情報は,S社の転職情報広告を作成するに当たり,同社の特徴として,受注業務の内容,エンジニアが設立したという由来などを,募集要項として,職種,仕事内容,仕事のやり甲斐,仕事の厳しさ,必要な資格,雇用形態などを,それぞれ摘示し,また,具体的な例をあげたり,文体を変えたり,「あくまでエンジニア第一主義」,「入社2年目のエンジニアより」などの特徴的な表題を示したりして,読者の興味を惹くような表現上の工夫が凝らされていることが認められる。
確かに,別紙比較対照表1における原告転職情報3,6だけを見ると,単に事実を説明,紹介するだけであり,文章も比較的短く,他の表現上の選択の幅は,比較的少ないということができる。
しかし,前示のとおり,別紙比較対照表1(対照表2も同じである)における原告転職情報の各部分はいずれも読者の興味を惹くような疑問文を用いたり,文章末尾に余韻を残して文章を終了するなど表現方法にも創意工夫が凝らされているといえるので,著者の個性が発揮されたものとして,著作物性を肯定すべきである。
2 争点2(原告転職情報の創作者)について
(1) 事実認定
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められる。
()
(2) 判断
著作者とは「著作物を創作する者」をいい(法2条1項2号),現実に当該著作物の創作活動に携わった者が著作者となるのであって,作成に当たり単にアイデアや素材を提供した者,補助的な役割を果たしたにすぎない者など,その関与の程度,態様からして当該著作物につき自己の思想又は感情を創作的に表現したと評価できない者は著作者に当たらない。そして,本件のように,文書として表現された言語の著作物の場合は,実際に文書の作成に携わり,文書としての表現を創作した者がその著作者であるというべきである。
上記の観点から,前記認定した事実を基礎に判断する。
原告転職情報は,原告の従業員である執筆を担当するQらが,S社の代表者であるMらに対してしたNらの取材結果に基づいて,同社の特徴を際だたせ,転職希望者が集まるように,キャッチコピーや文面を創作したものである。
したがって,原告転職情報の著作者は原告であると認められる。
この点につき,被告は,原告転職情報の著作者はS社であり,仮に原告が著作者であるとしても共同著作者にすぎないと主張し,また,(証拠)には,同主張に沿った記述部分も存在する。
しかし,前記認定のとおり,①原告転職情報は,S社から受けた客観的な事実関係,就業条件等を基礎としているものの,読者の興味を惹くような表現上の工夫は,専ら,原告において行われたこと,②(証拠)によっても,Mが,取材を受けて,原告担当者に話した内容が明らかでないし,また,Mが,原告が作成した原稿に対して修正したとする部分も明らかでないこと等の事実に照らすならば,この点における被告の主張は採用の限りではない。
3 争点3ないし5(著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無)について
(1) 原告転職情報と被告転職情報とを対比すると,ひらがなと漢字の用字上の相違,「です,ます」等の文章末尾の文体上の相違,数字上の相違が認められるが,実質的に同一であるということができるので,後者は前者の複製物と認められる。
したがって,被告転職情報を被告ウエブサイトに掲載する行為は,原告転職情報について有する原告の著作権(複製権,翻案権,送信可能化権)を侵害する。また,上記の事実経緯に照らせば,少なくとも被告の過失により行われたと認めることができる。
(2) 被告転職情報は,原告転職情報に依拠し,これに文末の表現や数字等を変更した上,これらの掲載項目の順序を入れ替えて作成されたものである。
しかし,上記の変更は,原告転職情報の本質的な特徴をなす表現部分を改変したと評価することはできないので,被告の行為は,原告の有する同一性保持権を侵害したものではない。