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著作権判例セレクション

【編集著作権の侵害性】編集著作物の翻案性の判断基準/編集著作物vs.言語著作物(中学の国語テストのネット動画(ライブ)配信が問題となった事例)
▶令和元年515日東京地方裁判所[平成30()16791]▶令和元年1125日知的財産高等裁判所[令和1()10043]
() 本件は,中学校の受験のための学習塾等を運営する原告が,同様に学習塾を経営する被告に対し,被告が,原告の許可なく,別紙の各問題(本件問題)及び別紙の「解答と解説」と題する各解説(本件解説)を複製して利用した行為が複製権侵害に当たると主張し,また,上記各問題及び上記各解説をインターネット上で動画配信している行為が翻案権侵害に当たると主張し,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,上記動画等の配信の差止めなどを求めた事案である。
なお、原告は,通塾生及び外部から試験を希望した者を対象に,本件問題を配布してテストを実施し,テスト終了後に本件解説を配布した。被告は,同テストが終了した1時間後に,ウェブ上の動画で本件問題についての解説(「被告ライブ解説」)を行った

1 争点(1)(本件問題及び本件解説の著作物性の有無)について
(1) 証拠によれば,本件問題のうち,国語Aの[]は物語文の,同[]は論説文の読解問題であり,いずれも問1~10から構成され,国語Bの[]は物語文の,同[]は説明文の読解問題であり,いずれも問1~5から構成されていることが認められる。
また,証拠によれば,本件解説には,解答部分,配点部分,解説部分から構成され,解説部分には,設問ごとに,問題の出題意図,題材とされた文章のうち着目すべき箇所,当該箇所に係る文章の理解方法,正解を導き出すための留意点等が記載されている。
他方,被告ライブ解説は,本件問題について,同問題に係るテストの終了後に,被告の担当者等がウェブ上の動画において口頭でその解説をするものであり,本件問題及び本件解説が画面上に表示されることはない。
(2) 著作権法12条は,「編集物…でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは,著作物として保護する。」と規定するところ,被告は,本件問題について,「どの部分を問題とするのか」,「何を問うのか」は問題作成におけるアイデアにすぎないとして,本件問題は編集著作物に該当しないと主張する。
しかし,国語の問題を作成する場合において,数多くの作品のうちから問題の題材となる文章を選択した上で,当該文章から設問を作成するに当たっては,題材とされる文章のいずれの部分を取り上げ,どのような内容の設問として構成し,その設問をどのような順序で配置するかについては,作問者が,問題作成に関する原告の基本方針,最新の入試動向等に基づき,様々な選択肢の中から取捨選択し得るものであり,そこには作問者の個性や思想が発揮されているということができる。本件問題についても,題材となる作品の選択,題材とされた文章のうち設問に取り上げる文又は箇所の選択,設問の内容,設問の配列・順序について,作問者の個性が発揮され,その素材の選択又は配列に創作性があると認めることができる。
したがって,本件問題は編集著作物に該当する。
(3) 本件解説は,前記のとおり,本件問題の各設問について,問題の出題意図,正解を導き出すための留意点等について説明するものであり,各設問について,一定程度の分量の記載がされているところ,その記載内容は,各設問の解説としての性質上,表現の独自性は一定程度制約されるものの,同一の設問に対して,受験者に理解しやすいように上記の諸点を説明するための表現方法や説明の流れ等は様々であり,本件解説についても,受験者に理解しやすいように表現や説明の流れが工夫されるなどしており,そこには作成者の個性等が発揮されているということができる。
したがって,本件解説は創作性を有し,言語の著作物に該当するというべきである。
2 争点(2)(複製又は翻案該当性)について
(1) 複製について
原告は,被告が本件問題及び本件解説の複製を自ら行っているか,仮に,自ら複製行為を行っていないとしても,保護者又は生徒をいわば手足のように利用して複製をさせているのであるから,被告自身が複製を行ったと同視し得ると主張する。
しかし,被告は,複数の原告学習塾の生徒から問題の原本を入手し解説を行っている事実は認めるものの,問題を複製した事実は否認するところ,本件においては,被告が自ら本件問題及び本件解説文を複製したと認めるに足りる証拠はない。
また,被告が,指導者としての強い立場を利用し,保護者又は生徒に本件問題等の複製を依頼し,あるいは,複製の費用を負担し,金銭や便宜を供与するなどの働きかけをして保護者や生徒に本件問題等の複製を依頼したとの事実を認めるに足りる証拠もない。そうすると,仮に,保護者又は生徒が本件問題等の複製を行い,複製した本件問題の写しを被告に交付したとしても,そのことから直ちに被告自身が複製を行ったと同視することはできない。
したがって,被告が原告の有する複製権を侵害したとの主張は理由がない。
(2) 翻案について
ア 著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的な表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決)。
イ 被告ライブ解説においては,前記1(1)のとおり,本件問題の全部又は一部の画像を表示しておらず,また,口頭で本件問題の全部又は一部を読み上げるなどの行為もしていない。そうすると,被告ライブ解説は本件問題の【表現上の】本質的な特徴の同一性を維持しているということはできず,被告ライブ解説に接する者が本件問題の素材の選択又は配列に係る【表現上の】本質的な特徴を直接感得することができるということはできない。
したがって,被告ライブ解説が本件問題を翻案したものであるとは認められない。
ウ 本件解説に関し,原告は,被告ライブ解説と本件解説は同様の問題について,同じ視点から解説したものであり,同じ目的の下,同じ解答に至る考え方を説明したものであるから,その【表現上の】本質的な特徴は同一であると主張する。
しかし,原告が翻案権侵害を主張する設問について,本件解説と被告ライブ解説の対応する記載を対比しても,表現が共通する部分はほとんどない。例えば,国語Aの1の問5に関する本件解説と被告ライブ解説を比較しても,共通する表現は「険のある」,「祐介」など,ごくわずかな部分にすぎず,被告ライブ解説が本件解説の【表現上の】本質的特徴の同一性を維持しているということはできない。本件解説の他の設問に係る部分についても,本件解説と被告ライブ解説とで表現が共通する部分はほとんど存在せず,当該各設問に係る被告ライブ解説が本件解説の【表現上の】本質的特徴の同一性を維持しているということはできない。
したがって,本件ライブ解説が本件解説を翻案したものであるとは認められない。
3 結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

[控訴審同旨]
1 当裁判所も,控訴人の請求は棄却されるべきものであると判断する。その理由は,控訴人の補充主張に対する判断を次項以下に付加するほかは,原判決に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,引用に当たり,原判決…の各「本質的」の前にいずれも「表現上の」を加える。
2 控訴人の補充主張に対する判断
⑴ 被控訴人は,本件問題又は本件解説の複製を行っているかについて
この点に関しては,原判決に指摘されているとおり,被控訴人が,本件問題又は本件解説の複製を行っているとは認められない。
控訴人は,被告ライブ解説に接する生徒たちがテストを受けてきたばかりであって問題文の記憶が鮮明に残っていること,生徒たちが本件問題及び本件解説を手元に置いて参照しながら視聴していることをも総合的に考察すべきである旨主張するが,被控訴人の手によって有形的な再製が行われていない以上,「複製」が行われたと認めることはできない。
⑵ 被告ライブ解説は本件問題の翻案に当たるかについて
ア 最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決は,言語の著作物に関してであるが,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為であるとしている。そして,翻案の意義は,本件問題のような編集著作物についても同様であると解されるから,編集著作物の翻案が行われたといえるためには,素材の選択又は配列に含まれた既存の編集著作物の本質的特徴を直接感得することができるような別の著作物が創作されたといえる必要があるものと考えられる。
イ これを本件について検討してみるに,本件問題は,控訴人自身も主張するとおり,題材となる作品の選択や,題材とされる文章のうち設問に取り上げる文又は箇所の選択,設問の内容,設問の配列・順序に作者の個性が現れた編集著作物であり,ここでは,このような素材の選択及び配列等に,その本質的特徴が現れているということができる。これに対し,被告ライブ解説は,作成された問題(すなわち,素材の選択及び配列等)を所与のものとして,これに対する解説,すなわち,問いかけられた問題に対する回答者の思考過程や思想内容を表現する言語の著作物であって,このような思考過程や思想内容の表現にその本質的特徴が現れているものである。
このように,編集著作物である本件問題と,言語の著作物である被告ライブ解説とでは,その本質的特徴を異にするといわざるを得ないのであるから,仮に,被告ライブ解説が,本件問題が取り上げた文を対象とし,本件問題が提起したのと同一の問題を,その配列・順序に従って解説しているものであるとしても,それは,あくまでも問題の解説をしているのであって,問題を再現ないし変形しているのではなく,したがって,本件問題の翻案には当たらないものといわざるを得ない。
この点について,控訴人は,本件問題と被告ライブ解説とはその本質的特徴を同一にするとして種々主張しているけれども,上記に指摘した点に照らし,採用することはできない。
⑶ 被告ライブ解説は本件解説の翻案に当たるかについて
控訴人は,本件解説と被告ライブ解説とは,本件問題の読解対象文章及び設問・選択肢の文章を前提としているということでは全く共通であるから,個々の文言にほとんど共通性がないからといって,表現の本質的特徴に同一性がないということにはならない旨主張する。しかしながら,読解対象文章及び設問・選択肢の文章を前提としていること自体からは,表現にわたらない内容の同一性がもたらされるにすぎないから,表現の本質的特徴の同一性の有無は,別途,文言等の共通性等を通じて判断されるべきものである。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
また,控訴人は,本件ライブ解説の個々の箇所について,本件解説との間で表現上の本質的特徴の同一性を有する旨主張する。しかしながら,本件解説と被告ライブ解説とがいずれも本件問題に対する解説であることに由来して内容の類似性・同一性はみられ,被告ライブ解説は,その内容については部分的に本件解説と本質的特徴を同一にするといえるものの,その表現については,控訴人の主張を踏まえて検討しても,本件解説と本質的特徴を同一にするとは認められない。したがって,控訴人の主張は採用することができない。
3 よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。