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著作権判例セレクション
【二次的著作物】仏画又は曼荼羅を原図とする復原画の二次的著作物性が争点となった事例
▶平成24年12月26日東京地方裁判所[平成21(ワ)26053]
(注) 本件は,仏画家であるFの相続人である原告らが,被告に対し,被告各仏画は,F氏の制作に係る原告各仏画を複製又は翻案したものであるから,被告各仏画を販売し,頒布し,展示し,又は被告各仏画を使用した書籍,パンフレット,塗り絵用下絵,ホームページ画像を制作することは,原告らが相続により取得した原告各仏画の著作権(複製権,譲渡権,展示権又は著作権法28条に基づく二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)を侵害すると主張し,著作権法112条に基づき,被告各仏画の販売,頒布,展示の差止め,これらの仏画を使用した書籍等の制作の差止め及び同書籍等の廃棄を求めるとともに,原告仏画1及び原告仏画2の著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為責任に基づく損害賠償の支払などを求めた事案である。
1 争点(1)ア(原告仏画1の著作物性)について
(1)ア 前記前提事実のとおり,原告仏画1は,いずれも国宝又は重要文化財として指定されている仏画又は曼荼羅を原図とし,これを復原する意図で制作されたものであり,F氏が,既存の著作物である原図1ないし10に依拠し,各原図においてその制作者により付与された創作的表現を,その制作当時の状態において再現・再製するべく制作したものであると認められる。
そうすると,原告仏画1において,各原図の制作者によって付与された創作的表現ないし表現上の本質的特徴が直接感得できることは,当然に予定されているものというべきであるところ,これに加えて,原告仏画1に,各原図における上記創作的表現とは異なる,新たな創作的表現が付加されている場合,すなわち,復原過程において,原図の具体的表現に修正,変更,増減等を加えることにより,F氏の思想又は感情が創作的に表現され,これによって,原告仏画1に接する者が,原告仏画1から,各原図の表現上の本質的特徴を直接感得できると同時に,新たに別の創作的表現を感得し得ると評価することができる場合には,原告仏画1は,各原図の二次的著作物として著作物性を有するものと解される。その一方で,原告仏画1において,各原図における具体的表現に修正,変更,増減等が加えられているとしても,上記変更等が,新たな創作的表現の付与とは認められず,なお,原告仏画1から,各原図の制作者によって付与された創作的表現のみが覚知されるにとどまる場合には,原告仏画1は,各原図の複製物であるにとどまり,その二次的著作物としての著作物性を有することはないものと解される。
なお,原告仏画1の復原画としての性質上,原告仏画1において,各原図の現在の状態における具体的表現に修正等が加えられているとしても,上記修正等が,各原図の制作当時の状態として当然に推測できる範囲にとどまる場合には,上記修正に係る表現は,各原図の制作者が付与した創作的表現の範囲内のものとみるべきであり,上記修正等をもって,新たな創作性の付与があったとみることはできない。
イ 原告らは,原告仏画1の創作性に関し,F氏の復原手法が独自のものである旨主張する。しかし,原告仏画1の著作物性については,上記アでみたとおり,原告仏画1において,各原図の制作者によって付与された創作的表現とは別の創作性が,具体的表現として表れているか否かによって検討するべきであり,独自の復原手法を採用した結果として,F氏の個性が原告仏画1の具体的表現において表出していれば別論,手法の独自性から,直ちに原告仏画1の創作性が導かれるものではない。
ウ 以上を前提に,原告仏画1に著作物性が認められるか否かを個別に検討する。
(略)
2(1) 以上のとおりであって,原告仏画1(1)ないし(9)については,各原図に新たな創作性を付与された点はなく,各原図の二次的著作物としての著作物性は認められないが,原告仏画1(10)については,上記1(11)ウでみた点において,著作物性を認めることができる。
そこで,被告仏画1(10)についてのみ,争点(1)イ(被告仏画1は,原告仏画1を複製したものに当たるか。)を検討する。
(2) 被告仏画1(10)は紺紙金泥画である。
被告仏画1(10)は,諸尊の間隔が全体的に原告仏画1(10)よりもやや広く,侍仏の配置においても,原告仏画1(10)と異なる点があると認められる(蓮華部院)。また,被告仏画1(10)においては,虚空蔵院と持明院との間の文様帯が描かれておらず,文様の数,配置も原告仏画1(10)とは異なっており,文様自体を見ても,例えば,釈迦院と遍知院の間の文様(東方初門の北方のもの)において,そのつながり方が異なるなど,原告仏画1(10)とは相違する点があることが認められる。さらに,外縁装飾については,原告仏画1(10)が,北方及び南方において,それぞれ,花と葉の集合体を3個描いているのに対し,被告仏画1(10)はそれぞれ4個描いており,具体的な模様を見ても,花や葉の付き方等において異なるものであることが認められる。
被告仏画1(10)は,これらの点において原告仏画1(10)と相違することにより,原告仏画1(10)において著作物性が認められる部分につき,原告仏画1(10)とその表現において実質的に異なるものとなっているというべきであり,原告仏画1(10)を有形的に再製したものとは認められない。
(3) したがって,被告仏画1(10)は原告仏画1(10)を複製したものに当たらない。
なお,被告仏画1(10)は,前記2(2)のとおり,前記2(1)の原告仏画1(10)の創作的表現と認められる部分と多くの点で異なるものであり,原告仏画1(10)の創作的表現部分の本質的特徴を直接感得することができないものであるから,原告仏画1(10)を翻案したものにも当たらない。
3 小括
以上によれば,原告仏画1の著作権に基づく原告らの請求は,その余の点について検討するまでもなく,理由がないことに帰着する。
(略)
5 争点(2)イ(被告仏画2は原告仏画2を複製又は翻案したものに当たるか。)について
(1)ア 著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,これと表現上の実質的同一性を有するものを再製することをいい,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,同法2条1項1号の規定するとおり,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁第一小判平成13年6月28日参照)。
イ なお,原告仏画2は,いずれも菩薩又は如来を描いた仏教絵画(仏画)であり,描かれる菩薩又は如来の種類に応じて,印相,衣装,装飾品,持物,光背,台座等につき,一定のルールが存在するものと認められる。しかし,例えば,普賢菩薩像又は普賢延命菩薩についてみても,その姿態,持物等について種々の表現がみられることからすれば,そのルールは厳格なものではなく,また,どの時代のどの宗派のものを想定するかによっても,その内容は異なり得るものであることがうかがわれる。そうすると,このように選択の幅がある中において,個々の仏画の具体的表現において,制作者の何らかの個性の発現が認められるものであれば,創作性を認めることができるものと解される。そして,上記創作性の構成要素としては,①絵画の構造的要素(菩薩又は如来とその周辺の台座,光背,背景等の位置関係,菩薩又は如来の姿態,印相,足の組み方・配置,持物の種類・配置,装飾品の形状・配置,着衣・光背・台座の形状等),②色彩,③菩薩又は如来の顔の表情等が考えられるところであるが,これらの要素のうち,どの点を創作性の要素として重視するかについては,描かれる対象である菩薩又は如来の種類等,個々の絵画の具体的表現の内容によって異なるものと考えられるところである。
ウ 本件において,前記前提事実のとおり,被告仏画2(1)①及び②,(2),(6),(7),(10)ないし(12),(13)①及び②,(14)については,原告仏画2(1),(2),(6),(7),(10)ないし(14)にそれぞれ依拠して制作されたものであることに争いがなく,また,争点(2)アに関する当裁判所の判断のとおり,被告仏画2(5)①及び②,(15)ないし(19)については,原告仏画2(5),(15)ないし(19)に依拠して制作されたものであると認められる。したがって,本件においては,原告仏画2の具体的創作的表現の内容を検討した上で,被告仏画2において,原告仏画2と表現上実質的に同一のものが再製されているかどうか,又は,被告仏画2が,原告仏画2の上記創作的表現に係る表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物に当たるかどうかを,以下において個別に検討する。
(略)
6 小括
以上のとおりであって,被告仏画2(1)①,2 (5)①,2(7),2 (12),2(13)①,2(14)(以下,これらを併せて「被告侵害仏画」という。)は,それぞれ原告仏画2(1),2(5),2(7),2(12)ないし(14)を翻案したものに当たる。他方,被告侵害仏画以外の被告仏画2については,原告仏画2を複製又は翻案したものに当たらず,被告仏画2(1)②,2(2),2(5)②,2(6),2(10),2(11),2(15)ないし(19)に関する原告らの請求は,その余の点について検討するまでもなく,理由がないことに帰着する。
そこで,以下の争点については,被告侵害仏画についてのみ検討することとする。
7 争点(2)ウ(F氏による許諾の有無)について
(略)
以上によれば,被告侵害仏画につき,F氏による包括許諾があったものとは認められない。これに反する被告の主張は採用しない。
8 争点(3)(差止め及び廃棄請求の可否)について
(1) 被告侵害仏画の販売,頒布,展示の差止めの可否について
前記前提事実でみたとおり,被告は,被告美術館において,被告の制作した仏画を展示しているところ,被告が被告侵害仏画の一部について被告美術館で展示したことがあることを認めていることなどに鑑みれば,被告侵害仏画の全部につき,被告が,展示を行っており,又は今後,展示を行うおそれがあるものと認められる。また,被告は,その制作した仏画を販売したことはないと主張するが,前記前提事実のとおり,被告が被告美術館を開設しており,被告の制作した仏画をポスター,絵はがき等に掲載し,また,仏画教室の開催等の活動をしていることを考慮すれば,被告侵害仏画を販売し,又は頒布するおそれがあるものと認められる。
なお,被告は,被告仏画2(14)については,その所在は不明であり,焼却処分した可能性が高い旨主張するが,これを考慮しても,なお,同仏画を展示し,販売し,又は頒布するおそれがないものと認めるに足りない。
被告が被告侵害仏画を販売し,頒布し,又は展示することは,原告らの著作権法28条に基づく二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(譲渡権,展示権)を侵害するものと認められるから,侵害の停止又は予防のため,被告侵害仏画の販売,頒布,展示の差止めが必要であると認められ,同請求を認めることができる。
(2) 被告侵害仏画を使用した書籍等の制作の差止め及びその廃棄の可否について
ア 被告侵害仏画を掲載した書籍等を制作することは,原告らの著作権法28条に基づく二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(複製権)を侵害するものであるところ,被告が,被告各書籍に,被告侵害仏画を含む被告制作に係る仏画を掲載していることは,前記前提事実のとおりであり,今後も,被告侵害仏画を掲載した書籍を制作するおそれが認められる。また,被告が現時点において被告侵害仏画を被告美術館のパンフレットやホームページに掲載している事実は認められないが,前記前提事実のとおり,被告が,被告の制作した仏画を被告美術館のパンフレットやホームページに掲載していることに鑑みれば,今後,被告侵害仏画がこれらに掲載されるおそれがあるものと認められる。
以上によれば,侵害の停止又は予防のため,被告侵害仏画を掲載した書籍等の制作の差止めの必要性が認められ,同請求を認めることができる。
イ(ア) 前記前提事実のとおり,被告書籍中に,侵害仏画を掲載したものがあり,また,平成21年より前に被告侵害仏画の一部を掲載したパンフレットが作成されていることが認められるところ,これらは,いずれも,原告らの著作権を侵害する行為によって作成されたものであると認められる。
(イ) このうち,パンフレットについては,平成21年以後に作成されたものについては,被告侵害仏画の掲載は認められないが,平成21年より前に作成されたパンフレットが全て配布済みであって,現在,被告のもとに存在しないことの立証はないから,なお,被告のもとには被告侵害仏画2(13)①を掲載しているパンフレットが存在するものと認められる。
そして,上記パンフレットの性質や,同パンフレットにおける被告侵害仏画2(13)①の掲載内容等に照らせば,パンフレット全体の廃棄を認めるのが相当である。
(ウ) 被告書籍のうち,被告書籍(ア)及び(ウ)については,既に絶版となっており,過去20年間販売されていないことにつき,当事者間に争いがない。しかし,被告書籍(ア)及び(ウ)は,写仏を行うための入門書としての性格を有するものであることがうかがわれるところ,被告は,前記前提事実のとおり,各地で仏画教室を開催しているのであって,実際に,被告が講師を務める写仏教室において被告書籍(ア)を使用したことがあることも考慮すれば,被告書籍(ア)及び(ウ)についても,なお,被告のもとにその一部が存在するものと認められる。
また,被告書籍(オ),(カ),(ク),(ケ)についても,これらが写仏を行うための入門書であり,または,写仏を行う際の下絵として使用できる部分を含むものであることを考慮すれば,被告のもとにその一部が存在するものと認められる。
したがって,被告書籍のうち,上記のとおり被告が所有しているものにつき,原告らは,侵害の停止又は予防に必要な措置を請求することができるところ,上記被告書籍全体に占める被告侵害仏画掲載部分の割合が必ずしも多いとはいえないところから,上記措置として,別紙被告書籍目録記載の書籍中の被告侵害仏画2(1)①,(5)①,(7),(12),(13)①,(14)掲載箇所の抹消を認めるのが相当である。
(エ) 他方,被告美術館のホームページには,前提事実のとおり,侵害仏画と認められない被告仏画1(1),(2),(10)が掲載されたことが認められるのみであって,本件各証拠によっても,被告侵害仏画が掲載された事実は認められないから,被告侵害仏画を使用したホームページ画像の廃棄(削除の趣旨であると解される。)は,侵害の停止又は予防のために必要な措置であるとは認められない。
ウ 被告侵害仏画が,いずれも彩色画又は紺地金泥画であり,細部まで描き込まれたものであるのに対し,被告の制作に係る線描画(被告仏画2(1)②,2(2),2(5)②等)が,いずれも細部における表現を省略又は簡略化したものであり,原告仏画を複製又は翻案したものと認められないものであることに鑑み,被告侵害仏画の塗り絵用下絵が制作される可能性があるとしても,これが,原告らの著作権法28条に基づく二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(複製権,翻案権)を侵害するものであるとは認められず,上記塗り絵用下絵の制作の差止めを認めることはできない。
また,塗り絵用下絵の制作の差し止めが認められない以上,被告侵害仏画を使用した塗り絵用下絵の廃棄も同様に認められない。
(3) 以上によれば,原告らの差止め及び廃棄請求のうち,被告侵害仏画の販売,頒布,展示の差止め,被告侵害仏画を使用した書籍,パンフレット,ホームページ画像の制作の差止め,被告侵害仏画を使用した別紙被告書籍目録記載の書籍における被告侵害仏画の掲載箇所の抹消及び被告侵害仏画を掲載したパンフレットの廃棄を各求める部分については理由があるが,その余の部分については理由がない。
9 争点(4)(著作権侵害による損害賠償請求権は,消滅時効又は除斥期間の経過により消滅しているか。)について
(略)
10 争点(5)(著作権侵害による損害額)について
(1) 著作権法114条3項に基づく損害額
ア 被告書籍への被告侵害仏画の掲載に係る損害額
(略)
オ 上記アないしウの損害額を合計すると,原告らそれぞれの損害額は8万9483円となる。
(2) 原告らは,著作権法114条1項又は2項に基づく損害額についても主張する。しかし,著作権法114条1項は,著作権等を侵害した者がその侵害の行為によって作成された物を譲渡し,又はその侵害の行為を組成する公衆送信を行った場合の損害の額に関する規定であるところ,本件において,被告が被告侵害仏画又はこれを掲載した書籍を譲渡した事実は認められず,同項によって損害額を算定することはできない。また,著作権法114条2項は損害発生の事実までを推定するものではないから,同項を適用するためには,少なくとも著作権者が自ら当該著作物を利用する蓋然性を有することを要するものと解されるところ,本件各証拠によっても,原告らが,被告による著作権侵害が認められる時期において,原告仏画2(1),2(5),2(7),2(12)ないし(14)を利用する蓋然性があったことはうかがわれない。加えて,前記(1)でみた被告の印税額,入場料収入,被告書籍における被告侵害仏画の掲載数等に鑑み,本件において著作権法114条2項の適用があるとしても,同項による損害の推定額が,前記(1)でみた金額を超えるものとは認められない。
したがって,前記8万9483円が,原告らそれぞれの財産的損害についての損害額となる。
(3) 慰謝料請求について
原告らは,被告による原告仏画の改変,被告侵害仏画における被告名の表示により,その名誉を著しく毀損され,多大な精神的苦痛を被ったと主張し,慰謝料の請求をするが,被告による被告侵害仏画の制作や,これらを掲載した被告書籍の制作が,原告らの社会的評価を低下させるものであるとは認められない。また,著作権侵害による損害については,上記財産的損害が賠償されることにより慰謝されているものと解される。
もっとも,侵害仏画である被告仏画2(1)①,(5)①,(7),(12),(13)①,(14)が,F氏が死亡した昭和59年8月5日の後に被告によって複製されて被告書籍に掲載され,またその一部が被告の制作したパンフレットに掲載されており,これらにはF氏の氏名が表示されていない。上記被告書籍にF氏の氏名を表示しないで発行することは被告の指示に基づくものと認められる。したがって,これらの掲載行為は,F氏が生存しているとすれば,その著作者人格権(氏名表示権)の侵害となるべき行為に当たる。原告A,同B及び同Cは,父であるF氏の制作した仏画に強い誇りと愛着を持っていたものと認められるのであるから,原告A,同B,同Cは,被告の上記行為により,固有の精神的損害を被ったものと認められ,平成元年7月27日以降における損害につき,慰謝料を請求することができるものであり,上記慰謝料としては,それぞれ3万円とするのが相当である。他方,原告Dについては,これを認めるに足りない。
(4) 弁護士費用
本件事案の内容,本件訴訟の経過等の諸般の事情を考慮すると,弁護士費用のうち,原告A,同B,同Cにつきそれぞれ2万円が,原告Dにつき1万円が,上記不法行為と相当因果関係のある損害であると認められる。
(5) 遅延損害金の起算日について
(略)
11 争点(6)(著作権法116条1項に基づく名誉回復等の措置請求の可否)について
(1) 争点(2)ア及びイに関する当裁判所の判断でみたとおり,被告侵害仏画は,原告仏画2(1),2(5),(7),(12)ないし(14)を翻案したものに当たるところ,被告侵害仏画に関し,F氏の包括許諾があったものと認められないことについては争点(2)ウに関する当裁判所の判断でみたとおりである。したがって,被告が,被告侵害仏画を制作し,F氏の氏名を表示することなく被告各書籍に被告侵害仏画を掲載した行為は,前記のとおり,F氏が生存しているとしたならばその著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)の侵害となるべき行為(著作権法60条)に当たり,F氏の子である原告A,同B及び同Cは,著作権法116条1項により,被告に対し,著作権法115条(名誉回復等の措置)の請求をすることのできる地位を有するものと解される(なお,前記のとおり,原告Dについては,F氏の孫であり,同法116条2項によれば原告Aらが先順位者に当たるため,上記請求をすることができる者に当たらない。)。
(2) しかしながら,被告侵害仏画の内容,被告による侵害行為の態様等に照らすと,著作権侵害に係る損害に対する賠償金に付加して,原告らの主張する謝罪文を掲載する必要性があるものとは認められない。
したがって,原告A,同B及び同Cの被告に対する謝罪文掲載請求については,これを認めることができない。